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肆書:邪獣襲来
(Side:メイリン)託された栄光
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~Side:メイリン~
冗談じゃありませんわ。
華族に生まれたわたくしが、遊郭の空気を吸い、下賎な者と同じ部屋で暮らし、妓女の真似事をするなど、我慢できません。ですが、仕方ないのです。
五年前、わたくしの生家は、お父様の事業が失敗して没落してしまった。
一人娘のわたくしは、母方の実家である華棒家の分家筋に養子縁組される形で、変わらない暮らしが出来たのは不幸中の幸い。いいえ。分家といえど、華棒の家に入ったのですから、はっきりと幸福と言えました。
娘のいなかった華棒の分家は、政略結婚させる駒が欲しかったのでしょうけど。それは、華族に生まれたのなら当然の義務ですもの。わたくしとて、その辺りはわきまえておりますわ。
それなのに、それなのに、それなのに。
「メイリン。お前は黄宝館へ入れ」
「お兄様、わたくしの娘を妓楼へ入れるとおっしゃるんですの!?」
大事な話があるからと、家長である叔父様に呼ばれたのは十日ほど前。
わたくしもついに縁談かと、思い浮かべた殿方の顔を数えておりましたわ。それなのに、これはいったいどういうことでしょう。
お母様が勢いよく抱きしめてきたせいで、うまく聞き取れませんでしたわ。
黄宝館。まさか、ね。
だって、そこはお隣の国の身分の低い者が身体を使って稼ぐ卑しい場所ですもの。わたくしには、分不相応ですわ。
華族のわたくしが妓楼だなんて、ありえませんもの。
きっと、わたくしの聞き間違い。
「叔父様……いま、なんと仰ったの?」
こてんと首をかしげるわたくしに、叔父様は再度「黄宝館へ入れ」と仰ったわ。
その瞬間、お母様は今にも倒れてしまいそうなほど顔面蒼白で、お父様は怒り心頭で真っ赤になっていらしたわね。
「恩がある以上、娘の縁談には口を挟まないつもりだったが、妓楼となるなら話しは別だ。あんな汚らわしく、浅ましい場所に娘を放り込ませるなど、できるか!!」
足を踏み鳴らして立ち上がったお父様に驚いたのか、叔父様は慌てて両手を振ってらっしゃる。
「落ち着け」と何度も繰り返されているけど、お父様は落ち着けず、わたくしもお母様の腕の中で言葉を失っておりましたわ。
「わたくしが……妓楼に……」
「ああ、なんて可哀想なメイリン。こんなに美しい娘に育ったのに、あんまりですわ、お兄様……あんまりよ」
わんわん泣き始めたお母様の腕のなかで、わたくしはどうすればよかったのでしょう。
首を縦にも横にも振れない。
養子縁組なんて建前で、従順でなければ追い出される未来なんて簡単に見えるもの。
でも、行きたくない。
妓楼なんて、死んでもいや。
「ええい、うるさい。人の話を最後まで聞け!!」
ついに大声をあげた叔父様に、わたくしたちはピタリと大人しくなる。それを見た叔父様は、わざとらしく大きな息を吐き出して、それからわたくしの目をみてこう言った。
「なにも妓女になれと言っているんじゃない。統王様のご寵愛を得るのだ」
統王様。
それは、ふたつの帝国を統べる王。
第壱帝国の劉陛下の異母弟で、天女を封じる力を授かった尊いお方。生涯を花魁に捧げ、後宮を持たないことが定められた王。
花魁は天女が選ぶ娘で、階級の低い身分のものが多いと聞くわ。そんな女と生涯を添い遂げるなんて、統王様はお可哀想。
誰よりも美しい王だと聞くけれど、愚鈍で、女嫌いとも噂されている。
「統王とは、ジン陛下か!?」
お父様は声の調整方法をお忘れになったのかしら。叔父様が両手で耳を塞いでしまうほど叫ばれては、家のものに聞こえますわよ。
「さよう。ジン陛下だ」
「なぜです。第弐本帝国のジン陛下には花魁がいるではないですか」
