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第7話 夜空を繋ぐ河(後編)

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肩に顔をのせながら耳元で囁く幸彦の声が唯一の情報源なだけに、神経が耳に集まっていく。それなのに、自分の視界には濡れた下着の中でうごめく幸彦の指の跡が見えていた。


「アッ…っ…いやぁ…んッ」

「いや?どうして?」

「だって…ッ聞こ…っ~ちゃ──」

「優羽が声を出さなければいい。」

「────ひッン?!」


幸彦の提案に従って、優羽は口を両手でふさぐ。隠れるように幸彦の胸に顔を押し付けるが、それでも鼻から漏れる吐息はどうしようもない。
キュッと指でつまみ上げられた秘芽に反応して跳ねる体に、閉じた口から声がもれる。


「…ぅぁ…ッ……」

「気持ちよさそうだね。」


クスクスと上機嫌な幸彦の腕の中で、優羽は必死で首を横にふる。
たしかに幸彦の指は意識が本能に染まりそうなほど気持ちいいが、まだ理性は残っていた。


「ちゃんと言えるようになったと、そう聞いているよ。」


耳たぶを噛みながら舐める舌に体が震える。
幸彦が何を求めているのか。
それがわかるからこそ、声を押し殺していた優羽は力なく首を横にふった。


「こ…こじゃ……ダ…めっ。」

「ここでするんだよ。」

「ヤッ!?──あ…っ~」

「わたしがルールだと教えただろう?」


だから初めから拒否権は無いと、幸彦は更に追い討ちをかけてくる。


「みんなの前でもう一度ルールを教えてあげてもいいんだよ。」


完璧に主導権を握る幸彦の胸の中で、意味をなさない下着から漏れ聞こえる卑猥な音が恥ずかしい。
このままでは本当に"全員"に恥体をさらしてしまいそうだと、優羽は切なく息を吐いた。全員の前でルールを教え込まれるのだけは嫌だ。いくら全員とそういう関係になったとはいえ、羞恥を感じる心までは忘れていない。


「見られたいかい?」


幸彦の言葉に観念したように優羽はギュッと目を閉じた。


「…っ…を…さぃ…」

「もう一度、はっきり言えるかな。」

「幸彦さま…っ…をくださぃ──」


幸彦だけに聞こえるように、優羽は少しだけ顔をあげて、その耳に小さく告げる。
ちゃんと声になっていたかわからないが、か細く震える願いはちゃんと幸彦に聞こえたらしい。


「及第点をあげよう。」


クスリと口角があがった幸彦の視線が流れる。
恥ずかしさにうつむこうとした優羽の顔を自分に向けさせると、深く唇を引き寄せた。
それと同時に、割られた優羽の秘部に幸彦の指は本数を増して深く突き刺さる。


「──ッ──ぁっ…ん…ッ!?」


絡まる舌の隙間から、荒い息と切ない声がもれる。
声を押さえないとバレてしまうことはわかっているのに、もうすぐおとずれると知らせる感覚が体と声を震わせていた。

キモチイイ

だけど、理性が快楽の邪魔をする。


「声が聞こえてるよ。」

「ひアッ…っ…ん…」

「今あの子たちが来たら、恥ずかしいところをみられてしまうね。」

「~っ~…ァッ…──ッ!!?」


声を出さないように両手で必死に口を押さえながら、優羽は大きく身体をのけぞらせた。
イキたいのにイけない。
もどかしさに涙をためる優羽の下着から引き抜かれた幸彦の指は、天井から部屋を照らす明かりの中でぬめりをおびながら光っている。


「あぁ、あの子たちが準備を終えたようだね。」

「えッ…っ…ヤぁ!?」


現状を忘れかけていた優羽は、何が楽しいのか弾む声で部屋の状況を伝えてくる幸彦の耳打ちに焦りをみせた。
そわそわと顔を動かして兄弟たちを探そうと腰をあげた優羽は、それと同時に引きずり下ろされた下着に抵抗の声をあげる。けれど、すでに取り払われたものが帰って来た試しは残念ながらない。この場合も例に漏れず、幸彦に下げられた下着は足首で止まっていた。


