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第七夜 月に照らされた涙(中)
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突然投げ掛けられた言葉に優羽は驚いて顔をあげる。
部屋が暗くて相手の顔がよくみえない。
「……か…い?」
「かなり弱ってますね」
音もなく真隣まで歩み寄ってきた気配に、優羽は唯一思い当たる名前を口にする。相手は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐにそれを消し去って、腕を伸ばしていた。
「……ヤッ…」
優羽は無意識に、抱き締めた体を後ろにのけぞらせた。
「触らないで!!」
実際そう叫ぶことが出来れば、どれほどマシだろう。心の叫び声など、この場では何の意味も成さない。戒に拒絶を伝えたくても、優羽の体は大きくふらつくだけだった。
「何をしているんですか?」
あきれたように抱き留めてくれた戒のおかげで、優羽は後頭部を床に打ち付けずにすんだ。意外にも、そのまま回された背中への腕が力強くてハッとする。
記憶では繊細で華奢な容姿を持っていると思っていたが、やはり戒も男なのだと抱き寄せられた胸板の匂いに息をのんだ。
「ぅ…っ…すみませ……ん」
間一髪のところで助けてくれた戒にお礼を言いたくても、ひどい頭痛と吐き気に全身が悲鳴をあげている。一人で体を保っていたときより、幾分マシだとはいえ、これ以上、戒が傍にいたところで良好な回復を望めるような気もしない。それに今は、エサとしての役割を果たせそうにない。
「……ぅっ…」
青ざめた顔でうめいた優羽に、また戒が呆れた声で呟いた。
「無理に体を起こすから、そうなるんですよ。弱っていることにも気がつかないんですか?」
「………よわ…て?」
「仕方ありませんね」
いつ、どうやって獣の姿に戻ったのか。優羽は一瞬にして、戒の牙の間に挟まっていた。
ダランと下を向いて近付いた床。
狼に戻った戒の奇行に気付いた優羽は、悲鳴をあげていた。はずだった。
「ひぁああぁ…っ…くっ」
なんと弱々しい悲鳴だと、自分でも思う。
もう、叫ぶことすら苦痛で、抵抗もできない。非力な体は、たかが数回、エサとしての仕事に従事した程度で苦悶を訴えるほど弱かったらしい。
優羽は両手で口元を抑え、酔ったような気持ち悪さと戦いながら戒に連行されていく。
どこに連れていかれるのかなんて、気にもならなかった。
どこでもいい。
この、全身を襲う気だるさから解放されるのなら。
「………な…に?」
途中、何か揺れ動く大きな影の脇を通ったが、それが何かはわからなかった。
「無視していいですよ。いつもの兄弟喧嘩ですから」
それについてフンッと鼻をならすように注意した戒の言葉にも、優羽はよくわからないと小さくうめく。
「ぃッ……あっ…ぅ…」
その正体が何か確認しようと、首を動かした優羽は、また襲ってくる苦痛に顔を歪めた。
「学習能力のない人間ですね。大人しくしていて下さい」
牙の間から戒の声が漏れ聞こえてくる。苛立ちを通り越して呆れているのだろう。面倒くさいと放っておいてくれてもいいはずなのに、それもせずに、戒はどこへ連れていくつもりだろうか。考えたところでわかることも、逃げることも出来ないと、優羽が諦めかけたそのとき、突然、無重力の空間に躍り出る。
「痛ぁ───…ッ…」
少しくらい丁寧に扱ってほしいと訴える暇もなく、優羽は戒に咥えられたまま何故か空を飛んでいた。
「……つ……き?」
月が見える。
視界の中央に飛び込んでくるほどの真ん丸の大きな月が、夜のすべてを支配していた。
周囲には暗い森と水の流れる音。いつも知っている夜ではない。目の前に広がる幻想的な光に包まれた世界は、神様だけに眺めることが許された景色のように、崇高で美しく、今まで見たどんな風景よりも綺麗だった。
「…っ…クッ」
やはり戒に容赦はない。風景に見惚れるよりも余程急いで行くところがあるのか、木の葉がこすれる中を高速で駆け抜けながら、優羽は戒に運ばれていく。
「つきましたよ」
「……えっ?」
意識が途切れる寸前、何の前触れもなく、ピタリと停止した戒の声が真上で響いた。そして暗闇で何も見えない中、優羽は突如としてポンッと放り投げられる。
何がどうしてこうなったのだろう。
真っ先に思ったのは「捨てられた」という感覚だった。
病気に感染した食材を捨てる。「代わりなどいくらでもいる」と、晶も言っていた。
