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第十一夜 監視と管理(中)
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隠しもしない捕食者の瞳。そこに反射した優羽の瞳は、うるうるとゆらめき、かたくむすんだ唇は、もう限界だと訴えている。
「なに?」
銀色の瞳の奥で竜が笑う
あぐらをかいた竜は、その上に片肘(カタヒジ)をつきながら首をかしげてきた。
「お……終わりました……」
「拭き終わっただけやろ?」
泣きそうな顔で布を握りしめた優羽の手首は、竜に捕まり、終了を許さない圧を向けられる。
拭き終わっただけ。その先にしなければならないことは、頭ではわかっているのに、身体が拒んでいる。わかっていて、竜は聞いている。その事実を受け止めるのは、想像以上に怖かった。
「あ…ッ…だ…出来な……」
のぞきこんでくる竜の瞳に耐えきれずに、優羽は身体を後ろへ引いた。
竜に捕まれた手首が痛い。
思わずひらいた優羽の手の中から、濡れた布が音をたてて二人の間に落ちた。
「逃がさんいうてるやろ」
「でも…ッ…出来な……」
「えーから、やれ」
「……~ッ……」
時おり突きつけられる現実に、身体が硬直してしまう。脅迫ともとれる言動に、脳が正常に働くことを拒否しようとする。エサだという意識が、舞い戻ってくる。
「晶の前で出来て、俺の前で出来んわけないやろ」
「…っ…」
「それともなんや。優羽は晶に、お仕置きでもされたいんか?」
恐怖や洗脳にも近い動作が、優羽の身体を小刻みに震えさせていた。竜につかまれたままの手首から熱を発するように、優羽の身体は羞恥に染まっていく。
「やッ……」
優羽は、竜の問いかけに小さく首をふってから、足を徐々に広げはじめた。顔を大きくそらせて唇をかみ、ギュッと目をつぶって足を開脚する。
それから、掴まれていない方の手を使って、自分で花弁を押し広げた。
「なんや。全然、キレイになってへんやん」
恥ずかしすぎて泣けてくる。
竜の視線が突き刺さるそこに力が入って、涼が注いだ白濁と絶頂の蜜の混ざった液体が、床に伝っていくのがわかる。
「ようわからへんのやったら俺が広げたろか?」
「……っ、い、ぃ」
「遠慮せんでもええのに」
優羽の指先からのぞく花弁の奥に、竜がクスリと笑う。恥ずかしさに身体を震わせながら、首を横にふった優羽は、唇を尖らせて、あり得ない現実を呪っていた。
「んな顔しても、アカンもんはアカンの」
何のなぐさめにもならない竜に解放された手首が、股の間に導かれる。
「はよ、キレイにせな。自分の指、突っ込むんやろ?」
「ッ!?」
「俺、やりかたわからへんもん」
優羽は、白々しいまでに言ってのけた竜をにらみつける。それが逆効果なことに気づきもせずに、優羽は強気に竜をジッと見上げていた。
涙をためた瞳をうるませ、真っ赤な顔を羞恥にゆがめて唇を噛む姿に、竜の笑みはますます深くなる。
「別にええんやで。なんやったら輝でも呼んで、一緒にやり方を考え」
「やりますッ」
「ほな、はよして」
優羽は、悠然と見つめてくる竜の視線に耐えながら、自分の割れ目に片手をそえた。
指が震えてる。
異性の前で初めて触る自分の秘部に、興味と恐怖がごちゃ混ぜになっていた。
「…~ッ……」
変な感触がする。
妙にヌルヌルとした液体が指に絡みつき、割れ目をなぞる自分の指先が、脳内でその部分を映像化していた。
固く尖った淫核の下のほう、ドクドクと脈打ちながら呼吸する穴がある。いつもかきまわされ、突き上げられ、虐(シイタ)げられている可哀想な乙女の入り口。先ほど注ぎ込まれたと思われる涼の液体が、優羽の愛液と混ざってこぼれていた。
「…………」
指をいれるのが怖い。
泣いてしまいそうな現実に耐えるために、優羽は唇を強く噛み締めていた。竜の顔を見るよりも自分の身体の方に視線が落ちる。
