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《第2章》偏愛の獣たち

第3話:真白と群青

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第3話:真白と群青

次の日の朝、案の定リズは過保護に甘やかされていた。


「ほら、もう。リズ様動かないで」

「やっ・・ルオラ、自分で・・ッぁ」

「僕が噛んだところ、痛むんでしょ。ごめんね」


起きてから時計の針が一周しようというのに、リズはまだベッドの上から動けないままでいる。全裸で目覚めた朝一番に目にしたものは夜の見回りを無事に終えたらしいゼオラの顔だったが、いまは眠るゼオラの横で真っ白の毛を揺らすルオラに捕まっている。


「痛くな・・ッい・・ぁ」

「えー、嘘はつかないで。ほら、ここも」


首筋の付け根にルオラの可愛い顔が埋まる。先ほどからこうして昨晩噛んで歯形を残したところにキスを繰り返されてリズはベッドに埋もれていた。燕尾服を丁寧に着込んだルオラは本当に執事としての自覚があるのか、それは愚門でしかない。彼らは執事である前に夫であり恋人。


「リズ様ってば、朝からまた欲しくなっちゃったの?」


散々体中を愛撫しておきながら、確認するように覗いてくる顔が憎らしい。
それでも少し首をかしげて、潤んだ瞳で見つめられると心臓がどきどきと変な音を連れてくる。


「ッ・・・んっ」


ぎゅっと目を閉じて素直にうなずいたリズに「そっか」とルオラは嬉しそうに微笑んでいた。


「僕の痕に朝から感じて、欲しくなっちゃうなんて可愛いね」


起こした体に服を着せようとしていたはずのルオラの腕に引き寄せられて、リズは椅子の上に座らされる。なぜか足は肘掛にそれぞれかける形で運ばれたが、太陽の光が差し込む朝の部屋でこの光景は想像以上に恥ずかしい。


「僕も朝からリズ様が欲しいって思ってたんだ」


可愛い顔に似合わない下半身の異物に、膣が期待をこめて力をいれる。そのわずかな動作でさえ彼らは見逃さない。反射的に目を閉じても、羞恥に口を閉ざしても、心境が手に取るようにわかる彼ら相手に嘘は必要ない。


「いれるよ?」


それなのに、わざわざ確認してくる優しさに興奮が募る。


「・・・ンッ」


ゆっくり慣らすように差し込まれたソレは、起きてから一時間もかけて愛撫された蜜を吸い込んでまたひとつ大きくなる。想像よりも固く、大きく、外見に似つかわしくない歪なモノはリズの奥を探るように侵入を深めてくる。


「はぁ・・・ぁ・・はぁ・・っ」

「リズ様、力抜いて。できるよね?」

「んっ・・ぁ・・・はぁ・・ぁ」

「うん、いい子」


ゆっくりと最奥にたどり着いた腰を確認したルオラが、額にキスを落としてくる。全体的に白く、シシオラやゼオラに比べれば少し小さいルオラでも、ちゃんとオスなのだと認識できる重量が埋まっている。目の前で微笑む可愛い顔と、中で蠢くモノがどうしても脳内で一致しない。


「僕のが入ってるって知りたいの?」

「ヒッぁ・・ッ、ンァッ」

「いいよ。見せてあげる、ほら。リズ様、見える?」


椅子とはどうして背もたれがあるのだろう。
逃げたくても後方へのスペースは限られている。イヤでも見える挿入部分では情欲の蜜をまとったオスの棒が何度も出入りを繰り返していた。


「朝だから良く見えるでしょ。最初はここまでしか入らなかったのに、今はホラ、ここまで入る」

「ッ~~~っ、ァア」

「気持ちいいよね。知ってる。リズ様の体は全部知ってるよ」

「っ、ぁ・・ァア・・ッ」


きっと声を抑えても抑えなくても長い耳を持つ彼らには意味がないのだろう。わかっていても自然に口から出ていく声を両手が勝手に塞いでいく。自分で押さえていないと足の付け根に埋まるルオラの奇行に朝から激しく鳴いてしまいそうだった。


「ゼオラが起きないようにしてあげてるの?」

「ンッ・・・んっ・・ぁ」

「リズ様は優しいね。そういうとこも可愛くて大好き」


ルオラがそういう顔で笑うときは大抵容赦がない。大好きの意味が同じなのかと疑いたくなるほど、そこから訪れた律動はあらがいようのないほど酷く激しい。


「ヤッ、ぁあルオ、ラッ・・ァ・・ぁ」


一人用の椅子は狭くて、固定されるにはちょうどいい。迎え入れることしかできない姿勢のままルオラのすべてを視界にとらえてリズは鳴く。


「くッ・・ぃ、ぁ・・やっ、ァッ」

「リズ様、声はもういいの?」

「ぁ、るお・・ら・・ッ」

「ふふ、いいよ。可愛いから特別にキスしてあげる」


脳に直接響く水音が卑猥を帯びて濡れていく。椅子に押さえつけるように真上から密着してくるルオラに潰されて、視界が白く染まっていく。


「ッぁ・・ぁ・・ッ・・んっ」


自分で声を我慢するより、はるかに効率的で有効かと思った口付けは、歯列をなぞる器用な舌に犯される。
尖った歯も、ざらついた舌も、自分が持っている口内とはずいぶん違う。人間のようで人間ではない人外の生物との交尾は、禁忌を侵しているようで怖くなる。


「あッぁ・・・ァ・・る・・ぉラ」


熱く感じる体はルオラの行為を受け入れて、もっともっとと欲しがっている。その欲望に従ってしまえば、その先に待っているのは強烈な閃光。体感するたびに、会得するごとに、自分という存在が変わっていくような気がして、いつも戸惑いが邪魔をする。


