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弐書:封花印
01:龍肌に隠す
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あはははと、楽しそうに声をあげて笑うヒスイに、アザミは「笑い事じゃありんせん」と頬を膨らませてその腕を叩いた。
「いやぁ、ジンくんも大概だけど、イルハくんもこじらせてるねぇ」
イルハに笛を吹いた翌日、月のものがきたアザミは貧血で倒れ、残りの三日、イルハと顔を合わさないまま過ごした。
イルハと夜の交わりはなく、笛を吹いたあとは健全に分かれ、各々別室で過ごしたが、どんな顔をして会えばいいのかアザミにもわからなかったのだから、結果的にはよかったのだろう。けれど、役目交代の際にイルハはヒスイを無視したらしく、アザミは監視役が始まって早々、部屋に侵入してきたヒスイに「イルハくんと、なにかあったの?」と聞かれていた。
「着物を贈られんしたから笛を吹いただけでありんす」
「えー、絶対あの態度はそれだけじゃなかったけどなぁ?」
ニコニコと笑顔のまま近づいてきて、無言でアザミの腕を引いたヒスイは、我が物顔で寝台に腰かけ、膝の間に誘導するのだから気が抜けない。
そこでわずかに顔を歪ませたアザミに気づいて「重いの?」と耳に囁くあたり、女慣れしているなと肩の力が抜ける。実際には終盤も近づき、そこまでつらくもなかったが、甘えられるのなら甘えさせてもらおうと、アザミも身をゆだねていた。
「だるい感じが抜けないだけです」
「イルハくんってば、優しくしてくれなかったの?」
「イルハ様が関係ありんすか?」
「そりゃ、大事なアザミちゃんの身体だよ。一番ひどいときにボクがいたら、こうしてずっと撫でていてあげたのに」
そういって大きな手で下腹部を撫でられる。
ここまであからさまに態度に出されると拒否や抵抗もわずらわしい。すっぽりとおさまるヒスイの身体は妙に落ち着くのだから、断る理由も思い浮かばない。
「どう、少しはマシになった?」
全身の力を抜いて警戒心を解いたアザミに、ヒスイも満足そうな顔で手を動かしている。
首を縦に動かすことも、何かの合図を出すこともしていないのに、ヒスイは質問に答えなくてもその答えがわかっているみたいに「よかった」と呟いた。
「アザミちゃんの身体にちょっと負担をかけすぎちゃったね。ボクだけじゃなくて、コウラくん、アベニくん、イルハくんも同罪だけど」
「イルハ様も?」
「当然。アザミちゃん、四獣を不公平に扱っちゃだめだよ。イルハくんは年下だから可愛い弟みたいに思うかもしれないけど、ちゃんとオスだからね」
多少馬鹿にされているような気もするが、ヒスイはいつもこうなのだから、今さら反論する気もない。温かく大きな手で撫でられるのは心地よく、アザミは肩の力を抜いたまま、ヒスイの手が自分の下腹部を往復しているのを見つめていた。
「イルハ様には笛を吹いただけで、その他は何もしておりんせん」
「……は?」
ゆっくりと撫でていたヒスイの手が止まって、心底驚いたような「は?」に、アザミは顔をあげる。
「何を驚いておりんすか?」
「いや、だって。イルハくん、自分の着物贈ったんでしょ?」
相変わらず耳が早い。どこからでも最新の情報を仕入れてくるヒスイに、アザミも聞かれていることが何なのか、ようやく理解したと身体を起こした。
「イルハ様とは接吻もしておりんせん」
「……ほんとに?」
「ヒスイ様とは違うのですよ」
半分意地悪に答えたアザミに、ヒスイは一瞬ぽかんと口を開けて手を止める。
そして笑い出したヒスイに「笑い事じゃありんせん」とアザミが返して、「いやぁ、イルハくんもこじらせてるねぇ」と今に至る。
アザミは固定されつつあるヒスイの足の間で身体を起こしながら、頭上から雨のように降り注ぐ笑い声と下腹部をゆるゆると撫で始めた手のひらを無視していた。
「あー。笑った。ほんと、あいつ何してんの?」
何かと聞かれると、それはそれで困る。
