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第2話 家族のルール

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カーテンの隙間から容赦なく差し込む朝の太陽に、顔をしかめながら優羽は寝返りをうった。
心地よい眠りをもたらす柔らかな布団の中で、肌に絡みつくシーツの気配が優羽の意識に何も身につけていないことを気づかせる。


「はっ!!?」


一瞬にして、昨夜の出来事を思い出した優羽は、思い出したように跳ね起きた。と同時に、ひどいダルさと腰の痛みが全身を追いかけてきた反動でお腹を抱えてうずくまる。
内側から込み上げるジンジンとした違和感と、まるでそこに体を支える芯があったのではないかと感じるほどポッカリと空いてしまった膣の入り口が、ヒリヒリと生々しい情事の感触を思い出させた。


「あっ。」


そのついでに、体中に赤い印がついていることに気付いた優羽は、恥ずかしさと戸惑いから、震えるように自分の体を抱き締めた。
どうしよう。
本当に父に抱かれたのか、嫌な夢を見ていたのではないかという儚い疑問が見事に砕けちるには十分な証拠だった。
何度も義父の腕の中であらがい、歓喜の声をあげた。

あれは本当に自分だったのだろうか?

嫌がる自分を簡単に犯す男から、女の悦びを教え込まれ、高く切なく甘い声をあげながら、男を求める術を叩き込まれる。


「───…っ~~。」


バサッと、頭まですっぽりと隠れるようにベッドにもぐりこんだ。
思い出さなくても覚えている。
それ以前に、身体が知らせてくれている。

もう処女ではない。

せっかく新しく迎え入れられたばかりの家で、これからどんな顔をして暮らしていけばいいかわからなくなってしまった。
義父の顔を見るのが怖い。
そう思えば思うほど、ベッドの中で強く自分を抱きしめる腕に力がこもった。


「ッ!?」


カサッと何かが落ちた音に布団から顔を覗かせると、目の前に一枚のメモがふってくる。
どうやら、幸彦がベッドサイドにもうけられたテーブルに置いていったようだが、書かれた内容にまた顔が熱くなる。


「ヤダ……っ…もぉ。」


昨夜は可愛かっただの、寝顔が愛しいだの、前半はラブレターのようだが、後半は熱烈な口説き文句だったのだからたまらない。
幸彦が怖かったはずなのに、何故か鼓動がドキドキと早くなるのは気のせいではないだろう。


「幸彦さ……ま?」


口にしてから、ふいにズキッと痛んだ頭に優羽の顔が疑問ににじむ。


「いった。なに?」


思わず顔をしかめるほどの頭痛だったが、それは一瞬にして止んだ。
ますます疑問に感じる。
昨夜飲まされた媚薬の後遺症なのだろうか?それなら、義父を朝から訴えないといけない。


「反対にヤられそう。」


勝てる気が全然しないことに気づいて愕然と肩がおちる。
ただ負かされるだけならまだしも、幸彦は確実に昨日と同様の行為で仕返しをしてくることだろう。
いや、昨日と同じならまだいい。


「やっぱりやめとこう。」


もっとひどいことになりそうな気がして、ブルッと身を震わせた優羽は、ベッドに寝転んだままそのメモにもう一度目を通した。

愛してる

丁寧な字で書かれた四文字になぜか胸が痛くなる。


「優羽~。起きてる?」

「りっ陸くん!?」

「あっ、起きてる。入るよ?」


軽くノックする音とともにかけられた声から部屋の外にいる人物を言い当てた優羽は、扉へと顔をむけた瞬間、驚きの声をあげた。
いつからそこにいたのか、たしかに「入るよ」と聞こえたはずなのに陸はすでに部屋にいる。


「やっ…出ていって!!」

「どうして?」

「どっどうしても!!」


驚愕の眼差しを向けたあと、再び優羽はガバッと布団の中に逃げ込んだ。
頭から布団をかぶって身を丸める優羽を不思議そうに見下ろしながら陸は首をかしげる。


「別に、僕は寝起きだからとか気にしないよ?」

「わっ…わた…私が気にするのっ!」

「ふぅん。まぁ、いっか。
でも、朝食の時間だから早くおりてきてね~。」


思いの外、あっさりと部屋を出ていってくれた陸に安堵の息をこぼしながら、優羽はベッドの隙間から顔を覗かせた。


「あ、焦ったぁ…。」


まだドキドキと心臓が脈打っている。
幸彦の手紙に気をとられていたとはいえ、確実に油断していた。
こんな体を見られなくてよかったと心から思う。そして同時に、彼ら兄弟に不審がられないようにしなきゃいけないと思った。

