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第14話 罪の償い(前編)

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抱いてくれるなら誰でもいいのか。
その問いかけに、答えられる言葉が何も浮かんでこない。彼らに初めて犯された日のことは今でも忘れていない。
どんどんと心までも犯してくる彼らの優しさや甘さに溺れ、いつの頃からか自分を取り囲む全てが彼らで染まっていた。
彼らなしでは生きていけない。
それなのに、なぜ自分は今ここで他の男に体を許そうとしているのか。
快楽の上塗り?
彼ら以外から与えられる快楽なんて望んでいないはずなのに、もうそれを口にする資格は自分にはない。
なくなってしまった。


「なぜ泣く?」


自分でもわからなかった。ただ、慰めるようにほほを撫でる彼の手を拒むことが何故か出来ない。


「ッ……あっ」


差し込まれていた枕が取り払われ、ゆっくりと押し倒されていく身体がわずかに硬直する。


「逃げないのか?」

「ッ?!」

「逃がさないけどな。」


至近距離で覗き込まれた瞳に鼓動が鳴く。そのまま唇を重ねた室伏が、着ていた服を脱ぎ始めていた。

"誰でもいいのか"

彼の言葉に対する答えは、優羽の口から出てこなかった。


「誰でもいいわけじゃないの。」


でも誰も選べないことはわかっている。口から出そうになる言葉は、もれる吐息に流されて消えていく。


「俺を選ばないか?」

「なッん?!」

「俺は優羽にそんな顔はさせない。」


言っている意味が全然わからない。
選択肢が目の前の彼と魅壷の二通りしかないのなら、どちらを選ぶかは決まっている。ありえない発言に顔をひきつらせた優羽を見下ろしながら、彼は真剣な顔でその最後の一枚を脱ぎ終えた。


「優羽を俺だけのものにしたい。」

「ッ?!」


不覚にも、ときめいてしまったことは誰にも言えない。
直後、腰をつかんできた室伏の肩を優羽は青ざめた顔でたたいていた。


「意味わかんなッイヤッ!?」

「力を抜け、いれるぞ。」

「ッ…ぅアッァ!?」


耳元でささやかれた言葉に気をとられた瞬間、容赦なく差し込まれてくるモノに耐えきれず、優羽は彼を強く抱きしめた。


「そんなに締めるな。」

「ッ…やっだって…はぁッ」


甘い口づけとは違い、強く埋め込んでくる感覚に意識が乱れていく。交わる全身が熱く溶けていくようで、懐かしい感覚が体中を駆け巡る。


「ヤッ…めっ…~っくぁ」

「やめると思うか?」

「ッ?!」


もう、どうでもよかった。
激しい律動も優しい愛撫も、何もかもが心地いい。抜き差しされる質量に圧迫され、奥まで犯してくる男の下で息が上手く続かない。


「優羽───」

「ッ…あっ…っ…ん?」

「───名前、呼んでくれないか?」


やっぱり彼を知っている気がする。
初めて重ねる肌のはずなのに、髪をつかむ手もあわさる額もどこか知っている気がする。
懐かしくて、胸が悲しいほどに苦しい。


「りょ…ぅ…ッ涼ッ!!?」


彼の名前を紡いだ途端、それまでの優しさが嘘のように、荒く動き始めた律動に舌を噛みそうになる。
激しさを増して襲いかかる快楽の波に、溺れて何も見えなくなっていた。


「ンっ…あぁ…ぁ涼ッ~…ン…──」


誰を求めているのか


「───ッい…ク…りょぅ涼ッ!」


何度も何度も名前を呼んで、求める腕に答えてくれる幸せを知っている。


「優羽───」


強く抱きしめあった身体が、次の瞬間には大きく脈打っていた。恥じらいも抵抗も捨てて彼のすべてを最奥の部屋で受け入れていた。


「───俺のものになれ。」


その言葉を最後に、優羽は涼を抱き締める力を緩める。涼もまた解放するように優羽から自分を引き起こした。


「……っ…あッ」


抱きしめあった温もりが離れていく。
引き抜かれた下肢が淫乱な蜜を吐き出したが、なぜか離れがたいような錯覚に意識は混乱していた。
名残惜しいような感覚に驚かされる。けれど、欲情の落ち着いた意識には焦りの念が再来していた。

