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第13話 変化の代償 (後編)

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案内されるがまま乗ってしまった車の助手席に座わり、シートベルトを締めたところで、運転席の彼がかけてきた言葉の意味が理解出来ずに優羽は不可解な表情を見せる。
なんと答えればいいのだろう。
答えに詰まった優羽を待たずに、室伏は車のハンドルをきって車道へと乗り込んだ。


「どっどうとは?」


素直に聞き返してみた。
彼がどういう答えを期待しているのかはわからないが、こちらも答えが見つからない。


「そのままの意味だ。」


端的に返されて、ますます意味がわからなくなった。


「わかりません。」


困ったようにフンッと鼻をならした助手席の優羽に、室伏はクスクスとからかうような笑みを向ける。


「俺は危険人物だと認識できるのに、あいつらに犯されるのは許せるのか。まったく、理解に苦しむな。」

「なっ!?」

「驚かなくてもいい、あの家で何がおこなわれているかくらい知っている。」


初めて彼を見たときの丁寧な口調はどこにいったのだろうか。その口調だけではなく雰囲気までガラリと変わった隣の男に、驚かないでいい方法があれば知りたい。
かけている眼鏡の奥に秘められたものはなんなのか。
おそるおそる顔を覗きこもうとした途端、車がグンと脇へそれた。


「ちょっと、どこに行くんですか!?」


まったく知らない方向に走り出した車に、優羽の焦った声が車内に響く。


「少し寄り道をするだけだ。」

「よっ寄り道って、おっおります!」


てっきり都合よく家に連れて帰ってくれるものだと思っていただけに、内心の冷や汗は尋常じゃない。
慌てて閉めたシートベルトに手をかけた優羽の手に、室伏の手が重なった。細身の外観に似合った細い指をしているが、やはり男の手に変わりはない。


「いま降りたら死ぬぞ。」

「だったら止めてください!!」

「あとでな。」


絡ませるように包みこんでくる指と前を向いたままの横顔を交互に見つめているうちに、とうとう車は優羽を知らない街へと運んでしまったらしい。


「どうした、降りないのか?」


あれほど降りたいと願っていた優羽だったが、今は"絶対"降りたくないと心の中で反芻していた。
高級マンションの地下駐車場らしいこの場所は、無駄に閑散としていて声が響く。


「おっ降りません。」


運転席を降りて、ご丁寧にも助手席側のドアを開けてくれた室伏が美麗な笑みを浮かべて顔をのぞきこんでくる。
優羽は、早まる心臓に気付きながらも唇をかみしめたままうつむいていた。

───…♪♪…♪…♪…

「ッ!!?」


心臓が止まりそうになったのは言うまでもない。
このタイミングで鳴り出した携帯電話に、優羽は蒼白な顔で鞄へと手を伸ばした。


「ッ返して!?」


最悪だ。
かけてきた人物が誰かはわからないが、素早く携帯を取り上げて耳にそれを押し当てながら対応する目の前の男に泣きたくなる。


「はい。」

───可笑しいな。俺は優羽に電話したつもりだったんだけど?

「間違ってない。」

───どうして涼が優羽の携帯に出ているのかな?

「どうしてだろうな。」


受話器から漏れ聞こえる晶の声に、優羽は小さな悲鳴を上げて固まっていた。
今朝忠告されたばかりだというのに、約束を破ってしまった結果が恐ろしくて体が震える。


「涼、やめて。おねが───」

「優羽は俺がもらう。」

「───ッ?!」


ピッと人工的に切られた通話に、ツーツーと無情な機械音だけが無機質な駐車場に反響していく。
助手席でシートベルトをしたまま呆(ホウ)けたように見上げていた優羽に、室伏の勝ち誇った笑みが見下ろしていた。


