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第19話 戸惑いの刻(前編)
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庭一面を赤く染めていた落ち葉の絨毯もまばらに剥げ、吹き抜ける風の冷たさに小枝が震えている。冬の到来を告げたせいか、外を出歩くには防寒具に身を包まなければならないだろう。
温度管理の行き届いた魅壷邸にその心配は必要ないものの、この季節にしては少し薄着のワンピースを着た優羽でさえ、もう外のテラスで過ごそうとは思わなかった。
それに、今日は朝から灰色の分厚い雲が垂れ込め、お世辞にもいい天気とは言えない。
「ちょっと、今のは反則だよ!?」
陸の声に反応した優羽は、窓の外を眺めていた顔をリビングへと戻す。
「負け惜しみ言うなや!!どぉ見たって正攻法やんけ!?」
仲良くゲームをしていたはずの陸と竜が不穏な空気を漂わせ始めているが、残念ながらその喧嘩を誰も止めようとしていなかった。
「違うよ。僕が反則っていってるんだから反則なんだよ。」
「んな、お子様ルールが通用する思てんのか。ほんま、そういうとこばっかり、親父そっくりやなぁ。」
リビングの中央を陣取った陸と竜はもちろんのこと、晶も輝も戒も各々に好きなことをしてリビングに居座っている。
珍しく兄弟全員が集まっているのは、例の警報が出た日と同じ。仮病という名のずる休みに他ならない。
「優羽、お茶いれようか?」
「あっ、私がいれてくるよ?」
「ダメですよ、ここにいてください。」
台所へ席を立つ晶についていこうと腰をあげたはずの優羽は、戒に抱きつかれてソファーの上に舞い戻った。背後から抱きしめてくる戒の腕の中から、優羽は困ったように晶を見上げる。
「私、冷たいのが飲みたいんだけど。」
「いいよ。」
苦笑しながら晶は台所へ消えていったが、それと同時に、陸と竜の叫び声がこだました。
「うっせぇ!!」
ボンっとクッションを投げつけた輝のおかげで陸と竜の喧嘩はおさまる。ソファーの上で横たわりながらうたたねをしていたのに、邪魔をされたことがよほど癇に障ったのだろう。鋭利な視線をむけながら輝は半身をおこしていた。
「ギャーギャー、ギャーギャー騒いでんじゃねぇよ!!」
「輝だって騒いでんじゃん!」
「ほんまにな。」
うんうんと竜が陸の言葉にうなずいているが、なんとも仲が良さそうな三人に優羽は知らずと顔を綻(ホコロ)ばせる。
外は気持ち悪いほど静かな悪天だが、家の中が明るいと気持ちはそれほど沈まない。
「呑気に笑っている場合じゃないですよ。」
「え?」
斜め後ろから戒の疲れた声が聞こえてきた。
いつもの戒とは少し違う。
誰もがそうだが、どこかピリピリとした音が走っているかのように殺伐とした空気がどんどん部屋に広がっていく。
朝は幾分マシだった空気も昼になった今では、たまに息苦しくなるほど重たく感じる時があった。
「戒?」
抱きしめられたままソファーに座っていた優羽は、その状態を崩さずに、気遣わしげに戒へと振り返る。
「戒、大丈夫?」
「輝ほどではありませんよ。」
「え?」
それはどういう意味だろうと優羽が戒に手を伸ばしかけたその時、「はい。」と、台所から戻ってきた晶にコップを差し出される。
「あ、ありがとう。」
咄嗟に受け取った優羽は、お礼をいいながら窓の外に見える灰色の世界を見つめた。
無音の世界。
渦を巻く薄暗い雲のせいで太陽の光は遮断され、鳥も虫も隠れるように息を潜めているみたいだった。
「あ、雨。」
コップに口をつける寸前で、空の変化に気付いた優羽は、大粒の水滴が地面へと叩きつけられたのを見て呟く。
突然、激しく降り始めた雨に、もともと薄暗かった家の中は、夜とも思えるほど暗く変わっていった。
「みんな、大丈夫?」
窓を打ちつける風も雨も異常なほど荒れ狂っているからか、優羽の声は豪雨の音に混ざってよく聞き取れない。
暗い雰囲気に包まれた室内は、静寂と沈黙が支配しているようだった。
「ッ?!」
朝から機嫌最悪の兄弟に顔を戻した優羽は、思わずゴクリと息を飲む。全員が寝不足なのか風邪気味なのか、疲れたように苛立っているのを見るのは初めてで、その異様さに何故か鳥肌がたった。
「キャァ!?」
雷が落ちたような音に驚いて優羽は叫ぶ。
空の明滅と合わさるように、家の住人たちの顔が光って見えた。
「って、あれ?」
手に持っていたコップの軽さに不自然さを覚えた優羽は、持っていたそれを見て顔を青ざめさせる。
