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第四夜 非情な世話係(下)

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ドキドキと、心臓の音がうるさい。
無言で秘部を見つめては、角度を変えて指を動かす晶のせいで、今すぐにでも逃げ出したい衝動にかられる。
花弁を指で押し広げられ、突起も押し出される。勝手に中がキュッとしまったが、優羽は慌てて深く息を吐き出すことで、その感覚を紛らわせた。必要以上に触れてこないくせに、必要以上の感覚が与えられている気がしてならない。
もどかしくて、自分の感情にさえ戸惑い始めていた。
もう、これ以上は耐えられない。


「あ、あのッ!!」

「どうかした?」

「……まだ、ですか?」


耐えきれずに尋ねてしまった優羽の瞳に、ニヤリと口角をあげた晶の唇がうつる。


「まだだよ」

「ッ!?」


その瞬間、体が弓なりにのけぞってしまったのは仕方がない。
ゆっくりと回転させるように晶の中指が優羽の膣に埋め込まれていった。


「中まで、ちゃんと綺麗にしたのか確かめないとね」


体が小刻みに震え始めたのをこらえるために、優羽は必死に声を押し殺す。
両手で恐怖と快楽が口から出ないように押し込んではいたが、優羽の膣からは差し込まれた時同様、ゆっくりと引き抜かれていく晶の指に従って、中にたまった液体がどろりとはいだしてきた。


「これじゃあ、綺麗になったとは言えないかな」

「違ッ…そ~~ッ…あ…っ」

「綺麗にしてあげるから、ジッとしてようね」

「ァッ?!」


声を出しそうになって、優羽は口を押さえる両手に力を込める。
中指と人差し指の二本しか動かさない晶の仕草に、全身が感じてるなんて思われたくなかった。相手にそんなつもりなどないのに、自分だけがその先を望んでいるみたいで全身が落ち着かない。悟られたくもない。
それでも聞こえてくる。
綺麗な指にかきだされる愛液の音が、時間がたつにつれて量を増していることは、否定の出来ない事実だった。


「この程度で感じてるのかな?」

「あっ…チガッ…やっ…アァ」

「だったら、もう少しジッとしてようか」


晶が、なんてことのない顔をむけてくる。
恥ずかしいなんてものじゃなかった。腰がわずかに動いていたことを指摘されただけでなく、否定の言葉をつむいでしまったせいで、やめてももらえない。言葉のみで、動きの全てを封じられてしまった優羽は、全身を赤に染めながら晶の指が出し入れされるのを感じていた。
ただひたすらに耐えるしかない。声を押し殺し、感じないように身体に力を込め、だけど膣は締まらないように力を抜く。


「はぁ…はぁっ…ヒッ~…ぁ…あ」


難しいようでいて、意外に簡単な動作だった。でも、それが悪かった。
かきだす晶の動きは変わらない。実に単調で、仕事としての行為だと雰囲気が物語っている。


「そうそう、イイ子だからそのままジッとしてるんだよ?」

「ひゃっ…ぃ…っ~ぁあ」

「ちゃんと出来れば、それだけ早く終わるからね」


冷めた目で、それこそ面倒くさいと言わんばかりの口調でさげずまれる。
早く終わらせたいと、自身の髪をときおり気だるそうにかきあげながら、晶の指は優羽の秘部を行ったり来たりしていた。


「はぁっ…ん…はぁ…ぁっ」


身体がどんどん熱くなってくるのを抑えられない。一番快楽を受け入れやすい環境を自分で作り出してしまっただけに、どうしようもなく体の内部が感じていた。
繰り返される単調な動きも、絶妙なツボを何度も刺激されれば、鋭い快感に変わっていく。


「本当に、ちゃんと綺麗にした?」

「ァ…っ……はぃ…~ッ~…」

「おかしいね。こんなにドロドロと俺の指が濡れている気がするのは、俺の目がおかしいのかな?」

「あ、そ…ッ!?」

「このままじゃ終わりそうにないから、いっきに綺麗にしてあげよう」


問い返す暇なんてなかった。
本数の増した指が、深くねじこまれ、速度をあげて出し入れされる。


「イやァァッアァァッ!?」


声を押さえるとか、全身の力を抜くとか、一瞬にして頭から吹き飛んでいた。
突然与えられた快感に、おのずと腰が宙に浮いて高く持ち上がり、晶の指を根元まで深く迎えていた。


