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6.過去の僕

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母が父を殺した事件は、父の妻と父の弟がすぐに動いたため、被疑者死亡で淡々と処理された。

母が父を殺して、肉身がいなくなった僕は、父の妻に引き取られた。父の妻は義母になった。

義母は特に父を愛していたわけではなかったらしい。どちらかと言うと、もう妻のいる父の実の弟に恋をしていたらしいが、家のことを考え諦め、その兄である父と結婚することになったそうだ。
そして、義母は家の醜聞をとてもきらった。
さらに、社長夫人になって自分の一族との繋がりを強くする予定が、未亡人になってしまった。
義母は僕と母のせいで未来設計が狂ってしまったことが許せなかったらしい。

家の為に諦めたのに、そう僕に言ったことがあった。

僕は、義母にとっても失敗作。

僕が小さな時はしっかり育ててくれたらしい。
小さな子供が死んだら、また家の醜聞になってしまうから。
僕を育てれば、夫を殺した女の息子を育てる心優しい女性という世間の評価がつくから。

小学校までは、愛してもらえることはなかったが、最低限の衣食住はもらえた。埃の積もった物置が僕の部屋で、1日そこにいた。トイレもごはんも最低限。義母迷惑をかけぬ様、ひっそりと暮らしていた。
目は、母と同じ琥珀色を見せるなと言われて、伏せているのが当たり前になった。
もし義母と目を合わせでもしたら、歩けなくなるくらい殴られた。それから、なるべく部屋の外では目を瞑って、壁伝いに歩く様になった。

母が父を殺してしまったのは、ずっとわかっていた。
義母が自分の評価や世間体から僕を育てているのも嫌というほど知っていた。
悪いのは、僕。
わかっているから、自分がやれることはなんでもやった。

でも、浴びせかけられるのは義母の
「お前さえいなければ。失敗作のお前のせいだ。お前とお前の母さえのたれ死んでいれば、社長夫人になれたのに」
という言葉。

僕が失敗作でだめなのはわかっているけど。
思っても行けないことなのもわかっていたけど。
その言葉がどうしようもなく、悲しかった。

でも、他は毎日叩かれるのと、時々ご飯に虫が入っているくらい。
体の服で見えないところだけの暴力にしてくれて、義母は優しかった。失敗作なのに、僕の周りは平和だった。

義兄は特に関わってこなかったが、たまに義兄が何かを壊すと、僕がやったことになった。
それも、3日間ご飯なしになって、たまに指の骨を一本折られるくらいで、失敗作には優しかった。

失敗作なのに身の丈に合わない幸せな暮らしをしていた。

かわったのは小学校に入学した時。
義兄は私立の名門校に入っていたが、僕は公立の普通の学校だった。義母は最低限の世話はするが、僕にお金はかけたくなかったと言っていた。

地域の情報網はすごい。

水無瀬の家によって栄えていて、比較的裕福な家庭が多いそこでは、既に僕の母が人を殺したことが広まっていた。
しかも、僕の通うところはあの殺人が起こった家の近くの学校だったから、当時相当ざわついたらしい。

僕はいじめられた。

でも。
僕が失敗作だから、いじめなんかじゃないのかもしれない。
ただの罰だったのかもしれない。

身体があまり強くなかったのと、躾の痕を隠す様にとの義母の言葉で、体育に参加していなかったのも生意気に思われていたのかもしれない。
僕は左手の小指の骨が変にくっついていて動きにくかったり、傷を庇って大きく動かなかったから、義母の優しさかもしれない。

一年生から六年生までの6年間、ものを隠されるのは当たり前。
休み時間はたたかれて蹴られた。
同級生だけでなく、体の大きい上級生にも暴力を振るわれた。学年が上がってからは、下級生からも。
みんな、僕の周りにいるときは笑っていて、僕よりもずっと幸せそうだった。

女子には、給食に虫を入れられた。
みんなは失敗作の僕に償いを手伝ってあげる、と言っていた。

先生も僕には冷たかった。誰も、失敗作に優しくしたらなんかしたくないだろう。
なんだか少し苦しかったけど、僕は失敗作。
今までの幸せな生活が奇跡だった。

家での食事は、給食費を出しているからと無くなった。
体育には出ていないし、運動をしているわけでもないしいいだろう、と。
いつもひもじかったけど、僕なんかが食べると、食べ物を作った人たちに申し訳ないからよかった。

僕は勉強はできた。
知識を蓄えることだけは楽しかった。

中学も同じ様な感じだったけど、先生が優しくなった。僕はいつもテストがほぼ満点で、一位だったから。
義母は僕は満点を取るのが当たり前と言っていた。
一点でも落としてしまうと、義母の恥になる。
僕は毎日家で何時間も勉強した。
それでも、何点か落としてしまって。
足の爪をベリっとされたこともあった。

学校で暮らすのは相変わらず少し苦しかったし、テスト勉強は大変だったけど。

制服という綺麗な服も初めてもらえたし、嬉しかった。

1番困ったのは、中学3年の時の受験だ。
うちの家的には、名門の如月学園に入らなければいけないが、義母はお金を出してくれない。
でも、一般高校に入ったら、義母の恥になってしまう。
いつの間にか、眠れなくなっていたから、睡眠時間を削って、それまで以上に勉強した。
最終的には、入試トップの特待生で入ることができて、授業料や寮費、食費など全てで免除で入ることができたのでよかった。

高校は寮で僕は家から出た。
失敗作の僕が言ってはいけないことだけど、家から出られて嬉しかった。
僕は失敗作だったけど、少し辛かったんだ。

義母は僕をみなくて済むと喜んでいた。義兄は僕と入れ替わりで如月学園の寮から、家に帰ってきていた。

高校に入ってからは幸せだった。
みんな神様の様に優しくて。
普通にご飯を食べられて。
誰も僕を透明人間にしなかった。

でも、僕は忘れちゃいけなかった。
自分が失敗作だっていうことを。
こんな、失敗作がみんなと同じ空間にいることがだんだん申し訳なくなって、1ヶ月で教室に行けなくなった。食堂もいけなくなった。
自分が、穢れで真っ黒く覆われている様に見えた。
人や、物に触れなくなった。

授業はもともと免除資格を持っていたからよかった。ご飯は、こんな自分が食堂の豪華な食事を食べるのは行けないことだと気づいて、電子レンジを買って、2日に一回くらい、冷食を食べる様にした。
行事にも出ず、部屋に引きこもった。
勉強は、受験でどのレベルまでまとめられるか知らなくて、大学の範囲まで必死に勉強したから大丈夫。

いつの間にかもっと寝られなくなって、一日中ぼけーっとしてた。

そのまま、半年。

いつのまにか、生徒会役員に任命されていた。
なんでも生徒の投票で決まったらしい。
この学校の生徒会はみんな顔が良くて、運動神経抜群、頭脳明晰な人が選ばれると聞いていたから、びっくりした。
僕は醜くて、運動ができない頭でっかちだから。
でも、任命されるからには仕事をしっかりやった。
外では会計として明るく振る舞って、行事にはしっかり出る。出来るだけ醜くない様に身だしなみは整えて。
みんな優しくて、たまにしか出てこないこんな僕でも慕ってくれた。
それが申し訳なくて、手を切る様になった。
最初は浅かったのにだんだん深くなって。血が流れるたびに自分が綺麗になっていく様な気がして。癖になった。

必死に仕事をして半年。
いつの間にか一年。これから後半年。
入学式からから次の生徒会任命式まで、みんなのために頑張らないと。
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