知られたくない。

幸彦への思いはどうであれ、父と関係を持ってしまったなんて、口が裂けても自分からは言えない。
なんとか幸彦のつけた赤い印が隠れる服を選び着替えをすませると、無駄に広い屋敷の階段を1階までかけおりて、リビングへとたどり着く。


「あっ……おはようございます。」


すでにダイニングテーブルには、朝から完ぺきな様相を整えた兄弟たちが座席していた。
あきらかに優羽が来るのを待っていたらしい彼らの視線を一身に浴びながら、優羽はおずおずと自分の席にぎこちなく向かう。


「遅い!」

「すっ…すみません。」


輝の第一声に体を大きく揺らして優羽は立ち止まった。
それをクスクスと優しい笑い声が援助する。


「優羽、おはよう。輝の暴言は気にしなくていいから座って。」

「てめっ、暴言って、もっと他に言い方があんだろ。」

「優羽を怖がらせる言い方は、なんだって暴言だよ。」

「は?俺がいつ優羽を怖がらせたって?」

「さぁ、それは俺より輝の方がよく知ってるはずだけどね。」


口さえ開かなければ上機嫌にも見える晶の笑みは深みをまして輝に向けられていた。
火花は見えないが、どことなく険悪なムードに優羽は、立ち止まったまま心配そうに両者の顔を見比べる。


「優羽が困ってますよ。」

「そうだよ。輝も晶も優羽の前でやめなよ。」

「「陸にだけは言われたくない。」」


救いの手を出してくれた戒にならって、義兄をしかった陸は、見事にハモる声に目を瞬かせた。


「ひどーい!」

「あはは……あ。」


全然見た目も性格も違うのに、妙に噛み合ったやりとりが面白い。
おかしくてついつい笑ってしまった。


「ご、ごめんなさい。」


自分を見つめる四つの視線にあわてて頭を下げると、優羽はその空気を払拭するように、与えられた自席に腰をおろす。
ごほんと、場をとりなすように輝の咳払いが聞こえた。


「いいか、魅壷家では食事は全員でとる。ルールは3つあるが、そのうちの1つだ。だから時間にはちゃんと顔出せ。」

「はっ…はぃ…。」

「おしっ。わかりゃいいぜ?」


素直にうなずいた優羽に、輝もニコッと笑い返す。
笑い返されると思っていなかった優羽は、ホッとして抜きかけた肩の力を反対にこわばらせた。
どうしてこうも、ここの人たちはムダに心をときめかせてくるのだろう。その答えは誰も教えてくれない。


「あれ?」

「どうかしましたか?」

「えっ?……ゆっ…お父さんの姿が見えないなって……。」


幸彦がいないことに気づいた優羽の視線に、戒は疑問を投げ掛ける。キョロキョロと、幸彦を探すように視線を泳がせる優羽の頭には昨夜の情事がちらついていた。


「一緒に食べたかった?」

「え?いや。その……」


急に顔をのぞき込んできた晶に、優羽はあわてて首を横にふる。そして、想像していたイヤらしい過去を振り払うかのように、早口で言い訳を並べた。


「全員で食事をとるのがルールなら、どうしていないのかなって……そう思っただけ……です。」


最後の方は、随分小さくなっていて自分でもちゃんと声になっていたかわからない。
なぜ一家の大黒柱がこの場にいないのだろうか?
いない方が個人的には有難いのだが、いないのはいないので、何故だか寂しかった。
複雑な心境に、声が曇る。兄弟に昨夜のことは知られたくない。知られたくないから、複雑なこの心境を伝えられなくて苦しかった。


「父さんは出張だって。」

「……えっ?」


難しい顔のまま幸彦の席を見つめる優羽に、陸がその答えを教えてくれる。


「なんか明け方に出ていったらしいから、緊急みたい。」

「そ……そうですか。」


もしかして自分と関係を持ってしまったために、いたたまれなくなって出ていってしまったのだろうか。


「仕事だし、しょうがないよ。」

「だな。」

「よくあることです。」


その心配は必要なかったらしい。
自分と関係をもった後ろめたさの逃避ではなく、幸彦は本当に仕事で出張へと明け方に旅立って行ったようだった。


「仕事?」


そういえば、何の仕事をしているのか知らない。
けれど、首をかしげた優羽の声は、お腹をすかせた彼らによってかき消される。


「あー腹減った。さっさと食おうぜ。」

「そうですね。自分も学校に行かなくては、いけませんから。」

「うわっ!? もうこんな時間なの!?」

「じゃあ、食べようか。」


どうやら疑問には答えてくれないらしい。手を合わせて各々に食事を始めた彼らにならって、優羽も手を合わせて食事をとることにした。


「い…いただきます。」


昨夜同様、豪華な食事は変わらない。
そこでまたひとつ、違う疑問が生まれた。
昨日、今日で屋敷のシステムはわからないが、お手伝いさんがいそうな雰囲気はどこにもない。


