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第1章 冒険者ゼンジ
第5話 〜こんなスキルより魔法を使いたかったよ〜
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アパートに帰って来たゼンジはまだアルコールが抜け切っていないのか頭を押さえながら、自室の水瓶に入れた煮沸消毒された水を柄杓で掬って飲み干す。
結局ノーラの歌を聞かずとも酒で泥酔してしまった。いや奇行に走って恥をかかなかっただけマシかもしれない。
「あーやっぱりお酒は苦手だ」
我ながら弱過ぎるとゼンジは苦笑する。
さてこのアパートはザルムがSランクであるが故にギルドから融通してもらった物件だ。三階建てのアパートで一階は倉庫、二階はゼンジとルイの部屋とミーティングルームがあり、三階はザルム、ノーラとクラウスが住んでいる。
ゼンジは装備を解くと机に向かい冒険の記録を纏め始める。
ペンを走らせていると冒険で見た景色や食べた料理を思い出し、思わず思い出し笑いが出た。
記録が纏め終わると今度は武具の手入れ点検だ。
「刃こぼれヨシ。曲がりヨシ。ガタつきヨシ。鞘割れヨシ」
刀を使う前、ゼンジは片手剣と盾を装備していたのだが、剣のガタつきを放置していたら戦闘中に崩壊した事があり、それ以来冒険から帰ると必ず装備品の点検を行う様にしている。
点検を終えた後は刀に油を塗り防錆を施し点検手入れは終了だ。
一段落ついて大きく背伸びをした所で部屋のドアがノックされた。
「邪魔すんで~」
入って来たのはルイだ。
「邪魔するなら帰って~」
「はいよ~。ってなんでやねん!」
テンプレなツッコミを言い放つ。
「貸しとった魔導書取りに来たで」
「ああ、アレ面白かったよ! 特に装備品に魔法陣を描く事で詠唱を必要としない魔術理論とか漫画の登場キャラみたいで『おお!』ってなったよ! あ、因みにそのキャラは手袋に陣を描いてて指パッチンで炎を――!」
「ええから早返せや!!」
お前の話なんぞ聞いとれっかいっとルイはゼンジの元の世界語りを強制終了させる。
ゼンジはいそいそと本棚にしまっていた部厚い本を取ってお礼と共にルイに渡した。
「そんで、そよ風以外に魔法は使えそうけ?」
「そよ風言うな。今のところ風魔法でレパートリー増やしてるけど何分魔力が足りなくてねぇ」
そう言うとゼンジは詠唱を始めた。
『精霊よ。風を巻き起こせ――エアブロウ』
うちわで扇いだくらいの風がルイの着ているヴィジットの袖を揺らす。
「ホンマ、ロウソクの火消すくらいしか役立ちそうにない威力やな」
「本当は空を飛んだり水の上を走ったり、手から炎や電撃を撃ったり、何かこう掌にエネルギー弾作って『波ー!!』ってビーム撃てる様になりたいんだけどねぇ。こんなんじゃ夢のまた夢だよ」
「アンタは『身体強化』と『治癒強化』っちゅう二つのスキルが魔力食うとんねんから魔力量増やさな他の魔法なんか使えっかい」
実を言うとゼンジは魔法が使えないがスキルと言う特殊能力が彼の意思とは関係無く常時発動している。
それが見付かったのはギルドで冒険者登録をする時だった。
ファンタジー物語ではお馴染みの魔力測定をした時、余りにもゼンジの魔力が低いのでルイが解析魔法で調べてくれた所、ゼンジの魔力を食らう二つのスキルがある事が分かったのだ。
スキルの名前は「身体強化」と「治癒強化」
その名の通り、身体強化はゼンジの体力や筋力を強化し、治癒強化はゼンジが持つ治癒能力を高めるスキルだ。
このスキルのお陰でゼンジはモンスターに対抗出来る身体能力を獲得し、怪我や毒も数日で回復するタフな身体を手に入れた。しかも彼の感情で出力が変化するオマケ付きだ。
「このスキル確かに役立つんだけど、これくらいの効果ならスキル無しで魔法が使いたかった……」