飲み物を盛大にこぼしてしまったまではいいとして、もちろん密着していた戒に、その被害が及んでいる。
「かっ戒ッ!?」
顔面からお茶をあびせてしまった戒に、優羽は慌てて非礼を詫びた。
「大丈夫ですよ。優羽も濡れています。」
「えっ、あっ。タオ──ッ!!?」
再び響いた雷豪に、優羽は悲鳴を飲み込んで窓の外を睨む。
「怖い?」
誰かわからない声が優羽にたずねた。
びしょ濡れのまま戒と密着していた優羽は、その声に答えるように再びリビングへと顔を戻す。
「怖いよ?」
普通の雷ではない。
多少の平常心を見せられるほど大人になったつもりだが、心の準備も何もない状態で突然始まった雷様の祭りにはさすがに畏怖を覚えてしまう。
だけどそうも言っていられない。
「家の中だし平気。風邪引いちゃうから、タオルとってく───」
立ち上がろうとした身体に、重力がのしかかる。
「───戒?」
ふせるようにうつむいた戒の肩に優羽は手をおいて心配そうにその名前を呼ぶ。
反応はない。
「着替える前にタオル持ってくるから待ってて。」
風邪を引いては大変だと、空になったコップをテーブルに置きながら優羽は急いでソファーから腰をあげた。
「みんなも、調子悪そうだから今日は無理しないで休んでね。」
そう言い残してスルリと戒の腕から抜け出た優羽が無事部屋を出て言った途端に、ホッと安堵の息が室内にこぼれおちる。
染みわたるように吐きだされた深い息に、全員の瞳が鋭利に光っていた。
「やべぇな。」
輝がその瞳を細めてつぶやく。
「涼のバカー。頭がグルグルする。」
「陸だけではありませんよ。体内の血が沸騰しているみたいに熱いです。」
「どないするん?」
うなだれる陸と戒を横目に、竜が晶を見上げる。まだ幾分かマシな表情に見える晶と竜でさえ、その顔には我慢と苛立ちがにじんでいた。
優羽が戻るまできっと数分もないだろう。このまま平然とした装いを保ち続けることは出来そうにないと、その場にいる誰もが纏(マト)う雰囲気で物語っている。
「優羽には、眠ってもらおうと思ったんだけどね。」
「失敗やったやん。」
テーブルの上に置き去りにされたコップを見つめながら竜がつっこんだ。
「せやけど、なんでまた急に。」
「優羽が名前を呼んだことで、自我が戻ってきたんじゃねぇの?」
「優羽に電話をかけてくるくらいだから、案外そうかもしれないね。」
何にせよ憶測では解決にならない。
年長者達がいくら議論したところで、弟たちの症状が緩和されるわけでもなければ、自分達の状態が落ち着くわけでもないことは知っている。
「ほんまに戻ってくるんかいな。」
「それは、どうだろうな。」
頭痛がひどいのか、額に手を当てながら再びソファーに寝転がる輝を横目に竜は窓の空を見上げる。
グルグルと不気味な渦を巻いて雨嵐を吹かせる空に、世間は異常気象の原因を探っていることだろう。原因なんて探さなくても決まっている。
もうすぐ家族がそろう。
ただそれだけのこと。
「優羽に看病してもらうしか、なさそうだね。」
晶の発言に全員が顔をひきつらせる。
外の天気から自分の手のひらに視線を落としていた竜でさえ、ひきつった顔で晶を見上げた。
「マジで言うてんの?」
「今の僕たち相手にしたら優羽、壊れちゃうよ?」
「壊さねぇって保証は出来ねぇぜ?」
賛同した陸と輝の声に、全員がそろって遠い目をする。
負けても苦悶。勝っても苦悶。
やりたくもない勝負に参加させられた上、強制的に罰ゲームをやらされているような何とも言えない屈辱的な感覚を否定できない。
「全身がムカムカします。」
「そりゃそうだろ。涼も今頃、この頭痛と吐き気に暴れてんじゃね。」
「父さんが行ってるから大丈夫だと思うよ。」
「父さんだけ平気とか、それも不公平すぎるんだけど。ってあれ、戒は?」
気持ち悪そうにうなだれた陸が、さっきまで同じようにうなだれていたはずの戒がいないことに気づいて首をかしげる。途端に、全員が頭を抱えて欲望との戦いに決着をつけたらしい。
「優羽には悪いけど、俺たちも行くしかない。かな?」
「ほんまは、悪い思てへんくせに。」
「晶、嬉しそうだもんね。」
「しゃあねぇ、あの部屋使うように戒に電話すっか。」
重たい腰をあげようとした彼らは、そろって輝の行動をじっと見つめていた。
「つながった?」
どこか弾む陸の声に、輝は無言で首を横にふる。
「優羽ちゃーん。でろよー。」
中々つながらない着信相手を待ち切れなかった輝は、大きくため息をこぼしてから違う相手の番号を押した。