「それ…ヤッぁ、アァァッァ」


逃げ出そうとした体を押さえつけるように晶の体が上に重なり落ちてくる。


「やだ、ァ、やぁッ…ひッ…ん」


指だけに支配された体を監視する白銀の瞳が、鋭利な冷たさを放っていた。


「そこッ…あっ…ダメッ…ンッ…ヤァァァァッ」


愛液が音を荒げて飛沫していく。欲しかった以上に突き立てられた絶頂に、優羽は酔いしれていた。腰が勝手に動き、晶の指を深く加え込みながら高く果てる。
そこら中に飛び散る水音が、いやらしい匂いを放ちながら淫らな染みをつくっていた。


「まだ、出てきそうだね」

「ぃアッ!?」


膣を凌辱する手とは逆の手が、額からホホを伝って首筋を撫でてくる。そのまま上半身をおこす晶の動作に従って、高く浮いていた腰が晶の手につかまった。


「ちょ、待っ…なに…すっ」


腰を起点にかろうじて踏ん張っていた足を助け起こされれば、晶の半身に支えられるように優羽の下半身は首を中心に見事に折れ曲がり、反動で振り落ちてきた両足に優羽の顔は挟み込まれてしまった。


「ッあ、あき…っら?」


苦しい。なにもされていなくても体勢的に圧迫された肺が苦しくて、涙がこぼれおちそうになる。


「~~~~っヤッ」


声が震える。恥ずかしさで死んでしまえるほど、怖くて見たくもないのに、天を向いて口を広げている割れ目ごしに見える晶の笑みから目がそらせない。


「ッ!?」


自分でも見える位置で濡れそぼっている果肉に、晶の指が真上から垂直に突き刺さった。


「こら、暴れないの」

「ッあ、待っ…~~~ッヤァぁあ」

「ほら、もっと奥まで俺の指をくわえるんだよ」

「ッア?!」


ためらいもなく深々と突き刺された三本の指に、優羽の全身は甘い息を吐き出して震えている。根元まで埋まった晶の指が中で何かを探り当てるように折れ曲がり、太ももの裏側を撫でるもう片方の手が重力にまかせて優羽の足を固定してくる。


「ああ、ここだね」

「~~~~ッ!?」


一瞬、空はないのに星が見えた気がした。
体位がツラいとか、晶のせいで汚れていくだとか、文句を言えたらどれだけイイだろうか。冷めた晶の瞳と熱を帯びて震える優羽の瞳の中間地点で、可哀想な乙女の果実は、ぐちゃぐちゃにつぶされるように晶の指をめり込ませていた。


「あッ!?」


くすりと笑った晶の吐息を合図に、優羽の腰は痙攣を始める。
妙に圧迫される気道が、優羽の口から吐き出す言葉は喘ぎ声しか許さない、とでもいう風に晶の指に合わせて叫んでいく。気が付けば意識が飛んでいたのかもしれないが、体の奥深くからかき出されていく快楽と絶頂に優羽は面白いほど泣きわめいていた。


「イヤアッァァッア…っア止まっア」

「嘘つきな子に優しくしてあげる義理はないよ」

「ヤメッ…死んじゃ…ヒッ…ぁあ」


容赦なく優羽の膣に指をひねりこんだ晶は、その冷めた瞳にわずかな熱をゆらめかせる。


「美味しそうだね」


ビクッと優羽の体が大きくはねあがったのは言うまでもない。じゅるじゅると秘部に顔を近づけてきた晶に優羽の果肉は吸い上げられて、もてあそばれていた。


「ッ…アァッァァァ…ヤダッ…ん…アァっ」

「こんなに固くしてイケナイ子だ」

「ァァ──…ヒッ…ぁ…ヤアァッァァァァ──」


舌と指で凌辱される行為に終わりはない。
太ももから滑り落ちてきた手に柔らかな乳房はつかまり、その先端が指と指に押しつぶされる。同時に、晶の口の中に消えていた敏感な突起物までも、歯と舌ですり潰され、優羽の体は可哀想なほど大きく痙攣をみせていた。


「~~~~~~ッ、ぁ、ァアアッァ」


晶の目と鼻の先にある自分の秘部から、おびただしいほどの愛蜜が湧きだしているのが嫌でも目に飛び込んでくる。
ズボズボと激情に真上から突き刺さる三本の指は、噴き出す水しぶきを受けながら止まることなく動いていた。


