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フラエ=リンカーのレポート

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※なんちゃってレポート 読まなくても何の支障もないですが、せっかく書いたので供養



『魔力膜の持つ妊娠能力についての分析』

クアルトゥス王立グラナ研究所職員
フラエ=リンカー

【概要】
本研究は、妊娠能力を保有しない・妊娠能力が脆弱である者を妊娠へと至らせることを目的としている。筆者は魔力膜を生成する既存技術であるウェッブ法(ウェッブ、1398)を利用して作成した膜内での魔力結合を確認した。さらにエイラ法(エイラ、1453)によって作成した人体内で形成されるものに近似の魔力膜を使用し、受精からなる正常な発育を確認した。さらに男性体の実験協力者の胎内にエイラ法(エイラ、1453)を用いて子宮を作成し、凶暴化したヌメリツタ(俗称でしばしばハラマセソウと呼称される通り、別種族の雌個体の膣内へ射精することで妊娠および種子の出産をさせることができる)の生殖腕から採取した精液による妊娠を試みた。結果、正常な妊娠期間における、ヌメリツタの異常の見られない種子の出産に至った。したがって本研究において、妊娠能力を持たない者が、後天的に子宮を作成し、魔力膜と指向性を再現することで、妊娠・出産が可能になることが示唆された。また、本研究の成果は、不妊治療に応用できると考えられる。

【研究課題】

ヒトは血液に含有される魔力が持つ、肉体を活性化させる能力によって生命を維持している。魔力とは世界に遍在するエネルギーであり、時に純粋な魔力のみによって構成された生命体(精霊)を生み出すこともある。従って生命体を生命体たらしめているものは肉体ではなく魔力であり、活性化した魔力を持つことが生命の定義の一つに挙げられる。魔力とは生命の源であると聖典に記されている通り、生命活動とは一定の指向性を持ち、様々な属性を帯びた魔力が複合的に作用することによって維持されるものである。
妊娠とは、一般には父親の精液が母親の子宮へ膣を経由して侵入し、子宮内に発達した魔力膜へ着床・受精、魔力結合することによって開始される現象である。魔力膜とは、自然界では主に生物の体内で生成される、無属性の魔力を含有した半固体を被膜で覆った組織を指す。ヒトの胎内は常に四元素(火、水、土、風元素を指す)が干渉し合うことで生命活動を行っているが、魔力膜内のみ、そうした活動は認められない。魔力結合(以下結合と呼称)とは、特徴の異なる魔力同士が衝突・融合し、新たな魔力(以下、新魔力と呼称)を生成することを指す。従来の研究において、妊娠のメカニズムは、以下のように考えられている。母胎内の無属性魔力で満ちた魔力膜内へ精液が侵入し(これを受精と呼ぶ)結合が発生し、生成された新魔力を異物と認識した子宮が、新たな魔力の器となるべき肉体として、魔力に指向性を与えて胎児を生成する。無属性魔力は、母胎の魔力が新魔力へ干渉することを防ぐ防御壁であると言える。新魔力の属性はしばしば母胎と異なり、妊娠中のつわりはこれに対する防御反応であると考えられている(ヒューズ・アカシマ、1461)。胎児の発育が進むと胎盤とへその緒が作成され、それらを介して母親から魔力・栄養を与えられるようになる。
すなわち女性体が持つ妊娠のための器官である子宮は、以下の能力を保有しているのである。

1. 父親の魔力を運搬する精液を魔力膜へと取り込み、受精する。
2. 魔力膜内で母胎由来の魔力と精液由来の魔力を結合させ、新魔力を発生させる。
3. 魔力へ指向性を与えて魔力膜内で胎児の肉体を生成・保護し、胎盤などの器官を生成して出産まで育成する。

本研究の課題・目標は、以下の3点である。

1. ヒト胎内で生成された魔力膜内で結合を誘引し、新魔力を発生させる。
2. 発生した新魔力の宿主となる胎児を発生させる。
3. 胎児を規定期間内胎内で保護・育成、すなわち妊娠を継続し、健康な嬰児を出産する。