「本家の孫娘が後宮に入って一年たつが、劉陛下はどの妃も寵愛せんらしい。このままでは世継ぎが問題視され、国の存続が危ぶまれる」
それもまた、有名な話ですわ。
兄弟揃って男色もしくは不能ではないかと、残念がる声はあとを絶たない。
「王族の血が途絶える前に手を打たねばならん」
若く、健康な内に、兄弟のどちらでもいいから世継ぎを得て欲しい。そして、世継ぎを得るのは下級身分の女ではなく、華族であるべきだと、叔父様は続ける。
「これを」
服から取り出して渡されたのは、薄い白紙に包まれた数枚の紙切れ。
御札のように不思議な文字が描かれて、裏に糊付けできる何かがついている。
「黄宝館の花魁の部屋に、その札を貼るだけでいい」
「お兄様、話が読めませんわ。ジン陛下の寵愛を娘に受けさせるのと、花魁の部屋に札だなんて」
わたくしの疑問は先ほどから、お父様とお母様が代弁くださるわね。
いつものことだし、手間が省けるからありがたいけど。
「わたくしは黄宝館に入り、花魁を排除して、ジン陛下の世継ぎを生む。ということですわね」
その瞬間の叔父様の嬉しそうな顔。
叔父様がわたくしを可愛がってくださるのは、容姿が美しいだけでなく、賢くて従順だから。お父様とお母様も少しはわたくしを見習えばいいのに。
「さすがだ、メイリン。それでこそ華族の娘。こんな馬鹿な両親から生まれたのに、お前は本当に良い娘だ」
「恐れ入ります」
わははと豪快に笑う叔父様を見て、お父様とお母様は顔を見合わせて座り直す。
二人とも心配だと顔に書いてありますけど、わたくしも不安はありますわ。
「叔父様、わたくしはどのようにして黄宝館へ?」
「心配するな。ちゃんと手は回している。第弐本帝国では花魁道中が開かれたばかりで、どこもかしこも混乱している。どこの妓楼も通ることなく、直接潜り込むには最大の好機だ」
「順調に黄宝館へ入れたとして、わたくしはそこから一人なのでしょう。心細いですわ」
「黄宝館に入ったその足で天守までのぼれ。新入りは、すぐ客がつくことはない。お前はジン陛下の相手だけをすればいい」
「うまくいくでしょうか」
「そのための札だ」
「では、ジン陛下以外のお相手は本当に不要なのですね?」
「当たり前だ。王族以外に触れさせる必要はない。花魁を排除したあとは、メイリンが黄宝館の天守に住まう天女だ」
わたくしは不仲だと名高いジン陛下と花魁の関係を利用して、花魁に成り代わり、寵愛を得て、王族の子を生む。
わたくしが将来の国母となる可能性があるなんて、こんなに幸運なことってないわ。
お父様とお母様も、ようやくこれがただの縁談ではなく、後宮入りも同じだと理解できたみたい。
「まずは、花魁の側仕えとなり、機会をうかがえ」
「わたくしが側仕えに?」
「妓楼は後宮と違うからな。ジン陛下の夜伽は花魁が独占している。メイリンは花魁の隣に立っているだけでいい。花魁の身の世話は他がやるさ。美しいお前ならすぐにジン陛下の気も引けるだろう。なに、札を貼れば、花魁は三日も待たずして床に伏せる。すべてを口実にしてお慰めすれば、子宝に恵まれるのもすぐだろう」
「この紙切れに、そんな効力が」
半信半疑ですけれど、叔父様がいうのだからそうことにしておきますわ。
効力がなくても、ジン陛下の気が引けるならそれで良いということなのでしょうし、ここは黙って「はい」と答えておくべきね。
「そうだ、メイリン」
「はい。叔父様」
「その札はジン陛下はもちろん、四獣様方には絶対知られてはならん」
とても怖い顔で告げられて、わたくしたち親子はそろって息をのむ。
忘れていたわ。
四獣様はジン陛下と違って、花魁を寵愛している。特に玄武王は昔から花魁一筋で、融通がきかないそう。
「知られたらどうなりますの?」
難しい顔で叔父様はうなる。
それだけで、なんとなく察するわたくしは本当に有能ですわね。
「その場で処刑され、一族もろとも取り潰されるだろう」
「………っ」
「だが、白虎王の遠縁の血を引くお前なら、恩情もかけてくださるはずだ」
