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本編
No,132 【十年愛】 No,17 ※R18
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『…ウァァ…ッ、…お許し下さい、女王様…っ!!』
『フフ…まだまだダメよ…、…我慢出来るでしょう…?』
『…そんな…っ、…この哀れな下僕に、どうぞお慈悲を…っ!!』
『まだまだ…、…もっと、もっと悦くなりたいでしょう…?』
『…ハァァ…ッ!! …どうか…どうか、お許しを…っ!!』
俺が見ているモニターに映っているのは、英語で会話する男と女。
拷問道具の揃った、石組の牢獄を模した小部屋の中。
木の椅子に縛られて座らせられている全裸の男に、女が跨り腰を揺らしている。女は所謂、ボンデージファッションで、ショーツだけ脱いで、男の特殊な紐で縛られた男根をその胎内に受け入れているのだ。
それだけではない。
男は鞭で打たれ、アナルに道具を入れられているのだ。
座っているだけでも、かなりの苦痛の筈だ。
しかし、その表情に浮かんでいるのは、明らかな愉悦だ。
―――誰が想像出来るだろう。
豪快で剛毅な性格で、敬虔で高潔なイスラム教徒であるK国のアフザル殿下が、被虐嗜好のマゾヒストだなどと。
※ ※ ※
最初は、普通に接待するはずだった。
日本でも有数の料亭・吉兆で、本格的な会席料理を楽しんで頂こうと思っていたのだ。
それが、俺の昇進を妬む人物によって邪魔されてしまった。
正直言えば、やりたくなかった仕事だ。
仕事が頓挫しようと、一向に構わない。
しかし、俺の付き合いにケチをつけられたのが面白くなかった。
そこで、とっておきの接待をさせて頂く事にしたのだ。
幸い、殿下の祖父のアドハム王は、【CLUB NPOE】の所有する、澤木様の御力によって不老不死になられた人々が住まう事が許された、【元老院】に在籍されていたはずだ。俺は早速、澤木様に連絡をさせて頂き、仕事をする事を交換条件に、殿下を【倶楽部 NPO】にご招待する事を許されたのだ。
……しかし、高貴で社会的地位の高い人間ほど、肉体的精神的苦痛を与えられたり、羞恥心や屈辱感を味わわされることによって性的興奮を覚えるM気質が多い事は、英国で【CLUB NPOE】に所属していた時から識ってはいたが……
松田さんたち、優秀なスタッフたちのお陰で、初回の入会時は殿下に非常にご満足頂く事が出来た。
澤木様が、わざわざいらして下さった事には驚かされたが……
それと云うのも、アドハム王からの伝言を預かっていらっしゃり、
【元老院】においてのみ栽培されている、黒薔薇より薫り高く、血のように紅い……【Eternal Rose】を手ずから下賜されたのだ。
殿下にとって、名付け親でもあるアドハム王が、戸籍上は死去された事になっていても、今尚ご健勝であられる事を知って涙を流された事には、私よりも山中の方が驚愕していたが……再訪の催促には参った。
通常、【CLUB NPOE】には特別な紹介と共に、三回の紹介者の同伴が必要になる。
……これでやっと、三回目だ。義理は果たした。
殿下は正式な会員となり、クラブとの接触も自ら行えるようになる。
松田さんに聞いたところ、殿下は初回で、あの【マダムの館】の表の支配人・玲子の虜となってしまい。今回の来日早々連れて行かれた二回目に彼女の名前を知る事を許され、帰国をひかえた今夜、ようやく彼女を味わう事を許されたらしい。
殿下も本望だろう。
『…さあ、そろそろ許してあげましょうか…』
『玲子様!!』
『誰が名前を呼んでいいって言ったの!?』
ピシッ!