ぬるぬると指先が入口付近を往復するだけで、内部に挿入するにはほど遠い。それでも、いつかは入れなければならない。終わりを望むのであればなおさら、自分の指が見えなくなるほど深く、差し込まなければならない。
それも自分の感覚だけを頼りに、繰り返し掻き出す作業を続けなければならない。
想像するだけで泣けてくると、優羽はあわれなほど小刻みに震え、細い指先をいつ埋め込もうかと思案していた。
「晶は、そんなんちゃうやろ?」
「そっ……ん」
微動だにしない竜の視線にせかされて、優羽は自分の蜜壺にひとさし指を侵入させた。
「ふぁ……っ…」
思わずもれた自分の声を慌てて飲み込む。
生暖かくて、指に絡み付いてくるような肉の壁は、気持ち悪くて圧倒的な存在感を持っていた。
「み…な…っで……」
今なら恥ずかしさで死ねる。
優羽は、自分の膣に自分の指を埋め込みながら、竜に懇願の息を吹きかける。おそるおそる、ゆっくりと、安全を優先して往復させる指に合わせて、とろみをおびた卑猥な液体が、床に染みわたっていく。
再び顔をそむけた優羽の足の間では、確実な快楽が芽吹いていた。
「足ちゃんと広げな、見えへん」
「…はぁ…っ…ん…」
「自分でできる言うたんやんから、自分でせなアカンで」
目の前で座っているだけの竜の瞳に、恥辱に染まる優羽の恥体が映っていた。自分でヒザを立てて、足を大きく開脚させ、たった一本の、それも自分の指で優羽は自分の内部を単調に攻めていく。
気持ちいい場所を知っているだけに、勝手な意識が、その場所に指を誘導していた。
「顔もちゃんとこっち向け」
グッと掴みあげられたアゴの先で、妖艶に微笑む竜が見える。
「なんや、感じてんの?」
「…チが…ッ……」
「指、さっきより早なってんで?」
「ッ!?」
視線をそらすことも、否定をつむぐことも出来ずに、優羽はゴクリとのどをならした。
指がとまらない。
ギュッと中が締まった気がして、優羽は驚いて手を引きそうになった。が、それをすかさず竜に押し止められる。
「ヤァッ」
「途中でやめたらアカンやん」
「ひッ、ヤッ、やだっ」
手首が固定される代わりに、腰が前後に動いて、物足りなさと恥辱を煽ってくる。止めれば済む話だとわかっていながら、止められない程度には、快楽の先を知っている。
その証拠に、ギュウギュウと、まるで別の生き物のように中がうごめいていた。自分の指先に胎動を感じるのは初めてだが、どこを押せば反応するのか、連動した神経が教えてくれる。
「ぃ…っ、く…ヤッいきたく、な」
浅い絶頂がそこにある。
ゆるゆると迫ってくる微弱な快楽が、浜辺を襲う波くらいの強さでやってくる。
「イク…っぅ……~~~ッぁ」
竜の瞳から逃れることも出来ずに、見守られる世界で、優羽は静かな絶頂に腰を震わせていた。
ひくひくと指先を締め付ける膣は、キレイになるどころか、余計に汚れたと言えるかもしれない。それなのに、竜は嬉しそうに口角をあげて、優羽の額に唇を押し当て、「よーできました」と囁いた。
「どうや、俺らがいつも味わってるもんは。うまいやろ?」
彼らがいつも味わっている自分の内部は、こうやって動くのだと、イヤでも経験が覚えていく。
自分の指が自分の膣に食べられているような感触。いったい、味わっているのはどちらかと疑問すら浮かぶ。それに、美味しいと判断できる材料は見つけられそうにない。自分で確かめてわかったことは少なく、素直にうなずける要素は見つけられない。
つまり、カミ様は、よくわからない味覚を持っているらしい。
「アッ…ャッ…はぁ…はぁ……ん」
ほんの少し指を動かすだけで、膣が喜んで指に吸い付いてくる。恥ずかしさ以上に、怖さに指を抜きたくなるのに、竜のせいでそれもできない。
「聞いてるか?」
竜に取り押さえられた手首を自身の股の間から引き離すことも出来ずに、優羽は自分の指をきつく締め上げる。
