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第十夜 対極の愛情(下)

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そんな目で見ないで。
そう言いたいのに、涼の激しいまでに淫らな行為が、優羽にそれを言わせないでいる。


「ヤァッ!?」


しばらく両者の間で、なすがままに揺られていた優羽が変化を見せ始めた。それは誰の目にも明らかなほどに、絶頂の兆し。与えられる断続的な快楽に、時折顔が強くしかめられ、深く息を吐き出しながら唇をかむ。身体を支える手と足が、小刻みに震えはじめ、自らもどかしそうに腰を振っていた。


「ヤッ…くっ…涼ぉダ…め…いっちゃ…アァッッ…戒…~っ…あっ…あっ…待ッ」

「優羽は、俺のだ」

「ヤァァッァァァァ」


弓なりにしなった優羽の身体が、甘い鳴き声を発散させていく。
誰に向けて宣告したのかわからない涼の言葉も、歓喜に泣く優羽の悲鳴に掻き消された。


「アッ…はぁ…はぁ…ッ…」


乱れた髪をかきあげながら、涼が埋まった身体をたてなおす。深く繋がっているせいで、過敏になった優羽の身体も連動した。


「誰のものでもありませんよ」

「ッ!?」


あまりに近かったために、大きく目を見開いた優羽は息をのむ。唇に触れるその場所、顔をあげた先に、戒のモノが見えた。


「…あッ……」


瞬時に真っ赤に顔を染めながら、慌てて視線をそらした優羽は、直後に強く戒に引き寄せられる。


「やめてください!!」

「……ふぇ?」


戒の怒声なんて、初めて聞いた。いや、そもそもいつも不機嫌そうに顔をしかめていたから、いつも怒っているのだとばかり思っていた。
とんでもない。戒は、全身で感情表現する人物であるらしい。それは、予想すらしていなかった。
戒のオスを咥えようと口を開けて、エサとしての役割を果たそうとしていた自分の行動が恥ずかしくなる。なぜ、戒の胸の鼓動を耳で直接聞いているのか。それは、優羽が一番理解できない。
優羽は頭ごと抱えるように強く抱きしめてくる戒の行動に戸惑い、上半身を戒の腕にさらわれながら、ポカンと口をあけていた。


「どうして涼は、いつもいつもそうやって、無理矢理自分のモノにしたがるんですか?」

「……か、ぃ……~っ、キャッ」

「無理矢理も何もない。優羽を見つけたのは俺だ。好きに食って何が悪い」


戒の中に移動しつつあった身体が、下半身を強く持っていく涼に連れられ、卑猥な音を響かせる。臀部と恥骨がぶつかる肌の音は、戒の耳にも届いていたことだろう。はくはくと言葉にならない快感を飲み込んで、優羽は戒の腕にすがりつく。


「ああ、可哀想に。大丈夫ですか?」


離れるどころか、深く埋めこんで離れない涼のせいで、嫌でも下半身に鈍痛が走る。それをまた、戒が自分の胸に引き寄せるを繰り返して、自然と前後に体がゆれる。


「大丈夫に決まってる。優羽はうまい」

「涼に聞いていません。それ以上、やめてください。どうするんですか、あなたがそうして乱暴に、ああ、ほら」

「優羽はここ好きだからな」

「蜜が零れすぎです。勿体ないことをしないでください」


たまったもんじゃなかった。
上半身と下半身が、別々に引き裂かれたような愛撫を受け続けていると、人間の肌は混乱して蜜を吹き出してしまうらしい。


「ぁぁッく、ぁ……りょ、抜い…ぁ」

「そうです、涼。抜いてください」

「ヤッ、ぁ…かぃ…みな…で」

「戒は見るなとさ」


戒の匂いを吸い込みながら、重なり合った下半身は、涼の足を濡らしていく。涼のオスに果肉を貪られて、吹き出した蜜は、うねる腰に鳴く優羽の声を震わせる。


「相手にも感情はあるんです。ちゃんとお互いに認め合わなければ、意味をなさないでしょう?」

「知るか」

「そんなだから、涼に、いえ、他の誰にも優羽を渡したくないんですよ」

「渡したくないから殺すのか。とんだ独占欲だな」


耳を疑ったのも無理はない。戒は、勢いにまかせて口にしたのだろうが、たしかに今、戒がはっきりと「情」を認めた。聞き間違いじゃないだろうかと、戒を見上げた優羽は、また涼に引き寄せられる。