【先行研究】

既に魔力膜を人工作成する技術は存在しているが、その被膜中で新魔力を発生させる試みはこれまでなされていなかった。ウェッブ法(ウェッブ、1398)は現在普遍的に使用されている魔力膜生成法であるが、主にその用途は無属性の魔力抽出にほぼ限られている。ウェッブ法では自然物から様々な属性の魔力を抽出し、特殊な処理を経て無属性へと変換したものを油脂で作成した被膜に閉じ込め、魔力膜を作成する。ウェッブ法によって作成された魔力膜を、本稿では非生魔力膜と呼称し、生体由来の魔力膜を有生魔力膜と呼称する。また、生物の体内に魔力膜が形成され、それが生殖に利用されていることが判明したのはオーク(1420)による報告からと比較的最近のことであり、魔法と比較すれば生殖にまつわる研究の歴史は非常に浅い。
人体組織を再生・複製する技術として知られるエイラ法(エイラ、1453)は魔力が人体内で持つ属性・指向性に着目し、それらの諸現象を人工的に再現することによって開発された。こちらは魔力膜を利用しない生体魔術の一種である。その一方で近年開発された創造術(ミスミ、1469)では、ネズミの雌個体が持つ子宮内の魔力指向性に着目しており、有生魔力膜内での生命発生についての詳細な解説がなされている。以下は、ミスミ(1467)からの引用である。

生命が母胎内で発生する際には、四元素(火、水、土、風)の全てが関わっていると考えられている。四元素すべてが膜内で複合的な反応を起こし、筋肉、脂肪、神経、皮膚、体毛などが形成されるのである。翻って無属性の魔力で満ちた有生魔力膜内は、新たな生命にとっての防御壁であり、特定の属性の魔力を帯びた母胎環境から胎児を保護する役割を担っている。

ミスミ(1467)で示唆されている通り、子宮内に形成される魔力膜は、新魔力を保護する機能を持つと考えられる。そして、保護された新魔力は子宮の与える指向性に則り、肉体を形成していくのである。
本研究ではエイラ法を用いて作成された有生魔法膜に近い魔力膜(以下実験膜と呼称)内において、創造法を応用して指向性を与えることにより、妊娠を実現することを目指した。


【実験】

実験1

方法

ネズミの子宮内環境を再現したフラスコ内で非生魔力膜を生成した。膜内はネズミの血液から採取した魔力を無属性へ変換したもので満たし、より生体環境へと近づけた。ここへ別個体の魔力を着床させるため、凶暴化したヌメリツタの生殖腕から採取した精液を利用した。凶暴化したヌメリツタはたびたび動物の雌を襲い、妊娠に至らせた例が数多く報告されているため、本実験に最適であると判断した。
血液を提供したネズミは、火、水、土、風属性をそれぞれ強く持つ個体を3体ずつ選出し、1個体ごとに2個非生魔力膜を作成した。非生魔力膜に無属性魔力が満ち次第、受精を行った。また、対照群として、受精を行わないフラスコを各個体ごとに作成した。

結果

実験開始直後、実験群、対照群ともに、非生魔力膜内での結合の発生、及び新魔力の生成を確認することができた。しかしどちらのグループにも魔力への指向性が与えられず、1時間後には魔力は活性を失った。実験後に検体の魔力属性を確認したところ、ヌメリツタの持つ土属性のみが認められ、ネズミの持つ他属性の魔力は認められなかった。従って、非生魔力膜内においては精液の持つ属性のみが認められたと言える。

実験2

方法

実験1の結果を受けて、実験方法に改良を加えた。魔力に種子発生への指向性を与えるため、エイラ法(エイラ、1453)を応用した技法を考案した。エイラ法とは、対象者の血液から採取した魔力の指向性を、特定の臓器の発生へと固定・指定し、欠損した部位を補う技術である。
本実験では非生魔力膜に実験1と同じ条件でネズミの魔力を与えたもの(グループ1)、エイラ法によって作成した、より体内で発生した有生魔力膜に近いと考えられる実験膜に同条件の操作を行ったもの(グループ2)、実験膜に創造法を用いて指向性を与えたもの(グループ3)に対して受精を行った。また、対照群として、グループ1と同条件の操作を行った上で受精を行わなかったもの(グループ4)、同条件の操作を行った実験膜に対して受精を行わなかったもの(グループ5)を作成した。