こんなにも世界は残酷で、弱肉強食の礎にもならない人生の幕引きなどあんまりだと、優羽は滲む視界の端に自分の指先を見つめていた。
自分を見守る景色がゆっくりと流れていく。ゆっくり、ゆっくり、死んでいくのだと、目を閉じて死を覚悟した瞬間、優羽は弧を描きながら勢いよく水しぶきをあげていた。
「───ッ!?」
幻想的な月に見惚れていたはずだった。
森の木々が零す葉の影に、見守られていたはずだった。音は奇妙なほど静かで、風すら感じないほど、ゆっくりした世界にいるはずだった。
しかし、すぐに鈍器で殴られたような痛みが身体中を駆け巡り、ボコボコと温かな水が全身を包んでくる。
なぜか、苦しい。ただ、ただ、苦しい。
ぼこっと口から漏れた泡が昇り詰める先で、水面が満月を歪めている。
「……ぐ…っ」
このまま苦しんで死んでいくのはイヤだと、助けを求めるように手を伸ばしたところで、世界から月が消えた。
「……………………ぷは…ッ!?」
むせ返るのも無理はない。
ぜーぜーと呼吸にならない肺の音が、何度も、何度も、繰り返し口と鼻から酸素を求めて優羽を泣かせている。
「し…っ、し…っ…死ぬかと思ったぁ」
「大袈裟ですね、死ぬわけないでしょう」
「な…っ…ゲホッ…うッ」
無意識に水面に顔をあげて岸らしき場所にしがみついていた優羽は、直後に真横で大きな水しぶきの音を聞く。苦しさに咳き込みながら目を向けたそこには、優羽と一緒に温水につかる"人間"がいた。
「ッ…ごほ…ゴホッ…かっ、戒?」
何が起こったのか理解できない。いつの間に、狼から人の姿に変わったのか。
岸にへばりつく優羽とは違い、隣で優雅に腰を落ち着かせる戒の様子に違和感を覚える。
同じ空間を生きているのだろうか。
夢ではなく現実として認識するには、今見ている景色は浮世離れしすぎている。妖艶に髪をかきあげる戒があまりにも綺麗で、月を背にたずさえる崇高な姿に、優羽は無意識にノドを鳴らしていた。
「本当にキレイ…ッ…ぁ」
また口に出してから、しまったと思う。
慌てて口を両手でふさいだ優羽の仕草に、戒は視線を流してきたが、不思議と冷たさは感じなかった。好意はないが、嫌われてはいない。なぜかはわからないが、怖いという感情が湧いてこないのは、戒のもつ雰囲気のおかげだろう。
「なにか言いましたか?」
見つめていた顔を慌ててそらす。
周囲の暗闇のせいで、いくら幻想的に見えたとはいえ、見惚れていたことを悟られたくはなかった。
相手は捕食者。なぜこんな場所まで連れてきたのか、その原因がわかるまでは気を抜けない。警戒心は忘れていないと、優羽は戒の姿を振り払うように頭を振った。
「…ッ…痛ぁっ」
ひどい頭痛に襲われていたことを思い出す。だが、その行為のおかげで優羽は自分の状況を知ることが出来た。
「いちいち大袈裟に動きすぎですよ」
「そんなこと…な……ぃ……いたいぃ」
戒の嫌味を優羽は涙をためた瞳で睨み返す。
頭が痛いのも、全身がだるいのも、倦怠感と嫌悪感と激痛を混ぜたような体調不良の原因は、元はといえばあなたたちイヌガミ様のせいじゃない、とはもちろん言えない。ついては、その冷めた戒の視線に優羽はグッと押し黙る他なかった。
「………く、うぅ…」
無意識にふらついた反動で、岸にしがみついていたはずの身体が再び沈んでいく。脱力した全身が、このまま沈んでいくことを望んでいるみたいだった。
「~~~ん…っ…」
誰かに抱きしめられているような温かさが心地いい。水の中にいるはずなのに、変な感覚だと、思わず笑ってしまいそうになる。
ここは温泉みたいだ。
死の間際にしては随分呑気な夢を見ていると、どこか客観的に見つめている自分もいる。目を開ける力さえなく、優羽は呼吸が止まっていく感覚さえ味わい始めていた。
「…………はぁ」
心底、仕方がないと表現できる戒のため息が間近で聞こえる。
最後に見た神様が綺麗なのは当然なのかもしれない。死に行く哀れな少女を見送ることが、きっと戒の役割なのだろう。どこかもわからない森の奥で、温かな水に抱かれて眠れるなら、このまま底まで心地よく沈んでいけるかもしれない。
「───…ッん」
呼吸が止まった。今までゆっくりと流れていた時間が、最後の最後になって突然呼吸を止めてきたが、今度はどこか柔らかな感触と滑らかな触感が唇を覆っている。
「ンッ…んぁ…はぁ…っ…ん」
気持ちがいい。
閉じた視界では何が起こっているのか、桃源郷さえ確認することもままならないが、脱力した全身が包まれ、何か温かなものを口の中に流し込まれる感覚は新しい。
