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第弐章:崩壊の足音

04:快楽の教示

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「な…っに…何、これ……ゃ、うっ」


妙に神経が冴えて、炉伯に与えられる刺激だけを感じとる。痛覚に似たその感触は、ときどき引っ掛かりながら、割れ目を往復する粘度を増していく。


「変…ッや…やだ…ンッ…や、め」

「胡涅。キスとやらはいいのか?」

「今それどころじゃ、なッ、ヤァァッ」


びくんと跳ねた場所を炉伯の舌が滑りを増して往復し始める。
朱禅に上半身を縫いとめられ、唇を奪われる中で、どうやって腰を抱えるように顔を埋めた炉伯を退ければいいのか。


「ャ…ひっ、ゥッ…っん…ぁ」


検討もつかないのに、変な声だけがそこから昇るように口から出ていく。


「………ヒッ、ぅ……ん」


自分で触ったときとは全然違う。
違いすぎて泣けてくる。泣けてくるのは、恥ずかしさと、困惑と、戸惑いと、恐怖で混乱した行き場のない感情のせい。
炉伯の舌が膨れた場所をとらえるたびに、腰が跳ねて、恥ずかしい。それを止めてほしいのに、段々力が抜けて、それがくるのを待ち望む気持ちが高まっていく。


「ァッ…ふ、ぅ……ァ」


好奇心が股の間に顔を埋める炉伯を凝視している。ときどき、耐え難い刺激が恐ろしくなり、上半身を抱き止めてくれる朱禅にしがみつくが、深いキスでなぐさめられるだけで何の解決にもならない。


「胡涅、顔を見せろ」

「……ヤッ……しゅぜ……恥ずかし…ぃ」

「足を閉じるな。力を抜け」

「そんな、言って…ァッ…朱禅、ヤッ…ァッろは、ク」


右足を朱禅に、左足を炉伯に割り広げられ、膝頭をくの字にした状態で恥丘をさらす。
そこで初めて、胡涅は腰を自分から炉伯の唇に押さえつけていた自覚をしたが、それよりも、何よりも、顔をあげた炉伯の指が中央の花を思い切り左右に広げたほうに驚いた。


「見ろ、朱禅。極上品だ」

「ああ。甘露に濡れて、さぞかし美味であろう」


皮を剥かれ、守る肉を剥ぎ取られたことで空気を感じた敏感な豆が、赤く尖って濡れている。
自分の身体の中心に、まさかそんな卑猥なものがあるとは、知っていても見たことがない現実に、胡涅の全身は真っ赤に染まる。


「………な、なに……ャだ」


視覚でとらえたことで、より現実的になった情緒が混乱に震えていく。
怖い。そう感じた瞬間、炉伯が音を立ててそれに吸い付いたせいで、胡涅はわかりやすく矯声を叫んだ。


「ヤッ…や、だ…怖ぃ……やめ、炉伯…っで、なんでそこばっか……り…ァッ」


感じたくなくても、唇で吸われ、舌で弾かれるたびに腰が揺れて、痛快な刺激に声が飛び出る。


「炉伯の舌はざらついてるからな。慣れるまで強すぎるか」

「ヒッ!?」


頭を撫でた朱禅の呟きを理解するより先に、炉伯の元へ重心を移動させる朱禅の上半身が、スローモーションに映る。
ざらつき、慣れる、強すぎる。
言語化された体感が脳で反芻したのは、朱禅もそれに加わったからだろう。


「ぃッやぁ、だめ…ァッ…そ、それ…ヒッふたり、やだっ…ぁ…うっ」


炉伯だけでも受け止めるのに精一杯だった刺激が、朱禅もなんてありえない。剥かれたばかりの新芽は、ざらつく男の舌に挟まれて、掘り起こすためにしごかれる。
足を閉じることも、逃げることも、出来るはずがないのに、唯一自由の頭と腕が狂ったように助けを求める。
下半身はどうなってしまったのか。
身体の神経が、一点に集中して、怖くて怖くてたまらない。


「も、やめ…ッ…ヤダァぁあ、ァッ……ひっ…ぅ」


無視を決め込んだ二人の舌の向こうから、疼く何かが蜜を増して込み上げてくる。どんどん、どんどん、制御できない快楽が押し寄せてきて、ついに胡涅は枕の片隅を握りしめて絶頂の高波に息を飲んだ。


「ッぁ…ダメぇぇえェッぇえ…ゃ、ァ」


逃げようと暴れる下半身は、彼らに押さえ込まれて浮くことも沈むことも出来ない。
出来ることは、受け入れること。
与えられる舌の刺激を永遠に感じること。


「……な、に……ッ…なに、これ……ッぅ」


腰が勝手に動いている。
炉伯と朱禅の舌が止まらない。


「ひっぐ…ぅ…ぇ……ッや、ヤダァ……」


熱くて、熱くてたまらない。
呼吸が浅く、激しく、時折息を止めて、また深く酸素を求める。
どこから声が出てくるのか。必死に声が出ないように頑張っているのに、無情な愛撫がそれを許してくれない。


「ッく…ィ…ぁ…やだぁぁあァッ」


上半身がのけぞって、下半身が深く沈む。沈みきらないのは、そういう反応を見越して足と腰回りを陣取る二人のせい。


「ろは……く……しゅ、ぜ……ンッぅ」


年甲斐もなく、弱々しく泣いて名前を呼んでくる主人にようやく気付いたのか、炉伯が動かしていた舌を止めて、顔をあげる。


「………あぁ」


色気という言葉を目の当たりにすると、心が変な鼓動を刻むのか。オスであることを隠しもしない炉伯の青い瞳は、どんな宝石よりも胡涅を魅了していた。


「なんだ、泣いてんのか。勿体ねぇ」

「なに…ッ…ぁ」


炉伯がその大きな身体を乗り出して、首ごともぎ取るように頬を舐めてくる。
泣かせた張本人に勿体ないと言われても、涙が引っ込むことはない。もう一人、いまだに吸い付いて離れない男がいる。