「早く車を降りろ。」

「ッ?!」


脅迫まがいの命令に、優羽は見開いていた目でその端整な男を睨み付ける。
断れるわけがない。
人質ならぬ携帯は、是が非でも返してもらわなければ。


「最低!」

「誉め言葉だな。」


悔しさで心の奥がザワザワする。
知っている人にもついていかないようにと、晶が言っていた意味が今になって理解できてももう遅い。
助手席から降りた優羽は、バタンと力任せにドアを閉めてその怒りを露(アラワ)にした。


「怒ってるのか?」


クスクスと笑う姿がまたムカつく。


「誰のせいだと思っ───」

「優羽お嬢様。声をあらげては、はしたないですよ。」

「──ッ?!」


卑怯だと振り返った先で、眼鏡の奥の瞳を細めた秘書が笑う。
声の色ひとつで体の芯がうずいた自分が情けなくなるほど、耳に囁かれた彼の言葉は心地よかった。
一刻も早くこの男の元から立ち去らなくてはいけない。
携帯の返却もそうだが、彼といるとなんだかペースが乱されて思うようにいかない。


「ついてこい。」


軽い電子音をあげて鍵がかかった車を置き去りに、優羽は背を向ける室伏の後に続く。
後ろから突進してその手の中にある携帯を奪って逃げてみてはどうだろうか。それ以外に方法が浮かばないところが悲しいが、今はなりふりなど構(カマ)っていられない。


「キャアッ?!」


勢いよく駆け出した優羽は、流れるような身のこなしで、室伏にその体を抱き上げられたことに悲鳴をあげた。


「暴れると落ちるぞ。」

「降ろしてください!!」


さすが世界屈指の会社の秘書をしているだけのことはあると、その防衛能力と反射神経に脱帽せざるを得ないが、何が嬉しくて、こんなやつに担ぎ上げられなくてはいけないのだろうか。
優羽は、これ以上好き勝手やらせるものかと必死に身体をばたつかせた。


「世話が焼けるな。」


そう言って降ろされたのは地上につながっているらしいエレベーターの中。
開いた瞬間に逃走してやると意気込んでいた優羽は、開いた瞬間に一歩下がった。


「ここどこ!!?」

「俺の家だ。」


どうしてエレベーターが開いた目の前に玄関扉があるのかと目を疑う。
だが、優羽の目は確かなようで、室伏は当然のように自宅のカギをちらつかせてみせた。


「さっさようならッ!?」


優羽が"閉"ボタンを押すよりも早く、室伏がエレベーターのドアに足を挟み込んでくる。エレベーターのドアは危険を感知して、彼の侵入を中へと許した。
逃げ場を完全に失った優羽は、危険を感じてエレベーターの一番奥にへばりつくが、その甲斐もむなしく腕を掴まれて引きずり出される。


「きゃぁ!!」


玄関側に向かって放り投げられると同時に、エレベーターは音もなく閉まり、現在位置を知らせる階表示の光はどんどん下に降りていった。

本格的に泣きたくなってくる。

尻餅をついた優羽は、体を起き上がらせることも出来ないまま絶望的にその光を見つめていた。
焦燥と不安。
ザワザワと心が落ち着かない。


「こ…っ…こないで!!」


放り投げられた勢いでお尻を床につけたまま、優羽は悠然と見下ろしてくる室伏を見上げながらジリジリと後退していく。


「動くなよ。」

「ッ?!」


まるでスローモーションを見ているようだった。
カギをとりだし、鍵穴に差し込み、ゆっくりと回って背中に当たっていた扉が口を開ける。
内開きになっていたらしい玄関のつくりに気付いたときには、体重のすべてを背後に集中させていた優羽は、そのままの勢いで彼の家に転がり込んでいた。


「ほら、危ないだろ。」


なんとか手で体を支えてひっくり返ることを避けた優羽に、室伏のあきれた声が追いかけてくる。
家に入るだけなのだろうが、玄関に転がる荷物のように、優羽まで一緒に中へ招き入れようとする。


