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第伍章:眠り姫の目覚め
03:双子夜叉の執着
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「…………んっ」
違和感に身体をよじって、正体を見たといえば随分と自分の体は鈍いのだと思い知る。
「は、え?」
両手を頭上でひと結び。いや、この場合は両手首を麻縄で拘束されていると言った方が正しい。
身体は柔らかなベッドの感触を得ているが、服はどこへいったのか。
見慣れた自室。真っ暗だが、匂いからして間違いようもない。てんがい付きのベッドに、埋もれるほどたくさんの枕。肌触りのいいシーツもお気に入りの愛用品ともなれば疑う方が逆におかしい。
それなのに、全裸で手首を頭上で縛られ、ベッドの上に放置されている現状に理解が追い付かない。
「……え、なに、どういうこと?」
試しに「ふんっ」と力をいれて引っ張ってみる。案の定、一定の距離からまったく伸びない。いったいどこに結ばれているのか探ろうとしたところで、胡涅は部屋に侵入してきた人の気配に動くのを止めた。
「胡涅、起きたか?」
これは誰だろう。
見た目は炉伯で間違いない。
白髪に青い瞳、影のように黒いスーツを着て、いつものように優しい声でそこにいる。
だけど、何かが違う。
胡涅はわかりやすく身体を硬直させて、近付いてくる炉伯らしき人影を見つめていた。
「胡涅?」
ベッドの右側に腰かけて、腕を伸ばしてくるその手に、不自然なほど警戒する。たぶん、炉伯もわかっている。普段から些細な変化に気付く彼が、怯えた様子の胡涅に気付かないわけがない。
「怖い夢でも見たか?」
怖い、夢。夢のほうが怖くないといえば、この炉伯は笑ってくれるだろうか。なぜか、笑ってくれない気がする。それを確かめようとして閉じられない視界の中で、炉伯の腕はどんどん近づいてくる。
「息を止めずともよい」
「ヒッ!?」
ふいに左耳に吹き込まれた静かな声に、場違いな悲鳴をあげて胡涅は飛び跳ねる。手首が縛られていなければ、耳を押さえて飛び起きていたかもしれない。
目を向けたそこには、赤い瞳を浮かび上がらせた朱禅の姿。
「あまり我らを刺激するな」
「しゅ、朱禅?」
髪を撫で、毛先に口づけるその姿は朱禅で間違いないだろう。
暗い室内に浮かび上がる炎のような瞳が、欲情に濡れているみたいに煌めいている。
「ンッ……ぅ」
朱禅に気を取られているうちに、炉伯に口づけられて胡涅は黙る。寝起きのキスは珍しいことではない。むしろこれまでは、ごく自然に唇を重ねていた。
それなのに、今は怖い。
「胡涅、もらいっぱなしはよくねぇ」
わかるよなと、無意識でも何であっても、拒絶や抵抗の素振りを見せる胡涅の唇を炉伯の親指がこじ開ける。歯列をなぞり、頬の裏側を押した炉伯の指の動きにひるんだそのすきに、胡涅は開いた唇から舌が引っ張り出されるのを感じていた。
「ろ…っ…ぁ…ンッぅ」
形のいい炉伯の唇が、舌を噛んで引っ張っていく。そのまま食べられてしまうのではないかという懸念が浮かんだのは、本能か、記憶か。じゅるりと吸い上げられた刺激に、大げさなほど全身が跳ねたのは炉伯のせいだと非難したい。
「んっ、ぅ……はぁ…ァッ、ぅ」
「逃げるな」
「ンンッ…ぅ…ッ…っ」
神経が疼く。炉伯が吸い上げていく舌だけでなく、口のなか全部が性感帯になったみたいに、炉伯から与えられる刺激に体が震える。