一言にいえば「どうしよう」だ。


「帰れ。」


言うが早いか、テキパキと下着から始まり、服を着せてくる彼の行動に優羽は戸惑う。
訳がわからないまま、服を着せられ靴まで履かせられ、玄関まで体を引っ張られたとなっては帰らないわけにもいかなかった。


「りょ涼?!」


あまりにも突然の仕打ちに理解が追い付かない。なぜ、急に帰れというのか。
情事後に、これだけ淡々と追い返されると思ってなかっただけに、困惑と混乱で変な感覚が心に渦巻く。


「迎えなら来てる。」

「え?」


彼は優羽を連れて自宅前のエレベーターのボタンを押したあと、さも当然のように優羽を振り返った。


「そのネックレスはGPS付きだからな。」


トンっと、指で示されたネックレスに備わっているものの正体に驚きを隠せない。位置情報を探知できるネックレスなんて聞いたこともないが、輝が製作者なのであれば不可能ではないのだろう。
そう思えることが怖いと思うと同時に、本格的に自分のやらかした事実が現実味を帯びてきた。

カタカタと体が勝手に震えている。
帰りたくない。
お願いだから、一緒に謝って。


「あっあの?!」

「ほら、携帯だ。怖いくらい着信履歴残ってるぞ。」

「ッ?!」


誰に何を求めているのだろうと、我にかえって後悔する。
手元に帰ってきた携帯には、たしかに家族の名前がびっしり並んだ履歴が残されていた。


「本当は帰したくない。」


別れをおしむ恋人のように、ほほを撫でる涼の指に優羽はピクリと肩を震わせて身体を萎縮させていた。


「っん」


重なった唇に、タイミング良くエレベーターが到着する。


「いつでも俺を呼べ。」

「っ、涼。」

「わかってるよ。」


ここでその笑顔は反則だと思わざるを得ない。
顔を真っ赤にして押し黙った優羽は、小さく鼻を鳴らしてあいたエレベーターに乗り込んだ。輝が来てるのであれば、長居は禁物。GPSは位置を教えるだけで、誰と何をしていたかまでは教えない。


「優羽───」


まだ何かあるのかと優羽は顔をむける。


「───ごめんな。」


音もなくドアが閉まった。
すぐさま下降し始めたエレベーターの中で、優羽は両手で口元を押さえながら立ち尽くしていた。


「…っ…ないない。」


いったいどうして、こんなことになっているんだろうか。溶け込むような短い時間が、今までの彼に対する全てを洗い流してしまったようだった。


「あの人、同一人物だよね?」


思わず自問自答をこぼした。
違う人物ではないことは確かなのだが、あきらかに別人だと思わざるを得ない。姿を消していたらしいここ数日の間で、彼に何が起こったのだろうか。しかし、それの答えにたどり着く間もなくエレベーターはエントランスホールにたどり着いた。


「輝。」


どうかバレませんように。

スーツ姿で足を組んで座っているのが輝だということに気付いた優羽は、顔をひきつらせながら、ゆっくりと近づいていく。


「優羽?!」

「えっ?!」


まさか、輝の方から駆け寄ってきて抱き締められるとは思ってなかった優羽は、痛いほどに抱きしめられた身体に驚いた声をあげた。


「馬鹿野郎。心配かけさせんじゃねぇよ。」


耳元でかすれる輝の声に、顔があつくなるのを感じる。
ごめんなさいと謝るよりも先に、優羽の唇は輝によってふさがれていた。


「こっちこい。」

「……えっ?」


訳もわからないまま輝に手をひかれて、優羽は足早に歩く。
どこに連れて行かれるのだろうと首をかしげた優羽は、小走りに連行された先の地下に輝の車を見つけて納得した。


「迎えにッキャァ!!?」


後部座席のドアをあけるなり、輝に放り込まれた優羽は車内のシートに体を倒れこませる。朝、乗ってきた車の中に転がった優羽は突然の出来事に混乱の顔を輝にむけた。


「てっ輝、なッにっ?!」


起き上がろうとした身体は強制的に振り向かせられ、噛みつくように奪われる唇に吐息がこぼれ落ちる。バタンと、密室になったことを知らせた車の音に、優羽はビクリと身体を震わせた。


