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《第6章》狂乱の獣たち

第2話:花の蜜

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第2話:花の蜜

外は雨が降っているせいで、浴室もいつもより暗く感じる。それでもまだ時刻は昼を回って、少し過ぎたあたり。明かりを灯さなくても十分な光が浴室内を満たしている。


「ッ・・ぁ・・んむぁ・・っ」


泡はとっくに洗い流された。今はバスタブの淵に腰かけた真白の獣に顔を埋めて、後頭部を片手で抱え込まれている。


「リズ様、可愛い」


優越な笑みを浮かべ、見下ろしてくる顔はまさに天使。足の間に生やした獣は悪魔も驚くほど立派に成長しているが、それを口に含み、喉の奥まで突き刺すリズには理解できない。
ルオラが気まぐれに力を込めれば、リズの頭は簡単につぶれる。
片手で添えられているだけの手は人間ではない。手袋をはずし、燕尾服を脱いだルオラの裸体は、群青兎という獣亜人そのもの。ルオラを口に含みながら見上げた視界に映る鋭利な爪は、獲物を切り裂くために存在している。唯一、リズに捧げた番の証である指だけが爪を失くしていた。


「ちゃんと僕の顔見て。記憶は全部僕で終わらせてあげるからね」

「ンッ・・っ・・ぅ」

「全部入らないのに、一生懸命のリズ様可愛い」


興奮した声が心地いい。両手の平で包んでも飛び出すルオラのそれは、唾液と温水が混ざって卑猥に溶けている。苦しい、苦しくないの感覚はもうない。
ただ、どう頑張っても自分で出来る限界はある。


「ッ・・ンッ・・っ」

「下の口ではどっちでも上手に咥えられるのに、上の口は仕方ないか」

「~~~~っ、ぅ・・ぁ~~ッ」

「んー、苦しいの?」


撫でる声で問いかけるくらいなら遊ぶように腰を動かさないでほしい。おかげで目の前に星が散ったと、リズは恨みがましくルオラをにらんだ。


「まだ、ダメ。今日はリズ様に奉仕させたい気分だから」


気分もなにも、リズの心境を逆手にとるルオラの動きは止まらない。喉を突かれて喜ぶ心の音を聞かれている。
呼吸の代わりに出入りする異物が脈打って、さらに膨張していくのを愛しいとすら感じてくる。頭上から降り落ちてくる熱い視線も声も、後頭部に時々こもる微弱な力も、自分がそうさせているのかと思うと嬉しくなる。出会ったときの衝撃がよみがえるのか、彼らは総じてリズに奉仕させようとしない。けれど、ときどき唇をこじ開けて喉奥まで差し込まれるのを待ち望む感覚が湧いてくる。
彼らはそこをついてくるのが上手だった。大抵はリズへの罰か、自分たちへの褒美か。あるいは本能か。


「がんばって偉いよ。リズ様」


今回はルオラがそうする流れを作った。といいたいところだが、現実は半々。濡れてしまうからと服を脱いだルオラと一緒に浴槽へつかったのが、そもそもの始まり。全身を丁寧に洗われ、最後のお湯を頭からかけられたとき、目の前にあったルオラの雄に手を伸ばしてしまったのはリズのほう。


「舐めたいの?」


聞かれて、うなずいた。


「いいよ。リズ様が望むなら」


静かな熱が水滴を連れてバスタブのふちに腰かけたのを確認したリズはそれを口に含む。徐々に大きく膨れ、反っていく針。
雨の音が口のなかから溢れて頭の奥にまで響いてくる。喉にねじ込んで、舌で押し出す行為を繰り返していれば、自然とうずく欲望の鎌首に溺れていく。このまま続けていれば、朝食の代わりになるかもしれない。このままルオラを食べてしまえば、少しは言い様のない不安も埋まるだろうか。


