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第16話 新たなる刺客(後編)

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夕食後、お風呂も入り、優羽は一人自室で悶々とした気持ちを吐き出していた。
時間がたてばたつほど、苛立ちが増してくる。


「全然意味がわからないんだけど!」


理解不能も一周すれば、考えることを諦めて苛立ちに変わる。
教えてくれる気のない家族の面々に、そんな薄情だとは知らなかったと、優羽は自室なのをいいことに、大声でわめきたてていた。


「涼の時は散々、私をいじめたくせに、なんで竜とかいう人にはいいわけ?」


今夜を共に過ごせと、命令じゃなければお断りだ。
他人といっても過言じゃない男が、家族の一員になることだけでも驚きなのに、そんなことがどうでもよくなるほどに落胆の気持ちは大きかった。

はぁ~っと、吐き出した息が寂しさを吸い込む。


「私だけ何も知らない。」


突っ伏したベッドの上で小さなつぶやきが落ちるのも無理はなかった。
彼らの言動が引っ掛かるのは、何も今に始まったことではない。
何度も何度も言葉の端々に、違和感や疑問を感じることはあったが、まるで靄(モヤ)にかかったようにその先は不透明なまま。教えてもくれない。


「ひどいよ。私だって家族な、アッ!」


その時、妙案が浮かんで、優羽はポンっと顔をあげた。


「試されているのかもしれない。」


浮気をしないかどうか、誰かが内緒で雇った人かもしれない。
あの時の彼らのお仕置きは思い出すのも恐ろしいが、簡単に身体を許さないと誓った約束は忘れていない。
一番有力な結論にいたった優羽は、そうだったのかと一人納得しながら首を縦にふる。


「ん?」


誰かが部屋の扉を叩く音がする。


「はーい。」


優羽は無警戒に、パタパタと部屋の入り口をあけて尋ね人を迎え入れた。


「やっほー。アカンで、そんな無警戒にドアなんかあけたら。危ない人が入ってきたらどぉす───」

「ッ?!」

「───こーら。優羽、危ないやろ?」


侵入者の阻止は失敗に終わった。
勢いよくドアを閉めたはずなのに、足でせき止められた扉は意図も簡単に客人を中へと招き入れる。

パタンと、乾いた音が部屋に響いた。


「お邪魔します。」


警戒心が全身をかけぬける。
キョロキョロと部屋を見渡すようにどんどん侵入してくる竜の歩幅に合わせて後退していた優羽は、ボスッと柔らかな音をたててベッドへとつまずいた。


「なにしてんの。」


クスクスと苦笑して引き起こしてくれる竜に、なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
逞しい腕と繊細な指先、引き締まった体と鋭い瞳。第一印象は怖さしかなかったが、よく見るととても整った容姿を持ってることに気付く。