柔らかな感触。
口付けに似た優しい感触を優羽は流されるまま受け入れていた。
「んっ」
唇の隙間から零れ落ちなかった液体が、口内に溢れる前に喉を潤していく。自分の体から、ごくり、ごくりと、何かの液体を飲み込む音が聞こえてくる。
朦朧とした意識の中で、優羽は与えられる何かを飲み続けていた。何度も、何度も、戒は優羽の髪をつかんでアゴを上にむかせ、角度を変えながら何かわからない液体を飲ませてくる。
普通に気持ちよかった。
唇から何度も液体が流れ込んでくるが、優羽は黙ってそれを飲み込む。
「世話がやけるエサですね」
「ンッ…、ぁ………ふぁ、ん、ぁ……え、戒…かッ、戒……ン」
抱き締めることはしないのに、しっかりと抱え込まれた後頭部が、戒の行為を無抵抗に受け入れていた。長いマツゲに滑らかな肌、近づいてもキレイな容姿に全身がのぼせそうになる。
そのうち、全身の倦怠感が抜けるように消えていき、優羽はパチッと音が出るほど大きく瞳をあけて、その様子を視界に映し、そして悲鳴をあげた。
「キャぁああァッ!?」
まさか、戒が口を使って喉を潤してくれていたとは思わなかったと、優羽の脳内が混乱し、困惑している。
今まさに、角度を変え、再度、唇を重ねようとした戒の鼻先が触れる寸前で止まっている。
「待っな、ん……戒…やッ、んんンッ」
状況確認が追い付いていない現状では、身体を暴れさせるよりも前に、重なる戒の唇を受け入れるしかない。そして当然のように、口内に押し込まれた液体で、優羽はノドを潤した。
「五月蠅いですよ」
「や、め…っ…ん…イヤッ」
舌を濡らし、喉を流れていく液体が何かはわからない。無味無臭なのに、なめらかで、内側から癒される液体に検討もつかず、恐ろしくなった優羽は戒の行為を拒絶する。
ところが、これまでと違い、戒は拒絶を見せた優羽をいとも簡単に手放していた。おかげで、盛大な水しぶきと、優羽の悲鳴が、静寂な夜の森に響き渡る。
「……っ…ごほ、ゴホッ~~~ぅ…ぇ」
全身ずぶ濡れで、鼻から入った水分が痛い。
なんとか水面に顔を出し、混乱した視線をさ迷わせながら自分を抱き締め、一体これはどういうことかと、優羽は非難の目で戒を見つめる。
「な、なにする、ん、ですか?」
「何とは?」
「どうして口付けなん、て……っ…え、ここ、どこですか?」
覚醒した優羽は、戒を見つめたまま首を傾げる。あれほどぼんやりしていた頭は、なぜかすこぶる明解になっていた。
「ここ…っ…ここは…外……えっ、そっ外!?」
戒の答えなど待っていられない。
現実を承認し始めた脳が、照合を始めようと記憶を逆回転に巻き戻していく。
「私、生きてる。身体も痛くない、どうして急に?」
濃厚な空気の密度が火照った顔を撫でていく。身体は依然、温泉のような水の中につかっている。それに、先ほどまでの痛みが、嘘のように消えてしまった。頭痛もなく、眩暈も感じず、吐き気もない。おまけに、月が見える現実もどうやら夢ではないらしい。
「うわぁ。見てください、とても綺麗なつ…――」
「静かにしてもらえませんか?」
「――…きッ……」
冷静に応対されて、優羽は間抜けな顔を赤く染める。年甲斐もなくはしゃいでしまった。しかも、こんな場面で。森林、温泉、月。壮大な夜の幻想に一瞬でも現実を忘れた自分が恥ずかしいと、優羽はそのまま顔半分を湯面に隠す。
そこで、視線だけで改めて、戒を見つめた。
「きれい」
月を背負った戒の横顔に馬鹿にされたくなくて、今度は空気の泡でそれを呟く。
離れた位置にいると思っていたのに、まだ手を伸ばせば容易に届く距離に戒がいる。人型の姿で、一緒にお湯につかっている。カミさまも温泉につかるんだ。などと、変な感想が浮かんだ優羽は、邪念を振り払うように顔を洗った。
「あなたは一人で百面相ですね」
ほぼ真正面からかけられた声に優羽は見惚れる。端整な顔立ち、均整のとれた身体。人間離れした白銀の髪と瞳が、余計に人外の美しさを際立たせる。闇に浮き出た銀色の瞳。そこから自然と視線をさげて、優羽は慌てて視線をそらした。
「ここは森の中にある温泉です。治癒効果が高いので、瀕死だったあなたを連れてきたのですよ。そこのわき水を飲むと体力が回復します。少しはマシになったでしょう。ですが、全快というわけではありませんので、きちんと休んであなたの仕事をしてください。聞いてますか?」
「ふぁ、あっ…ッ…はっはい!!」
驚いた優羽のせいで暗闇に大きく水面がうねる。