「これは誰が作ってるんですか?」

「今日は、輝だよ。」

「あっ?口にあわねぇか?」

「いっいえ、とても美味しいです。」


今度は答えてくれた晶と、食事担当だったらしい輝が顔をあげて優羽をみる。
じっと見つめてくる二つの視線に、優羽は慌てて首を横にふった。
と同時に、戒と陸がそろって席をたつ。


「「いってきます。」」


いつの間に食事を終えたのか、戒も陸もそろって、足早に部屋を出ていってしまった。


「あいつらは、学校だ。優羽も早く食え。」

「あ……はい。輝さんはどこに?」

「俺も仕事があるからな、自室にちょっくらこもってくるわ。」


ごちそうさまでしたと、意外にも行儀よく手をあわせて席を立った輝は、じゃあなと優羽の頭をポンポンと叩く。


「いい子にしてろよ。」


男らしく大きな手が気持ちいい。
髪はぐちゃぐちゃにされたが、もっと撫でてもらいたいと思うほど、その手はとても心地よかった。


「せっかちだな。」


自室へと消えた輝の背中を見送りながら、てぐしで髪を整える優羽を見つめて、晶は困ったように笑いかけた。


「慌ただしくてゴメンね。」

「いえ。あ…晶さんもお仕事ですか?」


せっかく家族になったのに、一緒に過ごせる時間は少ないのだろうかと、優羽は声を落として晶を見つめ返す。


「ん?今日は、休みだからね。優羽のそばにいるよ。」

「お休み?」

「うん。普段はあまり休みはとれないんだけどね。」


今日は特別と優しく笑う晶に、優羽の顔は自然とほころぶ。
よかった。
慣れない広い家で、ひとりどうして過ごせばいいのか途方にくれるところだった。


「その代わり、家の仕事を教えるから覚悟すること。」


いたずらにウインクをされれば優羽の顔は赤くなるしかない。
もともと綺麗な顔立ちに加え、妖艶な雰囲気をたまに見せる晶に、そうならない方がおかしかった。


「じゃあ、食事が終わったら早速手伝ってくれるかな?」

「えっ?」

「後片付け。」

「はい!」


残った晶と二人。
仲良く食べた朝食は、とてもおいしくて、今日は素敵な一日になればいいなと優羽は思う。
食事後は、テーブルの上を片し始めた晶にならって優羽も素直に手伝った。


「なんか……すごい……。」


晶に導かれた台所は、それは見事としか言いようがない。
本格的な厨房といったほうが正しい気もするが、一般家庭にこの広さは必要ないんじゃないかと思う。


「ひとり、料理にはこだわりをもった奴がいてね。」

「え?」

「そのうちわかるよ。」


ニコッと冗談めかしてお皿を洗い始めた晶の手際のよさにも驚いた。
見た感じ、失礼ながらも全く家事が出来なさそうないで立ちなのに、晶は優羽の予想を見事に覆(クツガエ)した。


「優羽、ほらっ。さぼってないで、手伝って。」

「あっ……はっはい!」


思わず見とれていた。というのは、もちろん晶には伝えていない。台所には、カシャカシャと食器の音と水の音だけが響いていた。
沈黙なのにどこか落ち着くのは、晶だからだろうか。


「これ、しまってくれる? そうそう、そっちの皿は……───」

「キャッ!?」

「───……と、これで届くかな?」


渡されたお皿をしまおうと、同じお皿の並ぶ食器棚の前で背伸びをしていた優羽の体がフワリと浮く。
犯人はもちろん晶以外にいない。


「えっ!?」

「ほら、そこにしまってくれるかな。」


背の届かない自分を持ち上げるより、晶が自分でした方が早いのではないかと首をかしげながら優羽はお皿をしまう。
それ以前に、軽々と持ち上げられたことに優羽は晶に似つかわしくない側面への驚きを隠しきれないでいた。


