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父と義兄にを受けた翌日、ウサール様とのお茶会の日だった。その日、腫れの引かない私の顔を見た父達は、今日は離れから出てくるんじゃ無いと  『全く、愚図でノロマめ!』と怒っていたが  『いや、ニコールとウサール様を引き合わせるちょうど良い機会だな。』と急に機嫌を直し、室内で出来る仕事と、マーサによるマナーレッスンに変わった。

その日は、マーサから淑女としてのレッスンだったから厳しくも楽しい有意義なものだった。また、座学の講師はどうやら手配して貰えないようなので学園を優秀な成績で卒業したマーサが不得手なものもありますが出来るだけお教えしますね。と断りを入れてから教えてくれることになった。これは父に許可を得てあるそうだ。元々マーサは子爵家の三女だ。今は亡き母の親友で、母が嫁いできた時に侍女として共に来くれたのだ。母亡き今我がアンコック伯爵家に仕える義理も無いが私のことが心配で残ってくれているのだ。

我がアンコック伯爵家は力のある家で侯爵家よりも力があるくらいだ。あんなに嫋やかな美しい顔をしたお父様だがとても頭が切れ影の権力者として君臨しているらしい。しらなかった。

母との婚姻は父から熱烈にアピールして結婚したらしく、新婚時代はそれはもう大事にしていたとの事。それが変わったのは、母の両親、兄家族(私からすると叔父ね)が事故で亡くなってからだそうだ。身内を一度で亡くした母は必死でもっと調べて欲しいと訴えたそうだが、間も無く不慮の事故で方付けられてしまったそうだ。現侯爵は父の影響下にある方で父の傘下と言って良い。嵌められたんだわ・・・



☆      ☆      ☆        ☆      ☆



こうして顔の腫れが引いてからも、何だかんだとウサール様とのお茶会は流れた。流れるのは私的にであって、代わりにニコールが『お姉様が今日も出れなくて・・・申し訳ありません。』と可愛らしく対応してくれている様だ。

この前、久しぶりに会えてお茶会が出来た時

「ああ、アイリーン愛しているよ。今日は元気そうだね、結婚してずっと一緒にいられるのが待ち遠しいよ。」と優しく見つめ初めて口付けてくれた。そっと触れるだけのキスが日頃の苦しさ、哀しさ・・・全部流してくれた。幸せな刻・・・

それから時折、私とのお茶会で会わせて貰えなかった日、天気の良い時はニコールと2人散歩している姿を見かける様になった。お父様達から促されて仕方ないんだ・・・と2人の距離が縮んだように見える・・と不安になりながらもその気持ちを押し込んでいた。会えた時の幸せだけを頼りに。




☆      ☆       ☆      ☆      ☆ 



不安になりながらも日々のメイド業務は減る事もなく、私が社交にも病気療養として殆ど出ない事も相まって、アンコック伯爵家の令嬢と認識できる人は殆ど居なくなっていった。

そして、マーサからのレッスンもどんどん減らされていきその分の時間をニコール様や義母ジュエリー様のドレスを仕立てたり、レースや刺繍を作り仕上げていく事も私の仕事となっていった。淑女の嗜みとしての精進がお針子仕事に変換されてしまった・・・自分様には仕立てて貰えないからニコールが作ったはいいが気に入らないドレスや着なくなったドレスを刺繍やレースを私に合わせて施していたのがジュエリー様の目に止まり私の仕事になった。

メイド業務が減る事もなく徹夜しなければ間に合わない事も多々ありまだ若い私の顔には生気が無く栄養も足りない為肌もカサカサで、唇はひび割れていた。手入れもされない髪はパサつきボサついていた。纏めても、なんの艶も無い事は隠せない。


それに、注意力が足りないのか時折、主人家族に粗相をしてしまいその度にお嬢様や奥様を泣かせお父様と義兄を激怒させてしまう。最近は、前の傷や青あざが消える前に粗相をしてしまう為傷が絶える事が無かった。


疲れきり、やっとの私。久しぶりにウサール様とお茶会でお会いすると

「愛するアイリーン、本当に体調が悪そうだね。無理しなくて良いんだよ。私は君が元気になってから会えればそちらの方が嬉しいよ。私のこの世で1番大切で愛しい。」と言って私を少し抱きしめた後退室して行った。見送りは、必要ないと言って・・・

少し経って、かすかに聞こえる楽しげな声にふ、と外を見ると遠目に先程お帰りになった筈のウサール様とニコールお嬢様が楽しげに笑い合っているのが見えた。


同じ屋敷内だもの・・・たまたま、お会いになったから時間もあるしニコールお嬢様と散歩されているだけだよね?  さっきのお言葉も、私がお会い出来ないからよく一緒に過ごされていてつい、《この世で1番大切で愛しい、》って間違えてしまっただけ・・だよね?


胸がぎゅうぎゅうと引き絞られるような痛みに何とか間違いであると。何か理由があるはずだ、ソレを見つけようとグルグルと考えながら応接室から離れの自分の部屋へ重い足を引き摺って戻った。







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