また、指先に触れた膣壁が、柔らかく湿った弾力を押し返してきた。
「なっ。俺らが言うてる意味が少しはわかったやろ?」
「…あっ…ッ…」
「どないや?」
足りない。
指一本なんかじゃ、全然足りない。
更なる快楽を求めるかのように、伸縮を繰り返す下腹部が男が欲しいと強く叫んでいる。
「ほら、見してみ。きれいになったか、確かめたるわ」
「ふぇッ!?」
突然、つかまれていた手首を強制的に引き抜かれると同時に、まだひくついてやまない下肢に、竜が顔をうずめてきた。
「ヤァッ…ッ…アッだ…め」
肉厚な舌が、強引に割れ目をさぐる。太ももの下から回ってきた手で腰をつかまれ、ジュルジュルと音を荒げて吸いとられる感触に、優羽の身体がビクリと震えた。
「待っ…アッ…そこダ…くっアッ…イッ」
敏感に固くなった秘芽が、ざらついた竜の舌先に弾かれる。
指とはまったく異なる感覚。往復する舌の動きに合わせて、神経が絶頂の準備をはじめる感覚。断続的に与えられる刺激に、腰が揺れる。
「ヒッ…ぁ…ん……」
竜の顔を退けるため、優羽は何度も奮闘し、現状打破を試みた。
抱え込んで食べてくる竜の頭が、そう簡単に退くわけもなく、状況好転の兆しも見えない。
「くっ、ィッ…ぐ……ぁ…ぃくッぅ」
大体、うまくいくわけがなかった。
ざらついた舌をねじ込まれ、尖る牙に歯をたてられて、むき出しの神経はしごかれる。
敏感に反応する神経が恨めしい。何度も痛快な刺激が駆け抜けていくせいで、優羽は丸まりながら竜を抱え込むしかなかった。
「ぁっあ、アッ…ぃったも、イッたからぁ…っ…やっ、いクッ…ぅ」
奥から蜜が溢れ、竜の舌に舐めとられていくのがわかる。次々と枯れることなく、熟した果実が与える甘味を提供している。
「全然、キレイにならへんな」
「ヒッ…や…ッ…それ以上し…ヤァッ」
「口動かす暇があるんやったら、一回でも多くイキ」
掻き出す舌に、吸い上げられる蕾に、優羽の瞳に涙がたまる。
「変、な……熱ぃ…ィッぁ」
身体の芯が熱く沸騰していく。
絶頂の余韻に浸ることなく、強制的に掘り起こされていく。本来、休まるはずの快楽神経が誤作動を起こして、チカチカと星が瞬いている。
「ぅ、アアァッ……やめッ、竜…ァ」
「やめへんよ」
「アァッ…ぅ…イキたくな」
言動と行動が狂っていく。口では嫌だと言いながら、竜の頭を両手で秘部に押し付け、優羽は腰を前後に動かしていた。
「ヤダ…ィッ…やだぁ…ッ……ィ、ク」
「自分の立場、忘れたわけとちゃうんやろ?」
「あぁっアッ…ヒッ、ぅ…あ゛」
逃げないように、腰はさらに強く抱え込まれる。足の間に埋まる竜の髪に指を絡ませながら、優羽は与えられる快楽を否定するかのように首をふった。
「…ッ…く…そこ…め…ヤァッ…ヒッ」
イキタクナイ。それが伝わらない。
彼らにこれ以上、溺れたくないのに、このままでは本当に、取り返しがつかなくなる。
エサであることが嬉しい。それを認めて、どこまでも求めてしまいそうで、罰当たりな嫉妬や独占欲を覚えてしまいそうで、怖くてたまならない。
『来年の姫巫女』
その存在が来る頃には、自分は彼らの腹の中だろう。
それが、たまらなく悲しい。
あのとき、爪や牙に裂かれて、ただの器と化してしまえば、こんな感情も知らずに済んだ。知らないまま終わっていた。みじめな暮らしをするくらいなら、生き残った意味を知りたくない。
「竜…ッ…ぅあ゛……っ」
エサであることがツラくて、ツラくて、たまらなかった。
欲しくなる。勘違いの感情が、軋(キシ)みをたてて、彼らを求め始めていた。
「い…や…ッ…」
戒の言葉がよみがえる。
『優羽に、このままここにいられては困ります』
反芻すれば、勘違いしかけた心も現実を思い知るだろう。
『追い出すわけにもいかない以上、消すほうが早いと判断したまでです』