「まあ、掃除はこんなところかな」


周囲に飛び散った潮の中で、晶は自分の唇を舐め上げながら顔をあげていく。
妖艶な視線との間にある異様な快楽から視線をそらすことも出来ないまま、大声で快感を発散させていた優羽は、ようやく解放されるのかと深い息を吐き出した。


「綺麗になったかな?」

「はぁ…アッ…はぁッ」

「これからは、こうして綺麗にするんだよ?」


はぁはぁと、荒く呼吸を繰り返すことしか出来ない優羽は、まるで穴でも覗き込むように見下ろしてくる晶の視線の先に、力がうまくはいらないことを知る。
ぽっかりとあいた膣は、無意識に伸縮を繰り返しながら黙って晶に見つめられていた。


「いいみたいだね。はい、お疲れ様」


ゆっくりと降ろされた腰に、どっと酸素が流れ込んでくる。押さえられていた肺が足りない空気を吸いこもうと激しい呼吸を繰り返していた。


「ヒッ!?」


ぐったりと、文字通り"大"の字に寝そべったまま意識を失いかけていた優羽は、まどろみ始めた思考の中に違和感を感じて、ギョッとその場所に視線を走らせる。


「あ、きら?」


まさかと思いながら、優羽は足の間から動こうとしない晶に視線をむけた瞬間、ニコリとほほ笑まれたその顔に、悪い予感は当たるものなのだと思い知らされた。


「綺麗になったなんて、俺に嘘の報告をした罰だよ」

「イヤァッ?!」


脱力した身体は逃げることも出来ずに、晶の腰に強く引き寄せられていく。


「ぁ…ひぁ…ぁああダメェッ」

「拒否権があるとでも思っているのかな?」

「もぅ無理で、すっ…感じたくな……イッ!?」


ぐりっと密着した腰に、優羽の鳴き声は弓なりにしなって、最深部に男を受け入れる。


「あ…っァあ…はぁ…ぃや」


優羽はいやいやと、晶の腕の中に吸い込まれていく体を拒んで、首を横に振っていた。
それでも神様に捧げられる生贄の声は届かず、無防備な優羽の身体は、何の抵抗もなく晶の活動を許していく。


「ぁ…~~~っ、あ」


曲げるつもりのなかった足は自然に曲がり、深々と花弁を分けいってくる男のソレが、敏感にひくついている内壁を押し込んでは引いていく。無理矢理ではなく、ゆっくりと自分から男を迎え入れていく感触は初めてだった。


「なるほどね」


ゆっくりと腰を前後に動かしながら、体を押し倒してきた晶の唇が何かを納得したように微笑む。


「これなら血肉を食い漁る獣にならずに済みそうだ」

「ッ~~え…っな…に?」


よく聞き取れなかった自分の耳を呪いたい。
壊れモノでも扱うかのようにホホを両手でつかんで見つめてくる晶の視線に、ドキリと胸が音を立てた気がした。


「優羽はわかりやすいね」

「ッ!?」

「ほら、また」


直視できずに、優羽は密着したまま顔を覗き込んでくる晶の視線から顔をそらす。
どこかに逃げてしまいたい。ドキドキと不規則に暴れ始めた心臓も、晶のモノをぎゅうぎゅうと締め付け始めた乙女の果肉も、別の誰かのモノだと思いたい。全部自分の感情と連動しているなんて信じたくなかった。


「俺の顔をみて?」


とてもじゃないけどそれは出来ないと、優羽は自分の両手で顔を隠す。


「ッ!?」


音がなるほど腰を打ち付けた晶の行為に、優羽の瞳はたまらずその視界に晶をうつした。


「今回は俺が教えてあげたけど、次からは、ちゃんと自分で綺麗にするんだよ?」

「ヒッぁ…ヤッ!?」


返事は?と、安易に腰をまわしてその場所に埋め込まれてるものを示唆してくる晶に、優羽の腰が逃げるようにうねる。


「~~~~~~っアッ」

「ちゃんとできるかどうか、練習するには、まず教材を作らないといけないね」


繋がった部分の確認でもするように、晶が身体を起こした。それと連動するように、最奥まで埋まった張型は優羽の秘部から挿入を繰り返し始める。


「なッ…やっいらな…あ…ッ…くっ」

「遠慮をしないで、ありがたく受け取ればいいんだよ」

「ヤだッ、ァッ、ヤッ…め…ぅ」


思わずのけぞった優羽の腰は、晶の腕にしっかりと掴まれていた。
パンパンと心地よいリズムで身体が前後に揺れる。逃げることも出来ずに快楽を受け入れるしかない優羽の胸が、それにあわせて淫らに震えていた。