─────♪……♪♪~♪…♪
突然鳴ったコール音に気付いた優羽は、濡れた服のままタオルを取るために背伸びをしていた手を止めて、代わりにポケットに突っ込んでいた電話を取り出す。
耳に押し当てるなり聞こえてきたのは、輝の声。
「うん。今は一人だけど、どうかしたの?」
「戒に例の部屋使えって言えるか?」
「え?」
片手にタオル、もう片手で耳にあてた携帯を持ちながら優羽はその場に立ち尽くす。
変な聞き方だと思った。言えるか?と尋ねられたのは生まれてはじめてで、言い間違いじゃないかと輝に指摘する前に、優羽は戒が扉を叩く音を聞く。
「あっ、戒が来たみたい。」
電話越しの輝に告げながら、優羽は部屋の扉をあけた。
「遅くなってごめんなさい。タオル今持って行こうと思ってたの。」
相変わらず具合が悪そうだが、濡れた服のままここまで歩いてきた戒を優羽は慌てて中に招き入れる。そして、戒の身体を取り出したばかりのタオルで拭くために、優羽は輝の電話を切って戒のもとにひざまずいた。
「戒。あのね、輝が例の部屋使えって伝えてくれって言ってたんだけど、意味わかる?」
大人しくされるがままの身体をタオルでふきながらそっと見上げる。
「かっ戒?」
水も滴るいい男というが、半乾きの服でもその効果はあるに違いない。
じっと、熱いまなざしで見下ろしてくる無言の戒に、なぜか顔が赤くなってくる。
「聞いてキャアッ?!」
肩に担ぎあげんばかりの勢いでグイッと腕を引き上げられた優羽は、驚愕の悲鳴をあげて廊下を歩き始めた戒の後に続いた。
勢い余って落としてしまったタオルが部屋と扉の間に置き去りにされているが、それを拾いに戻る暇は与えてくれそうにない。
「かっ戒?」
ついには抱き上げてきた戒に、優羽は狼狽えながら浮いた体をバタつかせたが、戒はよしよしと優羽の足を撫でただけで止まろうとはしなかった。
「優羽、嵐がおさまるまで一緒にいてくれませんか?」
思いもよらない戒の告白に、肩にかつぎ上げられたまま優羽はクスリと笑う。
「戒。まさか、雷が苦手なの?」
意外な弱点を知ったかもしれないと嬉しさを含んだ優羽の声は、直後に落ちた雷の音で悲鳴にかわる。
これには、戒がクスリと笑みをむけた。
「優羽、聞こえますか?」
立ち止まった戒が階段の踊り場にある大きな窓の外を見上げる。
それにならって顔を向けると、風と雨が唸り声をあげて窓を打ち付けていた。
「え、戒は何か聞こえるの?」
窓を開ければ、それこそ暴風雨の音が聞こえるかもしれないが、ここは家の中。シンと静まり返った室内に物音は聞こえない。
「戒?」
再び無言で歩き始めた戒に運ばれながら、優羽は首をかしげた。
どこに行こうとしているのかはわからないが、優羽の部屋がある三階へと戒は階段をのぼっていく。
「でも、ヒドイ天気だよね。朝見た天気予報では晴れるって言ってたのに。」
突然の異常事態に、慌てて警報を知らせていた朝のニュース番組を思い出す。たしかに今夜は満月が綺麗に見える冬の晴れ空のはずなのにと、お天気のお姉さんが泣きそうな声で言っていた。
「ねぇ、戒はどこに向かってるの?」
優羽は抱き運ぶ戒の顔を見ようとその顔を覗きこむ。
「戒?」
かすかな横顔しかみえなかったが、黙ったままの戒がいつもと違うようにみえてどんどん不安が募ってくる。
なんだか怖い。
「ねぇ、かっキャッ?!」
突然優羽の体は宙に浮いて、弧を描くようにある部屋に投げ込まれた。
ポンポンと軽くリバウンドする地面の正体に、目をつぶって痛みが訪れるのを覚悟していた優羽は、辺りをうかがうようにそっとその目を開ける。
「ッ?!」
驚いて辺りを見渡した優羽は、部屋全体が巨大なベッドのような構造に息をのんで体を起こした。
入ったことは一度もない。
てっきり自分の部屋に運ばれるだろうと思っていたのに、まさか自室の隣がこんな部屋になっているとは想像もつかなかった。
心地よい空間のはずなのに、なぜかドキドキと心音が乱れ始める。
「優羽。」
名前を呼ぶ戒の声にいい予感はしない。
「なっなに?」
声が震える。
上に重なるように手をついてきた戒のせいで、広いベッドの海は、そこだけ二人分の重力で沈んでいた。
「ッ?!」
襲いくるように唇をよせてきた戒に、一瞬、心臓が止まったかと思った。
だけど、その痺れるような熱い口づけに、どくどくと脈が全身を駆け抜けていく。
「戒ッ…~ァ…んっ」
押し倒されていく意識の中で、ふとあけた視界に戒の瞳がうつる。
「ッ?!」
