飄々ゼンジの異世界謳歌

サムハラ

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第3章 魔の300m

第11話 〜スクープの匂いがするわ〜

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 長閑のどかな平原に拓かれた一本道を二人の人影が足早に先を急いでいた。
 前を行く女はこの先に何か良い物があるのか目をギラギラとさせて、後ろから着いて来る男を置いて行きそうな勢いだ。

「マリアさんそう急がずとも~」

 犬の様に舌を出し、もうヘトヘトですといった感じで男は弱音を吐く。
 その情け無い言葉にマリアの頭から飛び出た獣耳がピクッと反応した。そしてブラウンで癖のある長髪を揺らして助手のダイナに振り返る。

「スクープが待っているかもしれないのよ? これが急がずに居られるかっての!」

 そう言って尾っぽを元気良く振って更に脚を速めた。
 ダイナは参ったなと溜め息を吐いて置いて行かれない様それに従う。
 二人は獣人という亜人種だ。
 本来の獣人はもっと獣らしい姿をしているのだが、人間と交流する機会が多い獣人はこうやって人間に寄せた姿に変化する者が多い。
 二人の様に人間と接する時でもないのに、人間の容姿でいる獣人は特に人と接する機会の多い獣人で、そういった獣人は概ね人間と友好的だと言われる。
 さてそんな彼女達が狙っているスクープというのが、

「ドルトンのSランク冒険者の弟子が謎のモンスターによって滅びかけている街を救う。こんな面白そうなネタ滅多に無いわ!」

 ゼンジ達の事だ。
 彼女達はこの世界では珍しい。というか全く新しい職業――『ジャーナリスト』である。
 偶然立ち寄った街で、今タジルという街が謎のモンスターの出現で危機に瀕している事。そして街を救う為にSランク冒険者のパーティーにいる若い冒険者が派遣されたという話を耳にしてタジルに向かっている所だ。

「でもそれ、もう四日前の話ッスよね? 優秀な冒険者ならもう討伐してんじゃないッスか?」
「だとしても街の人から話しは聞けるわ。その後はドルトンまで行ってその冒険者を探すの」
「嘘でしょ? タジルに行ってそこからドルトンまで行くんッスか?」
「文句があるなら休んでも良いけど給料は出ないわよ」

 情報は鮮度が命とはマリアの口癖だ。何か面白い情報を掴んだ時の彼女は狼の様に貪欲であり、これまで組んだ人間で着いて行けた者はいない。と言うか同族であるダイナすら若干振り回されている。
 そんな二人が歩いていると、タジルに続く街道の向こうから早馬が駆けて来るのが見えた。
 これはチャンスとマリアは遠吠えの様によく通る声で馬を駆る男に声を掛けた。

「すみませーん! 貴方はもしかしてタジルからいらっしゃったのですか?」

 男は馬を止めるとどこか上機嫌に「そうだ」と答えた。ビンゴだ。

「あの私達タジルに現れたモンスターの噂を聞いて街に向かっているのですが、今街はどんな状況ですか?」
「おお、それな! 聞いてくれ! 実は今日、ドルトンからやって来た冒険者の二人が倒してくれたんだ!」
「え、今日倒された!?」

 マリアは目を丸くして固まってしまった。

「そうさ。それで今から他の街に出て行った奴等にこの事を伝えに行く所さ! じゃあな!」

 それだけ言うと男は急ぐ様に馬を駆って立ち去った。

「今日……倒された? そんなぁ……」

 マリアはガクッと肩と尻尾を落とす。
 正直、二ヶ月間も討伐されなかったモンスターなのだから、よっぽど強いのだろうと思っていた。どんな優秀な冒険者でも相当苦労するだろうというそんな希望的観測が彼女にはあった。
 なのに今日そのモンスターが倒されたと言うのだから、その決定的瞬間に立ち会えなかった事が心底悔しい。

「マリアさん、どうします?」

 意気消沈しているマリアに伺う。
 もっともアテが外れたと言って彼女が引き下がる筈が無い。その証拠に垂れ下がっていた尻尾がブンっと動いた。

「いやまだよ! 今日倒したなら冒険者の二人はまだ街にいる筈! ダイナわよ!」
「はぁ!? こっからッスか!? タジルまでむっちゃ遠いッスよ!?」
「なら置いてくわ。後から付いてらっしゃい」

 厳しくダイナに言い放ったマリアは襟ボタンと袖ボタンを外すと履いている靴と靴下を脱いだ。
 目が獣の様な荒々しい物となり、その姿が見る見る狼の様に変貌していった。
 彼女は獣人の中でもワーウルフと呼ばれる種族なのだ。
 鋭利な爪を持った手を前脚の様に地面に着け、太く逞しい後脚に力を入れる。そしてその姿の通り、狼の如く一気にトップスピードで駆け出した。

「ああちょっとマリアさん! もうマジっすか!?」

 置いてけぼりを食らったダイナも溜め息を吐きながら狼形態へと獣化を果たすと、もう豆粒くらいになってしまったマリアを懸命に追うのだった。
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