「ごっごめんなさッ?!」


なぜバレないと思ったのだろう。浅はかな自分が嫌になる。


「て───」 


広い車内の中で輝に組み敷かれた優羽は、ちゃんと謝ろうと停止の意味を込めて彼の名前を呼ぼうとした。


「──ッ!!?」


いつもの輝ではない。
ぞくりと全身が震えた。


「なぁ、今のあいつにどこ触らせた?」


獲物を追い詰める野生獣のようにジリジリと間合いを詰めてくる輝の気配に、ゴクリと勝手に喉がなる。
低い声。
怒った輝の声音は、恐怖の色で優羽の雰囲気を染めていく。


「っ…ど…どこって」

「言えねぇの?」

「ッ?!」


捕まれたアゴに、覗き込んでくる輝の瞳から逃げられない。


「何したかわかってんのか?」

「ヒッんっ…やぁ…輝ッ」


首筋に噛みつくようにあとを残した輝の行為に、全身が跳ねる。抵抗するように力を込めても輝の肩はびくりとも動かなかった。
そればかりか、引き裂くように脱がされる服が優羽の声を震わせていた。


「あーあー。証拠持ってかえってくるとか、ほんとにバカだな。」

「っン…ぁ…輝ッやめっ」

「乳首立たせて他の男で鳴いてんじゃねぇよ。」

「ち…がぁ…ッ」


強く胸をもまれ、絡ませる舌がしびれていく。荒々しく押し倒してくる輝の腕の中で、優羽は恐怖に目をつぶっていた。中途半端に肌蹴た服の中で、唯一まともにさらした足の付け根が輝によって大きく開脚させられる。
どろりと濃厚な蜜が糸をひいて滴り落ちるのがわかった。


「へぇ。」

「ッ?!」


輝の上がった口角に、知らずと悪寒が駆け抜ける。
逃げる場所なんてどこにもないのに、知らずに本能が逃走経路を模索する。


「どこ行こうとしてんの?」


身体を震わせて視線を泳がせる優羽をどこか楽しそうに見下ろしながら、輝の声が低く囁いた。


「ヒァアッ?!」


白濁した液が流れ落ちるだけでなく、足の付け根に残された赤いアザを見たからか、輝の声に凄みが増す。
容赦なく秘部に指を数本押し込まれた優羽は、逃げられない強制快楽に悲鳴をあげた。


「掃除は俺の役目じゃないって前に言ったよな?」

「ぅ…んんッ…ヤッあ?!」

「んな、可愛い泣き顔見せたって、やめてやんねぇよ。」


怖くて怖くてたまらない。
ごめんなさい。
キライにならないで。
そんな陳腐な言葉しか吐けない優羽の後悔を知ってか知らずが、残虐な輝の瞳が細く変わる。


「全部掻きだすまで終わんねぇから、覚悟しろよ?」

─────────…

車内には陰湿な匂いと悦な音だけが充満していて、頭がおかしくなりそうだった。
止まない愛撫と腰の動きに、もう何度目かわからない懺悔(ザンゲ)の声をあげているが、イッテもイッテも終わらない快楽の繰り返しに鳴く声さえも枯れかけていた。


「誰が休んでイイっつった?」

「ッひぁ…っ…や」

「ほら、イクときは何て言うか教えてやっただろ?」


首を振りながら鳴き叫ぶ優羽に、責め立てる輝の行為はやまない。広いはずの車内の酸素も薄くなり、このまま死んでしまうんじゃないかと意識がふらつく。
そんなとき、輝の携帯がなった。


「ちっ。」


一際大きく身体をのけぞらした優羽を横目に、舌打ちした輝は電話に出る。
うつろ目で上下に呼吸する優羽を撫でる手は止まらないが、それでも一時休戦とばかりに輝は腰を止めた。だらんと力なく、上に座っていた優羽が崩れ落ちる。


