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一通り挨拶を終え応接室へ移動すると

「サイラシー公爵閣下、公爵夫人本来ならばこちらから出向くべき所お越し頂き申し訳ありません。」と珍しく頭を下げる父アンコック伯爵と夫人、義兄や私達。

「いや、構わぬ。アイリーン嬢の体調の方が大事故な。して、アイリーン嬢辛そうだが大丈夫か?どこかぶつけでもしたか?」と心配気に見てくる公爵様。

父からの何も言うなとの視線が飛んで来る。昨日見える所を打たれなかったのは、今日公爵様と顔を合わせる予定だったからか・・
痛みでどうしてもぎこちないカーテシーになってしまう。

「サイラシー公爵様、お気遣い頂き感謝致します。お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません。」

「良い、そなたが輿入れしてくれる事、楽しみにしておったが・・・此度アンコック伯爵より、其方の体調も芳しく無く静養のため領地に行く事になったと聞き及びそれに伴いウサールの婚約者をニコール嬢にとの申し出があった・・・久しぶりに会えたのがこの様な場で残念だ。」と一瞬訝しそうにも見える視線を向けて来られたが、夫人と共に優しく微笑んで下さった。


「公爵閣下、この様な者にまで過分なお言葉感謝致します。長い間この者の為大切な御子息であるウサール様のお時間を頂き申し訳ありませんでした。この者が無能者であるにも関わらず婚約者のまま置いて頂きありがとうございました。美しくも無く、無能であるこの者よりニコールは‘   ‘’‘癒しの乙女‘’‘’    です。優しく嫋やかでありながら芯が強い故公爵家に入ってからも然りと夫人の役目を果たせる事と思います。その上容姿も優れております。今までは、私もアイリーンの不出来さに心苦しく思うておりました。

これからは、身も心も健やかなニコールをどうかよろしくお願い致します。」


と、滔々とアピールするお父様。それを聞き仲睦まじく微笑み合うウサール様とニコール。

公爵様は少し苦い顔をしつつ、2人の様子をみて、私を見た後、
「・・・・・・・分かった。ニコール嬢どうかよろしくな。」と返事をなさった。

その後の話し合いに私は要らないから明日の出立の為に、これから準備をする様に。退がって良いと言われた。退室のご挨拶をしカーテシーをすると、そこで今まで何も仰らなかった公爵夫人が扉の前に立つ私に歩み寄って来られ、

「アイリーン様。明日出立なさるのね・・・早く元気になるのよ」と抱きしめて下さり、私にしか聞こえない声量で『王都を出る前に、○○に来て10時よ。』とおっしゃった。そこは、王侯貴族御用達のレストランだった。

そして、もう私には見向きもしないウサール様に

「ウサール様・・・今までありがとうございました。どうか、ニコールとお幸せに。」とお声をかけると、

「アイリーン嬢、私の方こそありがとう。早く元気になってね。」と、微笑んで下さった。 



その笑顔を見て初めて気づいた、ウサール様は最初から私の事など愛してなどおられなかったと。ニコールに向ける愛しいと言う表情お顔と私に向けるそれでは全然違ったのだ。 また、ニコールの方を向き幸せそうな2人・・・
すっと血の気が引く感じがした時、公爵夫人がぎゅっと私の手を握り


「早く元気にっなってまた王都の公爵家に会いに来てちょうだいね。その時はもう、息子はもの・・私の事はスカーレット、と名前で呼んでね!」と周りには笑顔を向けている様に見えただろうけれど皆には背を向けた状態で夫人は私だけに見える真剣な瞳で、口だけ動かし『もう少しよ、頑張りなさい。』と言ってくれた。


「公爵夫人、身に余るお言葉ありがとうございます。早く回復するよう努めます。また、お会いできる日を楽しみに致しております。」と何とか返し退室した・・・・・





  

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