確かにこの世界で冒険者をやって行くには便利なスキルなのだが、実はこれらのスキルは下級の強化魔法で代用が利いてしまう。と言うか身体強化についてはゼンジがデモンゴブリン戦で使ったブーストが正にそれだ。
治癒強化もリカバリーと呼ばれる魔法で代用出来る。
感情によって出力が変化すると言っても、要は火事場の馬鹿力なだけで普段はそこまで強化されている訳ではない。
「贅沢言うなや。スキル発現者は一万人に一人言われとんねんで? そのスキルのお陰でアンタみたいなヒョロっこでも人並み以上の身体能力と健康な身体でいられんねんから神さんに感謝しい」
確かにモンスターと戦えたり元の世界と比べて明らかに生活環境が悪化してるのに健康でいられるのはこのスキルのお陰だろう。
この世界では井戸水や雨水を直接飲むのが一般的だ。現代人がいきなりそんな生活をしたら間違いなく病気にかかる。最悪死ぬ。
「分かった分かった。じゃあこれからも魔力を増やす修行頑張るよ。それと質問なんだけど」
スキルの件は納得した所でゼンジは話を変えた。
「風魔法を発動する時に、何と言うかこう、いろんな大きさの粒を操ってる感じがするんだけど何か分かる?」
「粒? 何言うとんねん」
「何か操る風の中に小さい粒、大きい粒みたいな感じがあるんだよねぇ。例えるなら一掬いの土の中に小石や砂利や泥が混ざってるみたいな」
精一杯説明しようとするがルイは意味不明な顔を見せる。それでも彼女は魔法のエキスパートとしてからか考えられる仮説を導き出した。
「たぶんそれ空気中の塵やら湿気やで、知らんけど。雨の日は風魔法が重い言うからのお」
今凄い無責任なワードが出たような気がするが、風魔法を使った時の「風が重い」という愚痴はゼンジも聞いたことがある。湿気が多くなると翼が重たくなって高く飛べない鳥みたいなものだろうか。
空気中に漂う塵や水分であれば確かに大小異なる粒を操る感覚も説明出来る。しかしそれだけでは納得出来ない点もいくつかあった。
そんなゼンジの肩をルイは強く叩いた。
「何難しい顔しとんねん。今アンタがせなあかんのは魔力増強やろがい。ほらいつものやんで」
そういうとルイは急に服を脱ぎ出す。
「え~、今日はもういいじゃん。疲れたよ~」
「アホ。さっき食うた分、精付いたやろ。アンタもその伊達こいた服脱げや」
そう言われてゼンジもベストの釦を外し始める。
「お手柔らかに頼むよ」
「任しとき。ちゃんとコーチしたる」
ルイはスルスルと衣を脱いで行く。そこに羞恥の感情等微塵も無い。
ゼンジは思う。
(今夜も苛烈なんだろうなぁ)
これから始まる彼女のしごきにゼンジは既に着いて行ける気がしなかった。
それから二時間後、部屋ではインナー姿の二人が汗を流して荒い息を立てている。
「かあぁ! きたきた! もう一セット行こけ!」
「いやもう無理! もう勘弁してくだじゃい教官!」
歯を噛み締めて懇願するゼンジ。
そんな彼をルイは情け無いとでも言いたげに睨む。
二人は手を頭の後ろに当てて股を開いて膝を曲げ身体を上下させている。要するにスクワットだ。
「アンタ、魔法を使いたいんやろ?」
「はい!」
「魔法の元は何や言うてみい!」
「魔力であります!!」
「魔力はどこに宿る?」
「健全な肉体であります!!」
「健全な肉体とは?」
「筋肉であります!!」
「よーし!! 後各メニュー十セット!!」
「鬼、鬼畜、悪魔、ルイ……!!」
顔を真っ赤にしてゼンジは絶叫する。
対するルイはまだまだ余裕そうだ。
服の上からでは分からなかったがルイの身体には見事な筋肉が付いている。ゼンジの身体と比べればまるで小枝と幹だ。
割れた腹筋、引き締まった腕、踏み締める脚、男でも羨みそうな肉体を子猫の様に小柄な少女が纏っている。
「筋肉にこそ魔力は宿る」
これが彼女の魔力増強論(持論)だ。