うかつに、女王様の名前を呼んでしまった下僕への、容赦のない平手打ちが決まる。
……アレは、リストのスナップがきいていて痛いだろうが、殿下の表情は……嬉しそうだ。
『…お、お許し下さい…っ!!』
『…じゃあね…イく瞬間だけ、名前を呼ぶ事を許してあげるワ。』
『オォ…ッ! ありがとうございます、女王様っ!!』
女王様が一度、殿下のモノを引き抜く。完全に勃ち上がってしまっているモノから紐を解いて、再び下僕と女王様とのSEXが始まった。辱めを存分に味わわれている殿下の歓喜の雄叫びを背に、俺は【倶楽部 NPO】の監視室を後にした。
※ ※ ※
2013年4月。
新しい歌舞伎座が誕生した。
それに伴い、「歌舞伎座タワー」と名付けたビルを新歌舞伎座の背後に建て、【GINZA KABUKIZA】と云う複合施設を作ったのだが。地下鉄を抜けた途端に広がる地下2階の木挽町広場の方が、余程、殿下に感銘を与えたらしい。
メトロ計画の第一期工事が始まる前に視察に来られたアフバル殿下は、この建設工事が完成されて、是非ともその威容をこの目で見てみたいと熱望され、今回の視察が実現した。
『有意義な視察だった。』
殿下はこの上もなく上機嫌だった。
……そうだろうとも。
当初、二時間だった接待は、殿下の熱心なご要望により十分延長されて(【CLUB NPOE】は、原則、時間厳守が規則だ)。山中は慌てていたが、余程、女王様との逢瀬が名残惜しかったのだろう。
まあ、新歌舞伎座の杮落し公演を観たいなどと言われなくて良かった。
一応、チケットは用意してあったのだが、あんな無駄なら大歓迎だ。
……あの周辺は、和風小物の店が多く、【銀座 香十】も近い。
去年の俺の誕生日に、真唯が用意してくれた線香と香立てを想い―――俺はしばし感慨に耽った。
『第二期工事も、よろしく頼むぞ。』
『お任せ下さい。』
成田空港のVIPルームで交わす握手。
……カンドゥーラに隠された手首に残る縄の痕には、気付かない振りをした。
※ ※ ※
5月のGW、8月の夏休みなどの長い休みを、真唯とご一緒出来ないもどかしさに身悶える思いで過ごす。
6月の【インティ・ライミ】に、ジョアン・ジルベルトの幻とも云えるCDを贈り喜んでもらえたのが、せめてもの救いだ。
……雲海の中に聳える富士山を見る度に、真唯は本当に良い表情をする。
それだけでも、この空の旅に連れ出している甲斐があると云うものだ。
相も変わらず神社仏閣巡りに、真唯はアクティブに動き回っていて。
舞台はご一緒出来る機会が増えてきたけれど、俺にとってはまだまだ不足で。
だからこそ、俺のマンションでたまにご一緒出来る週末は、本当に貴重な時間だった。
「さあ、出来ました! 召し上がって下さい。」
「ありがとうございます! 頂きます!!」
今夜の献立は、セロリと人参のゴマキンピラ、エノキの梅肉和え。メインはジンジャーチキンソテーだ。
ふわふわ卵の中華スープを美味しそうに飲む真唯が、可愛いらしい。
馴染みの銀座のワイン専門店で薦められた白のチリワインを出す。
俺は勿論、ウーロン茶だ。
……最近、ようやく、運転手の俺に遠慮せずにアルコールを摂るようになってくれた。
そんな距離感が嬉しくないと言えば、嘘になるが……
最近は秋と云う季節が、とても短い。
夏は必ず猛暑で、いつまでも残暑が厳しいかと思えば、アッと云う間に寒い冬になってしまうのだ。
ついこの間までは確かに暑かったのに、直ぐに寒くなってしまう。
そんな、微妙な季節。
真唯に出逢って、丁度、10度目の10月。
俺は自宅マンションに彼女を招いて、手料理を振る舞っていた。
「ご飯もスープも、お代わりありますからね。どんどん食べて下さい。」
「遠慮せずに頂いてますから。もう、体重計に乗るのが怖いですよ。一条さんのお料理、美味しくて♪」
「それは光栄ですね。沢山召し上がって、もっとポッチャリなさって下さい。どんな真唯さんも可愛いらしいですよ。」
「……っ!」
和やかな食卓は、ワインもすすむ。
ただ、真唯の顔が赤いのは、アルコールのせいではないだろうけれど。
それを微笑ましい気持ちで見守りながらも。
俺は、ある屈託を抱えていた。
「ご馳走様でした! とっても、美味しかったです♪」
「お粗末さまでした。真唯さんこそいつも、ありがとうございます。」
食器を洗ってもらって、食後の珈琲を出す。
カップは、真唯のために購入した、WEDGWOODのランバーンだ。
