上 下
18 / 42
第一部

最悪の誕生日*

しおりを挟む
※含有成分:スライムに嬉々として胸をいじられに行く受け、事後を見られる受け

 蕾の月最終日は、フラエの誕生日だ。取り立てて祝うつもりもないので、彼の姿はいつものように、冒険者ギルドにあった。
 通い過ぎてすっかり仲良しの人のいいおじさんに、水属性のダンジョン攻略の申請をした。「休みの日にも頑張るね」と励まされた。小遣い稼ぎの若い騎士だと勘違いされているのだが、訂正するのは諦めている。冒険者の証であるメダルをズボンのポケットに突っ込み、出発。妻が作ったんだ、と焼き菓子も持たされたので、ありがたく頂戴した。
 フラエが好むのは第一に土属性のダンジョン、次に水属性のダンジョン。この二種類は魔力の質的に魔力溜まりが起こりやすく、魔境形成が発生しやすい。反対に火属性と風属性は基本的に魔境を形成せず、稀に火山地帯などにダンジョンが発生するくらいだ。
 余談だが、土属性のダンジョンには、催淫効果のある粘液を出す植物が稀に出現する。
 閑話休題。ダンジョンへ挑む前におじさんからもらった焼き菓子を食べ、腹ごしらえをした。そして手から食べくずを払い落とし、そっと両手を上へ掲げる。
「はじめに精霊ありき。地のことわりはかたまりであり、地の精霊は根を張りて満ち、地の精霊は吸い尽くす」
 フラエの腕に筋が浮く。それはみるみるうちに植物の根となり、身体を侵食していく。
土の精霊ノームのいと高き御名を唱え、我が命を捧げん。汝創世の獣、ことわりの精霊、我が贖いに答えかし」
 フラエの中で何かが削れ、彼の関節を補助するように根は脈打ち、巻きつき、ミチミチと音を立てて彼の身体を覆い、鎧になる。軽く飛び跳ねると、弾性のある植物組織がバネになり、いつもより動きやすい。よし、とフラエは、意気揚々とダンジョンへ入っていった。
 水のダンジョンに多くいるのはスライムである。剣での攻撃が通じにくい分、厄介な相手ではある。しかし核となっている部分(一般的に「スライムの目」と呼ばれる)を的確に潰せばいいという、非常に明確な弱点を持っていた。
 さらにスライムは分裂・合体を繰り返すため、できればできるだけ大きな一体にまとめた上で撃破するのがコツだ。
 ということで、フラエはダンジョンの中で服を脱ぐことにした。上半身の防具の留め具を外し、服を脱ごうと胸元までたくしあげる。途端に生物の魔力を吸いたがるスライムが飛びつき、素肌の上を這った。
 あん、と鼻にかかった声が漏れる。壁際によりかかると、肌をねばつく透明な脚が走る。胸のとがりにそれは吸い付き、フラエは「あっ」と声を上げた。
 女性器を持ち始めてから、やたらとスライムに胸を吸われるようになってしまった。授乳と関連して何かあるのかもしれない、とぼんやり考えているが、データを集められていない以上ただの憶測だ。口に出すのは控えた方がいい。
 股間のものに熱が集まり、ナカが濡れる気配がした。スライムはフラエの乳を求めるように集まり、大きくなり、彼は立っていられないほどの快楽に甘く啼く。
 ダンジョンには核となっているボスがおり、それを討伐すれば消滅する。すなわち、ボスを討伐するまでが、フラエのお楽しみの時間だ。
「ふ、ん……」
 服を脱ぐのを諦め、スライムのなすがままになる。男の象徴は張り詰めて痛いほどだが、フラエはスライムでナカを犯されるのはあまり好きではない。胸をいじられるだけのもどかしさがたまらなくて、腰が揺れた。誰が来るのか分からないと最初は恐る恐るだったこの行為も、何年も行なっていれば、フラエを大胆にさせた。
 概ねダンジョン攻略では、既に攻略に向かったパーティーがいるものには追加の冒険者を送らない。支給される安全装置であるメダルが作動しない限り、フラエを邪魔する者はいないのだ。
 黒いシャツはすっかり粘液で濡れ、淫靡に肌へと吸い付いていた。木の根が浮いた腕は後ろに組み、胸を突き出してスライムに与える。だんだん魔力が足りなくなっていく感覚があり、それによる酩酊感もたまらない。フラエの細い腰がかくかくと揺れ、内股になって悶える彼という蜜を求めて、スライムが集まっていく。
「ぁふ、う、う……」
 目を閉じて快楽に感じ入る。初心者向けダンジョンで人が死ぬ確率は、食パンで人を撲殺する可能性と同じくらい低いとよく言われていた。規則を破らなければ決して邪魔されないし、命の危険はないし、気持ちいい。人と性的な関わりを持つよりも、モンスターと交わる方がずっと後腐れがなくて、フラエは好きだった。唇からは甘い吐息が漏れ、白磁のような肌は胸元から上が赤らんでいる。果実のように膨らんだ胸の尖りから魔力を吸い取られ、授乳のような倒錯した行為に、フラエの興奮は頂点に達した。腰が跳ね、断続的に甘い吐息を漏らしながら全身を震わせる。
「あ、あ、あ、あ、」
 軽く達したフラエの精を感じたのか、スライムたちが下半身に向かう。下腹部をそれが伝っていく感覚は悪くないのだが、そろそろ潮時だろう。
 フラエは土属性の魔力で保護した手を、スライムの中に突っ込む。スライムの目を捉えようとしても、それはぬるぬると移動してなかなか捕まえられない。いまだに胸元に吸い付かれているフラエは、気持ちよさともどかしさでどうにかなりそうだった。必死に目を捕まえようとするフラエの目元に涙が滲む。
 やっと急所である目を捕まえて、魔力を込めた掌で潰す。途端に、スライムはぱしゃんと弾け、姿を消した。残った液体が肌を伝う感触に、思わず熱く震える吐息が漏れた。しばらく呆然とした後、いそいそと立ち上がる。服を直したいが、うっかり脱ぎ忘れてしまったので、粘液でべとべとだ。フラエは別に構わないのだが、あの受付のおじさんが心配そうにするのが申し訳ない。

