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味方なんていない

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それから暫く。
精神的に不安定になっていたエヴァも大分落ち着きを取り戻し始めた。
少しだがお腹は膨らみ、そこに命があるということを実感させられる。手を当てればトクトクと鼓動が聞こえる気がした。
憎い相手の子供だと嫌悪していたはずなのに、段々と愛おしく感じる。
子供に罪は無いのだ。アルベールと子供は違う存在。この子は俺の子供で俺がいないと生きていけない。
この絶望的な環境の中で、唯一の幸福で希望だった。
エヴァの状態が落ち着いてきた時、ようやくアルベールが枷を外してくれた。

「ずっと暗い部屋にいるのも良くないからね。そろそろ学園に戻ろうか、僕たちの子供のことも発表しなきゃいけないし」
「・・・・・・」
「エヴァあんまり僕とお話してくれなくなっちゃったね。でも僕の物になってくれるならどんなエヴァでも好きだよ」
「妖精は・・・解放してあげて・・・。もう魔法使えないし・・・」
「ああ、そうだね。本当は処分する予定だったけど。もう用はないしエヴァがそう言うなら放してあげよう。エヴァは本当に優しいね」

アルベールの手を取り眩しい空に目を細めながら、俺はようやくこの牢獄を出ることが出来た。







久しぶりに姿を現した俺に学園は大騒ぎになっていた。数ヶ月も居なくなってた上に腹を膨らませて来たのだ、驚かれて当然だろう。

「エヴァは僕の子を妊娠しているんだ。体に触ると良くないから皆エヴァの体調には気をつけてあげてね」

そう言い放ったアルベール。
同時に憎悪と殺意を含んだ視線が俺たちを突き刺す。

「会長・・・エヴァの身を案じてこの数ヶ月死に物狂いで探してきたのに・・・この仕打ちはあんまりでは?」
「仕打ち・・・なんの事だい?僕はエヴァが安定期に入るまでは余計な不安を増やさない方がいいと思って黙っていただけだよ」
「殿下・・・ヴィリエは承知の上なのですか」
「当たり前だろう。おかしな事を言うねアダン。エヴァは僕の婚約者なんだから、こうなるのは当然の結果だ」

肩を抱かれ俺はずっと俯いていた。
攻略対象達の視線が辛い。俺を責めたてている、「裏切ったのか?」というような視線。



「エヴァ、本当なのか腹の子は会長の子供だって」 

学園に戻りアルベールの用意した部屋へ移るため、元の部屋に荷物を取りに来た。
アルベールは使用人にさせるから行かなくていいと言っていたけれど、自分の荷物を触られるのはなんだか嫌で無理を言ってきたのだ。
すると当然同室者のユーゴに出くわす。壁に追い詰められ怒った様子のユーゴが俺に詰め寄った。

「・・・本当だよ」
「何で・・・俺を裏切ったのか?」
「・・・裏切るも何も・・・僕は最初からアルベール様の婚約者だよ・・・」
「っ・・・本気で言ってるのか。口には気をつけろよ・・・俺をこれ以上怒らせるな」
「・・・・・・」
「今度はだんまりか?あれだけ俺をその気にさせといて、結局王子様のとこに行くのかよ。はっ俺はもうようずみだってことか?」
「こ・・・怖いから・・・やめて・・・」

逃げようとすれば何かに行く手を阻まれる。

「っ・・・リュカ」
「エヴァ・・・裏切った・・・。俺のお姫様だって・・・言ったのに・・・」

いつもは温和なとろんとした目がぎらりと光っている。後ろに下がろうとすれば背後にいたユーゴにぶつかる。

「エヴァ、俺らを捨てて王子様と幸せにお城で暮らしてハッピーエンド、なんて思ってないよな?ちゃんと責任取れよ。こんな邪魔なもの消してやるから」

すり・・・と腹を撫でられゾッとする。
咄嗟にお腹を庇うように払いのければイラついた表情をうかべる2人。

「お腹の・・・邪魔・・・要ら「ああ、同感だ。俺らを引き裂くあんなもの要らない」

2人の手が伸びてくる。俺は必死に部屋から出て逃げようとした。
しかし、部屋の前に居たのは攻略対象達だった。

「おいおいそんなに急いでどこ行くつもりだァ?お姫様よォ」
「っ・・・!」


「おい、エヴァに手荒な真似をするな」
「ちっ・・・うるせぇな分かってる」
「エヴァ様っずっと貴方を探していたんですよ!」

ガレルにアダン、それにジル。
そして

「エヴァ様」
「ゆ・・・ユリス・・・!これ、どういう事?」
「僕達話し合って決めたんです。大切な物は鳥籠に入れて大事にするべきだって」
「な・・・何言ってるんだよ」
「安心してください。エヴァ様に辛い思いや痛い事は絶対にしません。エヴァ様は僕達の愛を受け入れて下さればいいんです。でも・・・まずはこれをどうにかしないと」
「やっ・・・やだ!」
「ふふ、エヴァ様なら僕達の子供、1人ずつ産んでくださいますよね?」







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