「朝のリズ様っていちいち可愛い」

「ッぁやっ・・ぁ・・アッぁ」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ」

「ヒッだ、め・・ルオラっ・・ぁクッ」


なにが大丈夫なのか、そうは思えない揺れが昨夜の余韻を連れてくる。すがるままに甘えれば、その快楽ごとすべて受け入れようと抱きしめてくれるルオラの体温が心地いい。


「アァッく、いくっ・・ヤッ・・ラ・・っ」


額を引っ付けたまま、触れるかどうかという距離にある唇ごしに悦楽を噛み締める。


「そこダメぁいっちゃ・・ッァアアァ」


ルオラの腕に導かれるまま、突き刺さった腰を軸にしてリズはその快楽を叫んでいた。見開いた光景が夢でないのなら、密着した下半身の内部は痙攣を引き起こし、白濁の液体が注ぎ込まれていることだろう。


「あーあ、リズ様が可愛いから僕も出ちゃった」

「ッ・・・ぁ」

「このままだと下着汚しちゃうから、綺麗にかきだしてあげる」

「ヒァッ!?」


ずるりと音が出る勢いで引き抜かれるまま、今度はルオラの指が突き刺さってくる。相変わらず右手の中指だけ千切られた皮手袋。爪を折った唯一の指で、ルオラは自分を注いだばかりの穴から、その証拠を掻き出すために尽力している。


「だから、なんでお前はそう鬼畜なわけ?」


椅子の上でぐったりと、お世辞にも令嬢らしいとはいえない不格好な態勢で息切れを起こすリズをみたゼオラの声がベッドから聞こえてくる。
その声に答えたのはもちろんリズではなくルオラ。


「あ、ゼオラ。おはよ」

「おはよじゃねーよ。あの状態で寝るとか無理だろ」

「いや、寝てたじゃん」

「さすがに起きるわ」


あっけらかんとしたルオラの声とは違い、ゼオラの声は呆れた音を響かせている。たしかに爆睡していたといっても過言ではないが、それは最初だけだとまだ眠り足りない欠伸をこぼしていた。
そのままベッドのうえで半身を起こし、自分の燕尾服を手に取って着替えていく。


「つーか、シシオラは?」

「朝食の準備?」


リズの着替えにようやく取り掛かることを決めたらしいルオラが、いまだに椅子の上で脱力したリズに靴下をはかせていた。


「リズ、おいで」


肌の露出を一切見せないドレスを着せ、ようやく人前に出せる格好になったリズをゼオラの声が呼ぶ。
いつの間に鏡の前に移動していたのか、くしを持って手招きするその姿にリズも重たい腰をあげて近付いていった。


「朝からふらふらだな。今日は、どんな髪型にする?」

「ゼオラのでいい」

「んー、そうだなぁ」


片言の口調でリズは鏡ではなく自分の足を見つめている。
うまく頭が働かない。朝から奪われた酸素は脳に十分な供給を送ってくれなくなったのだから仕方がない。もう一度ベッドに戻っていいのなら、間違いなく安眠を貪れるだろう。
それでもゼオラには十分な返答だったようで、上機嫌にリズの髪をいじっている。
いくら手袋をしているとはいえ、爪の生えた大きな手で器用に編み込みを始めるゼオラの手さばきには毎度驚かされる。いったい今日はどんな髪型にしてくれるのか、気持ちが晴れる指先の優しさに胸は自然と踊っていた。


「リズ様、今日の靴はこっちにしよ」

「新しい靴?」

「今日の洋服にぴったりでしょ、絶対可愛いよ」

「うん、じゃあ。それにする」


判断力を鈍らせる結果になった張本人は今日も可愛い。白く長い耳を揺らして上機嫌な笑顔を断る理由もなく、リズはルオラの提案を了承した。
別に特別な朝ではない。体を重ね合わせることを許す前から、この光景はほぼ毎日続いているといっても過言ではない。むしろ自分でさせてもらえることは日を追うごとに少なくなっている気がしないでもない。
服を着ることはもちろん、髪をとかすことも、靴をはくことも、化粧をすることもすべて一緒にいる兎たちが施してくれる。


「リズ様、おはようございます。朝食の準備は整っておりますよ」


身支度を終えて階段を降りた場所に、シシオラの姿があった。
案内されるままに足を運び、用意された朝食を口に含む。残念ながら彼らと一緒に食事をとることはない。あくまでグレイス家の令嬢と執事。その立場は一緒にいたいと願う限り守るべき掟であり義務でもある。
彼らに言わせれば、食事もリズの口に運び入れたいそうだが、さすがにリズの義父であるモーガンに止められた。


「本日のご予定ですが、先日から申しておりました通りリヒド様がお見えになられます」

「えー、あいつ来るの今日なの?」

「ルオラ。今は職務中です、あいつではなくリヒド様ですよ」


リズに紅茶を注ぎながらシシオラは口を滑らせたルオラをにらむ。
その視線をうけてルオラは「はーい」と反省の色をまったくみせない声で明後日の方角を向いていた。


「客間の準備は?」

「寝室から降りてこられるのに少々時間がかかりそうでしたので先に済ませました」


眠気が晴れないゼオラの態度もシシオラの笑顔に凍り付く。もしかしたら一気に眠気が吹き飛んだのかもしれない。引きつった顔で隣のルオラを肘でつつくと、何かを目配せするように顔をゆがめている。


「そういうわけで晩餐の準備に取り掛かります。ですから、リズ様は紅茶でも飲んで待っていていただけますか?」


どういうわけか理由はまったくわからないが、リズはシシオラがそういうならと首を縦に振ってその申し出を承諾した。
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