「そんな見つめんとって。」


照れるやん。と、笑う顔が可愛い。
立ったまま向かい合う状態で、優羽は竜を見上げたまま、じっとその顔を見つめていた。

どこかで会ったことがあるだろうか。

どれだけ見つめてみても、やっぱり記憶の中にその姿は見つからない。


「優羽。」


一生の不覚。
両手で包まれるように上を向かせられた顔に、竜の唇が降り落ちてくる。


「ンンッ?!」


身長差のある竜に犯される口内に、抵抗したくても優羽の体は竜の手のひらしかつかめない。
警鐘を鳴らす本能に従うように、優羽はその頬を横から思いっきりひっぱたいた。

はぁはぁと、肩で息をしながら唇を拭(ヌグ)う手が震える。


「ヒッ?!」


叩かれた反動で体を離した竜の視線に、優羽は反射的な悲鳴をあげた。
その目は知っている。
欲望と愛憎にまみれた行為の前に、猛獣が見せる狩りの瞳。


「んー。話には聞いとったけど、実際ヤられると結構くるもんあるなぁ。」


クスクスと竜が笑う。
何がそんなにおかしいのか、叩かれた頬をその指先でなぞりながら、視線を優羽に流すように上から見下ろしてくる。


「優しくしたるから、こっちおいで。」


甘い声で誘う両手に飛び込んでなんかいけるわけがない。
知らずに後退した身体に、竜が一歩近づいてくる。


「警戒心むき出しなんも可愛いけど、あんま無理矢理は好きちゃうんやわ。」

「こっこないで!」


声が震える。
けれど、ここは逃げ場がひとつしかない自分の部屋。


「やッ、いや?!」


脇を通り抜けようとした優羽の身体は意図も簡単に竜に捕まった。
恐怖のあまり青ざめた顔でジタバタと暴れる優羽をなだめるように、竜はよしよしと後頭部を撫でてくる。

輝とはまた違った頭の撫で方に、知らずと心が落ち着く。


「ッや、ヤメッ───」

「ほら、ええ子やからじっとし。」

「───ッ?!」


耳元で低く甘く囁く声とは裏腹に、後頭部を撫でていた手は服を脱がし、腰に手を回して体を密着させていく。抵抗むなしくお風呂上がりに身につけた薄い下着までも剥ぎ取られた優羽は、今度は打って変わって竜の腕の中で小さく震えていた。


「ええから、見せて。」

「ヤッ?!」

「あいつらに跡残されて、毎日可愛がってもろてるんやろ?」


こうなったら意地でも開かないと、固く閉じる貝のようにうつむく優羽に竜の深い息がかかる。
手がかかる小さな子供のようだと、困ったようなあきれたような小声が聞こえてきた。


「違うもん!」

「何もちゃえへんよ。優羽はいつまでたっても手がかかる子やで?」


反抗的に竜を見上げた顔が、自然と赤く染まる。
至近距離で見つめあうには、竜の顔は刺激が強すぎた。
怖いのに優しく、強いのに甘い。変な感覚に目眩がしそうだった。


「妬いた俺から、逃げられる思たらアカンよ?」


そう言いながらベッドの上に裸の優羽を座らせた竜は、何を思ったのか自分の服を脱いでいく。


「ッ?!」


体を隠しながらあわてて視線をそらせた優羽に、それまで平然としていた竜が意味ありげな顔を見せた。


「あいつらのより大きいから想像以上やと思うで?」


見てしまったものが脳裏にちらつく。
確かに、"大きい"と認識してしまった以上、変な期待が体の芯を駆け抜けていた。


「アッ?!」


息をのむように真っ赤な顔をしたままうつむいていた優羽は、次の瞬間、押し倒されるように竜に唇を奪われる。
失った言葉を探しているうちに、ぴったりと重なり、割るように入ってくるざらついた舌の感触に優羽の体がわずかに震えていた。


「なんも怖いことせぇへんから、力抜いてみ?」


クスクスと笑う竜に、両腕を大きく左右に広げるように押さえつけられて抵抗の自由を奪われる。


「ッん…ンン…あっ」


噛みつくように激しいキスが、酸素不足に朦朧(モウロウ)と意識まで犯していく。角度を変え、深さを変え、二酸化炭素ばかりが循環する脳の機能は低下の一途をたどっていた。


「アッ…っ…ん……やめッ」


十字架に磔(ハリツケ)られた優羽の足の間に体を滑り込ませながら、その首筋に竜の顔は埋まっていく。
その直後。わずかに走った首筋の痛みの痕に、斬新な赤い花が咲いていた。


「ヤッ、いやぁ───」


次々とつけられていく赤い印に、優羽の声が泣き声に変わっていく。
あとを残さないで欲しい。
情けないほど無抵抗な自分に与えられる罰と躾は、今から訪れる快楽以上に避けて通りたい現実。


「──ッヤダ、幸彦さ…まッあきぃ…輝っあッ戒、り…く…りょッ?!」


感じたくないのに勝手に体が反応してしまう。

頭に浮かぶ限りの男の名前を口にしていた優羽は、カリッと歯噛みされた胸の頂に体をわずかにのけぞる。ぴりぴりとした甘い痺れが乳首の先端から全身に快楽の入り口を教えていた。