 そこでフラエの目に、地面に転がるメダルが映った。

「あっ」
 間抜けな声を上げて、慌てて持ち上げる。安全装置は作動済みで、ここに追加の冒険者が来ることは確定していた。壁によりかかって、崩れ落ちたときに落ちたのかもしれない。
 どこからどう見ても今のフラエは事後である。余りにも状況が悪すぎて、一周回って冷静になった。今更どう足掻いたところで、この惨状は変わらない。防具をつけ直す前にそれとなく残った粘液で濡らし、あたかもスライムに防具ごと蹂躙されたかのように取り繕う。この程度の悪知恵しか、フラエには働かなかった。
 しばらく経って足音が響き、応援の冒険者が顔を出す。
 それがディールだったので、フラエはこれまでの最悪の誕生日を、今日という日が更新したと確信した。
「えっ、と、」
 彼は顔を赤くしてしどろもどろになり、紳士らしく「どうぞ」と上着を差し出してきた。別にいいよ……と突っぱね、フラエは静かに絶望する。自分の中に恥という感情があることを、何年か振りに思い出した。
「でもそんな姿じゃ……」
「いいよ。僕、女の人じゃないし」
 男性の上裸は、この文化圏においては性的なものと見做されない。むしろ騎士たち肉体労働者の中には、鍛えた身体を自慢するために自ら脱ぐ者もいるほどだ。
 フラエはいっそ、上は脱ごうかな、と考えた。さっきまで散々スライムにいじられていた乳首を晒せるか? そんなわけはない。
 ディールは顔を真っ赤に染めて、気まずそうにしている。時々腕がフラエへ伸びそうになっているが、触られたくないと言ったのを律儀に守ってくれるらしい。
「……行こうか」
 早く帰って、一人遊びをやり直そう。二十五歳のフラエは誓った。二十四歳だったら泣いていたかもしれなかった。二人は並んで歩きながらも何を話せばいいのか分からなくて、しばらくだんまりだった。
「……ディール、何でここにいるの?」
 沈黙に耐えきれなくて聞くと、「小遣い稼ぎ……」と小声で言った。まさかこんな……と言う声が余りに悲壮だったので、フラエはよく分からないなりに、ちょっと同情した。

 スライムに襲われたフラエを、ディール視点で描写するのであれば。
 髪は乱れて目は潤み、肌は少し赤らんで唇は赤く濡れている。胸元をよく見れば、つんと立った尖りが、濡れて張り付いた黒い布を押し上げていた。少しめくれた裾からのぞく白い下腹部も濡れていて、なおのこと扇情的である。

 フラエもディールも知る由はないのだが、異世界転生者たちは土属性と水属性のダンジョンを、稀に「エロトラップダンジョン」と呼称する。フラエはある意味、ダンジョンをその言葉通りに利用しているのである。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

今度こそ穏やかに暮らしたいのに!どうして執着してくるのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,440pt お気に入り:3,402

螺旋の中の欠片

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:664

羽田家の日常

BL / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:312

荒くれ竜が言うことを聞かない

BL / 完結 24h.ポイント:702pt お気に入り:969

聖女はそっちなんだから俺に構うな!

BL / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,978

絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

BL / 完結 24h.ポイント:688pt お気に入り:839

腐男子がBLの世界に転生しちゃいました。

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:114

パーフェクトワールド

BL / 連載中 24h.ポイント:640pt お気に入り:120

‪愚鈍な‪α‬は無敵のΩ(俺)に膝を折れ

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:250

夫は親友を選びました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,832pt お気に入り:1,359

処理中です...