それが定番になってしまっている。
……定番に…なってしまっているのだが……
『…ちょっと…ね。…悩みを聞いてあげてるだけよ。』
「…一条さん。 …あの…ひょっして、何か怒ってらっしゃいますか…?」
怖々と俺を伺う真唯に、酷く残酷な気分になってしまう。
「…おや。真唯さんには、俺に怒られるような心当たりがおありなんですか…?」
「…いえ…それが、まったく…」
「…でしたら、真唯さんの気のせいでしょう。」
「……………………」
無言になって俯いてしまう真唯に、たちまち罪悪感を刺激されて。
……適当に誤魔化す事にした。
「…申し訳ありません。…仕事上で、ちょっと…ね。」
仕事を持ち出せば、真唯は、それ以上は決して踏み込んで来ないと理解っている……
……これは、逃げだ……
気まずくなってしまった空気は、来月に迫った俺の誕生日のプランを持ち出す事で回避出来た。途端に真唯は、『勘弁して欲しい』の言葉を全身に滲ませて、俺の笑いを誘い。調子に乗った俺は、リザの店でどんな風にドレスアップしてくれるのか楽しみだと言って、真唯をますます困らせて悦に入った。
その後、夜も遅くなって来たので、無事に家まで送り届けた。
……だが、しかし。
マンションに帰り着いた俺は、スコッチウィスキーのボトルを空けていった。
※ ※ ※
あれは、ひと月ほど前。
何気ないリザとの会話で、真唯がリザのアパルトマンに遊びに来たと聞いて、女2人でどんな会話をするのかと聞いてみたのだ。
……純粋な好奇心だった。
俺と交わす会話と変わりなく、趣味やブログの話で盛り上がっているのだろうと思っていたのだが。
『…ちょっと…ね。…悩みを聞いてあげてるだけよ。』
……理解ってる。
……これは―――嫉妬だ。
……悩みを打ち明けられるほど、真唯に信頼されているリザに、俺は嫉妬の炎にこの身を焦がれそうになったのだ。
……悩みがあるなら、この俺に打ち明けて欲しい。
……部屋のモニターで見ていると、たまに布団の中で泣いている時がある。
……何度、画面に語り掛けただろうか。
……何を1人で泣いているの…?
……俺に打ち明けてごらん…?
……どんな悩みでも、たちどころに解決してあげるから。
……もしかして、あのご両親の事かい…?
……君が望めば、社会的に抹殺してあげるよ…?
……俺には、君の秘められた精神の扉を、ノックする事も許されていないのかい…?
―――……君の“恋人”と云う立場が欲しい……―――
……誰よりも……リザよりも、もっと、もっと、真唯の精神の中で、誰よりも特別な位置にいたい。
……真唯の何もかもが…欲しくて欲しくて、たまらない…っ
……俺は、充分過ぎるほど待った……もう、限界だ…っ!!
……今度の、俺の誕生日に、勝負をかけよう。
そう、決意した瞬間だった―――
『フフ…まだまだダメよ…、…我慢出来るでしょう…?』
『…そんな…っ、…この哀れな下僕に、どうぞお慈悲を…っ!!』
『まだまだ…、…もっと、もっと悦くなりたいでしょう…?』
『…ハァァ…ッ!! …どうか…どうか、お許しを…っ!!』
俺が見ているモニターに映っているのは、英語で会話する男と女。
拷問道具の揃った、石組の牢獄を模した小部屋の中。
木の椅子に縛られて座らせられている全裸の男に、女が跨り腰を揺らしている。女は所謂、ボンデージファッションで、ショーツだけ脱いで、男の特殊な紐で縛られた男根をその胎内に受け入れているのだ。
それだけではない。
男は鞭で打たれ、アナルに道具を入れられているのだ。
座っているだけでも、かなりの苦痛の筈だ。
しかし、その表情に浮かんでいるのは、明らかな愉悦だ。
―――誰が想像出来るだろう。
豪快で剛毅な性格で、敬虔で高潔なイスラム教徒であるK国のアフザル殿下が、被虐嗜好のマゾヒストだなどと。
※ ※ ※
最初は、普通に接待するはずだった。
日本でも有数の料亭・吉兆で、本格的な会席料理を楽しんで頂こうと思っていたのだ。
それが、俺の昇進を妬む人物によって邪魔されてしまった。
正直言えば、やりたくなかった仕事だ。
仕事が頓挫しようと、一向に構わない。
しかし、俺の付き合いにケチをつけられたのが面白くなかった。
そこで、とっておきの接待をさせて頂く事にしたのだ。
幸い、殿下の祖父のアドハム王は、【CLUB NPOE】の所有する、澤木様の御力によって不老不死になられた人々が住まう事が許された、【元老院】に在籍されていたはずだ。俺は早速、澤木様に連絡をさせて頂き、仕事をする事を交換条件に、殿下を【倶楽部 NPO】にご招待する事を許されたのだ。