「はい、おしまい」

「・・・ぅ?」


群青兎の耳は誤魔化せない。リズの口から自身を引き抜いたルオラは、バスタブにつかるリズの身体を拾い上げながら沈んでいく。


「おいしかった?」


一緒に湯船につかった身体にまたがるリズは、至近距離で濡れる顔に赤面していた。


「リズ様って、ほんと僕の顔が好きだね」

「・・・ぅん」


あと少し、前のめりになるだけで触れる距離にある唇。キスしたい。口にすればルオラは嫌がらずに応じてくれるだろう。それでも躊躇してしまうのは、お互いの下半身の間で揺れ動く硬い異物のせい。腰を動かして位置を変えれば、挿入するのは容易い。バスタブにつかるときに差し込んでくれればよかったのに、ルオラは髪をかきあげて、獣の腕をバスタブのふちにあずけるだけ。リズの腰も掴まない。
おかげで、もどかしさを残したリズの欲は、肌の表面に触れる水中の物体に興味津々のまま放置されている。


「・・・耳も、尻尾も、好き」

「それだけ?」

「・・・っ、目も、好き」

「他には?」


黄金色に揺らめく瞳が好き。白く尖った耳も、長く重量のある尻尾も、思わず触れて抱きしめたくなるほど好き。覗き込んで見つめ合うルオラの顔が好き。
触れたい。だけど、もう。触れるだけじゃ足りない。


「ルオラ・・ッ・・いれても、いい?」


リズはねだるようにルオラに胸を寄せる。二人で浸かる湯船の表面が高く揺れて、「どうぞ」と微笑むルオラの腰がわずかに浮いた。


「・・・んっ・・ぁ」


浮力の抵抗が、埋まる質感を一層大きく感じさせる。またがったルオラを自分で膣に埋めていく。それは簡単なようで難しい。リズはルオラのものに手を添えて、ゆっくりと位置を確認しながら花弁の奥へと誘っていた。


「んっ・・・ぁ・・・はぁ・・ァっ」


ルオラはじっと動かない。したいようにさせてくれるつもりだろうが、赤裸々に映る日中の浴室で、オスを埋める行為をじっと見つめられるとさすがに照れる。


「見ないで」


そう言葉にしようと思った瞬間、重たい水の音が響いて、リズの内部にルオラが埋まった。


「アッ・・やっ、ぁ」


頭ではわかっていても、突然の感触に声が跳ねる。
思わずルオラの肩に手を置いて重心をあげた身体は、体勢を整えたルオラの動きに引きずられて定位置に戻る。自分から望んだくせに、無意識に逃げる身体。三日もたてば随分薄れたが、首都シェインに来る前日。リエント領にある実家、グレイス城でつけられた歯形やキスのあとはまだ薄黒い痕を肌のうえに散らせているのだから無理もない。
リズの意思とは反対に、身体が警鐘を鳴らして離れようとするのだろう。しばらくその攻防をしたのち、本格的に体重を預けはじめたリズを確認したルオラが意地悪く笑う。


「あれ、イヤなんじゃなかったの?」

「・・ぁ・・ちが・・ぅ」

「うん、違うよね。リズ様の音、こんなにも気持ちよさそう」

「ッ・・ん・・・ぁ・・アッ」

「キスして、リズ様」


下から覗き込んでくる黄金色の瞳に吸い寄せられる。大好きな白い姿に腕を回し、甘く溶けるほどの余韻を感じながら交わす愛撫は、湯船で揺れる液体と同化しても何らおかしくはない。
心地いい刺激が、雨の降る窓の外にリズの声を響かせる。遠くまで聞こえないのは、その声がこうしてルオラの舌と唇に舐めとられるせい。


「ヒッぁ・・ァッ・・んっ・・ぁ」


濡れた髪も、毛も、絡み合ってもつれていく。熱を増して溶けあっていく体温とは逆に、バスタブに張られた水温は下がり、より深く二人の密着をうながしてくる。
それを我慢できなくなったのは、リズよりもルオラの方だった。


「ルオラ?」


自身をリズに突き刺したまま、器用に浴槽から出ようとするルオラの行動にリズは首をかしげる。浴槽から連れ出された身体。重力に従った水滴は足元に落ちるが、朦朧とした思考回路で察するのは難しい。リズはなぜか抜けたルオラに促される形で、無言でバスタブに手を預けてお尻を突き出していた。