「私、帰るの!」


慌てた優羽の声が虚しく響く。
自分のおかした失態に気がついた時には出入り口にガチャリと鍵がかかり、美麗な秘書が体を屈(カガ)ませて真正面で微笑んでいた。


「ここは外国じゃないんだから、優羽も靴を脱げ。」


開いた口が塞がらない。
当たり前のように靴を脱がしてくるが、望んでこんなところに来たんじゃない。


「わっ私は、帰りたいんです!!」


声が震える。
濃紺にも見える眼鏡の奥の瞳に胸がざわつく。


「帰すとでも思ってるのか?」

「なッンンッ!?」


目線を合わせるようにしゃがみこんでいた彼の唇が重なり、舌が無遠慮に割り込んでくる。


「ッ!?」


パンと乾いた音が耳に響く。
じんじんと手のひらに残る痛みと、ほほを押さえる室伏の横顔に、自分が何をしたのか優羽はすぐに理解した。


「なっ何するんですか。」


声が震える。
人の顔面をはたくなんて生まれて初めてで、反射的におかしてしまった行動がどういう報復を待っているかなんて想像も出来ない。


「それはこっちのセリフだ。」


横顔を叩かれた時に落ちたらしい眼鏡の代わりに、優羽は鋭利な瞳で睨み返された。
ビクッと優羽の肩が震える。


「俺が怖いか?」


喉の奥で笑いながら、すくわれた髪の先まで震えているのがわかる。
危険だと脳が警鐘を鳴らしているのに、そらすことのできない瞳に射抜かれたのか、身体は動いてくれなかった。


「お前の目は、いつ見てもそそられる。」

「ッ!?」


グイッと抱き寄せられた身体に、心臓が飛び出たのではないかと思うほど跳ね上がった。
バクバクと心音が普通じゃない。
力強く抱きしめられるとは思ってなかっただけに、髪をすきながら耳元を掠める室伏の声に背筋が泡立っていく。


「なぜかわからないが、たまらなくお前が愛しい時がある。」

「ッ!?」


そんな声で囁かないでほしい。
胸が締め付けられるその声音に、また心がザワザワと騒がしくなる。
緊張でも嫌悪感でもない。
彼の腕の中は何故かひどく心地よくて、懐かしささえ感じるほど心が落ち着いていく。


「優羽。」


ホホを撫でるその手を知っているような錯覚に、優羽は戸惑いを隠せないでいた。


「お前が欲しい。」

「ッ?!」


そこから深く重ねられた口づけに、優羽の思考から疑問は即座に追い払われた。むさぼるように荒く、逃がさないように支配される口内から銀色の糸がこぼれ落ち、抗(アラガ)う手から力が抜けていく。


「ん…~っ…はぁ」


腰を抱き寄せながら室伏が立ち上がるのに合わせて、優羽の身体も引き起こされていった。


「ッ…んっ…あっ」


身体を抱えあげられた反動で、ふらついた体がより強く彼に体重を預けさせる。
家族とは違う匂い。
違うキスの味に、背徳感が背筋をあがって身体中を震わせる。


「や…っ…だめッ」


このまま流されてはいけない。
頭ではわかっているのに、抵抗できない自分がいる。


「アッ…やっだめッキャ?!」


キスに体を委ねていた優羽は、軽々と抱き上げられた体に驚いて室伏を見下ろした。


「どっどこいくの?」


彼の趣味はいいのだろうと、視界の端を通りすぎていく部屋で思う。けれど、そんな感想を口にする暇もなく優羽は一番奥の部屋にある大きなベッドの上に放り投げられた。


「ッ?!」


放り投げられた反動で仰向けのままベッドのスプリングを感じた優羽は、起き上がろうと閉じた目を開けて息をのむ。

キレイ

間接照明にうつる室伏から目がそらせない。


「あっ。」


ゆっくりと上から覆い被さるように落ちてくる彼のせいで、柔らかな布団の中に身体が深く沈みこんでいくのがわかる。
キスが気持ちいい。そう感じることはいけないことなのだろうと、わかっていても受け入れてしまう体に困惑する。

知ッテイル?