納得がいきますわ。
仮にわたくしが失敗しても、華棒は切り離せばいいだけ。お父様は華粧の分家だけど、すでに没落して後ろ盾はいないのだし、万が一、この家が巻き込まれたとしても本家には支障もない。
わたくしに残された道は、花魁の座を奪い、ジン陛下の寵愛を得ることだけ。
「一族の復興と華族の栄光はお前に預ける」
「はい、叔父様。必ずジン陛下の寵愛を得てみせます」
これは、とても名誉なこと。
そして、わたくしにしか出来ないこと。
だから、黄宝館に到着するなり、わたくしは花魁の部屋に向かった。善は急げというし、ジン陛下に会える機会があるなら早い方がいいわ。
「あちらで話しんしょう」
意外と無防備な花魁の部屋に札を貼るのは簡単だった。
案外呆気なく済んでしまって、あとは時間稼ぎをするだけ。こんなに簡単で大丈夫かしら。まあ、それもこれも、わたくしが有能な証拠ですわ。
あとはジン陛下の寵愛を奪うため、花魁の側仕えになって機会を伺えばいい。
焦ることはない。たった数日。
妓楼で過ごすのは一日でも少ない方がいいけど、この天守の部屋はとても豪華だし、窓から帝都を見下ろす眺めも悪くないわ。
ジン陛下と添い遂げ、この部屋に住む。
とっても、いい気分。
「黄宝館の花魁、アザミでありんす」
絵姿で見たことはありましたけど、噂通りとだけ言っておきますわ。どれだけ美しくても、所詮、ただの妓女ですもの。
わたくしとは育ちが違いますし、いくら取り繕っても、本物を見分けることができる高貴な方は満足しないでしょう。
ジン陛下も四獣様も騙されてお可哀想。
わたくしは華族の代表として、ここまできたの。すぐにでもジン陛下の目を覚ましてさしあげなくては。
「わっちには、手が足りておりんす」
冷たい声。
美人だけど、それだけね。
このわたくしの申し出を断るなんて、頭が足りてないんじゃないかしら。卑しい身分のくせに、花魁だと祭り上げられて、勘違いなさってるんだわ。
だけどそれも今しばらくよ。
札の効力が出れば、わたくしの天下になるの。楽しみ、ね。
冗談じゃありませんわ。
華族に生まれたわたくしが、遊郭の空気を吸い、下賎な者と同じ部屋で暮らし、妓女の真似事をするなど、我慢できません。ですが、仕方ないのです。
五年前、わたくしの生家は、お父様の事業が失敗して没落してしまった。
一人娘のわたくしは、母方の実家である華棒家の分家筋に養子縁組される形で、変わらない暮らしが出来たのは不幸中の幸い。いいえ。分家といえど、華棒の家に入ったのですから、はっきりと幸福と言えました。
娘のいなかった華棒の分家は、政略結婚させる駒が欲しかったのでしょうけど。それは、華族に生まれたのなら当然の義務ですもの。わたくしとて、その辺りはわきまえておりますわ。
それなのに、それなのに、それなのに。
「メイリン。お前は黄宝館へ入れ」
「お兄様、わたくしの娘を妓楼へ入れるとおっしゃるんですの!?」
大事な話があるからと、家長である叔父様に呼ばれたのは十日ほど前。
わたくしもついに縁談かと、思い浮かべた殿方の顔を数えておりましたわ。それなのに、これはいったいどういうことでしょう。
お母様が勢いよく抱きしめてきたせいで、うまく聞き取れませんでしたわ。
黄宝館。まさか、ね。
だって、そこはお隣の国の身分の低い者が身体を使って稼ぐ卑しい場所ですもの。わたくしには、分不相応ですわ。
華族のわたくしが妓楼だなんて、ありえませんもの。
きっと、わたくしの聞き間違い。
「叔父様……いま、なんと仰ったの?」
こてんと首をかしげるわたくしに、叔父様は再度「黄宝館へ入れ」と仰ったわ。
その瞬間、お母様は今にも倒れてしまいそうなほど顔面蒼白で、お父様は怒り心頭で真っ赤になっていらしたわね。
「恩がある以上、娘の縁談には口を挟まないつもりだったが、妓楼となるなら話しは別だ。あんな汚らわしく、浅ましい場所に娘を放り込ませるなど、できるか!!」