腕さえ縛られていなければ、炉伯を押しのけて逃げることができるのに。
薄く開けた目にはどこまでもキレイな青い色が揺らめいていて、襲い来る波に似たその色ごと、炉伯は激しく襲い掛かってくる。
「ャ…っ、ぁ゛」
ついに抵抗の言葉を吐いたのは、左隣に体を差し込んだ朱禅が胸に触れてきたせい。大きな手のひらで左胸をすくいあげた朱禅の指は、色づく先を楽しそうに摘まんでいた。
「胡涅、我らの許可なしに他所の輩に触れさせた場所はどこだ?」
「な…にゃッ……ひゃ」
「窮地に我らの名を呼べぬというなら、我らに痕を刻まれても文句は言えまい」
耳をかじり、うなじを舐め、肩にキスを落としてきた朱禅の気配が下半身のほうへ滑っていく。
「……ッん」
両手は頭上で縛られたまま。
逃げられない。
なんとか身をよじり、上へ上へと移動したところで、柔らかな枕がそこを占領して押し返してくるだけ。全裸で隠れられる場所なんてどこにもない。
開かれてしまえば、それで終わり。
「……ゃッ」
膝を押し開いた朱禅の顔がゆっくりと埋まってくる。同時に炉伯の手が滑り落ちてきて、首筋から鎖骨にキスを送り、先ほど朱禅がいじっていた胸の先端に喰らいついた。
「ふ……ッァ゛……ん」
分厚い舌が生暖かな感触を連れて弾いてくるのを本能が喜ばないはずがない。
理性がどんどんわきに追いやられ、与えられる快楽に身を委ねようと意識を手放していく。
「……っ、ンぅ……ぁっ」
こんなとき、どうすればいいか。
それは二人が教えてくれた。
二人だけに、教えられた。
逃げずに、ただ受け入れるだけ。
それなのに、怖い。
「夜叉」の二言が脳裏によぎる。同じ世界に存在する人間ではない別の生き物。
朱禅と炉伯が途端に知らないもののように怖くなる。目の前の二人の姿はよく知っているはずなのに、別のなにかが見えてくる。
「………ゃッ」
胡涅はぎゅっと目を閉じた。
怖くない。怖くない。怖くないと唱える呪文は、勝手に歯の根を鳴らす。
「ヒッぃ」
朱禅の指が膣の中に割り込んできて腰が跳ねる。奥に向かって差し込まれた指は蛇のように動き、抵抗する胡涅の肉を掘り進んで顔を動かす。
ぐにぐにと何かを探っている。
やがて、ざらりと好みの場所を見つけたのだろう。ニヤリと笑った朱禅の唇が口角をあげて強く吸い付くのと同時に、そこをかき出すように擦り始めた。
「……ぃッ…ァ゛」
びくんと浮いた腰がうねり、朱禅の指技から逃げたがる。
「胡涅、何をそんなに怯える」
わかっていて聞いてくる炉伯の声が昇ってきて、頬を撫でながら耳に囁くのをどう聞けばいいのか。
「何も怖くない。いつも通りさ」
「ん…ッぅ…アッ」
いつも通り。そう見えて全然違う。それなら手首を縛っている紐をほどいてほしい。
「無駄だ」
手首を引きちぎる勢いで反抗する胡涅をキスであやす炉伯が笑う。それから何を思ったのか。おもむろに腕を伸ばして、朱禅の頭をのけた。
「なんだ、炉伯」
指を差し込んだまま顔をあげた朱禅が、不機嫌な声を出すのも仕方がない。
「胡涅が蜜を出ししぶっているせいで、我の喉はまだ潤ってない」
「怖がってるからな。ほぐすのに時間はかかる」
「まあ、噴かせば早い」
「独り占めするなよ」
人の股を覗き込んで好き勝手に会話する男たちを胡涅は唯一自由な足で蹴りつける。
蹴りつけているはずなのに、簡単に広げられた足はV字を描いて朱禅の指を根元まで咥えていた。
「………ッ、ぁ」