独占欲のかたまりと同義の着物を贈られただけだが、真っ赤な顔のイルハを思い出すと、途端に全身が火照って顔が熱くなってくる。
純粋な好意を向けられてイヤな気はしない。
「なに、その反応」
「……え……ンッ、ぅ」
突然、片手で頬を掴まれて、無理矢理口づけられるのをどう受け止めればいいのか。
「ん、ぅ……ぁ……ヒスイさ、ま」
濃厚な重なりが口内から卑猥な音を響かせる。下腹部を撫でられながら馴染みある音が脳を刺激して、錯覚させようと迫ってくる。
駄目だと告げたところで、抵抗したところで、ヒスイは先に進んでくるのだろう。
前回がそうだったと、ヒスイとの行為を思い出して、アザミはわかりやすくヒスイの服をぎゅっと掴んだ。
「アザミちゃんは、本当に可愛いね。そんなに期待した顔をしても駄目だよ」
「……んっ、ぅ?」
なぜ自分が求めて、ふられる形になっているのか。
わからなくて傾げた首のまま深く口づけられて、アザミは素直に舌を差し出す。
「そんなこと誰に教えられたのかな。コウラくん?」
舌を吸って、唇を重ねたまま問いかけてくるヒスイの熱が心地いい。全身が包まれる安心感と体幹のいい大きさが、どこまでも甘えることを許してくれる気がして、意識が徐々に遠のいていく。
「アベニくんの可能性もあるか。今度、ジンくんやイルハくんにも同じようにしてあげな。絶対喜ぶから」
くつくつと喉の奥で笑うヒスイは、やはり器用で慣れているなと思う他ない。
余裕なんて二文字を忘れかけているアザミに対し、ヒスイは淡々とそこにいるだけ。
「だけど、今日はしないよ。七日あるんだから急かさなくても、最終日には引継ぎのアベニくんが困っちゃうくらいにここに注いであげる」
撫でていた下腹部を意図的に強く押してくるヒスイの行為に、アザミの身体が少し警戒する。奥深くまで埋め尽くそうと放たれる生温かな感触を期待して子宮が疼いたなど、ヒスイにばれるわけにはいかない。
「アザミちゃんも、そうされたいんでしょ?」
「……ッ、ぅ……ぁ」
「ん?」と、優しく耳に疑問符だけを吹き込んでくるヒスイの手が、着物の合わせ目から侵入してくる。下腹部を撫でていたはずの手が、今は肌を直接触ろうと足を撫でているのだからイヤでも意識がそこに向く。
アザミは、顔を見下ろしてくるヒスイの口づけから逃れるために顔をそらし、それから隠れるようにヒスイの胸元に額をこすりつけた。
「ヒスイ、さ……ま」
ぎゅっと掴んだヒスイの衣にしわが寄る。
足を這い上がってきた手が、花園に当てた布に到達するまで、時間はそうかからないだろう。
「ァッ……ヒスイ様、ッ……ぁ」
「んー。なぁに、アザミちゃん」
ヒスイの手は着物の中に隠れて見えないからこそ、余計に妄想が掻き立てられる。
触られなくてもわかるほど、濡れてきている。布がもどかしく股に張り付いて、ヒスイの指に触れられるのを期待している。
それなのに、ヒスイは太ももを撫でるだけで、その先へ行こうとしない。
「今日はしないよ」
「……っ……や……ぁ」
ここまで誘っておいて、それはあんまりだと、アザミはヒスイを見上げる。
穏やかな笑みで、余裕の態度でそこにいるヒスイはアザミの額に唇を落とすと、あっさりと足を撫でていた手を引こうとした。
「だ、め……ヒスイ様……っ」
咄嗟に両手でヒスイの右腕を掴んでしまった。
自分の行動に気付いたときにはもう遅い。
アザミの手は着物から出ていこうとするヒスイの腕を必死に掴んで、「触ってほしい」と故意に告げていた。
「そんなにしたいの?」
ヒスイが見逃してくれるはずもなく、悪戯に笑われたことで余計に羞恥がつのる。
もう、目は合わせられない。
穴があったら入りたいと顔を真っ赤に染めるアザミに、ヒスイは「それなら自分でちゃんと言葉にしてごらん」と拍車をかけてくる。しかも「前にもそう教えてあげたでしょ」と秘密を告げる様に、静かに囁かれたらどうしようもない。
「……ヒスイ様……っ……触って……ください」
対面になるように姿勢を起こし、寝具の上であぐらをかくヒスイに合わせて、膝をついたアザミは肩幅に足を広げ、着物の裾を持ち上げる。