カミの正体を知ってしまえば、人間はもとの世界には帰れない。美しい白銀の狼。古来より永年を生きてきたイヌガミ様は、優しくて寂しい生き物だと、知られてはいけないのだろう。
『確実に、面倒なことになるんですよ』
冷たく吐き捨てられた言葉を絶頂と一緒にのみ込んで、優羽は心を閉ざしていく。
快楽だけが、唯一、彼らとの繋がりを約束してくれるものであり、裏切らない行為であることだけを考える。
「アッ…ッ…アァッ…」
竜が顔を埋めているのをいいことに、優羽はその頭を抱えて、涙をこぼしていた。
言葉にできないその一言は、果たして、正常に自覚した感情なのか。
なんのために、気づかないフリをしてきたのか。女として甘える行為を受け入れられると、どうしようもなくワガママになりたくなる。
このままでは竜のせいで、枷が取り払われてしまう。せっかく受け入れたばかりの決意がにぶっていく。
「…………ッ、ぁ」
求めても、答えてなどもらえないのに、彼らを好きになってしまった。
この感情は誤魔化せない。
与えられる快楽に、悦んでいる自分がいる。彼らの愛撫に浸り、与えられる刺激に溺れ、ビクビクと激しく痙攣を起こしながら、優羽の全身は、下半身を中心に竜を深くかかえこんでいた。
「ひ、アァッ……そ、ぁ」
秘部に埋まった竜の顔が、優羽がかき出しきれなかった最後の一滴まで吸い上げようと、強引に舌を暴れさせる。
「…ァァッ…ん、ァッ…あッ」
抵抗など無意味なほど、単純に気持ちよかった。
やめないでほしい。ヤメナイで、もっと、モット、コワシテホシイ。
「~~~~ッく、りゅッ…アァッ…」
いっこうにやまない刺激が、優羽の上半身を自然にのけぞらせる。
微動だにしない竜の頭を股に挟み込み、頭の中が真っ白に洗い流されるまま、優羽は床に背をあずけた。
「優羽」
「りゅ………っぅ、ん」
ようやく顔をあげて、肌のうえを滑ってきた竜に口付けられる。額もまぶたも、頬も、首筋も、竜の唇が触れてくる。
「………優しく、しないで」
「なんで?」
理由を言わずに、願いが叶うことはない。優羽の泣き言を無視して、耳たぶを噛んだ竜は、ただ一言囁いた。
「好きやで、優羽」
「なに?」
銀色の瞳の奥で竜が笑う
あぐらをかいた竜は、その上に片肘(カタヒジ)をつきながら首をかしげてきた。
「お……終わりました……」
「拭き終わっただけやろ?」
泣きそうな顔で布を握りしめた優羽の手首は、竜に捕まり、終了を許さない圧を向けられる。
拭き終わっただけ。その先にしなければならないことは、頭ではわかっているのに、身体が拒んでいる。わかっていて、竜は聞いている。その事実を受け止めるのは、想像以上に怖かった。
「あ…ッ…だ…出来な……」
のぞきこんでくる竜の瞳に耐えきれずに、優羽は身体を後ろへ引いた。
竜に捕まれた手首が痛い。
思わずひらいた優羽の手の中から、濡れた布が音をたてて二人の間に落ちた。
「逃がさんいうてるやろ」
「でも…ッ…出来な……」
「えーから、やれ」
「……~ッ……」
時おり突きつけられる現実に、身体が硬直してしまう。脅迫ともとれる言動に、脳が正常に働くことを拒否しようとする。エサだという意識が、舞い戻ってくる。
「晶の前で出来て、俺の前で出来んわけないやろ」
「…っ…」
「それともなんや。優羽は晶に、お仕置きでもされたいんか?」
恐怖や洗脳にも近い動作が、優羽の身体を小刻みに震えさせていた。竜につかまれたままの手首から熱を発するように、優羽の身体は羞恥に染まっていく。
「やッ……」
優羽は、竜の問いかけに小さく首をふってから、足を徐々に広げはじめた。顔を大きくそらせて唇をかみ、ギュッと目をつぶって足を開脚する。
それから、掴まれていない方の手を使って、自分で花弁を押し広げた。
「なんや。全然、キレイになってへんやん」
恥ずかしすぎて泣けてくる。
竜の視線が突き刺さるそこに力が入って、涼が注いだ白濁と絶頂の蜜の混ざった液体が、床に伝っていくのがわかる。