銀色とも薄い碧ともつかない不思議な色をした戒の目がジッと優羽を見下ろしていた。有り得ない現象に息をのんでいるうちに、その光はスーっと音もなく消えていく。
「えっ、戒?」
見間違いだっただろうかと、優羽は消えた光の正体を確かめるように戒の目を見つめた。
「何かありましたか?」
「えっなン!?」
再びふってきた激しい口づけに呼吸が荒く変わっていく。
濡れた服のすそをめくる戒の手が、優羽の下着を強引に引きずり下ろしてきた。
いつもの優しい戒ではない。
噛みつくように襲ってくるキスも、押し潰すように迫ってくる吐息も、強引に服を裂いていく爪も、何もかもが戒なのに戒じゃなかった。
抵抗するつもりなんかないのに、驚いた脳が勝手に戒の行為を否定しようと腕を伸ばす。
「大人しくしてください。」
「ッアッ?!」
深く足を折り畳もうとしてくる戒の力強さに圧倒される。頭の中が混乱して、何がなんだかわからなかった。
「戒ッ待ってそんなイキナッぁ──」
「優羽。」
「────ッ!!?」
そんな顔をされても困る。
愛撫もなく割り込んでくる戒を押し退けようとしていたのに、吐息をこぼしながら潤んだ瞳で見下ろしてくる妖艶さに眩暈がする。
すべてを許してしまいそうなほど、戒の熱にあてられて、奥から蜜が溢れ出そうとしていた。
「ッう」
入口をめり込んでくる圧力に、思わず優羽は眉をしかめた。
段々埋まってくる戒の肩をわしづかみ、爪を食い込ませながら深く息を吐き出す。
はぁはぁと、震える足に合わせて、か細く呼吸も乱れていた。
「優羽、可愛いですよ。」
引き裂くように割り込んでくる戒は、吐息を震わせてもだえる優羽を不思議な色をした目で見下ろす。
潤んだ瞳に混乱と恐怖を浮かべながらも、これから訪れる快楽への期待なのか、知らずに笑っている少女の姿に心が震えていた。
「優しくしてあげたいのですが───」
異物の侵入に抵抗をみせる優羽の秘部を犯して、戒は奥までいっきに貫く。
快痛に泣いてのけぞる優羽の首筋に舌をはわせながら、ゾクゾクと込み上げてくる快楽の始まりに、優越と愛しさが止まらなかった。
「────お願いされても出来ません。」
「ヒッ…ぅッ…アッ」
無理矢理突き上げてくる戒の力に、優羽の身体中が悲鳴をあげる。
生理的な涙がこぼれ落ちるが、律動に擦りあげられる秘部には確かに愛蜜が滴っていた。
「アァッ…ッヤ…戒ッアッ」
奥深くまで垂直に刺さる腰と少量の潤滑油に、内壁がゴリゴリと削り取られていく。押さえ込まれた足に逃げることも叶わず、ただただ犯されていく可憐な花弁がめくれて、戒の腕を掴む指先に力がこもる。
「アッ苦しッんイッやアァ」
「優羽、いい顔してますよ。」
「ヒぁッんっ~いッ戒」
痛みが徐々に薄れ、与えられる鈍痛が快感に変わっていく。
始めは油の刺さっていないブリキの玩具のように、ぎこちなく動いていた律動も段々とスムーズに動き始めていた。
「アッ…~っ…アッアあ…あ」
どこからこんな声が出るのだろう。
甘えるように高く、すがるように熱を帯びた鳴き声がどこか遠くから聞こえてくるかのように、頭の中をこだましている。
「アッぁ戒ッ気持ちイッあぁ」
前後に揺れるだけの体がこんなに気持ちよくなる方法は、彼らから教えてもらった。
毎日毎日、飽きることなく交互に教え込まれた卑猥な遊びは魅惑の味となって身体中に染み付いている。
「ヒッアッぁアあぁ」
声が止まらない。
密着してくる戒の濡れた服の冷たさが、どんどん熱くなる身体に心地よくへばりついていた。
「慣れてきたようですね。声が変わりましたけど、気持ちいいですか?」
強引に押し込まれていた塊が、引き抜かれるたびに淫湿にぬめりをおびていく。
怖いくらいに打ちつけてくる戒を不安そうに見上げながらも、たしかに刻み込まれていく快楽の印に潤瞳の視線が絡み合う。
「やアァッ?!」
体が勝手にはね上がるほどキモチイイ場所を戒は知っている。
角度を変えて、内部の状態を探るようにつつき始めた腰の動きに優羽の声が暴れていく。
「優羽、もっと鳴いてください。」
「ッ!!?」
ビクンっと、大きく目を見開いた優羽の視界に余裕で微笑む戒の顔がうつる。
卑怯だと思った。
こんな時なのに、こんな時だからこそ、その熱の違いに我慢ができなくなる。
「いっイクッぁダメ戒ッアぁあっ───」
十字に交わる蜜穴からジュボジュボと聞きたくもない音が溢れ出してイク。
「───いやッイヤぁぁっぁあッ」
足の指先までピンと伸ばし、戒の腕に爪先をめり込ませながら、優羽は弓なりにのけぞるようにして果てた。
「ッ?!」