膝をついた体勢でも、座るヒスイと目線が変わらない。
自分の秘部をさらしてねだる顔を見られるのは恥ずかしい。
ヒスイは、その心情を知ってか知らずか、深い青の瞳が煌々と色めく夜の明かりを反射して、「及第点だね」と優しく笑った。
「中には入れないよ?」
「……は、ぃ」
距離をつめるように移動してきたヒスイの左手が腰に回る。
アザミが両手で着物の裾を持ち上げているのをいいことに、不自由な状態を眺めて楽しむつもりらしい。股を触ってくれるとばかり思っていた右手が首元の見頃を掴んで、アザミの着物をずり下げる。
「おっと、意外。コウラくんが、痕をつけてないね」
反対側もずり下げられて、肩から胸まであらわになったアザミの上半身をヒスイは意外そうに眺めていた。
「イルハくんに遠慮でもしたのかな」
「……っ、ん」
「指の背で撫でるだけで硬くなっちゃう敏感な乳首もだけど、絶妙なやわらかさに痕を残さないなんて勿体ないよ、ねぇ。アザミちゃんもそう思わない?」
左手が囲い込むように腰を引き寄せて、右手が柔らかく乳房の輪郭を包み込んでくる。ヒスイの顔が無遠慮に近づいてきて、右胸の下の方に強く吸い付いていた。
「ぁ、ンッぅ……ヒスイさ、ま」
吸い付いた唇から伸びてきた舌が、下から上に向かって棒飴を舐めるように乳首をかすめてくる。散々舐めて、時々吸い付いてくるのを黙って受け入れるだけの時間。右手の指先も左胸についた乳首をひねったり、こねたりしているが、基本的にヒスイの右手はそこにある。
キモチイイ。
たしかに、乳首でも快楽を得られるようになっている。
それでも、そこじゃないという気持ちが、広がった足の隙間から蜜の量を増やして、今か今かと待っている。だけど、促せない。自分から、はしたない格好でねだったことを無視されていることが何よりも恥ずかしい。
「アザミちゃん、腰、動いてるよ?」
歯で乳首を挟みながら見上げてきた視線に、一気に顔に熱が昇るのがわかる。
「ヒスイ様……お願い……ッ……触ってください」
「焦らなくても時間はたくさんある。夜は長いんだから楽しまなくっちゃ」
「……やっ、ぁ……お願いします……」
なぜ自分はこんなにも必死になって、ヒスイに懇願しているのか。
わからないのに、欲しい刺激を理解できることが、情けなくて、悔しい。
数か月前まで何も知らない乙女だったのに、教えられたことを身体の方が先に覚えて、頭を通すより先に、口や行動に出そうとしてくる。
「アザミちゃん」
名前を呼ばれて、アザミはうるんだ瞳にヒスイを映す。
視界の端に右手が移動するのが見えて、それでもヒスイから視線をそらせないまま、アザミは布が引きはがされていくのを感じ取っていた。
ぬちゃりと卑猥な音がして、空気が触れる。空気が冷たく感じるのは自分の身体が火照っているせいだろう。わかっている。これは自分が望んだことだとわかっているのに、いざそのときになって、アザミは腰を後ろへ引いた。
「いけないね」
「ヒッ、ぁ」
左手が腰に回っていたのはこのときのためだったのかと、今さら気付いても、もう遅い。
アザミの腰は簡単に固定されて、ヒスイの指が割れ目を広げるのを手助けしている。
「自分から誘っておいて、逃げるなんてひどいんじゃない?」
「……っ、ぅ……ん」
「まあ、こんなに大きく膨らませて勃起させてたら、恥ずかしくて逃げたくなる気持ちもわかるよ。お漏らししたみたいにぬるぬるだし、指で数回撫でるだけで気をやっちゃいそうって顔してる。ほら、見てごらん」
一度触るのをやめて、目の前に持ち上げられたヒスイの指。粘着質な糸をまとって、メスの匂いを放っている。
「……ッ……ぁ」
見せつけるように至近距離で指を舐めたヒスイの顔が、舌が、あまりに綺麗すぎて言葉にならない。自分は四獣にいったい何をさせているのかと、冷静に観察している自分がいる一方で、そうさせているのが自分であることの愉悦が脳を支配していく。