「ようわからへんのやったら俺が広げたろか?」
「……っ、い、ぃ」
「遠慮せんでもええのに」
優羽の指先からのぞく花弁の奥に、竜がクスリと笑う。恥ずかしさに身体を震わせながら、首を横にふった優羽は、唇を尖らせて、あり得ない現実を呪っていた。
「んな顔しても、アカンもんはアカンの」
何のなぐさめにもならない竜に解放された手首が、股の間に導かれる。
「はよ、キレイにせな。自分の指、突っ込むんやろ?」
「ッ!?」
「俺、やりかたわからへんもん」
優羽は、白々しいまでに言ってのけた竜をにらみつける。それが逆効果なことに気づきもせずに、優羽は強気に竜をジッと見上げていた。
涙をためた瞳をうるませ、真っ赤な顔を羞恥にゆがめて唇を噛む姿に、竜の笑みはますます深くなる。
「別にええんやで。なんやったら輝でも呼んで、一緒にやり方を考え」
「やりますッ」
「ほな、はよして」
優羽は、悠然と見つめてくる竜の視線に耐えながら、自分の割れ目に片手をそえた。
指が震えてる。
異性の前で初めて触る自分の秘部に、興味と恐怖がごちゃ混ぜになっていた。
「…~ッ……」
変な感触がする。
妙にヌルヌルとした液体が指に絡みつき、割れ目をなぞる自分の指先が、脳内でその部分を映像化していた。
固く尖った淫核の下のほう、ドクドクと脈打ちながら呼吸する穴がある。いつもかきまわされ、突き上げられ、虐(シイタ)げられている可哀想な乙女の入り口。先ほど注ぎ込まれたと思われる涼の液体が、優羽の愛液と混ざってこぼれていた。
「…………」
指をいれるのが怖い。
泣いてしまいそうな現実に耐えるために、優羽は唇を強く噛み締めていた。竜の顔を見るよりも自分の身体の方に視線が落ちる。
ぬるぬると指先が入口付近を往復するだけで、内部に挿入するにはほど遠い。それでも、いつかは入れなければならない。終わりを望むのであればなおさら、自分の指が見えなくなるほど深く、差し込まなければならない。
それも自分の感覚だけを頼りに、繰り返し掻き出す作業を続けなければならない。
想像するだけで泣けてくると、優羽はあわれなほど小刻みに震え、細い指先をいつ埋め込もうかと思案していた。
「晶は、そんなんちゃうやろ?」
「そっ……ん」
微動だにしない竜の視線にせかされて、優羽は自分の蜜壺にひとさし指を侵入させた。
「ふぁ……っ…」
思わずもれた自分の声を慌てて飲み込む。
生暖かくて、指に絡み付いてくるような肉の壁は、気持ち悪くて圧倒的な存在感を持っていた。
「み…な…っで……」
今なら恥ずかしさで死ねる。
優羽は、自分の膣に自分の指を埋め込みながら、竜に懇願の息を吹きかける。おそるおそる、ゆっくりと、安全を優先して往復させる指に合わせて、とろみをおびた卑猥な液体が、床に染みわたっていく。
再び顔をそむけた優羽の足の間では、確実な快楽が芽吹いていた。
「足ちゃんと広げな、見えへん」
「…はぁ…っ…ん…」
「自分でできる言うたんやんから、自分でせなアカンで」
目の前で座っているだけの竜の瞳に、恥辱に染まる優羽の恥体が映っていた。自分でヒザを立てて、足を大きく開脚させ、たった一本の、それも自分の指で優羽は自分の内部を単調に攻めていく。
気持ちいい場所を知っているだけに、勝手な意識が、その場所に指を誘導していた。
「顔もちゃんとこっち向け」
グッと掴みあげられたアゴの先で、妖艶に微笑む竜が見える。
「なんや、感じてんの?」
「…チが…ッ……」
「指、さっきより早なってんで?」
「ッ!?」
視線をそらすことも、否定をつむぐことも出来ずに、優羽はゴクリとのどをならした。
指がとまらない。
ギュッと中が締まった気がして、優羽は驚いて手を引きそうになった。が、それをすかさず竜に押し止められる。
「ヤァッ」
「途中でやめたらアカンやん」
「ひッ、ヤッ、やだっ」
