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第五夜 逃げない娘(下)

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ズルいと思った。
そんな顔を見せられたら、もう何も拒めない。勘違いでもイイと、わずかな幻想にひたりたくなる。


「優羽」


竜の唇が型どった自分の名前に、優羽の心臓はさらに強く響いた。
逃げようと思っていなかったと言えば嘘になる。打算や計算が脳裏をよぎらなかったわけではない。竜のいうように、勇気がなかっただけのこと。
勢いよく感情に任せて飛び出していったところで、行く場所もあてもない。
待っているのは、ただ途方もない孤独だけ。それと向き合って、生きていける強さを持っていなかっただけのこと。
それを臆病というのなら、そうかもしれないと、優羽は銀色の瞳の奥で揺れる自分の弱さを見つめていた。


「優羽」


名前を呼ばれるのを心のどこかで喜んでいる自分がいる。


「優羽」


呪文のように繰り返してくるその声が、耳に響くその音が、空間を満たす全てのように体中を震わせる。
白銀の髪を持つ美しい狼。明らかに人間ではない銀色の光がゆっくりと近づいて、また唇を奪っていく。柔らかな舌は熱く、快楽を引きずり出すように頬を持ち上げる。首に添えられた無骨な指先に囚われて、束の間の甘い時間が訪れる。


「………っん」


この腕の中から逃げ出すなど無理に等しい。真上から優しく触れる竜に期待してしまう。この状況下に置かれた身は、否定できない事実として、たしかな変化を感じ取っていた。


「アッ、ん…はぁ……あっ…ッ…」


夢でもいい。騙されていようが、すぐに捨てられてしまおうが、かまわない。甘く切ない感情の渦に巻き込まれていく不安定な自分を受け入れてくれるなら、それが得体の知れないカミだろうとかまわない。
エサとして一生をここで過ごすのも悪くはないかもしれないと、心の片隅で、そう思い始めていた。


「…はぁ…っ……ん…」


その一方で、竜に言われた言葉に現実味が増してくる。
怖いから、ここから動けないだけ。逃げた先には何もない。
肯定と否定が、奪われる吐息に合わせて交互に揺れ、自分でもどう扱っていいのかわからない感情に翻弄されていく。


「なに考えてんの?」


笑いながら唇を食(ハ)んでくる竜の甘噛みに、痺れが神経を犯してくる。
ぺろぺろと犬のように舐めてくる頬も首筋もくすぐったくて、力が抜けていく。


「甘いな」


悪戯に笑った竜の仕草にドキッと心臓が鳴く。今まで食べたどんな果実よりも赤い色で、食べられるのかもしれない。自分が味わってきた食材も、かつては、こんな風に自分の口を眺めていたのかもしれないと、優羽はぼんやりと竜を眺めていた。


「優羽、こっちおいで」


優しい言葉に導かれるままに腕を伸ばした優羽の行為に、一瞬、竜のほうが驚いた表情を見せた。けれどそれはすぐに、くすりと面白味を含んだ笑みに変わる。


「ほんま、変わった子やなぁ」

「ンッ…ぁ…~~っ」

「警戒しながら受け入れるなんて器用な真似、どないしたら出来んの?」


そんなこと、聞かれてもわからない。
居場所を見つけた気になっているだけかも知れないが、嘘でも居場所が欲しかったのかもしれない。求めてくれるなら、他でもなくそれが「私」という存在であるのなら、答えてみたいと思ったのかもしれない。
たとえ儚い幻でもいい。
そこに一人じゃないと言う存在を感じられるのなら、生きている喜びを感じられるのなら、それでよかったのかもしれない。
だから、逃げなかったのかもしれない。自分が一人になりたくなかったから。


「あっぁあッ…ん…アッ……」


これでは、どちらが立場を利用しているのかわからない。エサとして身体を与えることを条件とした狼と、寂しさを誤魔化すために温もりを求める身体を等価交換と呼ぶには、少し気が引ける。