それなのに、ヒスイは少し驚いたように目を開いて、それからまじまじと舐めたばかりの指を観察して、何かを考える素振りをし始める。
「アザミちゃん、そのまま立てる?」
いったい何事かと、アザミは言われるがままヒスイの指示に従った。けれど、それが間違いだったことは、立った瞬間、今度は両手で抱き寄せられた腰に悟る。
「やッ……ひ、ヒスイさ……ま……ァッ」
鼻が埋もれるほど深く、股に顔を埋めてきたヒスイの行動に驚くしかない。
先ほど乳首にして見せたように、陰核を歯で掘り起こして、舌で舐める。てっきり、指でいかせてもらえるとばかり思っていた下半身は、わずかに変わった刺激に混乱して、じゅるじゅると聞こえる卑猥な音に慌てふためく。
「待って……ヒスイさま…ぁ……きたな…ぃ」
月のものはまだ完全に終わっていない。
穢れた血を含む愛蜜を舐めるのはやめたほうがいいと訴えているのに、飢えた獣のようにむしゃぶりつくヒスイの舌は止まらない。
「だ、め……っ……ヒッ、ぅ……ぁ」
それでも抵抗できるだけの理性は、もうアザミに残っていなかった。
いつの間にか、着物を持っていた手を放し、両手で口から出る喘ぎ声を受け止めている。
「ァッ……ぃ、イクッ……ヒスイ様、ヒスイさまァァあぁァッ」
腰が前後に揺れる。膝が震える。
自分で自分の身体を支えられずに、思わずヒスイの頭を手で掴んでしまったが、そんなことではびくともしないヒスイの体幹に助けられる。
心地よい快楽。欲しかった絶頂の余韻が浅い息を深く変え、理性を呼び戻そうとしているのがわかる。
「……え……ぁ、あの……ヒスイさ…ま……ンッぅ」
もう終わったのではないかと確認しようとした矢先、なぜか舐めるのをやめないヒスイに、アザミは戸惑いの声をあげていた。
逃げようとする腰は、相変わらず両腕に囲われ、固定されたまま。敏感に刺激を得ようとする神経が終わらないヒスイの舌にあわせて、小刻みに揺れ始めている。
「あの……ヒスイ様…っ……ン、ぅ」
いったい、どうすればいいのか。理性と快楽の間で必死に状況整理をする。けれどそのとき、ヒスイの肩に手を置こうとしたアザミの左手首にある封花印が突然光りだし、ふたりは青い光に包み込まれていった。
「いやぁ、ジンくんも大概だけど、イルハくんもこじらせてるねぇ」
イルハに笛を吹いた翌日、月のものがきたアザミは貧血で倒れ、残りの三日、イルハと顔を合わさないまま過ごした。
イルハと夜の交わりはなく、笛を吹いたあとは健全に分かれ、各々別室で過ごしたが、どんな顔をして会えばいいのかアザミにもわからなかったのだから、結果的にはよかったのだろう。けれど、役目交代の際にイルハはヒスイを無視したらしく、アザミは監視役が始まって早々、部屋に侵入してきたヒスイに「イルハくんと、なにかあったの?」と聞かれていた。
「着物を贈られんしたから笛を吹いただけでありんす」
「えー、絶対あの態度はそれだけじゃなかったけどなぁ?」
ニコニコと笑顔のまま近づいてきて、無言でアザミの腕を引いたヒスイは、我が物顔で寝台に腰かけ、膝の間に誘導するのだから気が抜けない。
そこでわずかに顔を歪ませたアザミに気づいて「重いの?」と耳に囁くあたり、女慣れしているなと肩の力が抜ける。実際には終盤も近づき、そこまでつらくもなかったが、甘えられるのなら甘えさせてもらおうと、アザミも身をゆだねていた。
「だるい感じが抜けないだけです」
「イルハくんってば、優しくしてくれなかったの?」
「イルハ様が関係ありんすか?」
「そりゃ、大事なアザミちゃんの身体だよ。一番ひどいときにボクがいたら、こうしてずっと撫でていてあげたのに」
そういって大きな手で下腹部を撫でられる。
ここまであからさまに態度に出されると拒否や抵抗もわずらわしい。すっぽりとおさまるヒスイの身体は妙に落ち着くのだから、断る理由も思い浮かばない。
「どう、少しはマシになった?」
全身の力を抜いて警戒心を解いたアザミに、ヒスイも満足そうな顔で手を動かしている。
首を縦に動かすことも、何かの合図を出すこともしていないのに、ヒスイは質問に答えなくてもその答えがわかっているみたいに「よかった」と呟いた。