力をいれて浮かせた腰を赤と青に笑われる。
「胡涅の好む場所は変わらんようだ」
「機嫌ひとつで変わられちゃ困る」
「ゃッ……だ…そ、れ…ャ」
腕を引っ張っても、腰をひねっても、足を蹴っても状況は変わらない。
むしろ悪化していく。
朱禅の指がある場所に、炉伯の指まで侵入して、競い合うようにそこに埋まっていく。
「ヒぃッ……く…っ…やァァ」
卑猥な音が聞こえる。
濡れているのがイヤでもわかる。
感じることを教えられた身体は従順に、朱禅と炉伯の指に甘えて、腰をはしたなく振りたがる。
「胡涅」
二人同時に顔を向けられて、それで終わりだった。
「………ッく、ぃッぁアァアァアッ」
たった二本の指、たった数回の愛撫。
それなのに、飛沫するほど噴き出した愛蜜でシーツが色を変えていく。
「ヤダァ…っ…怖ぃ…ャめ…」
炉伯が右足を深く折り曲げてきて、指の数を増やすと同時に、朱禅の顔がまた深くもぐってくる。
「イク…ッ…いってァ゛…ぅ」
勝手に身体が丸く、小さく縮こまっていく。
炉伯がかきだすのに合わせて、朱禅の舌が淫角を何度も弾く。吸って、舐める往復ならまだしも、歯で噛んで引っ張りだすのを絶頂の最中ではやめてほしい。
過敏な神経が震えて、息ができない。
「ァ゛…きゅ…ィ゛…ぁ、ぅ」
引き抜かれた炉伯の指が、手首まで全体的に濡れている。
それをべったりと臀部に塗られたと思ったら案の定、お尻の穴に炉伯の指が侵入してきた。
「ヤ、ダァ…ぅ…ァ゛……ぁ」
抜けた膣には朱禅の指が一本、二本、本数を増して三本をねじこんでくる。
大きな身体をしているくせに、狭い場所で器用に手先を操る彼らに、胡涅は腰を持ち上げられて、身体を二つに折り曲げられる。
「ああ、これはいいな」
「胡涅の顔も見える」
胡涅からしてみれば、ほぼ真上に見える二人の顔と自分の乙女。壷を覗き込むような態度で、朱禅と炉伯は折り曲げて上を向けた胡涅の秘部にそろって唇を寄せてくる。
「恥ずかしィ…ッ…見な…で」
いやだと足をバタつかせる胡涅の太ももの裏側を二人の手がそれぞれ撫でる。そしてそこに唇を落としてきた。
「ヒッ、にゃ……っ…た」
きつく吸い付かれたその唇が離れれば、彼らの痕がそれぞれついているだろう。
赤い花。
所有欲と独占欲の印。
普通はつかない場所に、つかない方向からつけられた現実は、安易にどんな体勢で彼らに犯されたかを伝えている。
「潤みが増したか?」
「伸縮は増した」
口付けを肌に落としながら、それぞれの指は止まらない。朱禅も炉伯も、己の指を根元まで深く差し込みながら、互いの声だけで会話している。
「逃げるな、胡涅。脚の腱を切られたくはないだろう?」
「しゅ…ぜ…ッく…ぃッぁ」
「ああ、いくがいい。そうして蜜を出し、我の喉を潤せ」
膝裏を腕全体で押さえてきた朱禅が、ぐじゅぐじゅと噴き出す果肉に舌をはわせる。生暖かで、分厚くて、きれいな顔には不釣り合いな暴虐性を持って吸い付いてくる。
「ぃッく、朱禅…ッ朱禅…ぁっ…んンッ」
豪快に跳ねる身体は、二つに折り曲げられているせいで、呼吸がままならない。ギシギシと、両手首と連動した麻縄が鳴って、声にならない快楽を吐きながら胡涅は泣く。
「朱禅ばっかりずりぃ」
俺にも喰わせろと、やはり炉伯も参戦してくる。
「今日は固いな。指はいけそうだが」
「酒でも注げばよかろう」
「いま手元にねぇよ」
炉伯が尻穴に埋める指の本数を増やしてくるせいで、空気の音がイヤでも吹き出る。そこに酒を注ぐなど、本気で言っているわけではないだろう。