「ンッ」


首筋をはう竜の舌に、身体が素直に反応する。適度に火照った身体には、ざらついた竜の舌の弾力が心地よくて快感だった。


「んぁッ…あ…っ…アァ…やっ」


滑るように這わされる舌が、優羽の乳房を蹂躙(ジュウリン)していく。柔らかに揉みあげられ、快楽に尖った先が竜の口内でコロコロと転がり、優羽の下肢に潤みを溢れさせる。自分でもわかるほど、固く尖った胸の先端は大きく膨らんで、竜の口内で犯されることを喜んでいた。


「ァッ、だめ…っ…ァア…ひっ」


思わず漏れた声に驚いて、優羽は咄嗟に手の甲を噛む。抱き寄せられた体が小刻みに震え、感じたことのない快感が胸の先端から全身に広がってくる。舌と指先だけの愛撫が肝心な場所に触れられてもいないのに、絶頂を迎えそうになるほど、高みに誘われるとは想像もしていなかった。


「ヤッ…やっだ、ダッ~~っく、ぁっ」


抑えることも出来ない声が、噛んだ手の甲の隙間から漏れ出ていく。


「ん、アぁアッ…はぁ…ンッぁ…ひぁ…ヤっそれ以上舐めちゃヤッ…変になる…ぅ…ぁあ」


今更抵抗など無意味だと知りながら、際限なく溢れてくる快楽はただの恐怖でしかない。凶器に近い舌技は、そのまま心臓に食らいつかれても容易に果ててしまうだろう。


「あアッァア…なに…こっんな…ヤッ…あぁ」


か細くも甘い鳴き声をあげ、優羽は竜の愛撫のひとつひとつに身体を震わせて感じていた。


「アッ…~~っ、んっ?」


突然止まった感覚に、優羽は不思議そうな吐息をもらして竜を見つめる。自分の胸元にある美麗な横顔がその唇を少しあげて、その視線を戸惑いの色を宿す優羽の方へ流していた。
これで、心拍を平常に保てる方がどうかしている。
濡れた胸の先端は荒く繰り返す呼吸に合わせて微かに震え、敏感に染まった色のまま竜に不満を訴えているみたいだった。
それを竜がなんとも言えない笑みで見下ろしてくる。


「優羽って、可愛いんやな」


今度こそ、確実に呼吸が止まったかと思った。


「そないヨガってくれたら、食べがいもあるわ」


至近距離で告白されて反応に困る。いっきに跳ねた心臓が身体中の神経までもを硬直させてしまったらしい。
一人だけ時が止まったように固まった優羽の反応に、竜は何を思ったのか、鼻歌まで歌いだしそうな軽快な雰囲気で優羽の太ももをさらりと撫でた。


「そのままじっとしときや」

「えっ、アッ…ちょっ…~~ぁやっ」


おもむろに分け入ってきた竜の指。わずかに開いていた足の隙間から器用に差し込まれた指は、抵抗を見せる間もなく根元まで水圧を押し込んでくる。


「ぐちゃぐちゃやん」

「~~ッ~…アッ」


差し込まれた二本の指は内壁を確認するように角度を変えて優羽の中をゆっくりとかき回す。反射的に起こした半身は、竜によって器用に支えられてしまった。


「ほら、見てみ?」

「くッ、ひぁ…アッ~」


片手で優羽を支えながら、もう片手で優羽の割れ目を広げた竜に視線を導かれる。
あまりに卑猥な光景に、怖いもの見たさの視界が欲情のすべてを訴えてくる。濡れた壷の中から見せつけるように抜け出て来た竜の指は、また深く水圧を逆流させ、自分の中に埋まってくる。
竜の指が視界から消えていく。


「なっ、うまそうに食ってるやろ?」

「ふぁッ…あっ…ッ……」


もう泣いてしまいたかった。
数時間前まで何も知らなかったはずなのに、今はこんなにも先を望み、もどかしく腰をくねらせる自分がいる。見たくなくても、愛蜜に濡れた果肉の行く末が気になって、目を閉じることも出来ない。


