【R18】ふしだらな月下香

皐月うしこ

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ふしだらな月下香

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恋なんてただの幻想。決められた結婚相手が必ずしも理想の相手とは限らない。
おとぎ話の中のお姫様も、物語にでてくる妖精も、恋愛小説の主人公も、決められた相手と結ばれる運命を感じられるのは、それが作られた世界だからにすぎない。


「進藤くん」


芙美(フミ)は自分の声がいつにも増して不機嫌な色を醸し出していることに気が付いた。


「仮眠室は、そういうことに使う場所じゃないって知ってるでしょ」


シャッと青白いカーテンを勢いよく開け放つ。
定時を過ぎた午後七時頃。研究室の並ぶ廊下の一角に設けられた薄暗い「仮眠室」の扉を開けた芙美は、その室内に入るなり、不自然に揺れるカーテンを開けた。


「きゃっ、なんなんですか。芙美先輩」

「なんなんですか、じゃないわよ。ここは公共の場よ。過程観察で残らないといけないから、私は今のうちに仮眠をしに来たの」


はぁとわざとらしいため息を吐いて、芙美は仮眠室のベッドをラブホテル代わりにしようとしていた一組の男女をにらむ。


「定時が過ぎたんだから、さっさと帰りなさい」


お楽しみを邪魔された男女の反応は対極的で、呑気に欠伸をこぼす男の横で、ふわふわの綿菓子のような彼女は真っ赤な顔で邪魔をされたことに憤慨している。予想通りの反応。
それは男に限ってのことだったが、芙美は覗くたびに相手が変わるそのだらしなしさに嫌悪感をにじませていた。
それをどう受け取ったのか、後輩ともいえる女性研究員が芙美をじっと睨み返してくる。


「私をにらんでも仕方ないでしょ」

「二階堂会長の孫だからって横暴よ」

「おじいさまは、今は関係ないことでしょう?」

「研究が恋人の芙美先輩に、わたしを抱く相手をどうこう言われたくありません!」

「なっ!?」


白衣に、化粧のしていない顔。眼鏡をかけて、髪を簡単に束ねただけの芙美には言い返す言葉が出てこない。


「進藤先輩とこうなるまでに、何人待ったと思ってるんですか!?」


絶句。世の男性が好みそうな牛皮のような柔らかさをまとった彼女は、大きな目に涙をためて芙美をにらんでいる。少し緩やかなウェーブがかかった髪に、手入れの行き届いた肌と爪。途中まで衣服がはだけていることを無視するのであれば、足の出る短いスカートと、胸の部分が深くあいたニット。基本的に研究員は白衣を着用するため、その下は私服であることが多い。
そうはいっても、男を誘うためだけの装備で包まれた彼女は、ここに何をしに来たのかと問わざるを得ない。


「何人かなんて知りたくもないわよ」


芙美は彼女だけを責めるわけにはいかないと、男の方にも視線を送っていた。


「仕事が残っていない人に仮眠室を使う権利はないわ」


ぴしゃり。公共の場でふしだらな行為をしないでもらいたいと、芙美は声に不機嫌さを隠しもせずに腰に手を当てる。


「進藤くんも、さっさと出ていって」


そう言って芙美は、仮眠室と書かれた部屋から男女を外へと放り出した。
シンとした室内。
はぁと、疲れた息を吐き出した芙美は空いたばかりのベッドの上に腰かける。


「本当にどうしようもないわね」


芙美は疲れたように肩に手を置くと、数回首を左右に動かしてから、髪を結んでいた紐をほどく。パサリと軽い音をたてて、解放された長い髪が芙美の背中を軽くたたいた。


「相変わらず、政宗(マサムネ)も真斗(マナト)もモテること」


人知れずこぼれた不満の声は、ベッドに横たわろうと靴を脱いだ芙美の体勢にかき消される。目を閉じなくても浮かんでくる二人の男。嫉妬に狂う資格はないというのに、他の女性と話している姿を見るだけで、胸のあたりにモヤモヤと言葉にならない感情を運んでくる彼らは、もう随分前から芙美の心の奥に住み着いていた。


「そうしていると、美人なんだけどな」

「ッ!?」


背後から外された眼鏡に驚いて振り向いた芙美は、その瞬間、唇を奪われるようにして仮眠室のベッドへと押さえつけらえる。


「んンん~ッンん?」


「しんどうくん」確かにそう口にしたはずなのに、芙美の口内は先ほど追い出したばかりの男の名前を唾液と一緒に飲み込んでいた。


「ヤッ~~進藤く…ッ」

「もう定時すぎたんだろ?」

「ンッ…や…まさ…~ねッ」


角度を変えて何度も蹂躙される舌にピリピリと脳が機能停止の余韻を伝えてくる。
はぁ、はぁと徐々に熱く変わっていく吐息に目を開けてみると、綺麗なマツゲの先端がゆっくりと離れていくのが見えた。