……しかし、高貴で社会的地位の高い人間ほど、肉体的精神的苦痛を与えられたり、羞恥心や屈辱感を味わわされることによって性的興奮を覚えるM気質が多い事は、英国で【CLUB NPOE】に所属していた時から識ってはいたが……
松田さんたち、優秀なスタッフたちのお陰で、初回の入会時は殿下に非常にご満足頂く事が出来た。
澤木様が、わざわざいらして下さった事には驚かされたが……
それと云うのも、アドハム王からの伝言を預かっていらっしゃり、
【元老院】においてのみ栽培されている、黒薔薇より薫り高く、血のように紅い……【Eternal Rose】を手ずから下賜されたのだ。
殿下にとって、名付け親でもあるアドハム王が、戸籍上は死去された事になっていても、今尚ご健勝であられる事を知って涙を流された事には、私よりも山中の方が驚愕していたが……再訪の催促には参った。
通常、【CLUB NPOE】には特別な紹介と共に、三回の紹介者の同伴が必要になる。
……これでやっと、三回目だ。義理は果たした。
殿下は正式な会員となり、クラブとの接触も自ら行えるようになる。
松田さんに聞いたところ、殿下は初回で、あの【マダムの館】の表の支配人・玲子の虜となってしまい。今回の来日早々連れて行かれた二回目に彼女の名前を知る事を許され、帰国をひかえた今夜、ようやく彼女を味わう事を許されたらしい。
殿下も本望だろう。
『…さあ、そろそろ許してあげましょうか…』
『玲子様!!』
『誰が名前を呼んでいいって言ったの!?』
ピシッ!
うかつに、女王様の名前を呼んでしまった下僕への、容赦のない平手打ちが決まる。
……アレは、リストのスナップがきいていて痛いだろうが、殿下の表情は……嬉しそうだ。
『…お、お許し下さい…っ!!』
『…じゃあね…イく瞬間だけ、名前を呼ぶ事を許してあげるワ。』
『オォ…ッ! ありがとうございます、女王様っ!!』
女王様が一度、殿下のモノを引き抜く。完全に勃ち上がってしまっているモノから紐を解いて、再び下僕と女王様とのSEXが始まった。辱めを存分に味わわれている殿下の歓喜の雄叫びを背に、俺は【倶楽部 NPO】の監視室を後にした。
※ ※ ※
2013年4月。
新しい歌舞伎座が誕生した。
それに伴い、「歌舞伎座タワー」と名付けたビルを新歌舞伎座の背後に建て、【GINZA KABUKIZA】と云う複合施設を作ったのだが。地下鉄を抜けた途端に広がる地下2階の木挽町広場の方が、余程、殿下に感銘を与えたらしい。
メトロ計画の第一期工事が始まる前に視察に来られたアフバル殿下は、この建設工事が完成されて、是非ともその威容をこの目で見てみたいと熱望され、今回の視察が実現した。
『有意義な視察だった。』
殿下はこの上もなく上機嫌だった。
……そうだろうとも。
当初、二時間だった接待は、殿下の熱心なご要望により十分延長されて(【CLUB NPOE】は、原則、時間厳守が規則だ)。山中は慌てていたが、余程、女王様との逢瀬が名残惜しかったのだろう。
まあ、新歌舞伎座の杮落し公演を観たいなどと言われなくて良かった。
一応、チケットは用意してあったのだが、あんな無駄なら大歓迎だ。
……あの周辺は、和風小物の店が多く、【銀座 香十】も近い。
去年の俺の誕生日に、真唯が用意してくれた線香と香立てを想い―――俺はしばし感慨に耽った。
『第二期工事も、よろしく頼むぞ。』
『お任せ下さい。』
成田空港のVIPルームで交わす握手。
……カンドゥーラに隠された手首に残る縄の痕には、気付かない振りをした。
※ ※ ※
5月のGW、8月の夏休みなどの長い休みを、真唯とご一緒出来ないもどかしさに身悶える思いで過ごす。
6月の【インティ・ライミ】に、ジョアン・ジルベルトの幻とも云えるCDを贈り喜んでもらえたのが、せめてもの救いだ。
……雲海の中に聳える富士山を見る度に、真唯は本当に良い表情をする。
それだけでも、この空の旅に連れ出している甲斐があると云うものだ。
相も変わらず神社仏閣巡りに、真唯はアクティブに動き回っていて。
舞台はご一緒出来る機会が増えてきたけれど、俺にとってはまだまだ不足で。
だからこそ、俺のマンションでたまにご一緒出来る週末は、本当に貴重な時間だった。