手首が固定される代わりに、腰が前後に動いて、物足りなさと恥辱を煽ってくる。止めれば済む話だとわかっていながら、止められない程度には、快楽の先を知っている。
その証拠に、ギュウギュウと、まるで別の生き物のように中がうごめいていた。自分の指先に胎動を感じるのは初めてだが、どこを押せば反応するのか、連動した神経が教えてくれる。
「ぃ…っ、く…ヤッいきたく、な」
浅い絶頂がそこにある。
ゆるゆると迫ってくる微弱な快楽が、浜辺を襲う波くらいの強さでやってくる。
「イク…っぅ……~~~ッぁ」
竜の瞳から逃れることも出来ずに、見守られる世界で、優羽は静かな絶頂に腰を震わせていた。
ひくひくと指先を締め付ける膣は、キレイになるどころか、余計に汚れたと言えるかもしれない。それなのに、竜は嬉しそうに口角をあげて、優羽の額に唇を押し当て、「よーできました」と囁いた。
「どうや、俺らがいつも味わってるもんは。うまいやろ?」
彼らがいつも味わっている自分の内部は、こうやって動くのだと、イヤでも経験が覚えていく。
自分の指が自分の膣に食べられているような感触。いったい、味わっているのはどちらかと疑問すら浮かぶ。それに、美味しいと判断できる材料は見つけられそうにない。自分で確かめてわかったことは少なく、素直にうなずける要素は見つけられない。
つまり、カミ様は、よくわからない味覚を持っているらしい。
「アッ…ャッ…はぁ…はぁ……ん」
ほんの少し指を動かすだけで、膣が喜んで指に吸い付いてくる。恥ずかしさ以上に、怖さに指を抜きたくなるのに、竜のせいでそれもできない。
「聞いてるか?」
竜に取り押さえられた手首を自身の股の間から引き離すことも出来ずに、優羽は自分の指をきつく締め上げる。
また、指先に触れた膣壁が、柔らかく湿った弾力を押し返してきた。
「なっ。俺らが言うてる意味が少しはわかったやろ?」
「…あっ…ッ…」
「どないや?」
足りない。
指一本なんかじゃ、全然足りない。
更なる快楽を求めるかのように、伸縮を繰り返す下腹部が男が欲しいと強く叫んでいる。
「ほら、見してみ。きれいになったか、確かめたるわ」
「ふぇッ!?」
突然、つかまれていた手首を強制的に引き抜かれると同時に、まだひくついてやまない下肢に、竜が顔をうずめてきた。
「ヤァッ…ッ…アッだ…め」
肉厚な舌が、強引に割れ目をさぐる。太ももの下から回ってきた手で腰をつかまれ、ジュルジュルと音を荒げて吸いとられる感触に、優羽の身体がビクリと震えた。
「待っ…アッ…そこダ…くっアッ…イッ」
敏感に固くなった秘芽が、ざらついた竜の舌先に弾かれる。
指とはまったく異なる感覚。往復する舌の動きに合わせて、神経が絶頂の準備をはじめる感覚。断続的に与えられる刺激に、腰が揺れる。
「ヒッ…ぁ…ん……」
竜の顔を退けるため、優羽は何度も奮闘し、現状打破を試みた。
抱え込んで食べてくる竜の頭が、そう簡単に退くわけもなく、状況好転の兆しも見えない。
「くっ、ィッ…ぐ……ぁ…ぃくッぅ」
大体、うまくいくわけがなかった。
ざらついた舌をねじ込まれ、尖る牙に歯をたてられて、むき出しの神経はしごかれる。
敏感に反応する神経が恨めしい。何度も痛快な刺激が駆け抜けていくせいで、優羽は丸まりながら竜を抱え込むしかなかった。
「ぁっあ、アッ…ぃったも、イッたからぁ…っ…やっ、いクッ…ぅ」
奥から蜜が溢れ、竜の舌に舐めとられていくのがわかる。次々と枯れることなく、熟した果実が与える甘味を提供している。
「全然、キレイにならへんな」
「ヒッ…や…ッ…それ以上し…ヤァッ」
「口動かす暇があるんやったら、一回でも多くイキ」
掻き出す舌に、吸い上げられる蕾に、優羽の瞳に涙がたまる。
「変、な……熱ぃ…ィッぁ」
身体の芯が熱く沸騰していく。
絶頂の余韻に浸ることなく、強制的に掘り起こされていく。本来、休まるはずの快楽神経が誤作動を起こして、チカチカと星が瞬いている。
「ぅ、アアァッ……やめッ、竜…ァ」