「ちょっ、なに、政宗(マサムネ)が、どうしているの?」


ぷはっと戻ってきた酸素に、芙美は混乱のまま、自分の上に覆いかぶさっている人物へと問いかける。油断していたとはいえ、唇を無遠慮に奪う権利は彼にはない。


「今日の当直って誰?」

「え?」


突然の質問返しに芙美の思考回路が停止する。


「だっ誰って決まってるじゃない。それよりもさっきの子は?」

「なに、妬いてんの?」

「ちがッ~~~ンンっ」


またしても不覚。今度はご丁寧に頬を包み込むように両手で顔を固定され、最初から生温かな舌まで口内に侵入していた。おかげで息が苦しくて仕方がない。
じたばたと、芙美は真上を陣取る男を引きはがそうと腕に力をこめてみたが、なぜか彼は微動だにしないまま芙美の口内を犯し続けていた。


「~~ッ、ぁ。訴えるわよ!」

「答えない芙美が悪い」

「なっ」


至近距離で見つめられる瞳の圧力には逆らえない。さすが、夜な夜な職員の女性たちが順番待ちをしてでも抱かれたい男だと、芙美はくやしそうに唇をかんで目の前の男をにらみつける。だが、きっと相手が悪かったのだろう。


「で、あいつは何してる?」


真顔というよりかは少し怒ったような抱かれたい男NO,1の研究員、進藤 政宗(シンドウ マサムネ)は、芙美の額に軽いキスを落とすと、端整な顔で涼しい表情をしたまま、芙美の白衣の下に隠されたブラウスのボタンをはずしはじめていた。


「ちょっ、なにするの?」

「答えないと、俺に抱かれるぞ?」

「言っている意味がわからっな、誰が…ぁ…あなたに」


女性遍歴のいかがわしい男のいうことに翻弄されてはいけない。
成績は優秀で、確かに研究員としては尊敬するべき才能を持っていたとしても、性格に難があるのであれば十分に問題児といえる。


「牧瀬くんは、総務課の子に告白されてるの。可愛い子だったから付き合うんじゃないの?」

「真斗(マナト)が?」

「そう…っ…ほかに、誰が…ンッ」


器用に外されていくボタンに、ブラウスは芙美の胸を政宗にさらしていく。そのまま現れたブラジャーをずらされ、ほのかな桃色をした先端を口に含まれると、芙美の身体はピクリと硬直を見せていた。


「ヤメッ…ぁ…政宗ッ…~っ」


さらさらと指通りのいい髪が胸に吸い付いて離れてくれない。


「ァッ…ぁ…んっ」


彼の手は千手観音のようにきっと何本もあるに違いない。芙美が頭を胸から引きはがそうと必死になっているうちに、内面から脱がされた衣服は、最終的に白衣に包まれる形で床へと落ちていった。


「どうし…っ…ァッ!?」


どうしてこんなことになっているのか。先ほどまで違う女性を抱こうとしていた男が組み敷いているのが、他でもない自分に変わっている現実に頭が追い付いてこない。


「あいつに抱かれる前に俺が抱いてもいいよな?」

「言っ~~て、る意味…が…分からない…ッんだけど」


芙美は体中を撫でまわそうと迫ってくる政宗の腕から逃れようと身体をくねらせる。
普段は不愛想で頑固な女性が、ベッドの上でゆっくりと花開いていく様は、きっと本人にはわからないことなのだろう。無自覚に男を誘おうと細くしなる線の痕に、ごくりと政宗のノドが鳴った。


「お前、鈍感にもほどがあるぞ」

「~~ぁ、なっ…に、言ってるの?」

「イヤらしい体をして、男たちがどんな目でお前のことを見ているのか、わかってんだろ?」

「言っている意味…が…ッわから~~…っな」

「じゃあ、教えてやるよ」


さすが、数多の女性を抱いてきただけのことはある。


「ッ!?」


身体の上を滑る手のひらと柔らかな唇、自由に動く指と舌に肌の表面がぞわりと泡立つのも無理はない。こんな男に負けたくない、屈したくないとすら思わせないほどの優しい愛撫に、芙美の声が甘い声をあげ始めていた。