そう願って朱禅と炉伯の顔を仰ぎ見るのに、当の二人は、それはきれいな顔で「また今度」などと微笑んできた。
「……ぅ……ゴホッごほ」
二つ折から足を下ろされた拍子に、呼吸を思い出したらしい肺が強く咳き込む。
「また泣いてんのか。胡涅、勿体ねぇからあまり泣くな」
「ンッ…ゃ…ぅ」
炉伯の顔が近い。涙を舐めた舌でキスをしてくるせいで、塩分を含んでいるのもイヤになる。
「ど…ぅ…して?」
どうして、こんなにひどいことをするのか。炉伯のキスの合間から訴えている間に、朱禅が足の間に移動してきて腰をつかんだ。
「自覚が足りない胡涅に教えてやるだけだ」
「なっ…ァ゛……や、ァッ」
「我の名を呼べ」
「しゅ、ぜ…ンッ…朱禅」
「それ以外、何も吐けぬようになるまで果てを行こうか」
赤い瞳が劣情を隠しもせず、たぎった自身を取り出して、ぬちぬちと割れ目に溢れる蜜を擦り付ける。
「今から誰に喰われるのか」
「……ヒッ…ぁ゛…しゅ、ぜ…ンッ」
「脳で無理なら、先に身体に覚え込ませてやる」
問答無用とばかりに、朱禅は膣口に力を込めて腰を打ち付けてくる。その激しさにのけぞると、胸の先端には炉伯の顔が食いついた。
「朱禅の名ばかりは妬ける」
「ろは…くっ…ぅ……ァッあ、炉伯」
「覚えろ、胡涅。夜叉の愛を」
「……ァ゛……ィく、ぃッイクッ朱禅…炉伯…ッぁ、アァぁッ」
激しく波打つ身体に終わりはない。
胡涅が絶頂を謳歌しようと、彼らが一緒にたどり着かなければそれは無意味。
叩き込まれる行為が愛だというのなら、この愛は重たくて激しい。夢の中で黄金色の瞳が「わらわでも双子夜叉はごめんだ」と震えていたのを思い出す。
夜叉、それは恐らく人とは違う。
朱禅や炉伯にも角や牙があるのだろうかと、胡涅は終わらない律動に身を委ねていた。
違和感に身体をよじって、正体を見たといえば随分と自分の体は鈍いのだと思い知る。
「は、え?」
両手を頭上でひと結び。いや、この場合は両手首を麻縄で拘束されていると言った方が正しい。
身体は柔らかなベッドの感触を得ているが、服はどこへいったのか。
見慣れた自室。真っ暗だが、匂いからして間違いようもない。てんがい付きのベッドに、埋もれるほどたくさんの枕。肌触りのいいシーツもお気に入りの愛用品ともなれば疑う方が逆におかしい。
それなのに、全裸で手首を頭上で縛られ、ベッドの上に放置されている現状に理解が追い付かない。
「……え、なに、どういうこと?」
試しに「ふんっ」と力をいれて引っ張ってみる。案の定、一定の距離からまったく伸びない。いったいどこに結ばれているのか探ろうとしたところで、胡涅は部屋に侵入してきた人の気配に動くのを止めた。
「胡涅、起きたか?」
これは誰だろう。
見た目は炉伯で間違いない。
白髪に青い瞳、影のように黒いスーツを着て、いつものように優しい声でそこにいる。
だけど、何かが違う。
胡涅はわかりやすく身体を硬直させて、近付いてくる炉伯らしき人影を見つめていた。
「胡涅?」
ベッドの右側に腰かけて、腕を伸ばしてくるその手に、不自然なほど警戒する。たぶん、炉伯もわかっている。普段から些細な変化に気付く彼が、怯えた様子の胡涅に気付かないわけがない。
「怖い夢でも見たか?」
怖い、夢。夢のほうが怖くないといえば、この炉伯は笑ってくれるだろうか。なぜか、笑ってくれない気がする。それを確かめようとして閉じられない視界の中で、炉伯の腕はどんどん近づいてくる。