「あ…あの……終わりましたけど?」

「うん。ありがとう。」


にこりとお礼を言われれば、純粋に嬉しい。
しかし、一向に下ろす気配のない晶の腕に疑問を感じて優羽は首をひねって晶の方へ振り返った。


「あき──……っキャッ!?」


振り返ろうとした優羽の体は反転し、晶と向かい合う形でステンレスのキッチンの上に座らされる。
無駄に広い台におろされたお尻が、ひんやりと無機質な冷気を感じ取った。


「あ…っ…晶さ…ん?」


状況がうまく飲み込めず、どうしてこんな場所に座らさせられたのだろうと、優羽は目の前の晶を見つめた。
どうしてだろう。
自然と体が警告を出して後ずさろうとする。


「………っ。」


ごくりとのどが鳴った。

コワイ

優羽の本能が察知するのと、晶がふっと笑ったのは、ほぼ同時。
その瞬間、無機質な台所に甲高い少女の悲鳴と引き裂かれる服の音が響く。
人間の力で、こんなにも簡単に服は引き裂けるのだろうか。
そんな素朴な疑問がわいてくるほど、優羽は混乱していた。


「随分、跡つけられちゃったね。」

「ぁっ…あきッン!?」


驚きから逃げることも出来ない優羽の唇は、強引に晶の唇に奪われる。
キスが怖い。
体を隠す間もなく唇を奪われて、優羽は恐怖に目を見開く。


「ンッ…あっ。」


絡まる舌にギュッと目を閉じれば、顔を離した晶との間に銀色の糸がつながった。


「あまり上手くなってないね。」

「え?」

「父さんはキス、教えてくれなかった?」

「ッ!!?」


不思議そうに首をひねる晶に、こちらが首をひねりたいと思う。
何を言ってるの?
驚きに見開かれた優羽の目には、さっきまでの優しいお兄ちゃんではなく、一人の飢えた男がうつっている。


「あ…あなた、誰?」

「忘れたのなら、思い出させてあげようか?」

「ひッ……いっいらなイッ!」


ドンッと晶を押し退けて逃げるはずだったのに、なぜか優羽は逃げ切れずに未だ無機質なキッチンの上にいた。


「ど…どいて………」


昨日、今日で何度自分の無力を実感すればいいのだろう。
男と女ではこれほどまでに、力の差があるものなのだろうか。


「ほんとに父さんに食べられた?」

「イヤっ!!」


意図も容易く、キッチンの上で優羽は晶に足を大きく広げられる。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
まだ朝の日差しが差し込む調理室なんて、細部まで見るには十分な環境が整っている。もちろん優羽は、恥ずかしさで顔を赤くしながら、その中心を手で隠した。


「はい、よく見せてね。」

「イャっ…あっ……あき」


中心を隠す両手をそれぞれ膝のうしろに差し込まされ、そのまま足を持ち上げられてしまった。


「ヤッ…やめ……」


恥ずかしさで泣きそうだった。
いくら布一枚隔てているとはいえ、何が嬉しくて、自分で男の顔面に恥部をさらさないといけないのか。


「優羽。シミが出来てるよ。」

「ッ!?」


顔を寄せて真顔で言わないでほしい。
下から見上げてくるその目からそらせなくて、優羽は台座の上で震えながら晶を凝視する。
まるで今から料理される食材のように、絶望的な乙女の困惑が、その潤んだ瞳に込められていた。


「きゃあっ!?」


いきなり体のバランスが大きく崩れて再び引き起こされると何故か下着はそこになかった。


「ああ、少し腫れてるね。」

「ゃだ…見な…でっ…。」


自分で開脚する姿勢は未だ強制されたまま、優羽は晶に乙女を視姦される。


「たくさん犯されて気持ちよかった?」

「なっ!?」


やっぱり知ってる。
でも、どうして?
晶の言っている意味が理解できない。
誰が、いったいどこまで知っていると言うのだろうか?
彼らは皆、知っていて、誰も助けにこなかったのだろうか。