「ええ子やな。そのままちゃんと見とくんやで?」


軽く額に口づけを落とされた瞬間から始まった愛撫に、優羽は狂声にも似た声であえぐ。
見たくなくても見えてしまう激しい指の出し入れと、愛液に濡れていく床の布。間にいる竜のせいで足も閉じられず、中を自在に動く竜の指に感じる他なかった。


「いやぁアッ…っんアァ…はぁ…ヤッ~…ッ」

「ここやろ?」

「アッ…ぁあヤダヤ…ダめ…イッ」


集中的にあてられたヵ所に、優羽の全身に力がこもっていく。
何度繰り返しても慣れないばかりか、わずかに心がゆるんだ今となっては、素直に感じるのさえ恐ろしい。
絶頂の瞬間は、まだ怖い。


「ひッぁあ…そこ…ヤッ!?」


思わず、下肢に差し込まれた竜の腕を両手で押さえつける。それなのに、竜は何もないような顔で平然と腕を動かし続けた。


「いくら否定したかて、ココがええて優羽の身体が言ってるんやで?」

「ヤッ…ァアやだぁ…~く…ぅ」

「なんも恥ずかしがらんでいいから、力抜いてみ?」


止めてもらえるはずもなく、優羽の爪痕が残るのもかまわずに、竜は優羽を刺激していく。


「ヤッ…変な…ッンあ…竜……ヤメっ」

「イクのは悪いことちゃうで?」

「アァ…っ…ヒッ…やぁッだ…メッだめぇ」

「ほら、イク言うてイってみ?」


優羽は、ふるふると力なく首を横にふりながら必死に快楽の波とあらがっていた。抵抗など無意味なことはわかっている。でも自分から認めてしまえば、これから先もきっと簡単に受け入れてしまうこともわかっていた。
快楽に溺れていく。彼らに、溺れていく。


「アッ…く…イッちゃ…ッ…」

「うん。ええよ?」

「~~~~~ぃ…ゥ、いくっ、やッアァァア」


目の前がチカチカする。真っ白な感情が内側から溢れだし、竜の指を強くくわえながら卑猥な音が飛沫していく。よく見える。かき出される愛液に、飛び散る水しぶきに、自分の歓喜な声が重なりあって、とまることなく犯されていた。

イク

その二文字を体感することがどういうことなのかを、存分に思い知らされる。
彼らに抵抗できない自分を叩き込まれていく。
涙で滲んだ視界が淡い色で染まって見える。何色とも表現しがたい温かな色がそこら中に舞っている。その中央で濡れそぼった花弁は、妖艶に花開いていた。
その芽を固く主張させ、オスを引き寄せる蜜をしたたらせながら、いびつな匂いを放っている。


「はぁ…はぁ……ッ…ん」


荒い呼吸を整えることも出来ないまま、優羽は竜の指が引き抜かれるのを見つめていた。


「ちゃんとイケたな。お利口さん」

「ん、あッ」

「これでわかったやろ。俺らを拒絶することは、優羽にはできひん。もう逃げられへんて自覚せなアカン」


蜜を塗りたくられるように、秘芽がこすられていく。敏感にのけぞった優羽は、竜に唇を奪われながら背を倒されていた。ひやりとした薄い敷物が背中に当たる。
晶に「綺麗にする」とは、どういうことかを教えられた場所。
目が覚める前と後で、状況が変わったわけでもないのに、わずかに変わった心境だけで、こんなにも世界が違って見える。
真上に臨むのは獰猛な獣の化身。
銀色の光を宿した人外の生物。
脳では理解しているのに、本能が先を求めてゴクリと優羽の喉を鳴らした。


「まあ、今更逃がさへんけど」


再び重なるように食される唇が変化を感じている。


「そうやって素直に甘えてたら、ずっと今のまんまおれるで」

「あっ…ッ…んぁ」

「しっかり俺らに尽くしてな」


頭の中には何も残っていない。正常な思考も、懸命な判断も、幸せな未来に向かってどう進んでいけばいいのか、何を選択すれば正解なのか、もう何かを考える余裕なんてなかった。
ただ貪欲に、欲情にもだえながら受け入れていくだけ。