「息を止めずともよい」
「ヒッ!?」
ふいに左耳に吹き込まれた静かな声に、場違いな悲鳴をあげて胡涅は飛び跳ねる。手首が縛られていなければ、耳を押さえて飛び起きていたかもしれない。
目を向けたそこには、赤い瞳を浮かび上がらせた朱禅の姿。
「あまり我らを刺激するな」
「しゅ、朱禅?」
髪を撫で、毛先に口づけるその姿は朱禅で間違いないだろう。
暗い室内に浮かび上がる炎のような瞳が、欲情に濡れているみたいに煌めいている。
「ンッ……ぅ」
朱禅に気を取られているうちに、炉伯に口づけられて胡涅は黙る。寝起きのキスは珍しいことではない。むしろこれまでは、ごく自然に唇を重ねていた。
それなのに、今は怖い。
「胡涅、もらいっぱなしはよくねぇ」
わかるよなと、無意識でも何であっても、拒絶や抵抗の素振りを見せる胡涅の唇を炉伯の親指がこじ開ける。歯列をなぞり、頬の裏側を押した炉伯の指の動きにひるんだそのすきに、胡涅は開いた唇から舌が引っ張り出されるのを感じていた。
「ろ…っ…ぁ…ンッぅ」
形のいい炉伯の唇が、舌を噛んで引っ張っていく。そのまま食べられてしまうのではないかという懸念が浮かんだのは、本能か、記憶か。じゅるりと吸い上げられた刺激に、大げさなほど全身が跳ねたのは炉伯のせいだと非難したい。
「んっ、ぅ……はぁ…ァッ、ぅ」
「逃げるな」
「ンンッ…ぅ…ッ…っ」
神経が疼く。炉伯が吸い上げていく舌だけでなく、口のなか全部が性感帯になったみたいに、炉伯から与えられる刺激に体が震える。
腕さえ縛られていなければ、炉伯を押しのけて逃げることができるのに。
薄く開けた目にはどこまでもキレイな青い色が揺らめいていて、襲い来る波に似たその色ごと、炉伯は激しく襲い掛かってくる。
「ャ…っ、ぁ゛」
ついに抵抗の言葉を吐いたのは、左隣に体を差し込んだ朱禅が胸に触れてきたせい。大きな手のひらで左胸をすくいあげた朱禅の指は、色づく先を楽しそうに摘まんでいた。
「胡涅、我らの許可なしに他所の輩に触れさせた場所はどこだ?」
「な…にゃッ……ひゃ」
「窮地に我らの名を呼べぬというなら、我らに痕を刻まれても文句は言えまい」
耳をかじり、うなじを舐め、肩にキスを落としてきた朱禅の気配が下半身のほうへ滑っていく。
「……ッん」
両手は頭上で縛られたまま。
逃げられない。
なんとか身をよじり、上へ上へと移動したところで、柔らかな枕がそこを占領して押し返してくるだけ。全裸で隠れられる場所なんてどこにもない。
開かれてしまえば、それで終わり。
「……ゃッ」
膝を押し開いた朱禅の顔がゆっくりと埋まってくる。同時に炉伯の手が滑り落ちてきて、首筋から鎖骨にキスを送り、先ほど朱禅がいじっていた胸の先端に喰らいついた。
「ふ……ッァ゛……ん」
分厚い舌が生暖かな感触を連れて弾いてくるのを本能が喜ばないはずがない。
理性がどんどんわきに追いやられ、与えられる快楽に身を委ねようと意識を手放していく。
「……っ、ンぅ……ぁっ」
こんなとき、どうすればいいか。
それは二人が教えてくれた。
二人だけに、教えられた。
逃げずに、ただ受け入れるだけ。
それなのに、怖い。
「夜叉」の二言が脳裏によぎる。同じ世界に存在する人間ではない別の生き物。
朱禅と炉伯が途端に知らないもののように怖くなる。目の前の二人の姿はよく知っているはずなのに、別のなにかが見えてくる。
「………ゃッ」
胡涅はぎゅっと目を閉じた。