「ど……して?」


急に、湧いてきた疑惑に心の整理がつかなくなったのか、優羽の歯の根がカチカチと音をたて始める。


「可愛いね。俺が怖い?」

「ッや!?」

「こんなに濡らして……見られるだけで感じる?」


見上げてくる妖艶な視線に震える下半身に、力がこもるのがわかった。
それと同時に中から蜜が送り出される。


「……っ…。」

「父さんもひどいな。いくらルールとはいえ、こんなに可愛い優羽を独り占めにするなんて。」


もう何がなんだかわからない。
とにかく、そんな場所で喋らないで欲しかった。


「ひゃ!?」


ビクリと大きく体をゆらした優羽の声の隙間から、ヌチャッと粘りのよい音が響く。


「ヤッ!あき…ダ…めっ。」


ねっとりと舌を這わせながら脚の付け根に顔を埋める晶の頭上で優羽は声を震わせた。
自分で膝に手を差し込んで、大股開きで男の前に果実を差し出している以上、食べられることを止めてもらえない。


「お願っ…あっ…だ…メッ」


不規則な晶の舌の動きに体が反応し、塞ぐことのできない口からは快楽の声がもれる。
指とは違う、生温かい生き物の愛撫。


「ふぁっ~…ゃっ…いっ…あッ…アッ!?」

「優羽は、相変わらず可愛い声で鳴くね。」


愛蜜に濡れた口を舌舐めずりながら、顔を上げた晶は、涙をためた目で自分をにらむ優羽を見つけると、にっこりと笑顔を見せる。


「ん? なにその顔?」


もう少しで絶頂に達する寸前だったのか。
荒くなった息を圧し殺し、もどかしそうに腰を動かし、男を迎え入れる穴は収縮を繰り返して酸素を求めている。
全身でおねだりをしてくる優羽の無自覚な行動に、晶の唇は楽しそうに歪んだ。


「おねだりの仕方、教わらなかった?」

「ッ!?」


どこまで知っているのだろうかと怖くなる。
全部を見ていたのではないかと疑いたくなるくらいに、晶の言葉は確信に満ちていて当たっていた。


「別にいいよ、言わなくても。」

「え?」

「その内、イヤでも欲しがるようになるから。」


これが、あの優しい晶なのかと耳を疑うことしか出来ない。
大人の男の顔で、女の匂いを凌辱しながら、神経を犯してくる。外見とは裏腹に、優しくない素顔が怖くて逃げられない。


「それとも、好きなだけ耐えてみる?」

「……っ…ぁぁ…アァッ!」


ヤダヤダと首を横にふって瞳を潤ます優羽を無視するように、再び晶は蜜を溢れさせるそこに舌をはわせた。
ジュルッと果肉から溢れた蜜を晶が音をたてて飲んでいく。
朝取れの果実のように本当に美味しそうにかぶりついているが、どう考えても美味しいとは思えない。


「大丈夫。ちゃんと美味しいよ。」

「ッ!?」


晶は読心術でも持っているのだろうか?
そんな疑いの目を向ける優羽を見上げながら、晶はクスッと固くなった実に歯をたてた。


「ヒァッ!?」


ただ舐めあげるだせではない痛覚に優羽の腰が跳ねる。
甘く痺れる淫核に与えられる刺激が、新鮮で目の前がチカチカする。


「アッ…やめっ……」


ひざの裏に差し込んだ手を抜いて抵抗しようにも、重なるように抑え込む晶の手にそれは叶わない。
調理場でM字開脚をしたまま優羽は、その実を晶に提供していた。


「このまま本当に食べちゃおうかな?」

「っ!?」

「冗談だよ。」


股の間で笑う晶の登頂部をなぐりたい。
冗談には聞こえないその笑い方が怖くて、ゾクゾクと背筋に悪寒が走る。


「また、そうやって俺をあおるつもり?」

「アッ………っ……」


舌先が触れるか触れないかまで顔を離した晶と目が合う。
吐息と生暖かな感触を身近に感じるからか、芽が固く勃起しているのがイヤでもわかった。痛いほど主張するそれに、ますます恥ずかしさともどかしさが込み上げてくる。


「今、あまりあおらないでね。」

「きャッ!?」

「壊しちゃうから。」


何がどうなったのか、呼吸が苦しい。
突然、体を起こしてきた晶に優羽は体をL字型に折り曲げられ、開脚させられた足を下から仰ぎ見る体制をとらされた。
晶が上に見える。
自分の秘部と晶の顔が一直線上に見えるが、体が柔らかい訳ではないので、少しこの体制はツラい。
けれど、そんなことよりも恥ずかしさが勝ってそれどころではなかった。