「上手にできるやん」

「はぁ…っアッ…っ…ん…」


角度を変えて舌を絡ませ、胸や秘部をもてあそぶ指に応えるように優羽は竜に腕を伸ばす。吸い付く肌を密着させ、体温の熱をお互いで高め合う。熱い吐息をのみこみながら、触れあう肌の感触を楽しめるまでになっていた。


「アッ…~~ンッ…はぁ…っ…はぁ……アァッ」

「たった半日で、エライ成長したな」


クスクスと竜の笑い声が耳元をかすめていく。


「足拡げてみ?」

「あ…ッ…」


迎え入れる準備は、もう十分に出来ていた。


「めっちゃうまそう」

「……ッ…ん…」

「そのまま力、抜いといてな」


指示通り、優羽は従う。
そっと身体をはなした竜の両手が、優羽のひざの裏を持ち上げていた。


「………ひ、ぁ――…ぅ……くッ」


押し入ってくる感覚に、優羽の身体が本能的に上に移動する。それをまた自分の方へ引き戻しながら、竜は自身の腰をゆっくりと埋めていた。


「逃げたらアカンやろ?」

「ヤッ…っ…アアッ!?」

「力抜かな、全部入らへんで」


竜は笑いながら全体重をのせてきた。全身が裂けてしまいそうなほどの圧迫感が優羽を襲う。指の愛撫など比ではないほどの苦しさが、まだ慣れない乙女の領域を犯してくる。
いくら心が数時間前より懐柔されたとはいえ、身体はまだ男を受け入れて数える程度。すぐに慣れるなどとんでもない。まして、力の抜き方などわからないと優羽は爪を立てて首を振った。


「ひぁああぁ」


柔らかく湿った優羽の果肉は、固く太い異物の侵入を根元まで許していく。
煌く銀色の瞳が妖艶に歪んで犯す少女の膣内を堪能していく。
苦しかった。もうこれ以上何もしないでほしいと、混乱に支配されてしまうほどの息苦しさがこみあげていた。


「抜ぃ…って…ヤッ…苦し…ぃア」

「何言ってんの、抜くわけあらへんやん」

「アぁッ…もうそれ以上…いかっ…なぁ」


訴える声は届かず、目一杯詰め込まれた内部は、ぎちぎちと音をたてるように広がっていく。


「もっと、こっちおいで」


ニヤリと口角をあげた竜に勢いよく腰を抱かれた瞬間、根本までその張型が最深部へと一気に突き刺さった。


「───…ッ?!」


あまりの重量に呼吸ができない。


「…アッ…ひ…苦しッ……」


密着した下腹部だけではなく、全身の呼吸が止まったような気さえしていた。存在する穴のすべてがふさがってしまったように酸素が足りない。


「ヒッ…っ…アアッ」


たった一度、強く打ち付けられただけで意識がぐらりとふらついた。
これが食事だというのなら、今まで与えられてきた食事の刺激とは少し違う。とてもじゃないが、体がもたない。全身を串刺しにされる食材の気持ちになれというのなら、今の状態はまさしくその食材と同じだろう。


「優羽?」


いたわるように髪をすいてくる優しさに、朦朧とした意識が困惑する。
勘違いしてはいけないと、何度言い聞かせても、今回ばかりは無理なようだった。
無意識に、竜の腕を求めてしまう。
たとえ愛されていなくても、エサとしてしか見られていなくても。情など、相手にはこれっぽっちも持ってもらえなかったとしても、それでもイイ。この人の糧になるのなら。