約2週間後後、グループ2からのみ、成熟したヌメリツタの種子が膜内より排出された。これはヌメリツタがネズミの雌個体を妊娠させた際に観察される、正常な妊娠期間である。また、フラスコ内には胎盤に類似した組織の形成が確認できた。組織の魔力に対して属性検査を行ったところ、無属性魔力が検出された。
得られた種子を培養土で培養したところ、正常な発芽・成長が確認できた。
従って、以下の可能性が示唆されたと言える。

1. 異なる魔力同士の結合は、魔力膜内であれば非生・有生問わず、容易に発生させることができる。
2. エイラ法によって作成された、より生体環境に近い魔力膜に創造術を応用して指向性を与えることで、妊娠発生・維持を可能にする。

次に、筆者は人間の胎内に魔力膜を生成する試みを行なった。筆者は男性体であり、妊娠及び妊娠の維持のために必要となる子宮などの器官を体内に有していない。そこで、胎内に人工子宮を設置することにした。

実験3

研究方法

男女の肉体的特徴の区別は、結合時、膜内に含まれる性因子によって決定されると考えられている。性因子とは、有生魔力膜内・精液で観察される魔力塊の一種である。魔力塊とは体内で生命を維持するための機構の一部であり、人体の急所に配置され、魔力を供給するものである。性因子とは、生殖器で稼働するものを指す。性因子が奇数個(大抵の場合1または3個)であれば男性体、偶数個(大抵の場合2個)であれば女性体へと分岐すると考えられている。

実験計画時では女性体の実験協力者による実験も視野に入れていたが、実施までに人員を確保できなかったため、筆者自身を実験協力者として実験を行なった。

方法

胎内への子宮の設置は、損傷した組織を修復するエイラ法を利用した。本研究では魔力操作を筆者の胎内へ行い、子宮および膣修復・作成を行った。この処置は筆者が四元素全ての魔力属性を持っており、いずれかの元素の過剰な暴走が起こった場合でも自力での対処が可能であると考えられ、安全性は比較的高いと判断して行った。
事前に筆者の血液にエイラ法を用いて子宮をフラスコ内で生成した際、自動的に魔力膜が生成されることを確認した。これは性因子の数に関わらず子宮を生成することが可能であり、また、子宮が魔力が帯びている属性を変換し、無属性へと変化させる機能を持っていることを示唆している。イールス(1459)ではオーク(1420)で報告された子宮の持つ魔力膜生成機能及び有生魔力膜の魔力変換機能に着目していた。本論文では、有生魔力膜の生成過程及び胎児の発生過程について観察・実験を行っていた。イールスは「子宮内で胎児が発生する段階において、防御壁となる無属性魔力で満たされた魔力膜は必須」であり、子宮自体が魔力膜を生成する機能を持つのか、性因子の数に依存するものであるかの同定を課題としていた(1459)。本稿の結果においては、子宮自体に魔力膜を生成する効果があると考えられ、魔力膜形成と性因子の個数との因果関係はない可能性が示唆されている。
胎内での魔力膜の形成を確認後、実験1と同様に凶暴化したヌメリツタの精液を胎内へ注入した。

結果

実験開始後、腹部の膨満感を得た。透視の結果、妊娠が確認された。98日後には正常に種子の経膣分娩を行ない、出産された種子は、培養土での正常な発育が確認された。
出産後に体外へ排出された胎盤を調査したところ、筆者の持つ魔力属性全てが検出された。すなわち、筆者の身体へ後天的に移植した子宮はヌメリツタの精液を受容し、母胎に由来する胎盤を作成して正常に妊娠し、出産へと至ったと考えられる。

【考察】

実験を通して、男性体による妊娠・出産は、既存の技術であるエイラ法へ改良を加えることで実現可能であることが示唆された。同様に、妊娠能力を保有しない・妊娠能力が弱い女性体においても、有生魔力膜を発達させることで、容易に妊娠が可能になると考えられる。

【課題】

本研究では実験3において実験協力者を得られず、男性体かつ全属性魔力を保有する筆者以外のヒト個体の持つ条件下での実験を行えなかった。また、実験3は実験を1例行えたのみであり、再現性に欠ける。
今後は女性体、個別属性の魔力を保有するなど、今回実験を行った筆者とは条件の異なる実験協力者の協力を得て、新たに複数の実験を行いたい。
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