「俺は、俺のやりたいようにやる」

「ッ!?」


やはり、当事者である優羽に発言権はないらしい。わざととしか思えない挿入行為が、口論をはじめた二人の男によって強制的に与えられ始めた。


「わからない方ですね。そんなだから、損な役割をさせられるんですよ」

「あッ…ちょ…ヤッぁ」

「優羽が手に入るならなんだっていい。欲しいから手に入れる。力づくで、奪ってでも、だ」

「ィッ…く、アぁッ…はぁ…ッ…ん」


この状況で「きもちがいい」と感じる自分を恥じないでいられる方法があるなら教えてほしい。腰が浮いて、はしたなく突き出した臀部を割られ、涼に叩きつけられて、悶え喘ぐ様を戒の腕にすがりついて吐き出していく。
膣を収縮させ、大きく引きつけを起こす身体を、二人も知っているくせに、ひとり快楽に溺れる優羽を放置したまま会話は進んでいく。


「そうやって、どれだけ迷惑かけているのか、わかってるんですか。優羽は死にかけたんですよ」

「殺そうとしたヤツがよく言う」

「後先考えずに連れてきた人に言われたくありません」

「戒に優羽を頼んだ覚えはない」

「頼まれなくても、動くと判断したのでしょう。素質を見抜けないほど、落ちぶれてはいません。優羽は、監視下に置かなければ危険です」

「だから、始末しようとしたのか?」


そこまでいっきに言い争って、ふたりは突然ピタリと止まった。お互いに、一歩も引かないと言わんばかりに牽制しているその隙間を、優羽の荒い吐息が流れていく。


「はぁ…はぁ…ッ…アッ…」


戒に引き上げられては、涼に押し戻される。激しく言い争いながら優羽を奪い合う涼と戒のせいで、拷問にも近い労働を義務付けられた優羽は、息も絶え絶えになっていた。
ふたりを止めなきゃと思う反面、こんな状態でも絶頂を味わう身体に、落ち込む自分がいる。


「…んッ…はぁ…はぁ……」


決定的な何かが足りない。快楽に没頭できない現状がそうさせるのか。
でも、言えない。「いつも通り犯してください」などと、言いたくない。
なんとも表現しがたい心情を全身であらわしながら、優羽は恨めしそうな視線をあげた。


「そうです」


戒が涼を睨みつけたまま、はっきりと肯定する。


「優羽に、このままここにいられては困ります。追い出すわけにもいかない以上、消すほうが早いと判断したまでです。確実に、面倒なことになるんですよ。大体、現状を考えれば、正しい答えなど明白でしょう。決断は早い方がいいと」


そこから先の戒の声は、よく聞こえなかった。すぐそこから戒の声が聞こえているはずなのに、言葉の内容が理解できない。いや、理解しようとしない。
優羽は、思ったよりも、精神的に傷つく感覚に戸惑っていた。
エサとしての立場は、誰に言われるまでもなく、わかっているつもりだった。
傷つくなど、あってはならない。彼らに何かを求めてはいけないと、事あるごとに言い聞かせてきたのだから、傷つくはずはない。それでも現実的に、それが無意味だと気付かされる。
ここにも居場所はない。それがたまらなく苦しい。
エサとして、それ以上でもそれ以下でもない。
食料としての価値しかないのだと、あらためて直面した現実に、頭の中が真っ白になっていた。


「……ぅ…~っ」


泣くつもりなんてなかったのに、勝手に視界がゆがんでいく。ポタポタとこぼれ落ちる涙を止めようとしているのに、全然落ちついてくれない。
それどころか、悲しみがこみ上げてきて、どうしようもなく寂しかった。