「りゅ…竜…っさ」


束の間でも、こうして自分の意義を感じることが出来るなら。甘く、激しい欲情の快楽をむさぼれるのなら、彼らに囚われの身となって一生を終えてもいいかもしれない。


「優羽は、うまいな。こないうまいもん、初めて食べるわ」

「…アッ…ッ…ヒッ…はぁ…アァアッ……」

「どないしよ。俺、はまるかも知れん」


目の前の快楽しか見えない。
前後に打ち付けられ始めた腰に、全身が甘美な鳴き声をあげていく。


「アッ…ん…アァッ…はぁッン……~っ…あ」


擦りあげるように、かき出される愛液の音が淫妖に響いていた。ぶつかる衝撃にふらつきながら、優羽は律動に合わせて鳴き声を高めていく。苦しさにもがきながら、溺れた海で水面を探すように、ただ上を目指していく。


「そない苦しい?」

「アッ…っ…アッ」

「せやけど、気持ちイイんやろ?」

「…~…ンッ…アアッ……」

「ちゃんと言葉にせな、わからんやん」


どこか嬉しそうな竜の背に爪を立てながら、快楽に喘ぐ優羽は、最奥まで容赦なくえぐる男根を何度も強く締め付けていた。あるのは息苦しさと、こみあげてくる嗚咽だけ。呼吸さえ淫らに乱れ、正常に機能している場所など、どこもない。細胞のひとつひとつが竜の匂いに包まれて、竜の愛撫に反応している。


「アッ…気持ち…イイれ…ふぁ」

「したら、なんて言うんやった?」

「…あッ…イクッ…イッくアァァっアァァァァ───」

「ほんま、優羽て可愛いな」

「…ッン…ひ…あっ…らめ…や…ッ~~っ~…ん…また…イクッ…やァァアアァアッ───…とま…ッ……」

「そないな姿見せられて、とまるわけないやろ」


アホやなと笑う竜がよく見えないばかりか、求める声がうまく出ているのかもわからない。
均整のとれた身体にしがみつく力も、ほとんど残ってはいなかった。
苦しいほどに埋めつくされた秘部が、快楽と激情を突き上げてくる。何度も何度も内壁を引きずり出され、卑猥な棒に最奥まで押し戻された。
どうすれば止まってもらえるのかもわからない。
どうすれば絶頂の波から返ってこれるのかもわからない。何度も弓なりにのけぞり、爪を立てて体を暴れさせるのに、やはり竜は息ひとつ乱れていない。
そこが恐怖を煽ってくる。
自分だけがこの世にいるような怖さを連れてくる。鈍い光を放つ銀色の瞳に心の奥まで見透かされ、解剖されていくような感覚が恐ろしく不可解で、怖いほどにキモチイイ。


「怖ないから、感じられるだけ感じてみ」


額に落とされる優しい口付けが思考回路を奪ってしまう。
与えられる快楽の果てを盛大に噛み締めながら、優羽は竜にしがみついて、感じていた。


「…アッ…ひぁ…ッ…ん……」

「どないしたん。声が小さなったで?」

「イヤァァッ…ぁ…やぁ」

「せや、ちゃんと感じとき」


まどろむ意識は、強烈な快感に貫かれて、現実へと呼び戻される。
恥骨が密着し、ぶつかり合い、弾かれて、また密着する。膨張して腫れ上がった蕾も、快楽を主張する乳首も、しっかりと爪や歯をたてられ、性感体と化した全身が壊れかけていた。


「こら、逃げんなや」

「ダメダメだめぇアァアッ」


大きく見開いた目には竜以外映らない。半分しか閉じない唇から垂れた涎も、無意識に流れる涙も、引きつけのような痙攣を起こす手足も、内臓もみんなみんな竜に操られて狂っていく。


「せっかくありついたご馳走や。堪能せんのは失礼やろ」


もう、十分すぎるほど抱き合っていた。
それでも竜の食欲は満たされないのか、いっこうにおさまる気配はない。


「死んじゃ…ヒァ…ッ……」

「俺のモンで死んだやつはおらんから、大丈夫や」


どんな理屈かはわからないが、乱れている自分が恥ずかしくなってくるほど、余裕な顔で竜は頭を撫でてくる。それでも至極稀に、息ひとつ乱れなかった竜が、食事を続けるごとに体温が増し、少し苦しそうに息切れることがある。抱かれているうちにエサとしての本能に目覚めてしまったのだろうか。
欲情するほどに嬉しさがこみあげてくる。