ゼンジは色々な魔導書を読んだが、どの本にもそんな記述は一切無かった。だが事実ルイとのトレーニングを始めて以降、魔力増強に成功しているのだから否定も出来ないのだ。
それに剣を振るう以上、筋肉はあって損が無い。だからこうやってルイと一緒に身体を鍛えている。まあ、いつも彼女のしごきに半泣きになっているのだが。
今日も今日とてゼンジは嗚咽の様な声を上げながら鬼教官の指導の元、トレーニングに励むのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日は賑やかね」
夫婦の寝室で下の階から聞こえる少年少女の気張り声に風呂上がりのノーラはクスクスと笑う。
「大方、ゼンジとルイがハッスルしてんだろ」
「ハッスルと言うよりマッスルね」
ザルムはランプを灯し机に向かい書簡をしたためている。
いつもなら走り書きで悪筆な文字を書くザルムだが、今は一文字一文字丁寧に書いているのでノーラは気になって聞いた。
「ダーリン何書いてるの?」
「ゼンジのAランク試験推薦状と試験内容の意見具申だ」
推薦人は試験内容に意見が出来た。必ず通る訳では無いがギルド本部で精査されて、その意見が妥当であれば推薦人の言う試験内容が優先される。
「ふーん何々?」
興味本位に意見書を読み始めたノーラ。
だが読み進める毎に表情が曇り始める。
「ダーリン。本気でこんな事を具申するの?」
「ダメならダメでギルドに任せるさ。だがなマイハニー。アイツは今一度自分を知らなきゃならねえのさ」
ザルムの声はいつもより低く真剣な物だった。
ノーラはこれはザルムにとっても苦渋の選択なのではと察する。だから彼女は自分の言葉も添えて励ました。
「……可哀想。とは思うけど、あの子なら大丈夫な気がするわ」
「えらく買ってるじゃねえかマイハニー。アイツの何処がそんなに気に入ってるんだ?」
幾分かザルムの声が戻った。
ノーラは惚けた様に正直にあの少年の好きな所を述べる。
「何かしらね? 単にかわいいってのもあるけど、何かあの子の周りって良い風が吹くのよ」
結局ノーラの歌を聞かずとも酒で泥酔してしまった。いや奇行に走って恥をかかなかっただけマシかもしれない。
「あーやっぱりお酒は苦手だ」
我ながら弱過ぎるとゼンジは苦笑する。
さてこのアパートはザルムがSランクであるが故にギルドから融通してもらった物件だ。三階建てのアパートで一階は倉庫、二階はゼンジとルイの部屋とミーティングルームがあり、三階はザルム、ノーラとクラウスが住んでいる。
ゼンジは装備を解くと机に向かい冒険の記録を纏め始める。
ペンを走らせていると冒険で見た景色や食べた料理を思い出し、思わず思い出し笑いが出た。
記録が纏め終わると今度は武具の手入れ点検だ。
「刃こぼれヨシ。曲がりヨシ。ガタつきヨシ。鞘割れヨシ」
刀を使う前、ゼンジは片手剣と盾を装備していたのだが、剣のガタつきを放置していたら戦闘中に崩壊した事があり、それ以来冒険から帰ると必ず装備品の点検を行う様にしている。
点検を終えた後は刀に油を塗り防錆を施し点検手入れは終了だ。
一段落ついて大きく背伸びをした所で部屋のドアがノックされた。
「邪魔すんで~」
入って来たのはルイだ。
「邪魔するなら帰って~」
「はいよ~。ってなんでやねん!」
テンプレなツッコミを言い放つ。
「貸しとった魔導書取りに来たで」
「ああ、アレ面白かったよ! 特に装備品に魔法陣を描く事で詠唱を必要としない魔術理論とか漫画の登場キャラみたいで『おお!』ってなったよ! あ、因みにそのキャラは手袋に陣を描いてて指パッチンで炎を――!」
「ええから早返せや!!」
お前の話なんぞ聞いとれっかいっとルイはゼンジの元の世界語りを強制終了させる。
ゼンジはいそいそと本棚にしまっていた部厚い本を取ってお礼と共にルイに渡した。