丁寧に説明をする戒の言葉を茫然と聞き流していた優羽が、下から覗き込むように近寄ってきた戒に驚いて、身体を硬直させたのだから仕方がない。
「えらく挙動不審ですね。まさか逃げようなどと考えているのでは?」
「ま、まさか」
不審そうに煌めく銀色の瞳は、優羽の瞳が自分の瞳を見返しているのではないことに気付く。先ほどから定まりがなく、周囲を探っているように感じたが、どうやら逃げるわけではないらしい。
「では、先ほどから何を見ているのですか。何か気になることでも?」
「えっ、あっ」
何か特別なものがあるだろうかと目を細めた戒から優羽は視線を逸らす。
「あまり、近付かないでください」
「まだ恥じらいがあるのですか。これから何度も見るのです。早く慣れた方が気が楽ですよ」
「…………だって、あ」
「今度は何です?」
空に向かって声を投げた優羽の不可解な行動に、戒もそのあとを追いかける。
「何もありませんが?」
そこにはただの夜空が広がるだけ。心底馬鹿にしたような戒の視線が再び戻ってきて、優羽は体を委縮させたが、なにも騙したり、誤魔化したりしようと思ったわけではないと口をとざす。
そして、戒の言葉をないがしろにしたモノの正体を優羽は口にする。
「星が、流れたんです」
「星くらい流れることもあるでしょう。変な娘ですね」
「……うぅ、辛辣」
「なにか?」
「いっ、いえ、なんでもありません。じゃ、じゃあ、月はどうですか。大きくてキレイですよ」
頭上に輝く大きな月は満点の星空の中にあってなお、異様な存在感を放っていた。
こんなに大きな月はもちろん、燦然と輝く星空を集めて、ひとまとめにした夜は見たことがない。しかもそれを背負う戒の幻想的な姿が、何度見てもため息が出るほど美しい。
「今は夜ですから、月があるのは当たり前でしょう。繰り返し見慣れたものを綺麗だという、あなたの感性は理解できませんね」
乙女の気持ちは、いとも簡単に、戒の無関心な言葉にブチ壊される。どうやら戒とは、同じ感動を分け合うことはできないらしい。それを少し悲しく、いや、寂しく感じる自分の心境にも戸惑ったが、優羽は月を見上げていた顔を戒に戻した。
「あの…っ…ありがとうございました」
「何がですか?」
「えっ、何がって」
真顔で不思議そうな瞳を向けてくる戒に、優羽は言葉をつまらせる。聞き間違いじゃなければ、さっきたしかに「瀕死だったから連れてきた」という風な内容を話してくれたような気がした。
「お礼を言われるようなことは、何もしていません」
戒はきっぱりと、優羽の感謝を否定する。
「死なれては困るから生かしただけのこと。弱れば、回復させるのは当たり前でしょう」
「……は…ぁ……」
「まぁ。あなたが居なくなったところで、さして困りはしませんが、目の前で死なれるのは困ります。色々と面倒なことしか浮かびません。ですので、死んだり、弱ったりするのは、わたしがいないところでしてください」
水にぬれた髪をかきあげながら、この妖艶な麗人は、その顔からは想像できないほどの残酷な言葉を並べたててきた。
「死ねば次のエサを見つけるだけ」
「代わりはいくらでもいる」
「エサとしての価値を持たないつもりなら、次を早く見つけなければならない」と。
歓迎されていないことは先刻承知。こういう扱いは戒に始まったことじゃないからか、思ったよりも落ち込んでいない自分に優羽は気づく。それでも、傷ついた心は知ってしまった。
嘘でもいい。彼らから、何かしらの情が欲しい。
エサとして存在している以上、それは叶うことのない願いだとわかっている。エサはエサのまま、ただ食べられるだけの存在。空腹を緩和させるだけの一過性の存在。通り過ぎていくだけの存在。文字通り死ぬまで、彼らとの関係は変わらない。
「はい、気をつけます」
自分でもわかるほど気落ちした声で、優羽は戒に頭を下げた。
一緒に温泉につかっていながら冷酷に見下ろしてくる戒の視線を感じる。今後、いくら交わりを持とうとも、彼らは食事として優羽の身体を堪能するだけ。銀色に煌く鋭利な瞳が熱をもって微笑むことを期待する方がどうかしている。
もともと住む世界が違うのだ。カミと人が交わることはあり得ない。
「そうしてください。たった一日でこうでは、先が思いやられますが、あなたが」
「一日!?」
「…………そうです」
心象をどこへ追いやったのか。驚きのあまり、戒の言葉を途中でさえぎってしまった優羽は、瞬時に口を両手でふさいだ。心臓の音が尋常じゃなく早かったが、責めないでいてくれた戒の様子にホッと肩の力がぬける。