先程から懐かしい感覚がする現象に戸惑っていた優羽は、ひとつの仮説が頭に思い浮かんで室伏の瞳を見上げた。


「私たち、前にどこかで会ったことありますか?」


口にしてから優羽は顔を真っ赤に染める。
なんて陳腐な質問をしてしまったのだろう。慌てて忘れてほしいと付け加えたけれど、どうやら室伏はその疑問に同調したらしい。


「あるのかもしれないな。」

「ッ?!」


その笑顔は反則だと思った。
思い付いただけの質問を真面目に答えてくれることにも驚いたが、印象が変わるほどの柔らかな笑顔にはもっと驚く。いつもそういう顔をしていれば周囲に人がたくさんいるだろうに、普段の仏頂面からは想像もつかない微笑みはある種の爆弾だと言えなくもない。


「りょ───」

「お前は俺のものだ。」

「───ッ?!」


また元のよくわからない感情の色に戻った室伏の顔に、優羽は疑惑の眼差しを向ける。一瞬見せた柔らかさは何処へいったのか、強引に口づけを落としてくる室伏の態度に優羽は混乱していた。
どうしてこんなことになっているのか、うまく説明ができない。
ただわかっているのは、彼を懐かしく思う自分と怖いと感じる自分がいるということだけ。


「ッ…あっ…~っん」


何度も同じ台詞が頭の中で繰り返される。

ダメ だって だけど 

それが何を訴えるものなのか、そこから先を拒絶するように、息もままならない口づけに朦朧としはじめた頭は考えることを放棄していた。


「まさかこんな形で手に入るとは思っていなかった。」


声の質まで変わったように感じる室伏の行為に、一瞬寒気がしたのは間違いではない。


「ん…っ…アッ?!」


幸彦から与えられたワンピースは一気にたくしあげられ、脱がされたそれは無残にも遠くの方へ飛ばされる。


「これは、陸の趣味だな。」


彼がクスリと笑ったのは一瞬で、まとっていた下着までもが簡単にはぎ取られ、優羽を全裸にしていく。
当たっているだけに恐ろしい。


「このネックレスは輝から?」


身体を隠そうとする優羽の手足をかわしながら、最後に残ったそれに室伏の手がかかる。


「だっダメッ!!」


今朝の映像が見えた気がして、優羽は慌てて抵抗の意思を示した。
流されかけていた空気を止めなければ、このままだと取り返しのつかないことになる。先ほど駐車場で彼と晶が話していたのは数分前。この場所をどうやって特定するのかはわからないが、何故か彼らなら簡単にやってのけそうな気がした。
他の男との密着現場など、怖くて知られたくもない。


「俺の腕の中で他の男を考える余裕があるのか?」

「ッ?!」


グッとつかまれたネックレスのせいで首に鎖が巻き付く。
そのまま唇が重なり、息苦しさから逃げることも出来ずに優羽の身体は室伏の愛撫を受け入れていく。


「ヤッ…あっ」


丸裸にされた身体に滑る室伏の手のひらが、優羽の形を確認するように滑っていた。


「連中に躾られているだけあって敏感だな。」


苦笑ともとれる室伏の呆れた息が優羽を見下ろす。
期待と羞恥、恐怖、困惑。あらゆる感情をその瞳に内包したまま、優羽は彼の手の中で形を変えていく胸に反応して体を震わせていた。


「アッ…や~メッあ…っ」


もどかしい感覚に声が口をついて出てくる。
優羽がもじもじと耐えるように両手で口をふさぐと、それに気付いた室伏は快楽の突起を口に含んだ。


「んぁッ?!」


泣きたくなる。
感じたくないのに、体が勝手に反応して感じてしまう。
声を我慢したくても吐きだされる息だけはどうしようもなく漏れてしまうし、徐々に胸から下腹部に移動していく室伏の舌の動きに体中がくねくねと動いていた。