「も、ぅイヤ…ッ…止まっんぁ…やめアァッ…っ」


規則正しく動きながら、おもむろに晶が腕を伸ばす。


「お願ぃ…ヤッ…いやぁ…あき…ッ」

「本当に、優羽は嘘つきで、いけない子だね。イヤなら、こんなに乳首はたたない」

「ちが~~ぅ、アッ…っ…はぁ…ッ」


迷いなく揉みしだかれる柔らかな胸は、晶の手の中でいいように形を変えていた。ときに強く、かと思えば撫でるように優しく、それでも打ち付けてくる腰の激しさは変わらない。


「アァ…っ…ン…アッ」


錯覚してしまいそうになる。激しくも優しくもある丁寧な扱いに、心までもがかき乱されていく。
「食事だ」と、彼らはそろって欲情の行為をそう呼んでいたが、それは建前で、本当は欲してくれているんじゃないかと、浅はかな感情まで浮かんできそうになる。
バカげてる。目を覚ませ。そんなはずはないのだから。そう叱咤激励しても、負けそうになる。


「優羽は美味しいね」


晶が味の評価をくだしてきた。途端に、意識が現実と向き合う。


「久しぶりにありついたご馳走に、陸が錯覚するわけだ」


ゴクリとノドが鳴った。こちらは快楽地獄の中で死にそうだというのに、息ひとつ乱さずに晶は見下ろしてくる。
その顔があまりにも綺麗すぎて、目をそらせなかった。


「なッ!?」


突然、乱暴に腰をつかんできた晶に優羽の体がしなやかに浮く。


「ァ…~~~ッ!?」


その劣情に恐怖を感じて、晶を押しのけようと優羽の両腕が晶の胸板を押すが、いまさらそれはどうにもならない。
晶のモノが内部を奥深くまでえぐりとろうとしてくる。


「ッ…ぁ…あき…ッ」


恐怖、快楽、戸惑い、虚構の中で揺れる視界に、絶頂への世界がチカチカと見え始めていた。


「だけどもう、俺らがエサに情を持つことはない」

「アァ…ッ…ヤッ助け…っアアァ」


怒りにも似た言葉をぶつけるように、晶の激しさが増す。突如高鳴り始めた快感に、優羽の腕はもがきながら晶に助けを求めていた。が、その腕は、晶に届く前に、頭上でひとつに束ねられる。


「たぶん、これから先もない──」


言い聞かせるように、のぞきこんできた銀色の瞳が宣告した。


「───優羽に何かを感じることはありえない」

「あき、ら…晶…ッ…あ…アァッぁあ」


犯されていく。心も体もすべてが、たった一人のイヌガミに汚されていく。


「ッ抜ィ…て~~ッくっあ…ァッ」

「エサをより美味しく味わうために育てる。それが、俺の仕事なんだよ」

「アッ~~ッめ、変にな、る、からも、もう動かないでッ」


残酷なまでに美しい姿に、優羽の希望は砕け散る。
わかっていたはずだ。わかっていた。それなのに、絶頂に近づいていく世界が、あまりにも苦しくて切ない。


「ぁ…きら…晶…ッ…ヤッ…ぁぁっ」


優羽は、喘ぎ声の隙間から晶を求める。
押さえつけられた腕、逃げられない腰の変わりに、最大限の甘美な鳴き声で、優羽は晶に快楽の限界を伝えていた。


「ッ…アァッ───…や…アアァァァッア」


弓なりにしなった身体の奥深くに、食事を終えた証が、ドクドクと解き放たれていくのを感じる。床に縫い付けられた蝶のように、優羽は晶の腕の中で快楽の波にもまれながら絶頂を受け入れていた。


「ぁ…き…ら」


視界の端に見えるその美麗で、非情な狼の腕の中で、優羽は意識を手放し、全身をゆだねていく。
視界がかすんでいく。
解放された体に安堵の息を吐きながら、優羽は浮世離れした晶の美しさの中に、悲しい瞳を見たような気がした。