「胡涅、朱禅の舌もざらついてるだろ」

「……しら、な……ッい……」

「そうか、なら教えてもらえ」


喉の奥で笑った炉伯に唇を塞がれると同時に、見えない笑みをこぼした朱禅の舌がざりざりと固く膨らんだそれを削り始める。
いくらなんでも、そこがどういう場所かはいい加減理解していた。経験こそなくても、知識はそれなりに持っている。


「やっダァ…ッ…それ以上したら…くっ…クリトリスちぎれ……ちゃ……う。なくなりゅ……とれ…ッ…ぅ」

「それは困るな。美味なるものが、そう易々となくなっては、何で喉を潤せばいいか」


遠くのようで、すぐ近くから聞こえてくる朱禅の声に、いやいやと首を横に振っても、それは朱禅には見えない。例え見えたとしても、炉伯が覆い被さるように両頬を掴んで、深いキスを落としてくるのだから、それも怪しい。


「ヒッぁ……ぉっ…ぐ…ンッん」

「千切れねぇからよがれよがれ」


舌を引っ張られ、呂律の回らない口内を蹂躙される。べろべろと、酸素を奪われ、唾液があふれ、涙をこぼして、全身の緊張までなくなっていく。
脱力して、刺激を受け入れた矢先、腰がまた異常なほど高く浮いて、それからベッドに埋もれるほど低く沈んだ。


「ろぁ…っ…ぐ……へん、こぁ……ぃ」

「ああ、怖くねぇから素直に感じてろ」

「変……なの、あちゅ、ぃ……そこ、もヤダァぁぁあぁ」

「おっと、暴れるなって。そうそういい子だな。胡涅はやれば出来るんだろ?」


そうなだめられても、膣に入ってきた朱禅の指が怖くてたまらない。
一本、細いようで太い朱禅の中指がゆっくりとねじこまれてくる。


「キツいな」

「だからって破るなよ。それは俺の」

「わかっている。指一本でこれとは、ほぐすにも気を遣う」

「………ッ…ひィ」

「ここからイクか。胡涅、力を抜け」


どんなに上下に腰が揺れても吸い付く朱禅は離れない。炉伯もあやすつもりが本気でないことは明白で、心底楽しそうに煽ってくる。


「胡涅。次はいくっつってみ?」

「な、ニッ…っぅ…ィくぃ、く…ァッィくッいく」

「嗚呼、もっと良いだろ?」


何がもっと良いのか。喉の奥で笑いながら涙を舐めてくる炉伯に答えは求められない。唇をむすんで朱禅の頭を太ももで挟みながら丸まることも許されない。


「胡涅」

「炉伯…ッろ…は、く」


ポロポロと勝手にこぼれる涙を舐めとられて「いく」の二文字を教え込むように炉伯と練習をしていると、ふいに朱禅と目が合う。


「………ゃッ」

「ほら、逝ってこい」


どこへ行けと言うのか。反論したくても、どろどろに溶けた脳は考えることを放棄している。
貪るようなキスとクリトリスに与えられる刺激と、膣の中を巡る異常な愛撫だけが、全身を溶かして、ぐちゃぐちゃにしていく。
なんて弱いのだろうと、また情けなくなって、突き抜けるほどの快感に背中をのけぞらせて、痙攣していた。


「なんだ。もう終いか?」


顔をあげて、濡れた指と唇を舌で舐めた朱禅に炉伯が声をかける。すると、はぁはぁと開かれた標本みたいにベッドの上で放心する胡涅の股から、黄色の噴水が弧を描いてシーツを汚していた。


「放尿するほど良かったならまずまずだな」

「胡涅、愛しき我らの番よ」


二人仲良くそれを眺めたあとで、そろって微笑みを胡涅に向ける。


「はぁ…っ…はぁ……ッん…ぅ」


反論したいのに、全力疾走をした後みたいに喉が掠れて声がでない。それをいいことに、飲み込めない唾液を炉伯が舐めとって、自然にこぼれた涙を朱禅が舐めとっていた。


「よくここで我慢してると褒めていいぜ」

「褒めずともよい。貴様、途中本気で喰おうとしただろう」

「はは、悪ぃな。胡涅が喰ってくれと言わんばかりに泣いて甘えてくるのが悪い」


なぜ、彼らはこの状態で笑えるのだろう。心底、わからなくなる。護衛とは、主人につかえる存在のはずなのに、これでは内側に危険を抱えているようなもの。
いつ爆発するかわからない爆弾をふたつも抱えるなんて、心がもたない。


「……て……っ…い」

「ん?」

「………甘えて……な、ぃ」


足を閉じて、顔を両手で隠す。
なるべく視界に粗相をした水溜まりを映さないために、うつ伏せになり、枕に顔を埋めて、そのまま炉伯の言葉を否定した。


「胡涅」


耳の輪郭を舌で舐めながら、名前を低く囁く甘い声になんて負けない。


「胡涅」


炉伯でダメなら朱禅でいけると思ったのか。
どちらも無理だと、胡涅は赤くなった顔をあげられずに、ますます小さくなって、そこに埋もれていった。
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