「イやぁッ!!?」


ついに迎えられる箇所にさしかかって身体を起こした優羽は、顔を真っ赤にしながら唇を噛んだ。股の間から勝ち誇った顔でじっと見つめてくる瞳が怪しげに微笑む。


「俺のものだ。」


ニヤリと笑った室伏が背中に大きな枕を差し込んできたせいで、嫌でもその視線が脳を刺激してくる。


「ふ…ッ…くっ…っ…あ」


持ち上げられた足のつま先から徐々にあがってくる舌の感触に鳥肌が立っていた。


「あ…ッア…~っひぅ」


込み上げてくる快感への期待が押さえきれない。だんだん開かれていく脚の付け根に向かって、滑るように進んでくる彼の瞳から目がそらせない。


「お前、可愛いな。」


つま先から這い上がってきた室伏の舌が、太ももの裏をつたって足の付け根へとたどり着く。
そのまま彼の頭は、震える優羽の花園へと蜜を吸いに埋まっていった。


「あいつらに教え込まれた身体を見せてみろ。」

「ッ?!」


瞬間、強く吸い上げられた芽と深く差し込まれた数本の指に優羽は身体をのけぞらせる。可愛らしく高く甘い奇声をあげながら、腰を浮かせて果実を提供する姿は執事に奉仕されるお嬢様そのもの。


「イヤァ…っあぁ…~ぅあ」


固く尖らせた実を丁寧に舐められ、溢れる蜜を掻き出され、吸い上げられる。単調なのに確実な刺激に快楽の声が震えている。


「ヤッあぁそんなッ噛まな~ッく」


芯からかけ上がってくる快感と、背中を支える大きな枕のせいで、足と足の間に埋まる彼の頭がぼやけてきた。


「待っアッや…~ッヒ」


掻きだされる愛液の音と吸い上げられる秘部の水音に混ざって、悶える優羽の声が混ざっていく。


「ダメ~ッやめ…イヤだッぁ」


押さえられない、抑えきれない声が彼の行為の全てを受け入れようとしていた。ぐっちゃぐっちゃと、伸縮を繰り返しながら美味しそうに男の指を貪る膣に限界は近い。


「ダメダッあぁ…ッ…いくっ」


室伏の頭をのかせようとしているのか、押さえつけているのか自分でもよくわからない。ただ、彼の後頭部を掴んだ両手と前後に動く腰が彼の唇から逃げたいのに離れなかった。


「イくッァアァアぁっアァア」


ビクビクと盛大に絶頂を迎えた優羽の叫び声が寝室に響き渡っていく。
飛沫する愛液と淫惨な匂いが立ち込め、メスの媚薬が拡散する。


「物欲しそうな顔だな。」


室伏がひくついた股の間から顔をあげ、さも嬉しそうに舌舐めずりした頃には、優羽は与えられた快楽の先を望んでいるのだとおもむろに理解した。
ずるりと引き抜かれた指が、愛液をまとってぬらぬらと淫潤に光っている。


「愛されてなくてもいいのか?」

「っ!?」


はぁはぁと絶頂の余韻を噛み締めていた優羽は、その言葉に何とも言えない悲しみを浮かべた。


「誰でも受け入れるのか?」


心が悲鳴をあげる。
そんなことないと言い返したかったのに、今の現状に言い訳の余地はない。


「調教された体は簡単に奪える。」

「ちっ違う」

「人間は快楽には勝てない。」

「ッ?!」


ついに言葉が出なくなって、優羽は室伏の瞳から逃げるように顔を背けた。


「上塗りをしてやろうか?」

「えっ?」


どういう意味だろうと優羽は困惑の眼差しで室伏へと顔を向ける。


「ッ?!」


その時に感じた違和感は、なんだったのか。
乱れた自分とは違って、息どころか衣服さえ乱さない彼の姿に、なぜか涙がこぼれ落ちた。

──────To be continue.
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