「ひゥッ?!」


足首の下着を兄弟たちがこっちに来る前にはき直そうと、幸彦に背を向けて前屈みになった優羽の腰はなぜか強く引き寄せられる。


「声を出したらバレてしまうよ。」


自分のものを突き刺した幸彦が、楽しそうに背後から腰を撫で付けてきた。


「わたしはかまわないがね。」


幸彦のものを差し込まれた優羽は腰を浮かせながら首を振るが、その腰を深く押し戻されて慌てて口を押さえる。
閉じられた足と下ろされたワンピースで何事もないように見える優羽と幸彦だったが、その内部はしっかりと繋がっていた。
足首にあったはずの下着はもはや脱ぎ去る以外に道はない。


「ッ?!」


急いで足首から下着を取り去り、ソファーに隠蔽すると同時に見えた兄弟の姿に優羽は面白いほど反応した。
不自然な姿勢。
誰もそれを不思議に思わないのか、彼らはやってくるなり思い思いに周囲へと腰を下ろす。


「ほら、優羽がやりてぇつったんだろ?」

「そうそう。短冊に願いも書かなきゃだし、あ。飾りの作り方って知ってる?」


むけられる輝と陸の笑顔にうなずくことが精一杯だった。
ほんの少しでも動こうものなら、中に埋め込まれた質量感に声を出してしまいそうになる。
何事もなく平然とみえるように、優羽は幸彦の膝の上に乗ったままゴクリと唾を飲み込んだ。


「はい、ハサミ。」

「ほら、優羽。晶から受け取りなさい。」

「えっ……ひぁッ!?」


差し出された晶の手からハサミを受けとるために浮いた腰が、また深く突き刺さる。


「そこの折り紙を取ってください。」

「次は戒にこれを渡しなさい。」

「はっ…ぃ──ッ……」


自分で渡せばいいのに、幸彦はわざと優羽を動かす。あれを取って、これをして、何かと注文が多い兄弟たちに応えるのは全て優羽。そのたびに、ゆっくりと出し入れされるそれがもどかしくて物足りない。
でも言えない。バレたくない。
わずかに残る理性が優羽をそこにとどまらせ、わざととしか思えないほど優羽に注文してくる義兄弟に最低限の声で動くことしか出来ない。


「優羽───」

「んっ」

「───そんなに腰を動かしてるとバレてしまうよ。」


もう泣きそうだった。
目の前で出来上がった飾りや新しい折り紙の切り抜き技に歓声をあげる義兄弟たちの後ろで、義父と繋がってるなんて恥ずかしくて仕方がない。
中途半端に与え続けられる快楽のせいで、もっともっとと勝手に動く腰が止まらない。声を抑えようと行き場をさまよう両手が汗ばんでいるし、蒸れたワンピースの隙間から伝っていく愛液が、もっとたくさんの快楽を与えてほしいと量を増していく。


「優羽?」


そんな甘い声で名前を呼ばないでほしかった。
理性を彼らの前で保ち続けるなんてことは不可能で、無駄な努力だとわかっているのに"それでも"という考えを手放せない。
そのことが余計に切なく優羽に吐息をもらさせた。


「そろそろ限界のようだね。」


小刻みに震えながら必死に耐え続ける優羽の耳元で、楽しそうな幸彦の声が弾む。
ズルい。こんなときまで、主導権を譲らない幸彦のモノを深く締め付けながら、優羽は勝てない快楽への敗北を認めた。


「やめようか?」

「──た…ぃ…」

「ん?」

「ぃ…きた…ぃ──」


鳴き声を含んだ小さな声で訴える優羽の頭を撫でながら、幸彦はクスリと笑う。


「晶。優羽に飲み物を頼む。」

「……はいはい。」

「え~。もうちょっと遊びたい~。」

「ダメですよ。あまり我慢させては、優羽が可哀想じゃないですか。まぁ、あの泣き顔はそそりますけどね。」

「可愛い優羽の"お願い"は、叶えてあげねぇとなぁ。」


作業を中断して台所へむかう彼らの声が、耳をかすめて通りすぎていく。
バレてるんじゃないかと嫌な予感が頭を駆け抜けたが、身体はその先を考えることを放棄していた。

限界

その二文字は、部屋を去る兄弟に一言も声をかけなかったのが何よりの証拠。


「──っ─…ヒぅ…ぁっ───」


腰を掴まれながら、グリグリと下から突き上げてくる快感に優羽の体が大きくのけぞる。


「今夜は七夕。」

「ァッ──…っ…んッ……」


年に一度の逢瀬を織姫と彦星も楽しんでいるだろうと、冗談めかす幸彦の声がすぐ真後ろで上下に弾む。
両手でふさいだ声を曇らせるかわりに、下の口はグチュグチュと大きな声をあげていた。