「やめへんよ」
「アァッ…ぅ…イキたくな」
言動と行動が狂っていく。口では嫌だと言いながら、竜の頭を両手で秘部に押し付け、優羽は腰を前後に動かしていた。
「ヤダ…ィッ…やだぁ…ッ……ィ、ク」
「自分の立場、忘れたわけとちゃうんやろ?」
「あぁっアッ…ヒッ、ぅ…あ゛」
逃げないように、腰はさらに強く抱え込まれる。足の間に埋まる竜の髪に指を絡ませながら、優羽は与えられる快楽を否定するかのように首をふった。
「…ッ…く…そこ…め…ヤァッ…ヒッ」
イキタクナイ。それが伝わらない。
彼らにこれ以上、溺れたくないのに、このままでは本当に、取り返しがつかなくなる。
エサであることが嬉しい。それを認めて、どこまでも求めてしまいそうで、罰当たりな嫉妬や独占欲を覚えてしまいそうで、怖くてたまならない。
『来年の姫巫女』
その存在が来る頃には、自分は彼らの腹の中だろう。
それが、たまらなく悲しい。
あのとき、爪や牙に裂かれて、ただの器と化してしまえば、こんな感情も知らずに済んだ。知らないまま終わっていた。みじめな暮らしをするくらいなら、生き残った意味を知りたくない。
「竜…ッ…ぅあ゛……っ」
エサであることがツラくて、ツラくて、たまらなかった。
欲しくなる。勘違いの感情が、軋(キシ)みをたてて、彼らを求め始めていた。
「い…や…ッ…」
戒の言葉がよみがえる。
『優羽に、このままここにいられては困ります』
反芻すれば、勘違いしかけた心も現実を思い知るだろう。
『追い出すわけにもいかない以上、消すほうが早いと判断したまでです』
カミの正体を知ってしまえば、人間はもとの世界には帰れない。美しい白銀の狼。古来より永年を生きてきたイヌガミ様は、優しくて寂しい生き物だと、知られてはいけないのだろう。
『確実に、面倒なことになるんですよ』
冷たく吐き捨てられた言葉を絶頂と一緒にのみ込んで、優羽は心を閉ざしていく。
快楽だけが、唯一、彼らとの繋がりを約束してくれるものであり、裏切らない行為であることだけを考える。
「アッ…ッ…アァッ…」
竜が顔を埋めているのをいいことに、優羽はその頭を抱えて、涙をこぼしていた。
言葉にできないその一言は、果たして、正常に自覚した感情なのか。
なんのために、気づかないフリをしてきたのか。女として甘える行為を受け入れられると、どうしようもなくワガママになりたくなる。
このままでは竜のせいで、枷が取り払われてしまう。せっかく受け入れたばかりの決意がにぶっていく。
「…………ッ、ぁ」
求めても、答えてなどもらえないのに、彼らを好きになってしまった。
この感情は誤魔化せない。
与えられる快楽に、悦んでいる自分がいる。彼らの愛撫に浸り、与えられる刺激に溺れ、ビクビクと激しく痙攣を起こしながら、優羽の全身は、下半身を中心に竜を深くかかえこんでいた。
「ひ、アァッ……そ、ぁ」
秘部に埋まった竜の顔が、優羽がかき出しきれなかった最後の一滴まで吸い上げようと、強引に舌を暴れさせる。
「…ァァッ…ん、ァッ…あッ」
抵抗など無意味なほど、単純に気持ちよかった。
やめないでほしい。ヤメナイで、もっと、モット、コワシテホシイ。
「~~~~ッく、りゅッ…アァッ…」
いっこうにやまない刺激が、優羽の上半身を自然にのけぞらせる。
微動だにしない竜の頭を股に挟み込み、頭の中が真っ白に洗い流されるまま、優羽は床に背をあずけた。
「優羽」
「りゅ………っぅ、ん」
ようやく顔をあげて、肌のうえを滑ってきた竜に口付けられる。額もまぶたも、頬も、首筋も、竜の唇が触れてくる。
「………優しく、しないで」
「なんで?」
理由を言わずに、願いが叶うことはない。優羽の泣き言を無視して、耳たぶを噛んだ竜は、ただ一言囁いた。
「好きやで、優羽」
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