「ああ。わーってるって、じゃぁな。」


器用に優羽を片手で支えながら、要件を言い終えたらしい電話向こうの相手に輝は単調な返事をする。
それを合図に、携帯は一定の電子音を立てて切れた。


「優羽ちゃーん。」


携帯を放り投げた輝は、脱力した優羽のほほに舌を這わせながらクスクスと嬉しそうに微笑みをこぼす。


「限界か?」


耳に囁かれた声の優しさに、優羽の首がわずかに上下に揺れた。


「相変わらずウマイな。」


涙を掬い上げるように舌を舐めた輝を優羽はただ横目で見つめる。


「て───」


いつもの輝がそこにいるのに、視界がボヤけて、声がうまく出なかった。


「───る」


ホッとした途端に、全ての意識を手放した優羽の精神が事切れる。


「おっと。」


優羽が気を失ったことを確認した輝は、小さく息を落ちつけるとその頭を優しく撫でて自身を引き抜いた。
ドロリと白濁とした液体が少女の足の間を伝って、シートの上に円を描く。


「さて、と。」


身なりを整えて車外に出る。
新鮮な空気に大きくのびをすると、気持ちがすっきりと落ち着いた気がした。


「で。てめぇは、誰だ?」


息を吐き出すついでに吐き出された言葉は、駐車場にこだまする。
そのひんやりとした空気の中に、一人の男が立っていた。


「輝さま、なんのことでしょう?」


丁寧な口調と眼鏡の奥の何色でもない瞳に、輝の顔が不機嫌にゆがむ。けれど、それに対して難色を示すよりも前に輝はヤることがあると見慣れた秘書に背を向けた。


「まぁ、いいわ。いつでも帰ってきな。」


しかし運転席に向かう途中で、「ただし」と言葉を付け加えて輝は室伏を振りかえる。


「優羽を喰いやがったら、俺がてめぇを喰ってやる。」


交差した視線に迷いはない。輝が室伏を見つめ、室伏もまた輝を見つめ返す。
その時ふと、室伏の視線の奥に光が差した。


「優羽は俺のものだ。」


運転席のドアに手をかけた輝がピタリと止まり、フッと嘲笑の息を吐く。


「"俺たち"だ。ったく、戒にもそう言われただろうが。昔から決まってんだよ。無駄な抵抗なんざ捨てて、はやく受け入れちまえ。」


室伏が何も言い返してこないのをいいことに、輝は運転席へと体を滑り込ませてエンジンをかけた。
閑静な駐車場に機械的な発車音だけが心に噴煙を残して消えていく。


「今のてめぇには渡さねぇよ。」


チラリとバックミラー越しに室伏を見た輝は、そのまま後部座席で眠る優羽に視線を流すと、フッと笑みをこぼしてアクセルを強く踏んだ。


「優羽を失ってたまるか。」


小さくつぶやいた輝がそのまま車を走らせること数十分。
すれ違う人の全てが振り返るほどの笑顔で立っていた人物を見つけると、輝は声をかけて停車した。


「随分と時間がかかったね。」


停車するなり、笑顔の晶は助手席に身体を滑り込ませる。
窓を開けて走ってきたことに大方の予想はついていたが、怒りが和らいでいる様子を見る限り、ほぼ確信を持ってもいいだろう。


「特別扱いも贔屓も、自分以外にされると虫酸が走る。そんな感情がわくなんて思ってもみなかったよ。」


バックミラー越しにチラリと優羽をみた晶の声が低く変わっている。


「このままホテル直行な。」

「いいよ。」


晶の声には答えずに行き先だけを告げた輝は、今から予想される出来事を思い出したようで苦虫を噛み潰したように眉を寄せた。


「ったく、親父が式典で一般人相手に滅茶苦茶やってねぇといいけどな。」

「そういう輝も随分と優羽に無茶したみたいだね。」


後部座席で眠る優羽を見もせずに、晶はぼやきながら運転する輝を非難の目で見つめた。
だが、輝も同じように非難の目で晶を見つめる。


「そういう言葉は、笑っていうもんじゃねぇぜ。」

「そうかな?」

「目が笑ってねぇんだよ。」


そのあとは始終無言。
別にケンカしているわけではないが、口を開けば不穏な空気しか吐けないだろうことはお互いにわかっていた。

許せない

それは誰に対してなのか。
輝も晶も別の方向をむいたまま、流れていく車窓をただ黙って見つめていた。


「戒と陸は、まだ抜けれねぇってよ。俺も会社に戻ったら身動き取れねぇからな。」


何が言いたいんだと目的のホテルに着いたところで、晶は瞳孔を細めて輝を見つめる。
一般人には入れないホテルの裏口。
魅壷家専用の駐車場といっても過言ではない場所に車を停めた輝が運転席から降りようとしていた。