もっと詳しく聞きたいと、知らずに顔が物語っていたのだろう。
戒は面倒そうに再度髪をかきあげてから、現状を説明してくれた。
部屋が暗くて相手の顔がよくみえない。
「……か…い?」
「かなり弱ってますね」
音もなく真隣まで歩み寄ってきた気配に、優羽は唯一思い当たる名前を口にする。相手は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐにそれを消し去って、腕を伸ばしていた。
「……ヤッ…」
優羽は無意識に、抱き締めた体を後ろにのけぞらせた。
「触らないで!!」
実際そう叫ぶことが出来れば、どれほどマシだろう。心の叫び声など、この場では何の意味も成さない。戒に拒絶を伝えたくても、優羽の体は大きくふらつくだけだった。
「何をしているんですか?」
あきれたように抱き留めてくれた戒のおかげで、優羽は後頭部を床に打ち付けずにすんだ。意外にも、そのまま回された背中への腕が力強くてハッとする。
記憶では繊細で華奢な容姿を持っていると思っていたが、やはり戒も男なのだと抱き寄せられた胸板の匂いに息をのんだ。
「ぅ…っ…すみませ……ん」
間一髪のところで助けてくれた戒にお礼を言いたくても、ひどい頭痛と吐き気に全身が悲鳴をあげている。一人で体を保っていたときより、幾分マシだとはいえ、これ以上、戒が傍にいたところで良好な回復を望めるような気もしない。それに今は、エサとしての役割を果たせそうにない。
「……ぅっ…」
青ざめた顔でうめいた優羽に、また戒が呆れた声で呟いた。
「無理に体を起こすから、そうなるんですよ。弱っていることにも気がつかないんですか?」
「………よわ…て?」
「仕方ありませんね」
いつ、どうやって獣の姿に戻ったのか。優羽は一瞬にして、戒の牙の間に挟まっていた。
ダランと下を向いて近付いた床。
狼に戻った戒の奇行に気付いた優羽は、悲鳴をあげていた。はずだった。
「ひぁああぁ…っ…くっ」
なんと弱々しい悲鳴だと、自分でも思う。
もう、叫ぶことすら苦痛で、抵抗もできない。非力な体は、たかが数回、エサとしての仕事に従事した程度で苦悶を訴えるほど弱かったらしい。
優羽は両手で口元を抑え、酔ったような気持ち悪さと戦いながら戒に連行されていく。
どこに連れていかれるのかなんて、気にもならなかった。
どこでもいい。
この、全身を襲う気だるさから解放されるのなら。
「………な…に?」
途中、何か揺れ動く大きな影の脇を通ったが、それが何かはわからなかった。
「無視していいですよ。いつもの兄弟喧嘩ですから」
それについてフンッと鼻をならすように注意した戒の言葉にも、優羽はよくわからないと小さくうめく。
「ぃッ……あっ…ぅ…」
その正体が何か確認しようと、首を動かした優羽は、また襲ってくる苦痛に顔を歪めた。
「学習能力のない人間ですね。大人しくしていて下さい」
牙の間から戒の声が漏れ聞こえてくる。苛立ちを通り越して呆れているのだろう。面倒くさいと放っておいてくれてもいいはずなのに、それもせずに、戒はどこへ連れていくつもりだろうか。考えたところでわかることも、逃げることも出来ないと、優羽が諦めかけたそのとき、突然、無重力の空間に躍り出る。
「痛ぁ───…ッ…」
少しくらい丁寧に扱ってほしいと訴える暇もなく、優羽は戒に咥えられたまま何故か空を飛んでいた。
「……つ……き?」
月が見える。
視界の中央に飛び込んでくるほどの真ん丸の大きな月が、夜のすべてを支配していた。
周囲には暗い森と水の流れる音。いつも知っている夜ではない。目の前に広がる幻想的な光に包まれた世界は、神様だけに眺めることが許された景色のように、崇高で美しく、今まで見たどんな風景よりも綺麗だった。
「…っ…クッ」
やはり戒に容赦はない。風景に見惚れるよりも余程急いで行くところがあるのか、木の葉がこすれる中を高速で駆け抜けながら、優羽は戒に運ばれていく。
「つきましたよ」
「……えっ?」
意識が途切れる寸前、何の前触れもなく、ピタリと停止した戒の声が真上で響いた。そして暗闇で何も見えない中、優羽は突如としてポンッと放り投げられる。
何がどうしてこうなったのだろう。
真っ先に思ったのは「捨てられた」という感覚だった。
病気に感染した食材を捨てる。「代わりなどいくらでもいる」と、晶も言っていた。
こんなにも世界は残酷で、弱肉強食の礎にもならない人生の幕引きなどあんまりだと、優羽は滲む視界の端に自分の指先を見つめていた。