「これは俺の仕事だから。」

「イヤァッ!?」


二本の指を上から垂直にねじ込んできた晶の言葉が理解できず、優羽の体が素直に暴れる。


「ほら、大人しくして。」

「アッ……ヒァっ…ヤッやめ……」


イヤでも見える行為に頭がおかしくなりそうだった。
埋まっていく晶の指と、滑(ヌメ)りをおびて引き上げられる指が断続的に繰り返される。


「アッ……あっやアァ」


ねじ込むように、差し込むように、角度が変わり、速度が変わる。
不規則な愛撫にグチュグチュと聞くに耐えない卑猥な音がキッチンにこだましていく。

逃げたくても逃げられない。

慣れない体制に悲鳴をあげる体を労(イタワ)ることも、肺が圧迫されて思う通りにいかない呼吸も何もかもが苦しいのに、どうにもならない。


「いけない子だね。」

「アッあぁ……ヤメっん……」

「こんなに奥まで汚されて。」


太ももの付け根を舐めながら見下ろしてくる晶の視線が感情を逆撫でてくる。
酸素不足にあえぐ力もままならない優羽は、ゼェゼェと苦しそうな呼吸で晶に歪んだ顔を見せた。


「だから、煽らないで。」


困ったように笑う晶の顔がボヤける。
いつの間に泣いていたのか、涙が目の横を伝っていくのがわかった。


「ヒッアッ!?」

「ちゃんと綺麗にしようね。」

「ヤメッ…~っ…」


指を往復させたまま、晶の唇が再び割れ目へと当てられる。
そのままあふれでてくる蜜を舐めあげて、かき出す行為に優羽は腰をふって答えた。


「やッ奥ッ……ま」

「綺麗になるまでヤめてあげないよ。」


綺麗の意味がよくわからない。
根本まで埋めてくる晶の指が中で折れて、肉壁をえぐるようにバラバラと動く。かき出された蜜は漏れることなく吸われ、飲み込まれ、外気にさらされた卑猥な芽はかじられて悲鳴をあげていた。


「ヤァ…っ…アぁっ」


もう耐えられない。
ガクガクと勝手に体が暴れていく。


「アッ…ッあ…あきッ…」

「ん?」

「ッ!?」


もうひとつ晶の手が余っていたことを忘れていた。


「こら、抵抗しないの。」

「アッ…ヤァっ……」


クスクスと果肉をむさぼる行為をしながら晶は笑うが、おもむろに伸ばされた手のひらで胸をわしづかみにされた身となっては、抵抗しない方がおかしい。
器用に指の間で乳首をはさみながら、手のひら全体で乳房を揉みあげる。
こんな芸当は、男ならみんな出来るのだろうか。


「ヤァッ!?」


グッと最奥まで指をねじ込み、果肉に噛みついた晶のせいで、優羽の涙ににじんだ悲鳴が響いた。


「俺以外のことを考えた罰だよ。」

「アッ!?っ……ヤッ…ごめ」


本当にどこまでこちらの心が読めるのかと疑えてならない。
無言で速度を早めた晶の愛撫に視界がゆれる。

許して
ごめんなさい

何に対して、誰にたいして謝っているのかわからないが、そこに見えはじめた絶頂の気配に優羽は強く息を飲んだ。

───イキタイ

───イカセテホシイ

────アキラガホシイ

本能が頭の中を支配する。
イク寸前で止められては、見上げられ、クスリと笑われては、また食べられる。焦らされる地獄に、頭がおかしくなりそうだった。グチュグチュと自分自身が食べられているようで、無機質な冷たさに肌が触れるたびに生きているのだと痛感する。


「ぁっ…アッ…ひっ…。」

「優羽は可愛いね。こんなに震えて、赤くして。」


甘い声で荒い息を吐き出し、悲鳴じみた奇声をあげながら体を震わせる。それでもイクことは叶わず、耐えきれなくなった優羽は弱々しく鳴いていた。
晶は何もくれない。
舌と指だけが、重点的にただ一ヵ所をむさぼっていた。それがもどかしくて、その先が欲しくなる。