「ッ…ヤッ!?…きこ…ぇ…ちゃ……ッ!?」

「他を気にする余裕がまだあるようだね。」

「っ…えっ?…──…ッ!?」


ドンッと押された背中に優羽は倒れる体を支えようと手を前につき出す。
中途半端に四つん這いになった優羽の秘部に幸彦はさらに深く挿入する。


「こんなに大きくして。見えないだろうから教えてあげよう。」

「アッ?!ヤッ!」

「ほら、赤く腫れあがってるのがわかるかい?」

「ぁっ…だ…め……それ…ッアァァ」


めくられたワンピースのすそが首もとまでずり落ちて視界に布以外の何も写してくれない。
それなのに与えられる下半身の快楽は、パンパンと一定のリズムを刻み、男女の匂いを放っていた。


「よく締まる。」


自分の体を支えるためだけに地面を押す両手の間で、優羽の頭は歓喜の声を押さえることもできずに揺れていた。
役目を果たさない衣服の色が現実と快楽の境目をなくしていく。


「アァッ─はぁっ…ヤッ…~っ」


もうどうでもいい。
部屋中に響く淫惨な音と喘ぐ自分の声。
異様な雰囲気が漂うリビングには自分と幸彦の二人だけ。


「───ッ…~イっ…ぅ…」

「おや、どうやらここまでのようだね。」

「ッッ…───っア?!」


飛びそうになる意識が身体を突き抜ける。
複数の物言わぬ気配に気づいた幸彦のつぶやきと同時に、優羽の願いは無事に聞き届けられた。


「可愛い娘を持って幸せだよ。」


荒く上下に息を吐く優羽を自分の横に座らせながら、幸彦は髪をかきあげる。
大人の独特な色香が意識のはっきり残った眼には刺激的すぎて、優羽は思わず顔を反らした。


「ヒァァアッ!?」


驚いたなんてものじゃない。
優羽の視線の先になぜか陸の顔がある。


「お茶、いる?」


はいっと、天使の笑顔で差し出してくれるそのコップを受けとる手がカタカタと震える。


「おや。それではこぼしてしまうよ?」

「濡れたら今度は僕が舐めてあげるよ。」

「ッ!?」


声にならない悲鳴に陸の瞳が意地悪く笑っていた。先ほどの嫌な予感は、どうやらはずれていなかったらしい。


「あーあー。髪も服もぐちゃぐちゃだな。」

「退院日に無理はさせてほしくなかったんだけどね。」

「あの泣き顔で懇願されれば仕方ありませんよ。」

「……っ~…」


消えてしまいたいくらいに恥ずかしかった。
情事後すぐに普通の顔をできるほど大人でもなく、直接知られたことを受け入れるには恥ずかしさが尋常じゃない。
穴があったら入りたいとはよくいったものだと、優羽は飲むことのできないお茶を両手で握りしめた。


「っ。」


ドキドキと鳴りやまない心臓が痛い。
行き場のない鼓動が次の動作をおこさせない。
だから、余計に顔が赤くなるのがわかる。


「飾り付け楽しみにしてたんでしょ?」

「退院祝いもしないといけないしね。」

「願い事がまだ足りないようでしたら、ここにいる全員で叶えてあげてもいいですよ?」

「それ名案だな。」


いつの間にか集まった彼らの中心で、優羽は真っ赤な顔のままうつむいていた。
誤魔化すように飲んでみたお茶もなぜか味がしない。


「うちの可愛い織姫には何人でも彦星を与えてあげよう。」


望む限り永遠に。
幸彦の言葉にすっかり固まって動けない優羽は、全員をにらむようにその顔を少しあげる。
けれど彼らに対して勝ち目などないことが明白なだけに、ガクッとため息をはいた。


「物足りないの?」


フイッと顔を覗き込んできた陸に、心臓が飛び出そうなほど身体がゆれる。
思わず心臓が止まってしまったんじゃないかと錯覚を起こしそうになるが、優羽は首を横にふって否定することを忘れなかった。


「そっか、残念。」

「えっ?」

「せっかく前のよりすごいプレゼント用意したのに。」


気持ちを元に戻すために、再びお茶を口に含もうとしていた優羽の手がピタリと止まる。
錆びついたブリキの人形のようにゆっくり陸に視線をむけると、極上の笑顔をたたえた悪魔が見えた。