「まだまだイケるやろ?」


その笑顔に、また強く感じてしまう。


「ほら、上手に鳴いてみ?」

「…ッ…アアッ…」

「何も考えんでイイから、優羽は俺に喰われとき」


何も知らない子供に快楽を教え込むように、竜は何度も悦楽を叩きつけてくる。
怖がらなくてイイ、他に何も考えなくてもイイ、ただ感じるまま、あふれでてくる欲望を満たせばイイと優羽を性に溺れさせていく。


「アッ…っ…アァァァァッくっ~…気持ちィ…いッ」

「俺もめっちゃ気持ちイイで」

「ヒッ…っ…~ッ~…くっ…アァッ」

「優羽は、今まで食べた中で一番うまいな」


本当にそうなのかと、疑ってならなかった。
息ひとつ乱さず、少し高揚した頬に熱を浮かべ、銀色の瞳を細めながら竜は舌舐めずる。
冷静な竜に見下ろされながら淫らに悶える自分は、どうかしてしまったんじゃないかと思えるほどに気持ちよかった。


「イッ…ちゃ…アァッ…ヤッ…らめ…も…ッ…」

「逃げてもいいんやで?」

「ふアぁあぁッ!?」


高く突き上げながら竜は笑う。さっきは快楽から逃げるなと引き寄せておきながら、今度は彼らから逃げてもイイと言ってきた。快感を叩き込まれたあとで優羽が肯定できないのをいいことに、確信をもった笑みで見下ろしてくる竜の視線が憎い。
なんとも残酷な質問をしてくる男だと思った。
ここまで深く快楽を教え込まれて、逃げられるはずがない。
永遠に覚えているだろう行為から逃れる術(スベ)があるのなら、それこそ今すぐに教えてほしかった。
もう戻れない。どこへも行けない。


「…アッ…ッンまたイッ…ヒッちゃゥッ……」

「何度でもイったらエエ。せやけど」


首筋に噛みつくように、竜は告げる。


「俺らのエサになったんやて、しっかり覚えとかなアカンで?」

「…ッ~…アァアッひッ…くっ…アッ」

「忘れんな」


そのまま首筋にしびれるような痛みが走った。


「逃げ切れるなんて思わんことや」


逃がさないとでも言う風に、竜は身体中を手のひらで撫でてくる。
力強い腰の動きとは異なって、優しくすべるような手の感触が背筋を泡立たせた。


「…アッ…やぁッ…らめぇぇッ…っ…」


胸の頂も、下肢の蕾もあますことなく撫で回されて、優羽は身をよじらせる。


「悪いようにはせん」

「ッ!?」

「死ぬまで、ここで囲ったる」


悪魔のような宣告さえ、いまの優羽には心地よく響いた。
身体の芯から沸き立つような快楽を四六時中与えられ、昼か夜かもわからない一日を一生続ける。淫湿で卑猥な情欲に翻弄されながら、女であることの悦びを叩き込まれ、刷り込まれ、それでも彼らのエサとしての地位は変わらない。
それ以上でも以下でもなく、優羽の未来は決まってしまった。


「はゥッ…アッ…イクッイっちゃ…うッンあァァァァッ」

「優羽、自分からここにきたこと後悔すんなよ?」

「あ…ぁあッンァァァッ…だめ…ヤッ…もぅイヤァア」


優羽は、無我夢中で竜に抱きつく。
ビクビクと全身が痙攣を起こしていた。


「後悔させへんように、しっかり可愛がったるからな」


抱きついたまま優羽の力が抜けていく。
それを優しく抱き締めかえした竜の腕の中で、優羽は甘い快楽の底に沈んでいった。
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