【R18】サディスティックメイト

皐月うしこ

文字の大きさ
上 下
12 / 32
第2章:巡る記憶の回想

第3話:噛み合わない会話(3)

しおりを挟む
「で、どうして手を繋いでいるんですか?」

「縄で縛って吊るされていたかったですか?」


少しわかってきたことだが、萌樹との会話は難しい。
恋人でもないのに指を絡ませ、それも屋敷内の廊下を歩くには不便な距離で微笑み下ろしてくるのに何の意味があるのか。縄で縛って、吊るす。誰が言っても冗談にしか聞こえないその台詞に、信ぴょう性が漂っていることも笑えない。


「それとも檻に閉じ込められたいですか?」

「冗談ですよね?」


チラリと盗み見るように目が合った萌樹には、やはり笑顔でしか答えてもらえなかった。


「ほら逃げない。そういう反応をされると、絞めたくなるから気を付けて」

「も、ちょっと…近…っ」

「そうして抵抗するなら食べてしまいますよ」


今、ここで。
その言葉を聞き終わる前に「ごほん」と咳払いが聞こえてきて助かった。いつからそこにいたのかはわからないが、ここは共有の廊下。執事が立っていても不思議はない。


「冗談です」


清々しいほどの朗らかな声で、萌樹の体が離れていく。幸い、廊下で犯されるという心配はなくなったが、手を繋いで歩くという奇行は続けられた。


「三織の居場所には心当たりがあります」


そう口にされれば従うほかない。
昨日、図書館の窓から見えた中庭。中央に噴水があり、植木が迷路のように入り組んで、花壇に無数の花が咲いている。朝の濃霧もすっかり晴れ、束の間の太陽の光が降り注いでいた。


「太陽の光は、っ」

「大丈夫ですよ。でもそうですね、日陰を歩きましょうか」


いちいち近い。
こうしてここまで一緒に歩いてきたが、階段を降りるときも手を差し伸べ、扉を抜けるときも先を譲り、退屈しない程度の他愛ない会話と、早くも遅くもない歩幅。女性慣れしていると言えばそれまでだが、あまりに違い過ぎる二面性に何か裏でもあるのかと疑いたくもなる。昨日の今日。まだ数時間しか経っていないはずなのに、首を絞めてきた人物と同一人物とは思えない配慮に困惑する。


「あれ、乃亜ちゃん。それに萌樹くんも」


庭に沿って設けられた外廊下を歩いていると、ある花壇の突き当りに目当ての人物はいた。
茅色の髪を持つ三織。どこから調達したのか、長靴をはき、手袋をしたその顔は少し疲れているように見えなくもない。


「すっかり仲良しだね。手なんか繋いじゃって」

「なっ仲良くありません、これは萌樹が勝手に」

「ふぅん。萌樹が勝手に、ねぇ。まあいいや、今はそういうことにしとこうか」


何もよくない。
頬を膨らませてそう訴えてみたが、どうやらこの男にも意思は伝心しにくいらしい。愛嬌のいい笑顔が憎めないところもよくない。勝敗が見える未来に溜息を吐くしか出来なかった乃亜は、会話を諦めて、先ほどから気になっていることを聞いてみることにした。


「何をしているんですか?」

「んー、これ?」


長靴はもちろん、手袋をした手には泥がつき、足元には小さな袋が複数散らばっている。
ガーデニングでも趣味なのだろうか。首を傾げた乃亜の疑問は、それを吹き飛ばすように笑った三織の声に向けられる。


「お目当ての植物がいっぱいあって、採取に夢中になってたら夜が明けちゃった」

「お目当て?」

「そうそう。薬には効果効能が大事でしょ?」

「薬?」

「ちょっと自分の体で先に試したりして、なんとなく目星はついてるんだけどね」


そういって目線だけで案内されたのは屋敷の北にある角部屋。窓が開けっぱなしということは、そこから出入りしているのかもしれない。


「あの部屋ですか?」

「そう、誰も使ってなかったからオレの研究部屋にしたの。覗いてみる?」


聞かれて頷いてみたものの、庭から窓越しに部屋を覗くことになるとは思ってもみなかった。
三織がいったい何の研究をしているのか。一晩中かけて集めたという植物や木の実、キノコも含めると、その数は多い。きっと想像もできない何かを作っているのだろう。乃亜は好奇心の赴くままに、案内される部屋を覗き込んだ。

To be continued...
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

私の愛する夫たちへ

エトカ
恋愛
日高真希(ひだかまき)は、両親の墓参りの帰りに見知らぬ世界に迷い込んでしまう。そこは女児ばかりが命を落とす病が蔓延する世界だった。そのため男女の比率は崩壊し、生き残った女性たちは複数の夫を持たねばならなかった。真希は一妻多夫制度に戸惑いを隠せない。そんな彼女が男たちに愛され、幸せになっていく物語。 *Rシーンは予告なく入ります。 よろしくお願いします!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...