「アザミちゃんの身体にちょっと負担をかけすぎちゃったね。ボクだけじゃなくて、コウラくん、アベニくん、イルハくんも同罪だけど」
「イルハ様も?」
「当然。アザミちゃん、四獣を不公平に扱っちゃだめだよ。イルハくんは年下だから可愛い弟みたいに思うかもしれないけど、ちゃんとオスだからね」
多少馬鹿にされているような気もするが、ヒスイはいつもこうなのだから、今さら反論する気もない。温かく大きな手で撫でられるのは心地よく、アザミは肩の力を抜いたまま、ヒスイの手が自分の下腹部を往復しているのを見つめていた。
「イルハ様には笛を吹いただけで、その他は何もしておりんせん」
「……は?」
ゆっくりと撫でていたヒスイの手が止まって、心底驚いたような「は?」に、アザミは顔をあげる。
「何を驚いておりんすか?」
「いや、だって。イルハくん、自分の着物贈ったんでしょ?」
相変わらず耳が早い。どこからでも最新の情報を仕入れてくるヒスイに、アザミも聞かれていることが何なのか、ようやく理解したと身体を起こした。
「イルハ様とは接吻もしておりんせん」
「……ほんとに?」
「ヒスイ様とは違うのですよ」
半分意地悪に答えたアザミに、ヒスイは一瞬ぽかんと口を開けて手を止める。
そして笑い出したヒスイに「笑い事じゃありんせん」とアザミが返して、「いやぁ、イルハくんもこじらせてるねぇ」と今に至る。
アザミは固定されつつあるヒスイの足の間で身体を起こしながら、頭上から雨のように降り注ぐ笑い声と下腹部をゆるゆると撫で始めた手のひらを無視していた。
「あー。笑った。ほんと、あいつ何してんの?」
何かと聞かれると、それはそれで困る。
独占欲のかたまりと同義の着物を贈られただけだが、真っ赤な顔のイルハを思い出すと、途端に全身が火照って顔が熱くなってくる。
純粋な好意を向けられてイヤな気はしない。
「なに、その反応」
「……え……ンッ、ぅ」
突然、片手で頬を掴まれて、無理矢理口づけられるのをどう受け止めればいいのか。
「ん、ぅ……ぁ……ヒスイさ、ま」
濃厚な重なりが口内から卑猥な音を響かせる。下腹部を撫でられながら馴染みある音が脳を刺激して、錯覚させようと迫ってくる。
駄目だと告げたところで、抵抗したところで、ヒスイは先に進んでくるのだろう。
前回がそうだったと、ヒスイとの行為を思い出して、アザミはわかりやすくヒスイの服をぎゅっと掴んだ。
「アザミちゃんは、本当に可愛いね。そんなに期待した顔をしても駄目だよ」
「……んっ、ぅ?」
なぜ自分が求めて、ふられる形になっているのか。
わからなくて傾げた首のまま深く口づけられて、アザミは素直に舌を差し出す。
「そんなこと誰に教えられたのかな。コウラくん?」
舌を吸って、唇を重ねたまま問いかけてくるヒスイの熱が心地いい。全身が包まれる安心感と体幹のいい大きさが、どこまでも甘えることを許してくれる気がして、意識が徐々に遠のいていく。
「アベニくんの可能性もあるか。今度、ジンくんやイルハくんにも同じようにしてあげな。絶対喜ぶから」
くつくつと喉の奥で笑うヒスイは、やはり器用で慣れているなと思う他ない。
余裕なんて二文字を忘れかけているアザミに対し、ヒスイは淡々とそこにいるだけ。
「だけど、今日はしないよ。七日あるんだから急かさなくても、最終日には引継ぎのアベニくんが困っちゃうくらいにここに注いであげる」
撫でていた下腹部を意図的に強く押してくるヒスイの行為に、アザミの身体が少し警戒する。奥深くまで埋め尽くそうと放たれる生温かな感触を期待して子宮が疼いたなど、ヒスイにばれるわけにはいかない。
「アザミちゃんも、そうされたいんでしょ?」
「……ッ、ぅ……ぁ」
「ん?」と、優しく耳に疑問符だけを吹き込んでくるヒスイの手が、着物の合わせ目から侵入してくる。下腹部を撫でていたはずの手が、今は肌を直接触ろうと足を撫でているのだからイヤでも意識がそこに向く。