自分を見守る景色がゆっくりと流れていく。ゆっくり、ゆっくり、死んでいくのだと、目を閉じて死を覚悟した瞬間、優羽は弧を描きながら勢いよく水しぶきをあげていた。
「───ッ!?」
幻想的な月に見惚れていたはずだった。
森の木々が零す葉の影に、見守られていたはずだった。音は奇妙なほど静かで、風すら感じないほど、ゆっくりした世界にいるはずだった。
しかし、すぐに鈍器で殴られたような痛みが身体中を駆け巡り、ボコボコと温かな水が全身を包んでくる。
なぜか、苦しい。ただ、ただ、苦しい。
ぼこっと口から漏れた泡が昇り詰める先で、水面が満月を歪めている。
「……ぐ…っ」
このまま苦しんで死んでいくのはイヤだと、助けを求めるように手を伸ばしたところで、世界から月が消えた。
「……………………ぷは…ッ!?」
むせ返るのも無理はない。
ぜーぜーと呼吸にならない肺の音が、何度も、何度も、繰り返し口と鼻から酸素を求めて優羽を泣かせている。
「し…っ、し…っ…死ぬかと思ったぁ」
「大袈裟ですね、死ぬわけないでしょう」
「な…っ…ゲホッ…うッ」
無意識に水面に顔をあげて岸らしき場所にしがみついていた優羽は、直後に真横で大きな水しぶきの音を聞く。苦しさに咳き込みながら目を向けたそこには、優羽と一緒に温水につかる"人間"がいた。
「ッ…ごほ…ゴホッ…かっ、戒?」
何が起こったのか理解できない。いつの間に、狼から人の姿に変わったのか。
岸にへばりつく優羽とは違い、隣で優雅に腰を落ち着かせる戒の様子に違和感を覚える。
同じ空間を生きているのだろうか。
夢ではなく現実として認識するには、今見ている景色は浮世離れしすぎている。妖艶に髪をかきあげる戒があまりにも綺麗で、月を背にたずさえる崇高な姿に、優羽は無意識にノドを鳴らしていた。
「本当にキレイ…ッ…ぁ」
また口に出してから、しまったと思う。
慌てて口を両手でふさいだ優羽の仕草に、戒は視線を流してきたが、不思議と冷たさは感じなかった。好意はないが、嫌われてはいない。なぜかはわからないが、怖いという感情が湧いてこないのは、戒のもつ雰囲気のおかげだろう。
「なにか言いましたか?」
見つめていた顔を慌ててそらす。
周囲の暗闇のせいで、いくら幻想的に見えたとはいえ、見惚れていたことを悟られたくはなかった。
相手は捕食者。なぜこんな場所まで連れてきたのか、その原因がわかるまでは気を抜けない。警戒心は忘れていないと、優羽は戒の姿を振り払うように頭を振った。
「…ッ…痛ぁっ」
ひどい頭痛に襲われていたことを思い出す。だが、その行為のおかげで優羽は自分の状況を知ることが出来た。
「いちいち大袈裟に動きすぎですよ」
「そんなこと…な……ぃ……いたいぃ」
戒の嫌味を優羽は涙をためた瞳で睨み返す。
頭が痛いのも、全身がだるいのも、倦怠感と嫌悪感と激痛を混ぜたような体調不良の原因は、元はといえばあなたたちイヌガミ様のせいじゃない、とはもちろん言えない。ついては、その冷めた戒の視線に優羽はグッと押し黙る他なかった。
「………く、うぅ…」
無意識にふらついた反動で、岸にしがみついていたはずの身体が再び沈んでいく。脱力した全身が、このまま沈んでいくことを望んでいるみたいだった。
「~~~ん…っ…」
誰かに抱きしめられているような温かさが心地いい。水の中にいるはずなのに、変な感覚だと、思わず笑ってしまいそうになる。
ここは温泉みたいだ。
死の間際にしては随分呑気な夢を見ていると、どこか客観的に見つめている自分もいる。目を開ける力さえなく、優羽は呼吸が止まっていく感覚さえ味わい始めていた。
「…………はぁ」
心底、仕方がないと表現できる戒のため息が間近で聞こえる。
最後に見た神様が綺麗なのは当然なのかもしれない。死に行く哀れな少女を見送ることが、きっと戒の役割なのだろう。どこかもわからない森の奥で、温かな水に抱かれて眠れるなら、このまま底まで心地よく沈んでいけるかもしれない。
「───…ッん」
呼吸が止まった。今までゆっくりと流れていた時間が、最後の最後になって突然呼吸を止めてきたが、今度はどこか柔らかな感触と滑らかな触感が唇を覆っている。
「ンッ…んぁ…はぁ…っ…ん」
気持ちがいい。
閉じた視界では何が起こっているのか、桃源郷さえ確認することもままならないが、脱力した全身が包まれ、何か温かなものを口の中に流し込まれる感覚は新しい。
柔らかな感触。
口付けに似た優しい感触を優羽は流されるまま受け入れていた。
「んっ」
唇の隙間から零れ落ちなかった液体が、口内に溢れる前に喉を潤していく。自分の体から、ごくり、ごくりと、何かの液体を飲み込む音が聞こえてくる。