「ぅ…ヤッ…まさむねぇ…ぁ」

「ったく、どっからそんな声出てくんだよ」


それはこっちが聞きたい。いつのまにか下半身の間に顔を埋めようとしている男の肩に足を乗せながら、芙美は熱く火照る身体から吐き出される息の質感に戸惑いを隠せていなかった。初めて感じる快楽の刺激に、好奇心と興味が、拒否や否定よりも勝ってくる。


「~~ッ…はぁ…ァアァッ…はぁ」


固くとがった実を剥かれ、勢いよく吸い付かれた反動で、芙美はのけぞりになって政宗にその果実を提供する。
チカチカと点滅しそうなほどの快感。
内部に差し込まれる指に愛蜜をかきだされ、ぐちゃぐちゃと食べられる感覚に悦なる声が止まらない。


「政宗。お前なぁ、大事なこと言う前に先に手ぇだすなって」

「ひぁッ…ァ…牧瀬くん!?」


貪欲に快楽をむさぼっていたとはいえ、完全に居場所を忘れていた芙美の声が羞恥に震えていく。


「だから、定時過ぎてんだから、くん付けで呼ぶなっつってんだろ」

「ヤッ…政宗ッ~~っ真斗…ぁ…みない…で」


どうしても止められない。
絶頂に向かってあがっていく快感を止める方法が見つからない。
それをわかっていて、政宗も芙美の股の間から顔をあげようとはしなかった。


「いやっ…ぁ…イヤァァァッッ」


政宗の顔を足で挟み、両手でその後頭部を押さえつけるようにしながら高く果てた芙美に、二人の視線が降り注ぐ。
下半身から顔をあげた政宗の愛撫から解放された芙美は、仮眠室のベッドの上で荒く胸を上下に動かし、恍惚の表情で脱力していた。


「あーあ。せっかく過程観察を口実に二人きりの時間を作ろうと思ったのに」


残念そうな顔で、真斗が芙美の横に腰かける。
ギシッと三人目の重みを伝えた簡易ベッドか、重量オーバーだとでもいうように苦しそうな軋みをあげた。


「なにが過程観察だ。とっくに研究は終わってるくせに、芙美と何をするつもりだったんだか」


白衣を脱ぎ捨て、男女の営みに終わりを見せない政宗を注意しないのか、真斗は芙美が逃げないようにその頭を優しく撫でながら快楽の余韻を楽しむ姿にホホをゆるめる。


「芙美が俺たちを残らせたんだろ。それなのにお前ときたら」

「笑ってんじゃねぇよ」


クスクスと同僚が意味深な笑い声をこぼしたことで、全裸になった政宗の声が不機嫌にそれをにらんだ。


「俺から誘ったことは一度もねぇ」

「だからって先に芙美を抱くのはなしじゃね?」

「仮眠室で待ってただけだろ。ったく」

「ああ。今井ちゃん、怒りながら帰っていってたな」

「知らねぇよ。あいつが勝手に服脱いで迫ってきただけだっつの」


「なぁ、芙美?」と呼びかけながら上に重なり落ちてくる政宗に、芙美は思考回路を奪われる。わずかにともされた明かりの中で感じる体温の熱が、ぞわぞわと芙美の神経を敏感に揺らしていた。


「で、芙美。どっちにするか決めたか?」

「何の話?」

「とぼけるなって」


もう一つの体温が真横からはいってくるなり、背後から芙美を抱きしめるように体勢を整える。
強制的に後ろに体重をかけるように座らさせられた芙美の体は、前に政宗、後ろに真斗という形で二人の男に挟まれる形で収まった。


「待っんっ…はぁ…ちょっ…~~ァっ」


背後から真斗に胸をもまれ、前からまた、政宗が下半身に顔を埋めようとしてくる気配に身体が震えだす。


「どっちを婚約者にするかって話に決まってんだろ?」

「っ…ぁ…~~んっ?」

「研究も完成させたいし、決められないから保留って言ったのはお前だろ?」

「あれは…ッ…そ、の」


耳から直接流し込まれるような真斗の声と、身体の芯から響くような政宗の声。
身体が支配されてしまったんじゃないかと錯覚するほどの二人の愛撫が続けられる時間に、芙美はこうなった原因を探っていた。
心当たりは、ある。