それでも終わらない仕打ちに、涙目で絶頂を味わった優羽は半身を起こしながらその先を否定する。
「ああ、いいですね。」
足から腰に置く手を変えた戒が本格的に動き始める合図かのように、ニコリと笑った。
温度管理の行き届いた魅壷邸にその心配は必要ないものの、この季節にしては少し薄着のワンピースを着た優羽でさえ、もう外のテラスで過ごそうとは思わなかった。
それに、今日は朝から灰色の分厚い雲が垂れ込め、お世辞にもいい天気とは言えない。
「ちょっと、今のは反則だよ!?」
陸の声に反応した優羽は、窓の外を眺めていた顔をリビングへと戻す。
「負け惜しみ言うなや!!どぉ見たって正攻法やんけ!?」
仲良くゲームをしていたはずの陸と竜が不穏な空気を漂わせ始めているが、残念ながらその喧嘩を誰も止めようとしていなかった。
「違うよ。僕が反則っていってるんだから反則なんだよ。」
「んな、お子様ルールが通用する思てんのか。ほんま、そういうとこばっかり、親父そっくりやなぁ。」
リビングの中央を陣取った陸と竜はもちろんのこと、晶も輝も戒も各々に好きなことをしてリビングに居座っている。
珍しく兄弟全員が集まっているのは、例の警報が出た日と同じ。仮病という名のずる休みに他ならない。
「優羽、お茶いれようか?」
「あっ、私がいれてくるよ?」
「ダメですよ、ここにいてください。」
台所へ席を立つ晶についていこうと腰をあげたはずの優羽は、戒に抱きつかれてソファーの上に舞い戻った。背後から抱きしめてくる戒の腕の中から、優羽は困ったように晶を見上げる。
「私、冷たいのが飲みたいんだけど。」
「いいよ。」
苦笑しながら晶は台所へ消えていったが、それと同時に、陸と竜の叫び声がこだました。
「うっせぇ!!」
ボンっとクッションを投げつけた輝のおかげで陸と竜の喧嘩はおさまる。ソファーの上で横たわりながらうたたねをしていたのに、邪魔をされたことがよほど癇に障ったのだろう。鋭利な視線をむけながら輝は半身をおこしていた。
「ギャーギャー、ギャーギャー騒いでんじゃねぇよ!!」
「輝だって騒いでんじゃん!」
「ほんまにな。」
うんうんと竜が陸の言葉にうなずいているが、なんとも仲が良さそうな三人に優羽は知らずと顔を綻(ホコロ)ばせる。
外は気持ち悪いほど静かな悪天だが、家の中が明るいと気持ちはそれほど沈まない。
「呑気に笑っている場合じゃないですよ。」
「え?」
斜め後ろから戒の疲れた声が聞こえてきた。
いつもの戒とは少し違う。
誰もがそうだが、どこかピリピリとした音が走っているかのように殺伐とした空気がどんどん部屋に広がっていく。
朝は幾分マシだった空気も昼になった今では、たまに息苦しくなるほど重たく感じる時があった。
「戒?」
抱きしめられたままソファーに座っていた優羽は、その状態を崩さずに、気遣わしげに戒へと振り返る。
「戒、大丈夫?」
「輝ほどではありませんよ。」
「え?」
それはどういう意味だろうと優羽が戒に手を伸ばしかけたその時、「はい。」と、台所から戻ってきた晶にコップを差し出される。
「あ、ありがとう。」
咄嗟に受け取った優羽は、お礼をいいながら窓の外に見える灰色の世界を見つめた。
無音の世界。
渦を巻く薄暗い雲のせいで太陽の光は遮断され、鳥も虫も隠れるように息を潜めているみたいだった。
「あ、雨。」
コップに口をつける寸前で、空の変化に気付いた優羽は、大粒の水滴が地面へと叩きつけられたのを見て呟く。
突然、激しく降り始めた雨に、もともと薄暗かった家の中は、夜とも思えるほど暗く変わっていった。
「みんな、大丈夫?」
窓を打ちつける風も雨も異常なほど荒れ狂っているからか、優羽の声は豪雨の音に混ざってよく聞き取れない。
暗い雰囲気に包まれた室内は、静寂と沈黙が支配しているようだった。
「ッ?!」
朝から機嫌最悪の兄弟に顔を戻した優羽は、思わずゴクリと息を飲む。全員が寝不足なのか風邪気味なのか、疲れたように苛立っているのを見るのは初めてで、その異様さに何故か鳥肌がたった。
「キャァ!?」
雷が落ちたような音に驚いて優羽は叫ぶ。
空の明滅と合わさるように、家の住人たちの顔が光って見えた。
「って、あれ?」
手に持っていたコップの軽さに不自然さを覚えた優羽は、持っていたそれを見て顔を青ざめさせる。
飲み物を盛大にこぼしてしまったまではいいとして、もちろん密着していた戒に、その被害が及んでいる。
「かっ戒ッ!?」
顔面からお茶をあびせてしまった戒に、優羽は慌てて非礼を詫びた。
「大丈夫ですよ。優羽も濡れています。」
「えっ、あっ。タオ──ッ!!?」