「許しッて…ぁ…ごめんなさっ」


助けを求めるように鳴き声で反応する優羽を見下ろしながら、竜は楽しそうに舌を滑らせていく。


「次からは、そこに俺の名前も加えるんやで。いつでも駆け付けたるからな。」

「ッ?!」


甘噛された耳たぶが、竜の告白を聞いて真っ赤に染まる。


「ッア…どうし…っ…て?」

「ん?」

「だって今日会ったばかりなの、にッ」


自由になった腕とは対照的に鷲掴みにされた胸に顔を埋める竜を見つめながら、優羽は尋ねた。


「会ったばっかりちゃうで?」


目線をあわせるように体を滑らせてきた竜は、感じながら現実逃避をたくらむ優羽の目を覗き込んでいたずらに笑う。
そして涙を浮かべて困惑の表情を浮かべる優羽の頭に手をのせると大きく髪をつかんで上をむかせた。


「ッ!!?」


突然の出来事に、思わず口を開けて優羽は咳き込む。


「ゴホごほッぅぐッ?!」


咳き込んだのも束の間、口の中に詰め込まれた重量に大きく見開いた優羽の瞳から涙がこぼれおちていた。


「ん…ッ…んん…ン───」

「動かんといたるから、ちゃんと舐めて。」

「────ッぐっ…ン」


喉の奥まで突き刺さる男根を振り切るように、抵抗の腕で竜の足をつかんだ優羽が小さくえづく。
あまりの苦しさに目の前がチカチカするのに、喉にまたがる竜に無抵抗のまま虐げられていく。


「あいつらに"コレ"は、あんま仕込まれてへんみたいやなぁ。」


動かない竜の代わりに、知らずと動く首が止まらない。
どうしてこんなに必死になっているのか自分でもわからないほど、竜のモノに舌をはわせて吸い上げていた。


「喉の奥も気持ちよーなるって知ってた?」


捕まれた髪と一緒に見下ろしてくる竜の瞳が綺麗すぎて、独特の質感と苦しさが優羽の意識を貫く。


「記憶ないらしいから、無理に思い出せッちゅーことは言わへんけどやな───」

「ん~…ぁン…はッ…ん」

「───俺は優羽を愛してる。理由なんかあらへん。」


飲み込めない唾液が、のどを伝ってシーツを濡らしていた。だんだん大きく硬くなっていく竜の分身は、最初から口の中に収まってはいなかったが、今では顎がつりそうなほどに喉を突き上げてくる。
頭に直接響く感触に、苦しさが輪をかけて責め立てていた。
意識が朦朧とする。
卑しい水音だけが部屋にこだまして、喉の奥まで圧迫する男根に時々当たってしまう歯が神経を集中させていく。


「優羽。」


変な感覚がする。


「優羽?」


ふいに呼びかけられた優羽は、顔の中で動かせる視線だけで竜を見上げた。


「その顔、めっちゃ好き。」


衝撃的な笑顔だった。

普段いかつい人が見せる笑顔の威力の恐ろしさを、身を持って体感した優羽の鼓動は大きく跳ねる。
と同時に、解放された口が酸素を求めるように大きく咳き込んだ。


「ホンマ、いつ見ても可愛いなぁ。」


ゴホゴホと咳き込む優羽の口から溢れたよだれを指ですくいながら、壊れモノをあつかうように竜は優羽に腕を伸ばす。


「なんや、もぉ濡れてるやん。ここ見てみ?こないトガらせて、触ってほしい言うてんで。」

「ッ…ヤッ!?」

「アカンで。指でしっかり慣らしとかな、優羽壊れてまうやろ?」


喉の解放感のせいでうまく力が入らないのをいいことに、開脚させられた足の間で竜の指が優羽の秘部をなぞっていく。


「ヒァッ?!」


想像以上の指のしなやかさに、優羽の体が大きく跳ねた。


「料理人の指、なめたらアカンで。」


クスクスと笑うその声のとおり、太く長い指先を器用に曲げたり伸ばしたりしながら竜は優羽の壺の中を探っていく。
思わず腰をひねらせてしまうほど、感度の冴える場所を当てる竜の指に、優羽の声は知らずと漏れて響いていた。