怖くない。怖くない。怖くないと唱える呪文は、勝手に歯の根を鳴らす。
「ヒッぃ」
朱禅の指が膣の中に割り込んできて腰が跳ねる。奥に向かって差し込まれた指は蛇のように動き、抵抗する胡涅の肉を掘り進んで顔を動かす。
ぐにぐにと何かを探っている。
やがて、ざらりと好みの場所を見つけたのだろう。ニヤリと笑った朱禅の唇が口角をあげて強く吸い付くのと同時に、そこをかき出すように擦り始めた。
「……ぃッ…ァ゛」
びくんと浮いた腰がうねり、朱禅の指技から逃げたがる。
「胡涅、何をそんなに怯える」
わかっていて聞いてくる炉伯の声が昇ってきて、頬を撫でながら耳に囁くのをどう聞けばいいのか。
「何も怖くない。いつも通りさ」
「ん…ッぅ…アッ」
いつも通り。そう見えて全然違う。それなら手首を縛っている紐をほどいてほしい。
「無駄だ」
手首を引きちぎる勢いで反抗する胡涅をキスであやす炉伯が笑う。それから何を思ったのか。おもむろに腕を伸ばして、朱禅の頭をのけた。
「なんだ、炉伯」
指を差し込んだまま顔をあげた朱禅が、不機嫌な声を出すのも仕方がない。
「胡涅が蜜を出ししぶっているせいで、我の喉はまだ潤ってない」
「怖がってるからな。ほぐすのに時間はかかる」
「まあ、噴かせば早い」
「独り占めするなよ」
人の股を覗き込んで好き勝手に会話する男たちを胡涅は唯一自由な足で蹴りつける。
蹴りつけているはずなのに、簡単に広げられた足はV字を描いて朱禅の指を根元まで咥えていた。
「………ッ、ぁ」
力をいれて浮かせた腰を赤と青に笑われる。
「胡涅の好む場所は変わらんようだ」
「機嫌ひとつで変わられちゃ困る」
「ゃッ……だ…そ、れ…ャ」
腕を引っ張っても、腰をひねっても、足を蹴っても状況は変わらない。
むしろ悪化していく。
朱禅の指がある場所に、炉伯の指まで侵入して、競い合うようにそこに埋まっていく。
「ヒぃッ……く…っ…やァァ」
卑猥な音が聞こえる。
濡れているのがイヤでもわかる。
感じることを教えられた身体は従順に、朱禅と炉伯の指に甘えて、腰をはしたなく振りたがる。
「胡涅」
二人同時に顔を向けられて、それで終わりだった。
「………ッく、ぃッぁアァアァアッ」
たった二本の指、たった数回の愛撫。
それなのに、飛沫するほど噴き出した愛蜜でシーツが色を変えていく。
「ヤダァ…っ…怖ぃ…ャめ…」
炉伯が右足を深く折り曲げてきて、指の数を増やすと同時に、朱禅の顔がまた深くもぐってくる。
「イク…ッ…いってァ゛…ぅ」
勝手に身体が丸く、小さく縮こまっていく。
炉伯がかきだすのに合わせて、朱禅の舌が淫角を何度も弾く。吸って、舐める往復ならまだしも、歯で噛んで引っ張りだすのを絶頂の最中ではやめてほしい。
過敏な神経が震えて、息ができない。
「ァ゛…きゅ…ィ゛…ぁ、ぅ」
引き抜かれた炉伯の指が、手首まで全体的に濡れている。
それをべったりと臀部に塗られたと思ったら案の定、お尻の穴に炉伯の指が侵入してきた。
「ヤ、ダァ…ぅ…ァ゛……ぁ」
抜けた膣には朱禅の指が一本、二本、本数を増して三本をねじこんでくる。
大きな身体をしているくせに、狭い場所で器用に手先を操る彼らに、胡涅は腰を持ち上げられて、身体を二つに折り曲げられる。
「ああ、これはいいな」
「胡涅の顔も見える」
胡涅からしてみれば、ほぼ真上に見える二人の顔と自分の乙女。壷を覗き込むような態度で、朱禅と炉伯は折り曲げて上を向けた胡涅の秘部にそろって唇を寄せてくる。
「恥ずかしィ…ッ…見な…で」