「優羽?」


嗚咽混じりに優羽が身体を震えさせていることに気付いた涼が、心配そうに名前を呼んでくる。埋まったままの梁型も心なしか、元気を失くしたように思えた。


「どうした、優羽。何を泣いてる」

「も、やだ……涼、やだぁ」

「ほら、そうやっていつも涼は泣かすんですよ」


あきれた戒の息が涼に向くが、優羽はますます泣き声を荒げるだけだった。
一度決壊した涙腺が、心までも幼く暴くのか、優羽は涼と戒の腕から逃げようと奮闘し始める。


「優羽、落ち着いて下さい」


気遣うように戒が頭を撫でて、抱きしめてくれるが、優羽は何も答えない。正確には、何も答えられなかった。
優しく接してくれる。
欲しい時に欲しい言葉をくれる。
少なからず、好意を持ってくれているのだと、「また」期待してしまいそうになる。甘い言葉に溺れて、温かな腕にすがりつきたくなる。そうして、愛を、居場所を求めて、離れられなくなる。


「イヤァ!?」


忘れかけていた恐怖がよみがえってくる。
全てを振り払うかのように暴れ始めた優羽の身体は、その瞬間、涼と戒に同時に抱きしめられた。


「優羽、もう何もしませんから、安心してください」


何もしない。小さく繰り返した優羽の動きがピタリと止む。
はぁ、と。涼と戒が同時に安堵の息を吐いたが、不可解な表情は消えていない。


「優羽、どうした?」


時が止まった静けさの中で、涼が、変化をみせた優羽に気付いて声をかけた。
逃げることをやめ、大人しく息だけを繰り返し、抜け落ちた殻に似た雰囲気がそこにある。


「……や、だ……ごめんな、さ」


ここにいたい。その理由は、罰当たりで、おぞましい。
だからこそ、この感情は認めたくない。それでも、気づいてしまった行き場のない苦しみが、優羽を襲う。そして残念なことに、この苦しみを緩和させる方法は、たったひとつしか知らなかった。


「優羽?」


戒と涼の驚いた声が、同時に優羽の頭上で響く。
困ったように、ふたりが顔を見合わせている様子が浮かんだが、優羽はお構いなしに戒の股に顔を埋め、手と口を動かし始めた。


「んっ……む……ぅ……ン」


苦しみから逃れる方法。それは、快楽に身をゆだねること。
抱いてくれている時は、嘘でも自分の居場所を感じられる。束の間の感覚でも、愛を与えられている気持ちになれる。悲しく、虚しいほど、今の優羽にとっては一番欲しいものだった。大切なモノのように、甘く、優しく接してくれる彼らの心は、身体を交えている時以外は信じられない。


「……っ…お願いします。美味しくなるから……私を捨てないで……」


切望にも似た優羽の訴えは、涼と戒の胸に強く影響を与えたらしい。その願いが届いたのか、彼らは優羽の行為を拒絶することなく、受け入れていた。
上の口で戒のモノをくわえたまま、下の口で涼のモノを埋め続ける。数日前には考えもしなかった現象。
それを自分から進んで作り出していることに、優羽は内心驚いていた。けれど、不思議なことに迷いはない。


「はぁ…っん…む……」


芽生えた感情を誤魔化すために。
一日でも長く気付かないフリをし続けるために。
涼や戒だけじゃなく、イヌガミ達のエサとして一日でも長く食べてもらうために。
優羽は必死に全身を動かす。


「はぁ…っ…はぁ……っ、ぅ……ァ」


頭の中は、エサとして生きることでいっぱいだった。
どうすれば、ずっと飽きずに、傍に置いていてもらえるのか見当もつかない。
唯一つなぎとめられるのが身体だけとは、なんともむなしい関係だと、また涙がこみ上げそうになるが、それでもよかった。
ひとりになるくらいなら。相手が死神だってかまわない。