「ぅ、ぁあっ」


背後からルオラの熱が一度に戻ってくる感覚。
水のなかで感じていた緩やかさはどこにもない。鋭利な獣は、ようやくリズを堪能できると言わんばかりに喜びを打ち付けてくる。


「待っ・・ァ・・ルオラ・・やっ、ぁ」


誤魔化せない蜜の音が恥ずかしい。腰を抱えて密着するルオラの下半身が、濃厚な蜜を吐き出す花園を犯している。


「ぁ、ッ激し・・ぃ・・ぁ・・アッ」


リズは必死にバスタブにしがみついているしかなかった。足が半分浮いている。つま先で体重を支える腰はルオラに掴まれて逃げることが出来ない。


「ルオラ・・ぁ・・ソコッぁ、だっだめ・・ンッ」


水面に自分の顔が映るほど腕の力が抜けて、ルオラだけを感じる声が止まらない。


「アァッ、ヤッ、そこッ・・ンッぁ・・いく」


こういうときばかり、無駄に種族の違いを痛感する。重心の乱れない足腰は床に爪のあとを刻みながらリズの身体を前に押し出す。突き飛ばされないよう踏みとどまっても、無意味な乙女は熟した果肉をつぶされて、奇怪な悦にあえぐだけだった。


「~~~~ッイク、そ・・ぁ・・ッぁぁあぁ」


ルオラとバスタブの間で大きくのけぞったリズの内部が痙攣を起こしている。息切れが濡れた髪の隙間をぬって、湯船のなかに溶けて消えた。


「さあ、リズ様。シシオラにしてもらったことを教えてくれる?」

「ッひ・・ぁ・・ンッぁ、やぁ」

「逃げちゃダメ。ああ、リヒドにされたことを先に教えてくれてもいいよ?」


折れ曲がったルオラの胸板が背中に引っ付いて、美麗な鼻先が首筋にキスを落とす。


「ア、ァ~~~~ッ・・ぅ・・ぁ、あ」


噛みつかれた首筋。
消えかけた痕を塗り直すルオラの牙に、自然と身体に力が入る。


「キモチイイね、リズ様。みんなリズ様を気持ちよくしてくれるから嬉しいね」


バスタブに頼っていた腕を後ろ手で引かれ、再度始まった律動の波から聞こえてくる声が弾んでいる。


「ゼオラは見かけによらず優しいから、いっぱいイカセテもらったんでしょ?」


全員が全員だけ。自分のほうが優位だとしらしめてくる行為に、教えるもなにもない。声が枯れるまで鳴かされる時間の経過を伝えるのは、リズよりも彼らのほうが適任だろう。きっと細部まで詳細を語ってくれる。


「どんなふうにしてもらったの、こんな感じ?」


ゆっくり引き抜いて、ゆっくり差し込む。
確かにゼオラが好むやり方だが、果てたばかりの身体に刷り込まれるオスの形は、いるはずもない人物たちを想像して震えていく。


「ああ、可愛い。リズ様。そんな声あげて、僕以外のオスを悦ばせたんだ」

「~~~アッ」


昼間なのに星がちらついていた。乾き始めた髪の先が垂れた胸に絡み付いて、その先端に触れている。一匹より二匹、二匹より三匹。群青兎は一人の妻に対し、複数の夫を持つというが、フォンフェンの森に住む花たちは皆、毎日同じ快楽に浸っているのだろうか。


「愛は平等に、でしょ?」

「ぅッ、ぁ・・ァッ・・くッ」


認めあった相手同士でも嫉妬はするものらしい。
一番も二番もなく、平等に愛している。それでもこうして、彼らの支配下に置かれた身体は今が一番気持ちいいと戯れ言を吐き出すのだから手にあまる。


「・・るお、ら・・っ」


終わることのない日々が、甘えるだけで終わっていく。
どうしようもなく汚れてしまった感情も身体も包みこんで、彼らこそが平等に愛を与えてくれる。何度も、何度も。疑う余地もないほど。


「リズ様、愛してる」


そうして刻まれる愛の印に、リズはまたひとり高く鳴いた。
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