朦朧とした意識の中で、優羽は与えられる何かを飲み続けていた。何度も、何度も、戒は優羽の髪をつかんでアゴを上にむかせ、角度を変えながら何かわからない液体を飲ませてくる。
普通に気持ちよかった。
唇から何度も液体が流れ込んでくるが、優羽は黙ってそれを飲み込む。
「世話がやけるエサですね」
「ンッ…、ぁ………ふぁ、ん、ぁ……え、戒…かッ、戒……ン」
抱き締めることはしないのに、しっかりと抱え込まれた後頭部が、戒の行為を無抵抗に受け入れていた。長いマツゲに滑らかな肌、近づいてもキレイな容姿に全身がのぼせそうになる。
そのうち、全身の倦怠感が抜けるように消えていき、優羽はパチッと音が出るほど大きく瞳をあけて、その様子を視界に映し、そして悲鳴をあげた。
「キャぁああァッ!?」
まさか、戒が口を使って喉を潤してくれていたとは思わなかったと、優羽の脳内が混乱し、困惑している。
今まさに、角度を変え、再度、唇を重ねようとした戒の鼻先が触れる寸前で止まっている。
「待っな、ん……戒…やッ、んんンッ」
状況確認が追い付いていない現状では、身体を暴れさせるよりも前に、重なる戒の唇を受け入れるしかない。そして当然のように、口内に押し込まれた液体で、優羽はノドを潤した。
「五月蠅いですよ」
「や、め…っ…ん…イヤッ」
舌を濡らし、喉を流れていく液体が何かはわからない。無味無臭なのに、なめらかで、内側から癒される液体に検討もつかず、恐ろしくなった優羽は戒の行為を拒絶する。
ところが、これまでと違い、戒は拒絶を見せた優羽をいとも簡単に手放していた。おかげで、盛大な水しぶきと、優羽の悲鳴が、静寂な夜の森に響き渡る。
「……っ…ごほ、ゴホッ~~~ぅ…ぇ」
全身ずぶ濡れで、鼻から入った水分が痛い。
なんとか水面に顔を出し、混乱した視線をさ迷わせながら自分を抱き締め、一体これはどういうことかと、優羽は非難の目で戒を見つめる。
「な、なにする、ん、ですか?」
「何とは?」
「どうして口付けなん、て……っ…え、ここ、どこですか?」
覚醒した優羽は、戒を見つめたまま首を傾げる。あれほどぼんやりしていた頭は、なぜかすこぶる明解になっていた。
「ここ…っ…ここは…外……えっ、そっ外!?」
戒の答えなど待っていられない。
現実を承認し始めた脳が、照合を始めようと記憶を逆回転に巻き戻していく。
「私、生きてる。身体も痛くない、どうして急に?」
濃厚な空気の密度が火照った顔を撫でていく。身体は依然、温泉のような水の中につかっている。それに、先ほどまでの痛みが、嘘のように消えてしまった。頭痛もなく、眩暈も感じず、吐き気もない。おまけに、月が見える現実もどうやら夢ではないらしい。
「うわぁ。見てください、とても綺麗なつ…――」
「静かにしてもらえませんか?」
「――…きッ……」
冷静に応対されて、優羽は間抜けな顔を赤く染める。年甲斐もなくはしゃいでしまった。しかも、こんな場面で。森林、温泉、月。壮大な夜の幻想に一瞬でも現実を忘れた自分が恥ずかしいと、優羽はそのまま顔半分を湯面に隠す。
そこで、視線だけで改めて、戒を見つめた。
「きれい」
月を背負った戒の横顔に馬鹿にされたくなくて、今度は空気の泡でそれを呟く。
離れた位置にいると思っていたのに、まだ手を伸ばせば容易に届く距離に戒がいる。人型の姿で、一緒にお湯につかっている。カミさまも温泉につかるんだ。などと、変な感想が浮かんだ優羽は、邪念を振り払うように顔を洗った。
「あなたは一人で百面相ですね」
ほぼ真正面からかけられた声に優羽は見惚れる。端整な顔立ち、均整のとれた身体。人間離れした白銀の髪と瞳が、余計に人外の美しさを際立たせる。闇に浮き出た銀色の瞳。そこから自然と視線をさげて、優羽は慌てて視線をそらした。
「ここは森の中にある温泉です。治癒効果が高いので、瀕死だったあなたを連れてきたのですよ。そこのわき水を飲むと体力が回復します。少しはマシになったでしょう。ですが、全快というわけではありませんので、きちんと休んであなたの仕事をしてください。聞いてますか?」
「ふぁ、あっ…ッ…はっはい!!」
驚いた優羽のせいで暗闇に大きく水面がうねる。
丁寧に説明をする戒の言葉を茫然と聞き流していた優羽が、下から覗き込むように近寄ってきた戒に驚いて、身体を硬直させたのだから仕方がない。
「えらく挙動不審ですね。まさか逃げようなどと考えているのでは?」
「ま、まさか」