「冗談だよ?」


彼についてはもう、どこまでが冗談なのか見当もつかない。


「あっ、怖がってる?」

「陸がいじめすぎるからですよ。」

「うちの姫様は怖がりだからな。」

「そこが可愛いんだけどね。」

「優羽がすかっり家族に溶け込んでくれて、わたしは安心したよ。」


もうまともに顔を上げられなかったが、聞こえないふりを突き通してお茶を飲み干すことに気持ちを専念させることにした。
一回一回、反応をかえしてしまっては、それこそ彼らの思うつぼだ。
そう思うのに、クスクスとからかう視線に耐えきれずに、優羽は顔をあげた。


「~~~っ…もぉッ!!」


真っ赤な顔で叫んだ優羽に、屋敷中が楽しそうな笑い声に包まれる。
憤慨して機嫌をそこねた優羽をなぐさめようと、義兄弟たちが声をかけるよりも早く、「彼のことだが。」と、幸彦の声が部屋に響いた。


「彼?」

「室伏涼二。」


首をかしげた優羽は、幸彦の答えた名前にピクリと反応する。
振り返った優羽を安心させるように幸彦は頭をなでると、小さく息をこぼしてそれに答えた。


「彼が今回の事件を誘発したそうだね。」

「えっ?」

「すまなかったね。いくら留守にしていたとはいえ、随分怖い思いをさせてしまった。」


幸彦の謝罪に優羽は、首をふる。
そう言えば、あのとき一番最初に見つけてくれたのは玩具会社の秘書だったが、もとはといえば彼が誘拐を依頼しなければ、こういうことにはならなかった。
原因ははっきりしている。
幸彦が謝る理由はどこにもない。


「どうして謝るの?」


優羽の疑問に、幸彦は「ん?」と微笑んで首をかしげる。
質問の意図が理解できないのか、優羽の次の言葉を待っているように見えた。


「幸彦さまのせいじゃないでしょ?」


ここは、世界有数の金持ちの家だ。
たしかにテレビや漫画の中の世界でしか聞いたことのない事件や事故に巻き込まれるなんて思ってもいなかったが、ないとも言えないことは頭の片隅に少しはあった。
逆に家族に迎え入れたばかりの娘をすぐに誘拐されて、幸彦たちの方がショックを受けたのではないかと優羽は思案していた。そんな優羽の質問に驚いたのは彼らのほうで、驚いた家族の反応に優羽も驚く。


「え、何かへんなこと言った?」

「いや、変なことではないが。」

「よかった。だったら、もうそんな顔しないで。」


照れたようにはにかんだ優羽は、上目遣いで家族を見渡してニコリと笑った。


「だから、いつでもまた助けてね。」


それは優羽にとっての強い願い。


「私はどこにもいきたくない。ずっと皆といたい。」


迷惑かもしれないけど、と笑う優羽に彼らは固まる。


「え?ダメ…っ…かな?」


何も返してくれない幸彦に心配になった優羽は、答えを求めて辺りを見渡す。


「ダメなわけねーだろ。」

「本当に優羽はバカですね。」

「ばっバカじゃないもんっ。」


どこかあきれたように笑う輝と、困ったように笑う戒に優羽は口を尖らせて席をたつ。
台所に飲み干したコップを置きに行こうとした優羽にはわからなかったが、彼らの視線は愛しそうに優羽の後ろ姿を見ていた。


「ずっとずっとずーーーっと、私。皆の傍を離れないからね。」


ふと振り返った優羽は、何かを訴えるように全員に向かって宣言する。


「私の願いがひとつだけ叶うなら───」


コップを置いた先に見えた短冊に、優羽はペンを走らせた。
一体何を書くつもりなのか。
部屋中の視線を一身に集めながら書き終えた優羽は、勝ち誇ったような顔でそれを彼らの前に突きつける。


「───この先もずっと皆といたい。」


何でも叶えてくれると言ったはずだと、優羽は祈るようにその短冊へと視線を落とした。


「私、幸せだよ。」


だからどうかお願い。
ギュッと一度握りしめたあと、優羽はその短冊を備え付けられた笹へと結びにいく。
その後ろ姿を見つめる五人の視線は、なぜか切なく色めいていた。


「僕たちの願い事、叶っちゃったね。」


外に流れ始めた天の川に気付いた優羽が喜んで窓に駆け寄っていく。
その姿を追いかけながら、誰もがそろってうなずいた。

──────To be continue.
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