* * * * * *


意識を手放した優羽から、晶は自身を引き抜く。そのときは変化を見せなかったものの、卑猥な音をたてて解き放たれた優羽の秘部は、時間差で、ドロリと濃厚な液体を吐き出した。


「はぁ」


満足そうな息をこぼしたあとで、自嘲気味に晶はクスリと笑みをこぼす。


「また、綺麗にしてあげないと」


その息は何に対してなのか。自分で汚した少女から離れた晶は、水に浸っていた柔らかな布をしぼりながら、またため息を吐いた。
食べるつもりはなかった。
気づいたら、食べざるを得なかった。


「どうして、こんなことになったんだろうね」


今まで体験したことのない自分の行動に、どうも調子が狂うと晶は首をかしげる。綺麗に整えるのは今までも変わらずに与えられてきた晶の仕事であって、今までも変わらずにこなしてきた晶の仕事でもあった。
別にエサは、優羽が初めてではない。
それなのに、自分で綺麗にしたばかりのエサを汚すような真似をしたのは初めてだった。


「面倒なことは避ける性格のはずなんだけどな」


そう言いながらも、晶はしぼった布を片手に優羽の傍まで歩み寄る。


「でも、たしかに満たされる」


それは、紛れもない事実だった。なぜか優羽を抱いた後は温かな気持ちになっている。空腹が満たされる以上に、言葉に出来ない何かが埋まった錯覚を得ている。
客観的に自分を分析してみても、穏やかな性格が勝る感覚など、いつ以来だろうか。


「これは気を付けないといけないね」


持っていた布で優羽の身体を丁寧に拭き直しながら、晶はまたいつもの笑みを張り付けた。
唇を寄せなかったのが唯一の証拠だと言い聞かせるように、不規則な寝息をたてる優羽の顔を一度眺めたあとで、晶は淡々と優羽の身体をなぞっていく。首筋も、胸も、お腹も、腰も、背中も、両手足も、例外なく磨くように拭いていった。
敏感な部分をこするたびに、眠っているはずの優羽がわずかに顔をしかめる。
口では「イヤ」と言いながら、身体は素直に快楽に従事し、ねだる腰は甘い香りで近付いてくる。多分、無自覚に、無意識に、与えられるすべてを吸収する性質なのだろう。


「教えること、ほとんどないんじゃないのかな?」


綺麗になった優羽の身体に、晶は床に落ちていたのとは異なる新しい布をかけてやった。
何の夢を見ているのか、優羽のホホに一筋の涙が伝っていたが、晶はジッとそれを眺めただけで、やがて何もせずにその部屋を出ていった。


「で?」


水の入った器と布を持って部屋を出るなり、入り口付近の壁にもたれ掛かっていた輝に話しかけられる。


「特に変わりないよ」

「…………へぇ」


晶は、輝の視線を避け、目の前を通り過ぎる。しかし、通り抜ける前に立ち止まり、輝に顔を向けた。


「俺がいない間に、殺さないようにね」

「補償はできねぇな」


鋭利な瞳を室内に走らせ、優羽の姿をとらえた輝の口角があがる。特にそれ以上のことはない。これもいつもの光景。食材が変わっただけで、生活に変化はないと、晶は意識を前に戻す。
優羽を特に意識しているわけではない。あえて言い聞かせるまでもないと、晶は輝を視界から外していた。仕事は終えたのだと、割り切って足を踏み出していた。そうして足を前に踏み出すと同時に、少女の悲鳴がこだまする。はずだった。


「え?」


予想に反した展開に、晶は驚いて足をとめる。振り返ってみると、聞こえるはずの悲鳴は聞こえず、いつもその元凶となる男は、さっきと変わらない位置で、立ったまま、なんとも言えない表情を浮かべていた。


「なんだよ?」


不可解な表情で見つめてくる晶に気づいた輝も不思議そうに晶を見つめ返す。その瞬間、なんとも言えない空気が二人の間に漂った。


「珍しいね」

「お互い様だろーが」


しばらく無言で、お互いの言いたいことを飲み込んでから、ふたりは照らし合わせたように離れていく。どちらの顔も複雑に眉をよせ、戸惑いに唇をむすんでいた。
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