「壊すんじゃねぇぞ?」


同じく車外へとドアを開けた晶に向かって輝が言葉を投げかける。
一瞬の沈黙。
それが意味するモノはなんなのか、わからないほど子供じゃない。


「それは忠告かな?」

「警告だ。バカ野郎。」


言葉だけを残して背を向けた輝が去っていく。
背後にそれを感じながら、晶は後部座席を開けて、中で眠る優羽を大きくゆさぶった。


「どっちが無茶してるんだか。」


起きない優羽を車内から抱え出して、晶は困ったように息を吐く。
凌辱行為にイジめ抜かれただろうその身体には、輝の怒りが刻まれていた。


「悪い子にはお仕置きが必要だからね。」


仕方がないとうなずいた晶は、そのまま優羽を抱えてホテルの中に入っていく。

ホテル魅壷

有数の高級ホテルの中でも、ここ魅壷グループの運営、所有するホテルは最高クラスを誇っている。
一般人からは格式高く結婚式などにも利用されているが、晶はまるで使いなれた我が家のように最上階に通じるVIP専用のエレベーターへと足を運んだ。


「父さんはこういうところばかり用意周到だからね。広場で行われてる式典が終わったら優羽を呼び寄せて何をするつもりだったんだか。」


気を抜いていられないと、晶は困ったように息を吐いて優羽の額に唇をおとす。


「さぁ、ついたよ。」


軽い音をたててエレベーターがひらいた先には、それこそ高級といった感じが実によく出ている巨大なフロアがあった。
たった1つしかない部屋の扉に特別なカードキーを差し込むと、優羽を抱いたまま晶は身体をすべりこませる。
特注品ばかりの内装もさることながら、広さも半端じゃない。
一番奥にあるベッドルームには、家族全員で寝てもまだ人を呼べるんじゃないかと思えるほど大きなベッドがあった。


「───んっ」


優羽をベッドへと勢いよく放り投げた晶は丁寧に服を脱ぎ、スプリングに跳ね返されて無気力に揺れる優羽の上に密着するように覆い被さる。


「優羽、起きる時間だよ。」

「ッ───」


重なった唇に優羽の眉がだんだん苦しそうに歪んでくる。
心地よいシーツに埋もれながら、強制的に覚醒を義務付けられた優羽の身体は酸素を求めて暴れだしていた。


「───ん…ンン~ッ」


パチッと目を開けた優羽は、混乱してさらに身体を暴れさせる。


「はっゴホッ~っん」


離れた唇の隙間から大きく息を吸い込んだ優羽は、はぁはぁと荒くなる息を整えようとしてハッと周囲を見渡した。
服を着ていない。


「ここ、どこ?」


たしか輝と車の中にいたはずだ。だけど、今は裸でベッドに横たわり、目の前には晶がいる。
なぜ、という質問はきっと答えてもらえないのだろう。記憶を探るように目を瞬かせていた優羽は、なぜか馬乗りになっている晶の表情を確認して大きく息をのみこんだ。


「あ。」


その目に、また身体が勝手にカタカタと震え出す。


「おはよう、優羽。」

「ッ?!」


最後の記憶として新しい輝同様に、ベッドに押さえつけてくる晶も相当怒っていた。
何がなんだかわからないうちに、優羽の足首は晶によって上へと持ちあがっていく。


「いヤッ!?」


思わず反射的に抵抗してしまったのは、罪悪感と背徳感でしかない。
もちろん不機嫌な晶がそれを許してくれるはずがなかった。


「優羽?」

「ひッ?!」


逃げようと身体をひねった優羽を覗きこむように名前を呼んだ晶の瞳が痛い。
歯の音が合わずに脳に細かな振動が伝わっているが、予想できる答えはもうひとつしか存在しなかった。
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