「こうして研究も完成したわけだし、あとは芙美に決めてもらうだけ」

「そんなっ…ぁ…~ァア」

「決められないって言うのは、もうなし」


五年前。この研究室に始めて配属された日のことが脳裏に浮かぶ。
当時、二階堂グループという巨大組織を治める会長の孫娘として、芙美は婚約者を決めるためにこの研究室に配属された。事前に渡された資料にあったのは、「進藤政宗」と「牧瀬真斗」という二人の異端児の存在。
海外の有名大学でその頭脳が認められ、容姿端麗、才色兼備な彼らは、合わせて家柄も申し分がなかったせいか、「孫娘の伴侶にふさわしい」と判断した会長が勝手に芙美の婚約者にと連れてきた。


「もう、随分とおあずけをくらってきたんだからいいだろ?」

「我慢も限界って言葉の意味くらい知ってるよな?」


もちろん彼らも最初から芙美との婚約に乗り気だったわけではない。
頭がよかった分、世界に絶望していた彼らは、恋や愛ではなく、利害関係として芙美を見ていた。それでも研究に魅せられ、真剣に取り組む芙美の姿は、二人の男いわく、五年という歳月をかけて盲目に毒していったらしい。


「ひッ…政宗ッ~~っ真斗…ぁ…や…メッ」


芙美は、百戦錬磨の男たちから与えられる五年分の愛撫に、跳ねる体をくねらせる。
答えなど、持っていない。
五年という月日を過ごしてきたのは、何もどちらか一人だけではない。三人でここまで培ってきた研究の成果も、思い出も、一言では片付得られないほどの膨大なデータとなって芙美の心の中に蓄積されている。


「あ…ッ…だって私…は…二人のこと、ッが…同じくらィ…好き…なの」


ヒクヒクと、芙美は身体をのけぞらしながら、二人へと腕を伸ばしていた。
どちらか一人なんて決められない。好きなところも嫌いなところも、全部含めて彼ら二人と愛し合いたいのだから。


「知ってるよ」

「そのための研究だろ?」


ニヤリと空気が笑ったのは気のせいではないだろう。


「なんだ知っていたの」


快楽に鳴く声の隙間から、芙美の口角が不自然に歪んでいる。


「まあ、今井さんの言っていた研究が恋人ってあながち間違っていないのよね」


急に変わった声の質に、空気がひやりと危険な香りを運んでいた。その証拠に、男たちの瞳に宿る色香は濃くなり、激しさを増して芙美の体を襲ってくる。


「チューベローズ、花言葉はDangerous pleasure。最初は何の特性もない無味無臭だけ…ど…っ~~はぁ、吸い続けるうち…に…効果がより濃くなって現れてくる。あぁッ…政宗、ダメっそこっ~~ぁ」


足を深く折り曲げた先に埋まる男の顔に、芙美の顔が恍惚に赤く染まる。あふれ出してくる愛蜜をすすり、かき乱してくる複数の角ばった指先に、知らずと腰が痙攣していた。
それでも抵抗はしない。
したところできっと、背後から唇を奪い、舌を求めてくるもう一人の男に拘束されていただろう。


「真斗も…ぁ…や…メッ…ぁ」


身体の隅々まで犯してくる凌辱行為に、芙美の体はヒクヒクと波打っている。まるでこの時を待ち望んでいたかのように、その顔は満足そうに二人の好意を堪能していた。


「仕方ないじゃな…っ…ぃ…最初に見た時から、二人とも欲しいって思っていたの」


だから研究に没頭していた。こうして最高の形で二人を手に入れるための麻薬を生成するために。


「ぁっイクッ…ぁ…いくぅうっっうぅ」


芙美は二人の愛撫の中央でのけぞりながら、不敵な笑みを浮かべて唇をその舌で舐める。
Dangerous pleasureは、危険な快楽。
その言葉通り、白い花の成分から抽出された稀有なる薬は二人の男の理性を壊し、本能だけで動く猛獣へと狂わせていく。


「ったく、俺ら二人を手に入れるための研究なんだから怖い女だぜ」

「本当に。ま、それを知ったうえで芙美のことを愛してる俺たちもどうかしてるけどな」


荒い息遣いを隠しもせずに、二人は芙美の前に立ちはだかる。


「選べないのだから仕方ないじゃない。それに、このことは、おじいさまも承諾済みよ」


恋なんてただのまやかし。一次の感情に流されたまがい物を芙美は決して許さない。
決められた結婚相手が必ずしも理想の相手とは限らないのなら、自分で理想の相手に育てればいいだけのこと。


「二人とも、ずっと私のことを愛してね」


おとぎ話でも恋愛小説の中でもない。理想と現実はいつだって違うもの。
猛毒を持つ美しい花だけが、不埒な獣たちを従える夢をみる。(完)
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