「もっ…ゆる…て。」


口は、反対の言葉を発していた。
やめてほしくないのに、やめてほしい。耐えられない。
こんな屈辱と快楽の狭間でまともな意識なんか保っていられない。


「やめていいの?」


支配権をもつ義兄に、本当のことなんて言えるわけがない。
息ひとつ乱さず、髪も服も何もかも朝食を食べていた頃と変わらない晶にわかるわけがない。


「はぁ…っはぁ…アァッ!?」


もういやだ。
同じところばかりが熱をもって、溶けそうなほど熱い。


「やっ…だ…ぁ…ッ……。」

───ヤメナイデ

「……も…ぅ……」


父と関係をもってしまったのは、昨日のこと。
その上、兄弟とまで関係を持ってしまえば、普通の家族として、娘としてやっていける自信がなかった。


「ゆ……し…て……」

「ん?」

「ゆるして…くダ…ッ…イヤァァアぁあッ!?」


何もかもが限界で、それ以上は何も言えなかった。
ビクビクと、快楽から逃げ出そうと体を暴れさせる優羽を押さえつけながら、晶はクスクスと蜜を吸い上げる。舐めても舐めてもあふれでてくる液体は、ぬめりを帯びて、濃厚に光っていた。


「はぁ…はぁッ…あっ…あき…ら」

「美味しいよ。優羽。」


絶頂の余韻からか、先ほどからグイグイと晶の顔に押し付けるように優羽の腰は揺れている。
そんな優羽の姿に、晶は愛おしそうに口角をあげた。


「本当に可愛いね。でも、少し意地悪がすぎたかな?」

「──…ッひヤァ!?」


前ふりなくいきなり差し込まれたモノに、優羽の体は反応して大きくのけぞる。
おろされた足に酸素が一気に出ていくと同時に内部へと侵入してくる異物に優羽は顔をしかめて抵抗をみせた。


「こらっ。そんなに締め付けない。」


優羽を叱る晶の口調は余裕そうに笑いながらも、わずかに顔がゆがんでいる。


「優羽。父さんの感触は全部俺が消してあげるよ。」

「ぁっ…やっ…イヤッ。」

「イヤじゃないくせに。いれられた瞬間にイッちゃったのは誰かな?」

「ちが…っぅ…。」

「ちがわない。」


苦しそうな呼吸を繰り返しながら、打ち付けられる腰の動きに合わせて声がこぼれおちる。
幸彦とは、また違う男の動きに優羽の意識は翻弄されていく。


「アッ…はぁ…アッ……」

「気持ちいいね。ほら。」

「ヒッ!?」

「ここが好きだね。」


つるつると滑るステンレスの上で、優羽は晶に抜き差しされる意識の波にのっていた。
断続的に打ち付ける快感と、理性がきかない女の声。


「一緒にいこうか。」


晶に口付けを落とされて、ままならない息の中で優羽は何度も何度もその腕の中で鳴いた。

──────────
────────
──────

「あぁ。もうこんな時間か。」


玄関から聞こえてくる騒がしい声に気づけば、とっくに日は陰っていた。
隣で寝息をたてる優羽に、ふっと笑みがこぼれる。


「やっと手の中に戻ってきたと思ったのに、これだからな。」


はぁ~と、長い長いため息がこぼれるのも仕方がない。
優羽の体につけられた幸彦の跡を晶は指先で何度もなぞる。


「おかえり、優羽。」


幸彦が残した痕を消すように、晶の唇が優羽の皮膚に重なる。
苦笑の息をこぼしながら顔をあげた晶は、今度は自分がつけた跡を指先でなぞった。


「もう離さない。」


誰にでもなく、そう独り口にした晶の顔は夕日に染まる窓のせいでよく見えない。けれど、声だけは確かに決意を秘めて聞こえていた。


「ゆっくり、おやすみ。」


晶はそっと、優羽の額に唇をよせる。愛しそうに囁かれた声に反応した優羽が、小さく寝返りをうった。


「はいはい。」


階下から兄弟たちの駆け足が上がってくる音が聞こえる。せっかく優羽との貴重な時間を満喫していたのにと愚痴をこぼしながらも、晶は優羽を起こさないようにそっと部屋をあとにした。

──────────
────────
──────


どれほど眠っていたのかわからない。
まだ半分夢の中にいる気がするが、なぜかとても幸せな気分になれる夢を見ていたことだけは確かだった。
ふわふわと温かくて、優しい夢。
何度も自分を呼ぶ愛しい声。


「優羽、そろそろ起きようか。」


クスクスと、何がそんなに面白いのか、優羽は笑いを含めた晶の声に自分がまだ寝ていたことに気づいた。


「…?…ぁ…あき…。」

「はい、おはよ。っていうか、こんばんは?」


驚いた顔で固まる優羽に体を寄せると、当たり前のように晶は優羽に服を着せ始める。
寝起きの頭で思考回路がうまく働いていない優羽は、晶にされるがまま身を任せていた。


「たくさん虐めてしまったからね。今晩は優羽の好きなものを作ったよ。」

「……えっ?」

「晩御飯。」

「え?あっ、キャア!?」


下着をはかせるために、シーツを剥ぎ取り、片足を持ち上げられたところで、優羽は晶の行為にようやく理解が追い付いたらしい。


「じっ自分で、できます。」


真っ赤な顔で晶からパンツを奪うと、優羽はシーツの中で慣れない着替えをおこなう。
いまさらだとか、甘えたらいいとか、ぐちぐちと晶は文句を口にしているが、そんなこと言われても困る。