足を踏み鳴らして立ち上がったお父様に驚いたのか、叔父様は慌てて両手を振ってらっしゃる。
「落ち着け」と何度も繰り返されているけど、お父様は落ち着けず、わたくしもお母様の腕の中で言葉を失っておりましたわ。
「わたくしが……妓楼に……」
「ああ、なんて可哀想なメイリン。こんなに美しい娘に育ったのに、あんまりですわ、お兄様……あんまりよ」
わんわん泣き始めたお母様の腕のなかで、わたくしはどうすればよかったのでしょう。
首を縦にも横にも振れない。
養子縁組なんて建前で、従順でなければ追い出される未来なんて簡単に見えるもの。
でも、行きたくない。
妓楼なんて、死んでもいや。
「ええい、うるさい。人の話を最後まで聞け!!」
ついに大声をあげた叔父様に、わたくしたちはピタリと大人しくなる。それを見た叔父様は、わざとらしく大きな息を吐き出して、それからわたくしの目をみてこう言った。
「なにも妓女になれと言っているんじゃない。統王様のご寵愛を得るのだ」
統王様。
それは、ふたつの帝国を統べる王。
第壱帝国の劉陛下の異母弟で、天女を封じる力を授かった尊いお方。生涯を花魁に捧げ、後宮を持たないことが定められた王。
花魁は天女が選ぶ娘で、階級の低い身分のものが多いと聞くわ。そんな女と生涯を添い遂げるなんて、統王様はお可哀想。
誰よりも美しい王だと聞くけれど、愚鈍で、女嫌いとも噂されている。
「統王とは、ジン陛下か!?」
お父様は声の調整方法をお忘れになったのかしら。叔父様が両手で耳を塞いでしまうほど叫ばれては、家のものに聞こえますわよ。
「さよう。ジン陛下だ」
「なぜです。第弐本帝国のジン陛下には花魁がいるではないですか」
「本家の孫娘が後宮に入って一年たつが、劉陛下はどの妃も寵愛せんらしい。このままでは世継ぎが問題視され、国の存続が危ぶまれる」
それもまた、有名な話ですわ。
兄弟揃って男色もしくは不能ではないかと、残念がる声はあとを絶たない。
「王族の血が途絶える前に手を打たねばならん」
若く、健康な内に、兄弟のどちらでもいいから世継ぎを得て欲しい。そして、世継ぎを得るのは下級身分の女ではなく、華族であるべきだと、叔父様は続ける。
「これを」
服から取り出して渡されたのは、薄い白紙に包まれた数枚の紙切れ。
御札のように不思議な文字が描かれて、裏に糊付けできる何かがついている。
「黄宝館の花魁の部屋に、その札を貼るだけでいい」
「お兄様、話が読めませんわ。ジン陛下の寵愛を娘に受けさせるのと、花魁の部屋に札だなんて」
わたくしの疑問は先ほどから、お父様とお母様が代弁くださるわね。
いつものことだし、手間が省けるからありがたいけど。
「わたくしは黄宝館に入り、花魁を排除して、ジン陛下の世継ぎを生む。ということですわね」
その瞬間の叔父様の嬉しそうな顔。
叔父様がわたくしを可愛がってくださるのは、容姿が美しいだけでなく、賢くて従順だから。お父様とお母様も少しはわたくしを見習えばいいのに。
「さすがだ、メイリン。それでこそ華族の娘。こんな馬鹿な両親から生まれたのに、お前は本当に良い娘だ」
「恐れ入ります」
わははと豪快に笑う叔父様を見て、お父様とお母様は顔を見合わせて座り直す。
二人とも心配だと顔に書いてありますけど、わたくしも不安はありますわ。
「叔父様、わたくしはどのようにして黄宝館へ?」
「心配するな。ちゃんと手は回している。第弐本帝国では花魁道中が開かれたばかりで、どこもかしこも混乱している。どこの妓楼も通ることなく、直接潜り込むには最大の好機だ」
「順調に黄宝館へ入れたとして、わたくしはそこから一人なのでしょう。心細いですわ」
「黄宝館に入ったその足で天守までのぼれ。新入りは、すぐ客がつくことはない。お前はジン陛下の相手だけをすればいい」
「うまくいくでしょうか」
「そのための札だ」
「では、ジン陛下以外のお相手は本当に不要なのですね?」
