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Date:7月18日(3)

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つい先日、ひょっこりと戻ってきたダリルから聞いた情報では、異常増殖している魔種はやはり人工的に生み出されている可能性が高いという衝撃の事実だった。

「あまり順調な方がよくないんだけどね」

困ったような笑みを浮かべてダリルが紗綾を振り返る。

「被害は確実に増えているし、その主犯はいまもまだ見つからない。だけどもしもボクの仮説が正しければ、人工的に魔種を作っている人物には心当たりがある」
「え?」
「は?」

そんなの初耳だぞと、紗綾の右から驚きの声が追いかけてくるが、紗綾も初耳だったのだからダリルの発言に耳を疑っていた。

「誰?」

こんなときばかり幼馴染らしい結束力を見せるのだから笑えてくる。ダリルの前に立ちはだかるように両脇から覗き込んでくる二つの顔に、ダリルは足を止めて制止の声をあげていた。「まあまあ」となだめながら、「そうだね」と近くにあったベンチに紗綾と十和を誘導する。
木漏れ日の下に設けられたベンチは、三人で座るにはうってつけの大きさだった。

「今から三年前の話になるんだけど」

黙ってダリルの発言に耳を傾ける姿勢を向けた紗綾と十和に向かって、ダリルは「あくまで仮説だ」と強く前置きをしたうえで二人に胸中を打ち明けた。

「ボクたち死神は魔種の回収と魂の回収を主な役割として存在している。魔種は魔界でうまれた植物だということは前にも言ったと思うんだけど、その種は昔から存在していて、人間に寄生して繁殖を繰り返しているというのも別に昨日今日で始まったことじゃない。ただボクたちは生者と死者のバランスを保ち、導く役割を生業にしている。だから魔種が異常な増殖を見せれば種を回収してバランスを調整する、それがボクの主な仕事。キミたちと行動を共にする前から、ボクは疑問をもっていた。ある特定の地域だけに集中する不自然さと、魔種がもたらす結果の整合性。それは似て非なるもので、すべてが魔種が引き起こしたものとして処理するには苦しい事実がたしかに存在していた」

「苦しい事実?」

「そう、魔種に寄生された人間は必ず溶けて消える。そして魔種は処女の匂いをかぎ分ける能力を備えているという二点を無視した事件が増えていることだよ。キミが口紅で赤い十字架を刻んだ女性の中には、魔種が望むような結果にならないことがよくみられただろう。恋人同士なのかそれはわからないが、あきらかに意識の中で快楽を楽しむような雰囲気が垣間見えた。結果として男女共に不自然な死を遂げているが、魔種はそんなに中途半端な植物ではない」

「じゃあ、もっと前からダリルは魔種が人工的に作られているかもしれない事実を疑っていたの?」

「そういうことになるね、ただそれの確信はどこにもなかった。あらゆる生物は進化をする。時代に合わせて生き残るための進化は、今までの常識では考えらない現象をおこすものなんだよ」

「今回のは進化ではないと?」

「十和くんの質問に対する答えはイエスだ。この数週間、ボクは死神の調査機関に事件で回収した魔種の分析を依頼していた。その結果、従来の魔種とは違う偽物だということがわかったんだ。これは進化ではなく人工的につくられた理を乱す存在。そしてこんなことが出来るのは、たったひとり。今から三年前、追放された死神。名前をジルコニック。ジルは必ずこの町にいる。ボクは世界の理を正すため、これを終わらせる任務が与えられた」

さあと、木漏れ日の万華鏡が足元の影を揺り動かす。それはまるで現実世界と異世界を繋ぐような不気味さで、紗綾は思わずぶるりと自分を抱きしめるように腕を回していた。
二の腕に食い込む指が、緊張を力で伝えてくる。
事件の解決を願い、犯人の逮捕を誓ってきたが、もはや次元の違う事件に首を突っ込んでしまったかもしれない。そんな夢みたいな事態に、自分たちはいったいどう動けばいいのだろうか。

「相手が死神であれば非力なキミたちに出来ることはなにもない」

ダリルの言葉が冷たく頬を撫でる。
何も反論は出来ない。人間相手であれば何とか出来ることも、空想上の生物相手に何をどうすれば解決できるのか見当もつかない。

「だけど」

悔しそうにうつむく十和と紗綾の頭のうえにポンっと大きな手のひらがのった。

「人間が関与しているのであれば死神だけではどうすることも出来ないから、ボクにはキミたちの協力が必要不可欠なんだよ」

へらへらと笑う表情に、紗綾の腕からそっと力が抜けていく。まだ諦める必要はないのだと、希望の見えた道の先で、紗綾はダリルに抱き着いてその意思を表していた。

「紗綾、引っ付くな」

べりべりと音がしそうな勢いで、十和がダリルに抱き着く紗綾をひきはがす。

「お前は警戒心がなさすぎる」
「十和、よかった。よかったね」
「ちょ、おま、やめ」

この感情をどこへぶつけていいのかわからず、ぎゅうぎゅうと抱き着く紗綾に十和の焦った声が降り注ぐ。黄昏の午後。穏やかな光。紗綾の行動の意味を知っているからこそ、十和はその強襲に狼狽えながらもよしよしとその背中をさすることにとどめている。

「やあやあ、みなさんおそろいで」
「岩寿さん」

カシャカシャと独特のシャッター音と共に現れた人物に心当たりがあるのか、紗綾の声が十和から離れて近づいてくる人物を振り返る。紗綾につられて十和とダリルも顔を向けたが、その二人が同時に顔をしかめたのも無理はない。

「紗綾ちゃん、今日も可愛いなぁ。え、なに、女学院やったん。もっとはよ教えてな。その制服で一枚撮らせて」

紗綾の両手をつかみ、顔を寄せて懇願する得体のしれない男。

「またお前は、やめろっつってんだろ」
「痛い、ちょっ、たっちゃん暴力反対」

そしてその彼の頭頂部を殴った、ただならぬ雰囲気の男。美形は美形を呼ぶのか、紗綾を中心に四人の男が一堂に会する偶然は圧巻と言えば圧巻で、雰囲気の異なる見目の男たちもまたお互いをけん制し合うように疑いの視線を向け合っている。
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