再び響いた雷豪に、優羽は悲鳴を飲み込んで窓の外を睨む。
「怖い?」
誰かわからない声が優羽にたずねた。
びしょ濡れのまま戒と密着していた優羽は、その声に答えるように再びリビングへと顔を戻す。
「怖いよ?」
普通の雷ではない。
多少の平常心を見せられるほど大人になったつもりだが、心の準備も何もない状態で突然始まった雷様の祭りにはさすがに畏怖を覚えてしまう。
だけどそうも言っていられない。
「家の中だし平気。風邪引いちゃうから、タオルとってく───」
立ち上がろうとした身体に、重力がのしかかる。
「───戒?」
ふせるようにうつむいた戒の肩に優羽は手をおいて心配そうにその名前を呼ぶ。
反応はない。
「着替える前にタオル持ってくるから待ってて。」
風邪を引いては大変だと、空になったコップをテーブルに置きながら優羽は急いでソファーから腰をあげた。
「みんなも、調子悪そうだから今日は無理しないで休んでね。」
そう言い残してスルリと戒の腕から抜け出た優羽が無事部屋を出て言った途端に、ホッと安堵の息が室内にこぼれおちる。
染みわたるように吐きだされた深い息に、全員の瞳が鋭利に光っていた。
「やべぇな。」
輝がその瞳を細めてつぶやく。
「涼のバカー。頭がグルグルする。」
「陸だけではありませんよ。体内の血が沸騰しているみたいに熱いです。」
「どないするん?」
うなだれる陸と戒を横目に、竜が晶を見上げる。まだ幾分かマシな表情に見える晶と竜でさえ、その顔には我慢と苛立ちがにじんでいた。
優羽が戻るまできっと数分もないだろう。このまま平然とした装いを保ち続けることは出来そうにないと、その場にいる誰もが纏(マト)う雰囲気で物語っている。
「優羽には、眠ってもらおうと思ったんだけどね。」
「失敗やったやん。」
テーブルの上に置き去りにされたコップを見つめながら竜がつっこんだ。
「せやけど、なんでまた急に。」
「優羽が名前を呼んだことで、自我が戻ってきたんじゃねぇの?」
「優羽に電話をかけてくるくらいだから、案外そうかもしれないね。」
何にせよ憶測では解決にならない。
年長者達がいくら議論したところで、弟たちの症状が緩和されるわけでもなければ、自分達の状態が落ち着くわけでもないことは知っている。
「ほんまに戻ってくるんかいな。」
「それは、どうだろうな。」
頭痛がひどいのか、額に手を当てながら再びソファーに寝転がる輝を横目に竜は窓の空を見上げる。
グルグルと不気味な渦を巻いて雨嵐を吹かせる空に、世間は異常気象の原因を探っていることだろう。原因なんて探さなくても決まっている。
もうすぐ家族がそろう。
ただそれだけのこと。
「優羽に看病してもらうしか、なさそうだね。」
晶の発言に全員が顔をひきつらせる。
外の天気から自分の手のひらに視線を落としていた竜でさえ、ひきつった顔で晶を見上げた。
「マジで言うてんの?」
「今の僕たち相手にしたら優羽、壊れちゃうよ?」
「壊さねぇって保証は出来ねぇぜ?」
賛同した陸と輝の声に、全員がそろって遠い目をする。
負けても苦悶。勝っても苦悶。
やりたくもない勝負に参加させられた上、強制的に罰ゲームをやらされているような何とも言えない屈辱的な感覚を否定できない。
「全身がムカムカします。」
「そりゃそうだろ。涼も今頃、この頭痛と吐き気に暴れてんじゃね。」
「父さんが行ってるから大丈夫だと思うよ。」
「父さんだけ平気とか、それも不公平すぎるんだけど。ってあれ、戒は?」
気持ち悪そうにうなだれた陸が、さっきまで同じようにうなだれていたはずの戒がいないことに気づいて首をかしげる。途端に、全員が頭を抱えて欲望との戦いに決着をつけたらしい。
「優羽には悪いけど、俺たちも行くしかない。かな?」
「ほんまは、悪い思てへんくせに。」
「晶、嬉しそうだもんね。」
「しゃあねぇ、あの部屋使うように戒に電話すっか。」
重たい腰をあげようとした彼らは、そろって輝の行動をじっと見つめていた。
「つながった?」
どこか弾む陸の声に、輝は無言で首を横にふる。
「優羽ちゃーん。でろよー。」
中々つながらない着信相手を待ち切れなかった輝は、大きくため息をこぼしてから違う相手の番号を押した。
─────♪……♪♪~♪…♪
突然鳴ったコール音に気付いた優羽は、濡れた服のままタオルを取るために背伸びをしていた手を止めて、代わりにポケットに突っ込んでいた電話を取り出す。
耳に押し当てるなり聞こえてきたのは、輝の声。
「うん。今は一人だけど、どうかしたの?」