「当たり前だ。王族以外に触れさせる必要はない。花魁を排除したあとは、メイリンが黄宝館の天守に住まう天女だ」
わたくしは不仲だと名高いジン陛下と花魁の関係を利用して、花魁に成り代わり、寵愛を得て、王族の子を生む。
わたくしが将来の国母となる可能性があるなんて、こんなに幸運なことってないわ。
お父様とお母様も、ようやくこれがただの縁談ではなく、後宮入りも同じだと理解できたみたい。
「まずは、花魁の側仕えとなり、機会をうかがえ」
「わたくしが側仕えに?」
「妓楼は後宮と違うからな。ジン陛下の夜伽は花魁が独占している。メイリンは花魁の隣に立っているだけでいい。花魁の身の世話は他がやるさ。美しいお前ならすぐにジン陛下の気も引けるだろう。なに、札を貼れば、花魁は三日も待たずして床に伏せる。すべてを口実にしてお慰めすれば、子宝に恵まれるのもすぐだろう」
「この紙切れに、そんな効力が」
半信半疑ですけれど、叔父様がいうのだからそうことにしておきますわ。
効力がなくても、ジン陛下の気が引けるならそれで良いということなのでしょうし、ここは黙って「はい」と答えておくべきね。
「そうだ、メイリン」
「はい。叔父様」
「その札はジン陛下はもちろん、四獣様方には絶対知られてはならん」
とても怖い顔で告げられて、わたくしたち親子はそろって息をのむ。
忘れていたわ。
四獣様はジン陛下と違って、花魁を寵愛している。特に玄武王は昔から花魁一筋で、融通がきかないそう。
「知られたらどうなりますの?」
難しい顔で叔父様はうなる。
それだけで、なんとなく察するわたくしは本当に有能ですわね。
「その場で処刑され、一族もろとも取り潰されるだろう」
「………っ」
「だが、白虎王の遠縁の血を引くお前なら、恩情もかけてくださるはずだ」
納得がいきますわ。
仮にわたくしが失敗しても、華棒は切り離せばいいだけ。お父様は華粧の分家だけど、すでに没落して後ろ盾はいないのだし、万が一、この家が巻き込まれたとしても本家には支障もない。
わたくしに残された道は、花魁の座を奪い、ジン陛下の寵愛を得ることだけ。
「一族の復興と華族の栄光はお前に預ける」
「はい、叔父様。必ずジン陛下の寵愛を得てみせます」
これは、とても名誉なこと。
そして、わたくしにしか出来ないこと。
だから、黄宝館に到着するなり、わたくしは花魁の部屋に向かった。善は急げというし、ジン陛下に会える機会があるなら早い方がいいわ。
「あちらで話しんしょう」
意外と無防備な花魁の部屋に札を貼るのは簡単だった。
案外呆気なく済んでしまって、あとは時間稼ぎをするだけ。こんなに簡単で大丈夫かしら。まあ、それもこれも、わたくしが有能な証拠ですわ。
あとはジン陛下の寵愛を奪うため、花魁の側仕えになって機会を伺えばいい。
焦ることはない。たった数日。
妓楼で過ごすのは一日でも少ない方がいいけど、この天守の部屋はとても豪華だし、窓から帝都を見下ろす眺めも悪くないわ。
ジン陛下と添い遂げ、この部屋に住む。
とっても、いい気分。
「黄宝館の花魁、アザミでありんす」
絵姿で見たことはありましたけど、噂通りとだけ言っておきますわ。どれだけ美しくても、所詮、ただの妓女ですもの。
わたくしとは育ちが違いますし、いくら取り繕っても、本物を見分けることができる高貴な方は満足しないでしょう。
ジン陛下も四獣様も騙されてお可哀想。
わたくしは華族の代表として、ここまできたの。すぐにでもジン陛下の目を覚ましてさしあげなくては。
「わっちには、手が足りておりんす」
冷たい声。
美人だけど、それだけね。
このわたくしの申し出を断るなんて、頭が足りてないんじゃないかしら。卑しい身分のくせに、花魁だと祭り上げられて、勘違いなさってるんだわ。
だけどそれも今しばらくよ。
札の効力が出れば、わたくしの天下になるの。楽しみ、ね。
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