いやだと足をバタつかせる胡涅の太ももの裏側を二人の手がそれぞれ撫でる。そしてそこに唇を落としてきた。
「ヒッ、にゃ……っ…た」
きつく吸い付かれたその唇が離れれば、彼らの痕がそれぞれついているだろう。
赤い花。
所有欲と独占欲の印。
普通はつかない場所に、つかない方向からつけられた現実は、安易にどんな体勢で彼らに犯されたかを伝えている。
「潤みが増したか?」
「伸縮は増した」
口付けを肌に落としながら、それぞれの指は止まらない。朱禅も炉伯も、己の指を根元まで深く差し込みながら、互いの声だけで会話している。
「逃げるな、胡涅。脚の腱を切られたくはないだろう?」
「しゅ…ぜ…ッく…ぃッぁ」
「ああ、いくがいい。そうして蜜を出し、我の喉を潤せ」
膝裏を腕全体で押さえてきた朱禅が、ぐじゅぐじゅと噴き出す果肉に舌をはわせる。生暖かで、分厚くて、きれいな顔には不釣り合いな暴虐性を持って吸い付いてくる。
「ぃッく、朱禅…ッ朱禅…ぁっ…んンッ」
豪快に跳ねる身体は、二つに折り曲げられているせいで、呼吸がままならない。ギシギシと、両手首と連動した麻縄が鳴って、声にならない快楽を吐きながら胡涅は泣く。
「朱禅ばっかりずりぃ」
俺にも喰わせろと、やはり炉伯も参戦してくる。
「今日は固いな。指はいけそうだが」
「酒でも注げばよかろう」
「いま手元にねぇよ」
炉伯が尻穴に埋める指の本数を増やしてくるせいで、空気の音がイヤでも吹き出る。そこに酒を注ぐなど、本気で言っているわけではないだろう。
そう願って朱禅と炉伯の顔を仰ぎ見るのに、当の二人は、それはきれいな顔で「また今度」などと微笑んできた。
「……ぅ……ゴホッごほ」
二つ折から足を下ろされた拍子に、呼吸を思い出したらしい肺が強く咳き込む。
「また泣いてんのか。胡涅、勿体ねぇからあまり泣くな」
「ンッ…ゃ…ぅ」
炉伯の顔が近い。涙を舐めた舌でキスをしてくるせいで、塩分を含んでいるのもイヤになる。
「ど…ぅ…して?」
どうして、こんなにひどいことをするのか。炉伯のキスの合間から訴えている間に、朱禅が足の間に移動してきて腰をつかんだ。
「自覚が足りない胡涅に教えてやるだけだ」
「なっ…ァ゛……や、ァッ」
「我の名を呼べ」
「しゅ、ぜ…ンッ…朱禅」
「それ以外、何も吐けぬようになるまで果てを行こうか」
赤い瞳が劣情を隠しもせず、たぎった自身を取り出して、ぬちぬちと割れ目に溢れる蜜を擦り付ける。
「今から誰に喰われるのか」
「……ヒッ…ぁ゛…しゅ、ぜ…ンッ」
「脳で無理なら、先に身体に覚え込ませてやる」
問答無用とばかりに、朱禅は膣口に力を込めて腰を打ち付けてくる。その激しさにのけぞると、胸の先端には炉伯の顔が食いついた。
「朱禅の名ばかりは妬ける」
「ろは…くっ…ぅ……ァッあ、炉伯」
「覚えろ、胡涅。夜叉の愛を」
「……ァ゛……ィく、ぃッイクッ朱禅…炉伯…ッぁ、アァぁッ」
激しく波打つ身体に終わりはない。
胡涅が絶頂を謳歌しようと、彼らが一緒にたどり着かなければそれは無意味。
叩き込まれる行為が愛だというのなら、この愛は重たくて激しい。夢の中で黄金色の瞳が「わらわでも双子夜叉はごめんだ」と震えていたのを思い出す。
夜叉、それは恐らく人とは違う。
朱禅や炉伯にも角や牙があるのだろうかと、胡涅は終わらない律動に身を委ねていた。
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