「戒に例の部屋使えって言えるか?」
「え?」
片手にタオル、もう片手で耳にあてた携帯を持ちながら優羽はその場に立ち尽くす。
変な聞き方だと思った。言えるか?と尋ねられたのは生まれてはじめてで、言い間違いじゃないかと輝に指摘する前に、優羽は戒が扉を叩く音を聞く。
「あっ、戒が来たみたい。」
電話越しの輝に告げながら、優羽は部屋の扉をあけた。
「遅くなってごめんなさい。タオル今持って行こうと思ってたの。」
相変わらず具合が悪そうだが、濡れた服のままここまで歩いてきた戒を優羽は慌てて中に招き入れる。そして、戒の身体を取り出したばかりのタオルで拭くために、優羽は輝の電話を切って戒のもとにひざまずいた。
「戒。あのね、輝が例の部屋使えって伝えてくれって言ってたんだけど、意味わかる?」
大人しくされるがままの身体をタオルでふきながらそっと見上げる。
「かっ戒?」
水も滴るいい男というが、半乾きの服でもその効果はあるに違いない。
じっと、熱いまなざしで見下ろしてくる無言の戒に、なぜか顔が赤くなってくる。
「聞いてキャアッ?!」
肩に担ぎあげんばかりの勢いでグイッと腕を引き上げられた優羽は、驚愕の悲鳴をあげて廊下を歩き始めた戒の後に続いた。
勢い余って落としてしまったタオルが部屋と扉の間に置き去りにされているが、それを拾いに戻る暇は与えてくれそうにない。
「かっ戒?」
ついには抱き上げてきた戒に、優羽は狼狽えながら浮いた体をバタつかせたが、戒はよしよしと優羽の足を撫でただけで止まろうとはしなかった。
「優羽、嵐がおさまるまで一緒にいてくれませんか?」
思いもよらない戒の告白に、肩にかつぎ上げられたまま優羽はクスリと笑う。
「戒。まさか、雷が苦手なの?」
意外な弱点を知ったかもしれないと嬉しさを含んだ優羽の声は、直後に落ちた雷の音で悲鳴にかわる。
これには、戒がクスリと笑みをむけた。
「優羽、聞こえますか?」
立ち止まった戒が階段の踊り場にある大きな窓の外を見上げる。
それにならって顔を向けると、風と雨が唸り声をあげて窓を打ち付けていた。
「え、戒は何か聞こえるの?」
窓を開ければ、それこそ暴風雨の音が聞こえるかもしれないが、ここは家の中。シンと静まり返った室内に物音は聞こえない。
「戒?」
再び無言で歩き始めた戒に運ばれながら、優羽は首をかしげた。
どこに行こうとしているのかはわからないが、優羽の部屋がある三階へと戒は階段をのぼっていく。
「でも、ヒドイ天気だよね。朝見た天気予報では晴れるって言ってたのに。」
突然の異常事態に、慌てて警報を知らせていた朝のニュース番組を思い出す。たしかに今夜は満月が綺麗に見える冬の晴れ空のはずなのにと、お天気のお姉さんが泣きそうな声で言っていた。
「ねぇ、戒はどこに向かってるの?」
優羽は抱き運ぶ戒の顔を見ようとその顔を覗きこむ。
「戒?」
かすかな横顔しかみえなかったが、黙ったままの戒がいつもと違うようにみえてどんどん不安が募ってくる。
なんだか怖い。
「ねぇ、かっキャッ?!」
突然優羽の体は宙に浮いて、弧を描くようにある部屋に投げ込まれた。
ポンポンと軽くリバウンドする地面の正体に、目をつぶって痛みが訪れるのを覚悟していた優羽は、辺りをうかがうようにそっとその目を開ける。
「ッ?!」
驚いて辺りを見渡した優羽は、部屋全体が巨大なベッドのような構造に息をのんで体を起こした。
入ったことは一度もない。
てっきり自分の部屋に運ばれるだろうと思っていたのに、まさか自室の隣がこんな部屋になっているとは想像もつかなかった。
心地よい空間のはずなのに、なぜかドキドキと心音が乱れ始める。
「優羽。」
名前を呼ぶ戒の声にいい予感はしない。
「なっなに?」
声が震える。
上に重なるように手をついてきた戒のせいで、広いベッドの海は、そこだけ二人分の重力で沈んでいた。
「ッ?!」
襲いくるように唇をよせてきた戒に、一瞬、心臓が止まったかと思った。
だけど、その痺れるような熱い口づけに、どくどくと脈が全身を駆け抜けていく。
「戒ッ…~ァ…んっ」
押し倒されていく意識の中で、ふとあけた視界に戒の瞳がうつる。
「ッ?!」
銀色とも薄い碧ともつかない不思議な色をした戒の目がジッと優羽を見下ろしていた。有り得ない現象に息をのんでいるうちに、その光はスーっと音もなく消えていく。
「えっ、戒?」
見間違いだっただろうかと、優羽は消えた光の正体を確かめるように戒の目を見つめた。
「何かありましたか?」
「えっなン!?」
再びふってきた激しい口づけに呼吸が荒く変わっていく。