「そこッ…はァッはぁ…っやァ」


気持ちいい。
認めたくないのに、体が勝手に感じてしまう。


「っイ…はぁ…アッ…んン」


もう抵抗の意思は残っていない。
快楽の教えを何度も受けた身体は、拒否こそ口にしたとしても、最終的に受け入れる方法を知っている。

どうすれば気持ちよくなれるか

もっともっと貪欲に、快感を求め、受け入れるにはどうすればいいかをよく知っている。


「アッっあ…ヤッ…ひっ」

「イヤちゃうやろ?」

「ヤッ、いやぁ…アッ?!」


息ひとつ乱さない余裕の眼差しで犯してくる指が、快楽の先を拒む優羽の両手をひとつにとらえる。
まな板の上の魚のように、今から調理される者はそこから逃げることは許されない。


「イヤァいやっイヤァァァァッ」


ビクビクと腰が力強く上下に波打っていた。
擦りあげられる蕾が身体中を敏感に跳ねさせ、中で折り曲がった指を締め付けるように全身が硬直している。


「ぁ…~っ…ぁ…」


飛沫した愛液に濡れた指を引き抜いた竜が、ペロリとその味を舌先で確認するのが見えた。

また心臓がなく。

いちいち反応しなくてもいいのに、激しく上下する胸の間から見える竜の身体に何故か胸がドキドキする。


「りゅ…~ッはぁ…はぁ」


酸素不足と巧みな愛撫の後遺症で息をするのがやっとなのか、吐息が唾液と一緒にこぼれ落ちるほど力の抜け切った優羽を見て、竜は静かに告げた。


「そのまま力抜いとけや?」


不敵な笑みを舞い散らせながら、竜の重みが下半身にのし掛かってくる。


「ッ?!」


その瞬間、防衛本能が乙女の危機を察知して、半分くらいまで埋め込んだ竜を押し出そうと力を込めた。


「アッ無理…いッ?!」

「無理ちゃうから、力抜いて。」


どんどん体重がかかるにつれて埋まってくる時間が永遠に感じるほどの質量が、優羽の内臓を押し上げてくる。
感じたことのない苦しさに、優羽は無意識に全身で竜の侵入を拒否していた。


「ほら、俺の肩に手ぇまわしてみ?」


自分の胸を押して泣きわめく優羽の腕を竜は優しくつかむ。
そして自身の首にその手を導いたあと、竜はそのまま優羽の腰に手を回した。


「アァァッ?!」


これ以上無理だと腰を引きそうになったところで、巨大な棍棒は奥まで優羽を貫く。
少しきしんだ柔らかなシーツの上で、優羽は再び大きく身体をのけぞらせていた。


「ッ…あっ…あっ…あっ」


裂けてしまうんじゃないかと思えるほど、竜のモノは目の前を点滅させた。
奥底まで突き刺さった太くて硬い異物を受け止めきれず、断続的な喘ぎ声が無意識に出てくる。


「っ~…ぬい…テ…おねがッ?!」


たった一回大きく打ちつけられただけで、記憶が飛びそうになる。


「こんなんでイッとったら、もたへんで?」


いたずらに笑う竜に、優羽は涙目で首をふった。


「ムりッ…ッ…ひぃッ」

「無理ちゃうて。気持ちいいやろ?」

「りゅ…~っ…ぬぃ…って」


始まった律動から、逃げるどころか迎え入れることもむずかしい感覚に混乱する。均整のとれた男らしい背中に爪を立てなければ自我を保てないほど、優羽は襲いくる快楽と闘っていた。


「あッイヤ~っめダメぇっ…クッ」


飛んでは戻る意識が断続的に続き、風呂上がりの体が汗ばんでいく。
抵抗の言葉すら思いつかない優羽の身体に、新しい男の記憶を植えつけるように竜が甘く囁く。


「昔みたいに竜ちゃんって呼んでくれへんの?」

「りゅ…ッ…ちゃ…ぅあぁ…アッ」

「俺のこと、そないに呼べんのは優羽だけの特権やねんぞ?」


竜のような余裕は優羽にはない。
荒々しく揺れる身体は、竜にしがみついていることが精いっぱいで、振り落とされそうなほど激しい情欲が何度も優羽の最奥をつく。


「ヤダ…っ…い…クッ…ッ~」


壺の底の底までえぐってくる男の存在に内壁は痙攣し、パクパクと女は注がれることを期待してひくついていた。
浅はかで愚かな欲望がぶつかり合い、繰り返し訪れる絶頂の波が大きく輪をかいて優羽を汚していく。