アザミは、顔を見下ろしてくるヒスイの口づけから逃れるために顔をそらし、それから隠れるようにヒスイの胸元に額をこすりつけた。
「ヒスイ、さ……ま」
ぎゅっと掴んだヒスイの衣にしわが寄る。
足を這い上がってきた手が、花園に当てた布に到達するまで、時間はそうかからないだろう。
「ァッ……ヒスイ様、ッ……ぁ」
「んー。なぁに、アザミちゃん」
ヒスイの手は着物の中に隠れて見えないからこそ、余計に妄想が掻き立てられる。
触られなくてもわかるほど、濡れてきている。布がもどかしく股に張り付いて、ヒスイの指に触れられるのを期待している。
それなのに、ヒスイは太ももを撫でるだけで、その先へ行こうとしない。
「今日はしないよ」
「……っ……や……ぁ」
ここまで誘っておいて、それはあんまりだと、アザミはヒスイを見上げる。
穏やかな笑みで、余裕の態度でそこにいるヒスイはアザミの額に唇を落とすと、あっさりと足を撫でていた手を引こうとした。
「だ、め……ヒスイ様……っ」
咄嗟に両手でヒスイの右腕を掴んでしまった。
自分の行動に気付いたときにはもう遅い。
アザミの手は着物から出ていこうとするヒスイの腕を必死に掴んで、「触ってほしい」と故意に告げていた。
「そんなにしたいの?」
ヒスイが見逃してくれるはずもなく、悪戯に笑われたことで余計に羞恥がつのる。
もう、目は合わせられない。
穴があったら入りたいと顔を真っ赤に染めるアザミに、ヒスイは「それなら自分でちゃんと言葉にしてごらん」と拍車をかけてくる。しかも「前にもそう教えてあげたでしょ」と秘密を告げる様に、静かに囁かれたらどうしようもない。
「……ヒスイ様……っ……触って……ください」
対面になるように姿勢を起こし、寝具の上であぐらをかくヒスイに合わせて、膝をついたアザミは肩幅に足を広げ、着物の裾を持ち上げる。
膝をついた体勢でも、座るヒスイと目線が変わらない。
自分の秘部をさらしてねだる顔を見られるのは恥ずかしい。
ヒスイは、その心情を知ってか知らずか、深い青の瞳が煌々と色めく夜の明かりを反射して、「及第点だね」と優しく笑った。
「中には入れないよ?」
「……は、ぃ」
距離をつめるように移動してきたヒスイの左手が腰に回る。
アザミが両手で着物の裾を持ち上げているのをいいことに、不自由な状態を眺めて楽しむつもりらしい。股を触ってくれるとばかり思っていた右手が首元の見頃を掴んで、アザミの着物をずり下げる。
「おっと、意外。コウラくんが、痕をつけてないね」
反対側もずり下げられて、肩から胸まであらわになったアザミの上半身をヒスイは意外そうに眺めていた。
「イルハくんに遠慮でもしたのかな」
「……っ、ん」
「指の背で撫でるだけで硬くなっちゃう敏感な乳首もだけど、絶妙なやわらかさに痕を残さないなんて勿体ないよ、ねぇ。アザミちゃんもそう思わない?」
左手が囲い込むように腰を引き寄せて、右手が柔らかく乳房の輪郭を包み込んでくる。ヒスイの顔が無遠慮に近づいてきて、右胸の下の方に強く吸い付いていた。
「ぁ、ンッぅ……ヒスイさ、ま」
吸い付いた唇から伸びてきた舌が、下から上に向かって棒飴を舐めるように乳首をかすめてくる。散々舐めて、時々吸い付いてくるのを黙って受け入れるだけの時間。右手の指先も左胸についた乳首をひねったり、こねたりしているが、基本的にヒスイの右手はそこにある。
キモチイイ。
たしかに、乳首でも快楽を得られるようになっている。
それでも、そこじゃないという気持ちが、広がった足の隙間から蜜の量を増やして、今か今かと待っている。だけど、促せない。自分から、はしたない格好でねだったことを無視されていることが何よりも恥ずかしい。
「アザミちゃん、腰、動いてるよ?」
歯で乳首を挟みながら見上げてきた視線に、一気に顔に熱が昇るのがわかる。
「ヒスイ様……お願い……ッ……触ってください」
「焦らなくても時間はたくさんある。夜は長いんだから楽しまなくっちゃ」
「……やっ、ぁ……お願いします……」
なぜ自分はこんなにも必死になって、ヒスイに懇願しているのか。