濡れた服のすそをめくる戒の手が、優羽の下着を強引に引きずり下ろしてきた。
いつもの優しい戒ではない。
噛みつくように襲ってくるキスも、押し潰すように迫ってくる吐息も、強引に服を裂いていく爪も、何もかもが戒なのに戒じゃなかった。
抵抗するつもりなんかないのに、驚いた脳が勝手に戒の行為を否定しようと腕を伸ばす。
「大人しくしてください。」
「ッアッ?!」
深く足を折り畳もうとしてくる戒の力強さに圧倒される。頭の中が混乱して、何がなんだかわからなかった。
「戒ッ待ってそんなイキナッぁ──」
「優羽。」
「────ッ!!?」
そんな顔をされても困る。
愛撫もなく割り込んでくる戒を押し退けようとしていたのに、吐息をこぼしながら潤んだ瞳で見下ろしてくる妖艶さに眩暈がする。
すべてを許してしまいそうなほど、戒の熱にあてられて、奥から蜜が溢れ出そうとしていた。
「ッう」
入口をめり込んでくる圧力に、思わず優羽は眉をしかめた。
段々埋まってくる戒の肩をわしづかみ、爪を食い込ませながら深く息を吐き出す。
はぁはぁと、震える足に合わせて、か細く呼吸も乱れていた。
「優羽、可愛いですよ。」
引き裂くように割り込んでくる戒は、吐息を震わせてもだえる優羽を不思議な色をした目で見下ろす。
潤んだ瞳に混乱と恐怖を浮かべながらも、これから訪れる快楽への期待なのか、知らずに笑っている少女の姿に心が震えていた。
「優しくしてあげたいのですが───」
異物の侵入に抵抗をみせる優羽の秘部を犯して、戒は奥までいっきに貫く。
快痛に泣いてのけぞる優羽の首筋に舌をはわせながら、ゾクゾクと込み上げてくる快楽の始まりに、優越と愛しさが止まらなかった。
「────お願いされても出来ません。」
「ヒッ…ぅッ…アッ」
無理矢理突き上げてくる戒の力に、優羽の身体中が悲鳴をあげる。
生理的な涙がこぼれ落ちるが、律動に擦りあげられる秘部には確かに愛蜜が滴っていた。
「アァッ…ッヤ…戒ッアッ」
奥深くまで垂直に刺さる腰と少量の潤滑油に、内壁がゴリゴリと削り取られていく。押さえ込まれた足に逃げることも叶わず、ただただ犯されていく可憐な花弁がめくれて、戒の腕を掴む指先に力がこもる。
「アッ苦しッんイッやアァ」
「優羽、いい顔してますよ。」
「ヒぁッんっ~いッ戒」
痛みが徐々に薄れ、与えられる鈍痛が快感に変わっていく。
始めは油の刺さっていないブリキの玩具のように、ぎこちなく動いていた律動も段々とスムーズに動き始めていた。
「アッ…~っ…アッアあ…あ」
どこからこんな声が出るのだろう。
甘えるように高く、すがるように熱を帯びた鳴き声がどこか遠くから聞こえてくるかのように、頭の中をこだましている。
「アッぁ戒ッ気持ちイッあぁ」
前後に揺れるだけの体がこんなに気持ちよくなる方法は、彼らから教えてもらった。
毎日毎日、飽きることなく交互に教え込まれた卑猥な遊びは魅惑の味となって身体中に染み付いている。
「ヒッアッぁアあぁ」
声が止まらない。
密着してくる戒の濡れた服の冷たさが、どんどん熱くなる身体に心地よくへばりついていた。
「慣れてきたようですね。声が変わりましたけど、気持ちいいですか?」
強引に押し込まれていた塊が、引き抜かれるたびに淫湿にぬめりをおびていく。
怖いくらいに打ちつけてくる戒を不安そうに見上げながらも、たしかに刻み込まれていく快楽の印に潤瞳の視線が絡み合う。
「やアァッ?!」
体が勝手にはね上がるほどキモチイイ場所を戒は知っている。
角度を変えて、内部の状態を探るようにつつき始めた腰の動きに優羽の声が暴れていく。
「優羽、もっと鳴いてください。」
「ッ!!?」
ビクンっと、大きく目を見開いた優羽の視界に余裕で微笑む戒の顔がうつる。
卑怯だと思った。
こんな時なのに、こんな時だからこそ、その熱の違いに我慢ができなくなる。
「いっイクッぁダメ戒ッアぁあっ───」
十字に交わる蜜穴からジュボジュボと聞きたくもない音が溢れ出してイク。
「───いやッイヤぁぁっぁあッ」
足の指先までピンと伸ばし、戒の腕に爪先をめり込ませながら、優羽は弓なりにのけぞるようにして果てた。
「ッ?!」
それでも終わらない仕打ちに、涙目で絶頂を味わった優羽は半身を起こしながらその先を否定する。
「ああ、いいですね。」
足から腰に置く手を変えた戒が本格的に動き始める合図かのように、ニコリと笑った。
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