「気にせんでええから、大きい声あげてイッてみ?」

「いッ…や…ッ?!」


まだ心から許しきれていない関係が、優羽を絶望の縁に押しとどめていた。
抵抗の意思は男の可逆心を煽るだけ───


「ほなら、なんも考えられへんくらい犯したるわ。」


───グイッと持ち上がった足に、更に密着するように打ち付けられた腰。
優羽は悲鳴をあげながら何度も駆け抜ける快感に体中を暴れさせたが、打ち付けられる快楽の種は止まることを知らない。


「ヤぁッもぅ、いきタクなッ助けテッ?!」

「アカンよ。今夜は俺に慣れるまで、ちゃんと仕込まんと。」


逃げようとする腰はしっかりとつかまれ、唇も首筋も胸も秘部もあますことなく攻め立てられていく。


「イくッ…ゃ…イヤァァァアぁぁ」


弓なりにのけぞった身体の奥で、優羽は深い闇の中へと沈みながら、体の奥で何かがはじけるのを感じた。

──────────
────────
──────
ガチャっと、扉が開く音に反応する影が五つ。
星すらも寝静まる深夜だと言うのに、現れた男を待っていたのか、その影は嫉妬に揺れていた。


「んで、どうだったよ。」


開口一番に状況報告を求める輝に向かって、戦士の勲章を肩に受けた竜の瞳が不敵に微笑む。


「ほんま最高。なにあれ、めっちゃ可愛いねんけど。」

「抵抗がクセになりそうだろ?」

「お前らのつけた跡に妬けてしもて、思わず奥まで突いてもたわ。痙攣して泣くんがまた、可愛いのなんのって。」


天にも昇るとろけきった顔で優羽自慢をした竜に賛同した輝が身体を乗り出したところで、横から不機嫌な声が割り込んできた。


「いつも言ってるけど、竜は自分の大きさちゃんと考えてよね。」

「大きさなんて、たいして変わらないと思いますが。」

「みんな、話題がそれてるよ。」


陸に次いで戒が漏らした否定の声を晶が打ち切る。
それに答えるかのように、ゴホンと威厳のある声がリビングに響いた。


「独占させるのは今夜だけ。」

「わかってるって。」


幸彦が今しがた姿をみせたばかりの竜を見つめると、竜も幸彦を見つめ返す。
上半身の服を肩にかつぎながらあらわれた竜の肩と背に刻み込まれた赤い線に、兄弟のみならず義父の強い視線がそそがれていた。


「優羽を壊さないように。」

「壊れかかったトラウマがあるように感じた気がせんでもないけど?」

「いずれは通る道だ。」


ふっと、怪しげな笑みを浮かべて足を組む幸彦に、竜もはっと嘲笑の息をはいて腰を下ろす。
美麗な集団は輪になると迫力が増すのだろう。


「それで?」


静かな幸彦の問いかけに、集まった視線を受けながら竜は両手をあげて降参の意を示した。


「なぁんも収穫なしや。」

「えー!何年向こうにいたのさ?!」

「やったら、陸が行ったらよかったやろ?」


陸の抗議に反論しながらも、この美麗な集団の中に問題なくすんなりと溶け込んだ竜は、ざっと見渡した顔触れの中にある人物がいないことを指摘する。


「この間、無自覚に優羽と交わりましたけどね。」

「はっ?!」

「優羽も本能で接触したようですが、涼が帰ってくる気配は"まだ"ありません。」


戒の報告に今度は竜が難色を示した。と同時に、優羽のトラウマに合点がいったらしい。


「それでか、優羽も偉い目におうたなぁ。」

「竜もあの場にいたら優羽に怒りをぶつけてたと思うよ。」

「せやなぁ。いくら無自覚とはいえ、誰かを特別扱いされて笑ってられるほど寛大ではおられへんなぁ。」


仕方がないといった風に肩をすかせた晶に、竜も便乗してうんうんとうなずく。
深夜の家族会議の議題はいつも同じ。
解決するはずのない愛欲の痛みに、誰もが優羽への思いを巡らせていた。

──────To be continue.
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