「あれ?もう夜?」

「そうだよ。」


シーツの中でモソモソと着替えているうちに頭が冴えてきたのか、窓のカーテンが締め切られ、部屋の明かりがついていることと、先程の晶の言葉で優羽の体内時計は正常な機能に戻った様子を見せた。
記憶は、まだ太陽が真上にあるあたりで止まっている。


「………あ…」


そこでどうして自分が眠っていたかを理解したのか、優羽は顔を赤くしながら晶の顔を盗み見た。


「手伝おうか?」

「どうして?」

「着せてほしい?」

「…ッ…じゃなくてっ!! どっどうして、あんなことしたんですか?」


会話が噛み合わない。
晶の的外れな問いかけに痺れをきらした優羽が叫ぶ。


「あんなことって?」


どうしてこんなに余裕の態度でいられるのだろうか、ニヤリとあがった晶の口角に優羽の顔がひきつる。
答えはひとつしかない。
わかってるくせに、晶は優羽に言わせようとする。
そして優羽は、もちろん答えられずに口をパクパク動かすしかなかった。


「愛してるからだよ。」

「……ま…また。」


わかりきった嘘をつく兄に、優羽は困った視線をむけることしかできない。
愛しているなんて、これだけ格好よくてモテそうな男なら山ほど吐いて捨ててきた言葉だろう。
そんな薄っぺらい言葉にほだされないと、優羽はゴクリとつばを飲み込んで晶を真正面からとらえた。


「私のこと何も知らないのに、どうして愛してるっていえるんですか?」


初対面で一目惚れされた経験は、残念ながら一度もない。
真正面からみても、いや、どの角度からみても非の打ち所がない兄は、きっと自分が想像もできないくらい綺麗な人と恋をしてきたに違いない。
晶ほどの男を世間が放っておくわけはないだろうとも思う。

そんな人が、自分を愛しているって?

真に受けてはいけない。
ごく普通の、特に目立つ箇所のない自分を彼らのような人が本気にするわけはないのだから。


「今はわからないかもしれないけど、いずれわかるよ。」

「……。」


優羽の複雑な気持ちを読み取ったかのように、晶は優しく優羽の頭を撫でる。


「これが俺たちの愛情表現だって。」


……俺"たち"の?

幸彦と晶のことを指しているのだろうかと首をかしげた優羽に、晶はもう一度頭を撫でてから御飯を食べにおりようかと提案した。答えをハッキリさせるまで動かないつもりだったが、今朝の輝とのやり取りを思い出して、優羽はしぶしぶ了承した。


「魅壷家には、ルールがいくつかあってね。」

「は……はい。」


階段を下りながら、晶は優羽に手を差し出す。その手を一度警戒したものの、害はなさそうだと優羽は素直にその手を握り返した。
はたから見れば、恋人同士に見えなくもない。
仲良く階段を下りる優羽に、晶は話しを再開させる。


「隠し事はしない。素直に従う。父さんが絶対。」


身をもって体験させられた掟を優羽は、黙ってきく。
私がルールだと、義父はそういっていたが、あれは冗談ではなく本当に実行されている掟だということがわかった。


「父さんが不在の時は俺が絶対だから、何かあればすぐにいってくれたらいいよ。」


それは怖くて言えそうにないと思った。
絶対ということは、優羽も例外ではないということで、それはすなわち今朝の出来事に逆戻りするかもしれない要素を含んでいる。
ふるふると何かを振り払うかのように勢いよく首を横にふった優羽は、晶に微笑みを向けられて曖昧な微笑みをかえした。


「俺はいつでも優羽の味方だから。」

「──…っ~~」


握られた手の甲に、キスを落とした晶に赤面する。
こういことを嫌味なくサラッとやられると、心臓がいくつあっても足りない。


「はい、どうぞ。お姫様。」


そう言って促された先には、どうやって好物を調べたのか、本当に優羽の好きな料理ばかりが並んでいた。

──────To be continue.
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