不審そうに煌めく銀色の瞳は、優羽の瞳が自分の瞳を見返しているのではないことに気付く。先ほどから定まりがなく、周囲を探っているように感じたが、どうやら逃げるわけではないらしい。
「では、先ほどから何を見ているのですか。何か気になることでも?」
「えっ、あっ」
何か特別なものがあるだろうかと目を細めた戒から優羽は視線を逸らす。
「あまり、近付かないでください」
「まだ恥じらいがあるのですか。これから何度も見るのです。早く慣れた方が気が楽ですよ」
「…………だって、あ」
「今度は何です?」
空に向かって声を投げた優羽の不可解な行動に、戒もそのあとを追いかける。
「何もありませんが?」
そこにはただの夜空が広がるだけ。心底馬鹿にしたような戒の視線が再び戻ってきて、優羽は体を委縮させたが、なにも騙したり、誤魔化したりしようと思ったわけではないと口をとざす。
そして、戒の言葉をないがしろにしたモノの正体を優羽は口にする。
「星が、流れたんです」
「星くらい流れることもあるでしょう。変な娘ですね」
「……うぅ、辛辣」
「なにか?」
「いっ、いえ、なんでもありません。じゃ、じゃあ、月はどうですか。大きくてキレイですよ」
頭上に輝く大きな月は満点の星空の中にあってなお、異様な存在感を放っていた。
こんなに大きな月はもちろん、燦然と輝く星空を集めて、ひとまとめにした夜は見たことがない。しかもそれを背負う戒の幻想的な姿が、何度見てもため息が出るほど美しい。
「今は夜ですから、月があるのは当たり前でしょう。繰り返し見慣れたものを綺麗だという、あなたの感性は理解できませんね」
乙女の気持ちは、いとも簡単に、戒の無関心な言葉にブチ壊される。どうやら戒とは、同じ感動を分け合うことはできないらしい。それを少し悲しく、いや、寂しく感じる自分の心境にも戸惑ったが、優羽は月を見上げていた顔を戒に戻した。
「あの…っ…ありがとうございました」
「何がですか?」
「えっ、何がって」
真顔で不思議そうな瞳を向けてくる戒に、優羽は言葉をつまらせる。聞き間違いじゃなければ、さっきたしかに「瀕死だったから連れてきた」という風な内容を話してくれたような気がした。
「お礼を言われるようなことは、何もしていません」
戒はきっぱりと、優羽の感謝を否定する。
「死なれては困るから生かしただけのこと。弱れば、回復させるのは当たり前でしょう」
「……は…ぁ……」
「まぁ。あなたが居なくなったところで、さして困りはしませんが、目の前で死なれるのは困ります。色々と面倒なことしか浮かびません。ですので、死んだり、弱ったりするのは、わたしがいないところでしてください」
水にぬれた髪をかきあげながら、この妖艶な麗人は、その顔からは想像できないほどの残酷な言葉を並べたててきた。
「死ねば次のエサを見つけるだけ」
「代わりはいくらでもいる」
「エサとしての価値を持たないつもりなら、次を早く見つけなければならない」と。
歓迎されていないことは先刻承知。こういう扱いは戒に始まったことじゃないからか、思ったよりも落ち込んでいない自分に優羽は気づく。それでも、傷ついた心は知ってしまった。
嘘でもいい。彼らから、何かしらの情が欲しい。
エサとして存在している以上、それは叶うことのない願いだとわかっている。エサはエサのまま、ただ食べられるだけの存在。空腹を緩和させるだけの一過性の存在。通り過ぎていくだけの存在。文字通り死ぬまで、彼らとの関係は変わらない。
「はい、気をつけます」
自分でもわかるほど気落ちした声で、優羽は戒に頭を下げた。
一緒に温泉につかっていながら冷酷に見下ろしてくる戒の視線を感じる。今後、いくら交わりを持とうとも、彼らは食事として優羽の身体を堪能するだけ。銀色に煌く鋭利な瞳が熱をもって微笑むことを期待する方がどうかしている。
もともと住む世界が違うのだ。カミと人が交わることはあり得ない。
「そうしてください。たった一日でこうでは、先が思いやられますが、あなたが」
「一日!?」
「…………そうです」
心象をどこへ追いやったのか。驚きのあまり、戒の言葉を途中でさえぎってしまった優羽は、瞬時に口を両手でふさいだ。心臓の音が尋常じゃなく早かったが、責めないでいてくれた戒の様子にホッと肩の力がぬける。
もっと詳しく聞きたいと、知らずに顔が物語っていたのだろう。
戒は面倒そうに再度髪をかきあげてから、現状を説明してくれた。
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