「そんで、そよ風以外に魔法は使えそうけ?」
「そよ風言うな。今のところ風魔法でレパートリー増やしてるけど何分魔力が足りなくてねぇ」
そう言うとゼンジは詠唱を始めた。
『精霊よ。風を巻き起こせ――エアブロウ』
うちわで扇いだくらいの風がルイの着ているヴィジットの袖を揺らす。
「ホンマ、ロウソクの火消すくらいしか役立ちそうにない威力やな」
「本当は空を飛んだり水の上を走ったり、手から炎や電撃を撃ったり、何かこう掌にエネルギー弾作って『波ー!!』ってビーム撃てる様になりたいんだけどねぇ。こんなんじゃ夢のまた夢だよ」
「アンタは『身体強化』と『治癒強化』っちゅう二つのスキルが魔力食うとんねんから魔力量増やさな他の魔法なんか使えっかい」
実を言うとゼンジは魔法が使えないがスキルと言う特殊能力が彼の意思とは関係無く常時発動している。
それが見付かったのはギルドで冒険者登録をする時だった。
ファンタジー物語ではお馴染みの魔力測定をした時、余りにもゼンジの魔力が低いのでルイが解析魔法で調べてくれた所、ゼンジの魔力を食らう二つのスキルがある事が分かったのだ。
スキルの名前は「身体強化」と「治癒強化」
その名の通り、身体強化はゼンジの体力や筋力を強化し、治癒強化はゼンジが持つ治癒能力を高めるスキルだ。
このスキルのお陰でゼンジはモンスターに対抗出来る身体能力を獲得し、怪我や毒も数日で回復するタフな身体を手に入れた。しかも彼の感情で出力が変化するオマケ付きだ。
「このスキル確かに役立つんだけど、これくらいの効果ならスキル無しで魔法が使いたかった……」
確かにこの世界で冒険者をやって行くには便利なスキルなのだが、実はこれらのスキルは下級の強化魔法で代用が利いてしまう。と言うか身体強化についてはゼンジがデモンゴブリン戦で使ったブーストが正にそれだ。
治癒強化もリカバリーと呼ばれる魔法で代用出来る。
感情によって出力が変化すると言っても、要は火事場の馬鹿力なだけで普段はそこまで強化されている訳ではない。
「贅沢言うなや。スキル発現者は一万人に一人言われとんねんで? そのスキルのお陰でアンタみたいなヒョロっこでも人並み以上の身体能力と健康な身体でいられんねんから神さんに感謝しい」
確かにモンスターと戦えたり元の世界と比べて明らかに生活環境が悪化してるのに健康でいられるのはこのスキルのお陰だろう。
この世界では井戸水や雨水を直接飲むのが一般的だ。現代人がいきなりそんな生活をしたら間違いなく病気にかかる。最悪死ぬ。
「分かった分かった。じゃあこれからも魔力を増やす修行頑張るよ。それと質問なんだけど」
スキルの件は納得した所でゼンジは話を変えた。
「風魔法を発動する時に、何と言うかこう、いろんな大きさの粒を操ってる感じがするんだけど何か分かる?」
「粒? 何言うとんねん」
「何か操る風の中に小さい粒、大きい粒みたいな感じがあるんだよねぇ。例えるなら一掬いの土の中に小石や砂利や泥が混ざってるみたいな」
精一杯説明しようとするがルイは意味不明な顔を見せる。それでも彼女は魔法のエキスパートとしてからか考えられる仮説を導き出した。
「たぶんそれ空気中の塵やら湿気やで、知らんけど。雨の日は風魔法が重い言うからのお」
今凄い無責任なワードが出たような気がするが、風魔法を使った時の「風が重い」という愚痴はゼンジも聞いたことがある。湿気が多くなると翼が重たくなって高く飛べない鳥みたいなものだろうか。
空気中に漂う塵や水分であれば確かに大小異なる粒を操る感覚も説明出来る。しかしそれだけでは納得出来ない点もいくつかあった。
そんなゼンジの肩をルイは強く叩いた。
「何難しい顔しとんねん。今アンタがせなあかんのは魔力増強やろがい。ほらいつものやんで」
そういうとルイは急に服を脱ぎ出す。
