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記憶
しおりを挟む「ブランシーヌ、おいで 」カーシス様の優しい笑みにキュッと鼓動が速くなる。いつだってその微笑みは私の心を暖かく包み込む。木漏れ日に透けるように煌めくハニーブロンドの髪に若草色の綺麗な瞳はお日様の暖かさがあった。 そっと抱き締めてくれる腕の温もりに安心出来た。
「カーシス様、いつもありがとうございます。」笑みを向けると一瞬カーシス様の瞳に翳りが見えた気がしたけれど・・きっと気のせいだよね。今日も他愛もない話しをして今度は遠乗りに行こうと約束をして別れた。
☆ ☆ ☆
お母様は私が12歳の時に亡くなった。 いつもお父様が外での仕事で忙しい為お母様は領地の事や、ご自分が手がけていらした商会の仕事、と頑張って執務をこなしていた。そんな忙しい日々の中でも、私とのお茶の時間や食事の時間は大切にして下さった。時々ピクニックに連れて行って貰った場所は宝物だ。どの場所もキラキラと輝いて、今も胸の中に納まっている。
その時は久しぶりにお父様も一緒に昼食を摂った後、お茶をしていた時だった。お母様が急に気分が悪くなってしまった為お医者様に来て頂いた。 私室に戻されていたのだけれど心配でこっそりと窓の隙間から漏れ聞こえる話し声を聞いていた。お母様はずっと体調が悪いのを無理していた様で、もう手の施しようが無いと話されているのが聞こえてしまった。
その後私にはちょっと疲れただけだと話をされ、執務のペースを落としつつもあまり変わらない生活が続いていた。
お父様は相変わらず忙しくされており帰って来る事は殆ど無かった。お母様はそんなお父様の事は今までより以上に関心が無いかの様だった。話題にもせず、私のこの先の事だけを心配し手を打っている、そんな風に感じた。
私も後半年もすれば11歳、言葉にされずとも分かる年頃だった。
お母様はそれから7ヶ月程かけて領地の事、商会の事、と引き継ぎや諸々の手配を終えた。
必要最低限の執務となり、今までよりも一緒に過ごす時間を大切にしてくれた。体調の良い日には今までの記憶をなぞる様にピクニックへと出かけたり、少し遠出して暫く滞在しゆっくり過ごす時もあった。
そんな時2週間程滞在していた先で黒い仔狼を助けた。最初は警戒して『グルルルルル』と唸っていたが何度も声をかけ害意が無いことを伝えていくと少しずつ警戒を緩めてくれた。お母様と2人ホッとしながら隠そうとしている足を見てみると何かに傷つけられたようで、結構出血している。先ず止血してある程度止まったら傷より上の方を縛って洗浄した。結構深めの傷で胸が痛くなる。その後は浄化と治癒の魔法である程度塞がったところに軟膏とガーゼを当て包帯で固定した。次様子を見に行った時には仔狼は居なくなっていた。寂しくもあったが動ける程回復した事にホッとした。
それから暫くして時折仔狼に会うようになり少しずつ距離が縮まって来てその柔らかな毛並みを撫でさせてくれる様になっていた。艶々ふわふわの柔らかい毛並みはお母様と私の癒しだった。私達母娘は仔狼と出会った湖の畔の別荘に良く滞在するようになった。
少しずつお母様が弱っていく事を感じながら切なくも大切に過ごしていたある日。久しぶりに湖の畔にある別荘に滞在している時だった。
艶々とした黒髪にブルーダイヤの様な煌めく瞳の少年を連れた、これまた、黒髪と琥珀の瞳の美しい男性と白銀の流れる髪と少年と同じブルーダイヤの瞳の美しくも儚げな女性と一緒に過ごした日があった。
高貴な方達と思われたが口外出来ないみたい、お母様のその眼差しから察せられた。 その日から、黒髪の少年は私の執事見習いの侍従になった。
そして、私は12歳になり最愛のお母様を喪ってしまった
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