わからないのに、欲しい刺激を理解できることが、情けなくて、悔しい。
数か月前まで何も知らない乙女だったのに、教えられたことを身体の方が先に覚えて、頭を通すより先に、口や行動に出そうとしてくる。
「アザミちゃん」
名前を呼ばれて、アザミはうるんだ瞳にヒスイを映す。
視界の端に右手が移動するのが見えて、それでもヒスイから視線をそらせないまま、アザミは布が引きはがされていくのを感じ取っていた。
ぬちゃりと卑猥な音がして、空気が触れる。空気が冷たく感じるのは自分の身体が火照っているせいだろう。わかっている。これは自分が望んだことだとわかっているのに、いざそのときになって、アザミは腰を後ろへ引いた。
「いけないね」
「ヒッ、ぁ」
左手が腰に回っていたのはこのときのためだったのかと、今さら気付いても、もう遅い。
アザミの腰は簡単に固定されて、ヒスイの指が割れ目を広げるのを手助けしている。
「自分から誘っておいて、逃げるなんてひどいんじゃない?」
「……っ、ぅ……ん」
「まあ、こんなに大きく膨らませて勃起させてたら、恥ずかしくて逃げたくなる気持ちもわかるよ。お漏らししたみたいにぬるぬるだし、指で数回撫でるだけで気をやっちゃいそうって顔してる。ほら、見てごらん」
一度触るのをやめて、目の前に持ち上げられたヒスイの指。粘着質な糸をまとって、メスの匂いを放っている。
「……ッ……ぁ」
見せつけるように至近距離で指を舐めたヒスイの顔が、舌が、あまりに綺麗すぎて言葉にならない。自分は四獣にいったい何をさせているのかと、冷静に観察している自分がいる一方で、そうさせているのが自分であることの愉悦が脳を支配していく。
それなのに、ヒスイは少し驚いたように目を開いて、それからまじまじと舐めたばかりの指を観察して、何かを考える素振りをし始める。
「アザミちゃん、そのまま立てる?」
いったい何事かと、アザミは言われるがままヒスイの指示に従った。けれど、それが間違いだったことは、立った瞬間、今度は両手で抱き寄せられた腰に悟る。
「やッ……ひ、ヒスイさ……ま……ァッ」
鼻が埋もれるほど深く、股に顔を埋めてきたヒスイの行動に驚くしかない。
先ほど乳首にして見せたように、陰核を歯で掘り起こして、舌で舐める。てっきり、指でいかせてもらえるとばかり思っていた下半身は、わずかに変わった刺激に混乱して、じゅるじゅると聞こえる卑猥な音に慌てふためく。
「待って……ヒスイさま…ぁ……きたな…ぃ」
月のものはまだ完全に終わっていない。
穢れた血を含む愛蜜を舐めるのはやめたほうがいいと訴えているのに、飢えた獣のようにむしゃぶりつくヒスイの舌は止まらない。
「だ、め……っ……ヒッ、ぅ……ぁ」
それでも抵抗できるだけの理性は、もうアザミに残っていなかった。
いつの間にか、着物を持っていた手を放し、両手で口から出る喘ぎ声を受け止めている。
「ァッ……ぃ、イクッ……ヒスイ様、ヒスイさまァァあぁァッ」
腰が前後に揺れる。膝が震える。
自分で自分の身体を支えられずに、思わずヒスイの頭を手で掴んでしまったが、そんなことではびくともしないヒスイの体幹に助けられる。
心地よい快楽。欲しかった絶頂の余韻が浅い息を深く変え、理性を呼び戻そうとしているのがわかる。
「……え……ぁ、あの……ヒスイさ…ま……ンッぅ」
もう終わったのではないかと確認しようとした矢先、なぜか舐めるのをやめないヒスイに、アザミは戸惑いの声をあげていた。
逃げようとする腰は、相変わらず両腕に囲われ、固定されたまま。敏感に刺激を得ようとする神経が終わらないヒスイの舌にあわせて、小刻みに揺れ始めている。
「あの……ヒスイ様…っ……ン、ぅ」
いったい、どうすればいいのか。理性と快楽の間で必死に状況整理をする。けれどそのとき、ヒスイの肩に手を置こうとしたアザミの左手首にある封花印が突然光りだし、ふたりは青い光に包み込まれていった。
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