「え~、今日はもういいじゃん。疲れたよ~」
「アホ。さっき食うた分、精付いたやろ。アンタもその伊達こいた服脱げや」
そう言われてゼンジもベストの釦を外し始める。
「お手柔らかに頼むよ」
「任しとき。ちゃんとコーチしたる」
ルイはスルスルと衣を脱いで行く。そこに羞恥の感情等微塵も無い。
ゼンジは思う。
(今夜も苛烈なんだろうなぁ)
これから始まる彼女のしごきにゼンジは既に着いて行ける気がしなかった。
それから二時間後、部屋ではインナー姿の二人が汗を流して荒い息を立てている。
「かあぁ! きたきた! もう一セット行こけ!」
「いやもう無理! もう勘弁してくだじゃい教官!」
歯を噛み締めて懇願するゼンジ。
そんな彼をルイは情け無いとでも言いたげに睨む。
二人は手を頭の後ろに当てて股を開いて膝を曲げ身体を上下させている。要するにスクワットだ。
「アンタ、魔法を使いたいんやろ?」
「はい!」
「魔法の元は何や言うてみい!」
「魔力であります!!」
「魔力はどこに宿る?」
「健全な肉体であります!!」
「健全な肉体とは?」
「筋肉であります!!」
「よーし!! 後各メニュー十セット!!」
「鬼、鬼畜、悪魔、ルイ……!!」
顔を真っ赤にしてゼンジは絶叫する。
対するルイはまだまだ余裕そうだ。
服の上からでは分からなかったがルイの身体には見事な筋肉が付いている。ゼンジの身体と比べればまるで小枝と幹だ。
割れた腹筋、引き締まった腕、踏み締める脚、男でも羨みそうな肉体を子猫の様に小柄な少女が纏っている。
「筋肉にこそ魔力は宿る」
これが彼女の魔力増強論(持論)だ。
ゼンジは色々な魔導書を読んだが、どの本にもそんな記述は一切無かった。だが事実ルイとのトレーニングを始めて以降、魔力増強に成功しているのだから否定も出来ないのだ。
それに剣を振るう以上、筋肉はあって損が無い。だからこうやってルイと一緒に身体を鍛えている。まあ、いつも彼女のしごきに半泣きになっているのだが。
今日も今日とてゼンジは嗚咽の様な声を上げながら鬼教官の指導の元、トレーニングに励むのだった。
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「今日は賑やかね」
夫婦の寝室で下の階から聞こえる少年少女の気張り声に風呂上がりのノーラはクスクスと笑う。
「大方、ゼンジとルイがハッスルしてんだろ」
「ハッスルと言うよりマッスルね」
ザルムはランプを灯し机に向かい書簡をしたためている。
いつもなら走り書きで悪筆な文字を書くザルムだが、今は一文字一文字丁寧に書いているのでノーラは気になって聞いた。
「ダーリン何書いてるの?」
「ゼンジのAランク試験推薦状と試験内容の意見具申だ」
推薦人は試験内容に意見が出来た。必ず通る訳では無いがギルド本部で精査されて、その意見が妥当であれば推薦人の言う試験内容が優先される。
「ふーん何々?」
興味本位に意見書を読み始めたノーラ。
だが読み進める毎に表情が曇り始める。
「ダーリン。本気でこんな事を具申するの?」
「ダメならダメでギルドに任せるさ。だがなマイハニー。アイツは今一度自分を知らなきゃならねえのさ」
ザルムの声はいつもより低く真剣な物だった。
ノーラはこれはザルムにとっても苦渋の選択なのではと察する。だから彼女は自分の言葉も添えて励ました。
「……可哀想。とは思うけど、あの子なら大丈夫な気がするわ」
「えらく買ってるじゃねえかマイハニー。アイツの何処がそんなに気に入ってるんだ?」
幾分かザルムの声が戻った。
ノーラは惚けた様に正直にあの少年の好きな所を述べる。
「何かしらね? 単にかわいいってのもあるけど、何かあの子の周りって良い風が吹くのよ」
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