「優羽、一生懸命で可愛いですよ。誰に仕込まれたんですか?」

「俺じゃない」

「では、輝か、父さんですね。こんなことを教えるのは、あなたがたしかいませんから」

「竜は?」

「今回は、まず無いと思いますよ」


優羽の頭を撫でながら、戒は直線上にいる涼に首をふる。無心で戒に奉仕をする優羽を食べている涼は、珍しいこともあるものだと、無言で戒に説明を求めた。


「優羽の首に印をつけたくらいですから、相当気に入ってるんでしょう」

「……はっ?」

「もしかして、気づいていなかったんですか。ほら、ここに。と言っても、もう消えてしまってますし、これでは、竜の宣戦布告も台無しですね」


何がおかしいのかと、クスクスと笑う戒を優羽は見上げる。抜け殻に似た黒い瞳に銀色の瞳を落としながら、戒はまた優羽の頭を撫でた。


「その顔を見ていると、なんだかいたたまれませんね。あの可憐な涙を浮かべた瞳は美しかったですが、この瞳が零す涙は、どんな味がするのでしょう」

「どっちもうまいに決まってる」

「わかってませんね。その些細な違いを味わいたいんじゃないですか」


戒が覗き込む優羽の瞳は、暗く、色を失っている。
鏡のように映るそこで、戒は赤い舌で唇を舐めて、興奮を隠しもせずに微笑んでいた。


「ほら、優羽が不服そうですよ」

「むぁッ!?」


戒に挑発された涼が小さく舌打ちする。その瞬間に大きく揺れた全身に、思わず優羽は戒のモノから口をはなした。
しかし、それは許されずに、すぐさま戒に後頭部を押さえつけられる。


「優羽も休まないで下さい」

「…ッ…あ…む…ゥ…」


すべてが苦しかった。
涼が激しく突き上げてくるせいで、イヤでもノドの奥まで戒のものが入ってくる。
快楽の吐息さえ、こぼすことができなかった。噛み締めることのできない歯が、身体を硬直させることをこばみ、与えられる快感が甘いしびれを染み渡らせてくる。


「優羽は俺のだ」

「…っ…ん…ンンッ」

「それは本人に直接言ってください」

「戒にも渡さない」

「ふぁ…ン…ッんん、あ゛、ッぉ、ぉ」

「別にいいですよ。譲っていただく気は、毛頭ありませんから」

「上等だな」

「手加減は無用です」


白銀の閃光が互いの宣戦布告を掲げた瞬間、優羽は、声にならない悲鳴をあげて絶頂を飲み込んだ。同時に身体の中に注ぎ込まれてくる感覚に、全身が震えていく。
キモチイイ。
食道、子宮。逆流することなく満ちていく白濁の液体が、痙攣する体に染みわたっていく。欲情に支配される感覚が、なんとも言えないほど心地よかった。腰をふり、首をふり、くねくねと蛇のように逃げ惑う優羽を二人の男は離してくれない。
優羽が誰のものか。本人の意思をまるで無視して、彼らは自分の証を奥底まで刻みこんでいた。


「っん…ひぁッ…ッ」


涼と戒が手を放せば、支えを無くした優羽の身体は、その場に崩れ落ちる。
軽く咳き込みながら、うつ伏せで倒れ込む優羽に、どちらともなく腕がのばされた。


「はい、そこまで」


二人が優羽をつかむよりも早くに、一匹の狼が優羽をかっさらう。


「病み上がりに何をするかと思えば、また喧嘩。いい加減にしてくれるかな。これじゃあ、なんのために優羽を見舞いにこさせたかわからない。だいたい、頭に血が上った状態で優羽を食べるなんて、順番が違うんじゃないかと俺は思うけどね」

「晶、優羽を返せ」

「晶、優羽を渡してください」

「どの口がそれを言うのかな。せっかく警戒心が薄まっていたのに、また振り出しに戻した責任は大きいよ。栄養がとれたんだから、涼と戒は大人しく寝ておくこと。明日までには、回復させておくように。謝罪の言葉を口に出来るようになるまで、優羽には触れさせないから、そのつもりで」


涼と戒が、驚き固まったのを良いことに、フンッと鼻をならした晶は、怒った様子を隠しもせずに優羽を連れ去っていく。それを茫然と見送りながら、涼は誰にでもなく不可解に首をかしげた。


「あれは、自覚してるのか?」


その問いに答えてくれるのは、もはや一人しか存在しない。


「まさか」


戒も虚をつかれた顔をしていた。


「晶ですよ?」

「…………厄介だな」

「だから、面倒なことになると言ったでしょう」


深く重たい、なんとも言えない息を吐き出して、二人は狼の姿に戻っていく。
その後は、喧嘩をする気も失せたらしく、二人並んで、困ったように顔を見合わせた。
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