「さあ、出来ました! 召し上がって下さい。」
「ありがとうございます! 頂きます!!」
今夜の献立は、セロリと人参のゴマキンピラ、エノキの梅肉和え。メインはジンジャーチキンソテーだ。
ふわふわ卵の中華スープを美味しそうに飲む真唯が、可愛いらしい。
馴染みの銀座のワイン専門店で薦められた白のチリワインを出す。
俺は勿論、ウーロン茶だ。
……最近、ようやく、運転手の俺に遠慮せずにアルコールを摂るようになってくれた。
そんな距離感が嬉しくないと言えば、嘘になるが……
最近は秋と云う季節が、とても短い。
夏は必ず猛暑で、いつまでも残暑が厳しいかと思えば、アッと云う間に寒い冬になってしまうのだ。
ついこの間までは確かに暑かったのに、直ぐに寒くなってしまう。
そんな、微妙な季節。
真唯に出逢って、丁度、10度目の10月。
俺は自宅マンションに彼女を招いて、手料理を振る舞っていた。
「ご飯もスープも、お代わりありますからね。どんどん食べて下さい。」
「遠慮せずに頂いてますから。もう、体重計に乗るのが怖いですよ。一条さんのお料理、美味しくて♪」
「それは光栄ですね。沢山召し上がって、もっとポッチャリなさって下さい。どんな真唯さんも可愛いらしいですよ。」
「……っ!」
和やかな食卓は、ワインもすすむ。
ただ、真唯の顔が赤いのは、アルコールのせいではないだろうけれど。
それを微笑ましい気持ちで見守りながらも。
俺は、ある屈託を抱えていた。
「ご馳走様でした! とっても、美味しかったです♪」
「お粗末さまでした。真唯さんこそいつも、ありがとうございます。」
食器を洗ってもらって、食後の珈琲を出す。
カップは、真唯のために購入した、WEDGWOODのランバーンだ。
それが定番になってしまっている。
……定番に…なってしまっているのだが……
『…ちょっと…ね。…悩みを聞いてあげてるだけよ。』
「…一条さん。 …あの…ひょっして、何か怒ってらっしゃいますか…?」
怖々と俺を伺う真唯に、酷く残酷な気分になってしまう。
「…おや。真唯さんには、俺に怒られるような心当たりがおありなんですか…?」
「…いえ…それが、まったく…」
「…でしたら、真唯さんの気のせいでしょう。」
「……………………」
無言になって俯いてしまう真唯に、たちまち罪悪感を刺激されて。
……適当に誤魔化す事にした。
「…申し訳ありません。…仕事上で、ちょっと…ね。」
仕事を持ち出せば、真唯は、それ以上は決して踏み込んで来ないと理解っている……
……これは、逃げだ……
気まずくなってしまった空気は、来月に迫った俺の誕生日のプランを持ち出す事で回避出来た。途端に真唯は、『勘弁して欲しい』の言葉を全身に滲ませて、俺の笑いを誘い。調子に乗った俺は、リザの店でどんな風にドレスアップしてくれるのか楽しみだと言って、真唯をますます困らせて悦に入った。
その後、夜も遅くなって来たので、無事に家まで送り届けた。
……だが、しかし。
マンションに帰り着いた俺は、スコッチウィスキーのボトルを空けていった。
※ ※ ※
あれは、ひと月ほど前。
何気ないリザとの会話で、真唯がリザのアパルトマンに遊びに来たと聞いて、女2人でどんな会話をするのかと聞いてみたのだ。
……純粋な好奇心だった。
俺と交わす会話と変わりなく、趣味やブログの話で盛り上がっているのだろうと思っていたのだが。
『…ちょっと…ね。…悩みを聞いてあげてるだけよ。』
……理解ってる。
……これは―――嫉妬だ。
……悩みを打ち明けられるほど、真唯に信頼されているリザに、俺は嫉妬の炎にこの身を焦がれそうになったのだ。
……悩みがあるなら、この俺に打ち明けて欲しい。
……部屋のモニターで見ていると、たまに布団の中で泣いている時がある。
……何度、画面に語り掛けただろうか。
……何を1人で泣いているの…?
……俺に打ち明けてごらん…?
……どんな悩みでも、たちどころに解決してあげるから。
……もしかして、あのご両親の事かい…?
……君が望めば、社会的に抹殺してあげるよ…?
……俺には、君の秘められた精神の扉を、ノックする事も許されていないのかい…?
―――……君の“恋人”と云う立場が欲しい……―――
……誰よりも……リザよりも、もっと、もっと、真唯の精神の中で、誰よりも特別な位置にいたい。
……真唯の何もかもが…欲しくて欲しくて、たまらない…っ
……俺は、充分過ぎるほど待った……もう、限界だ…っ!!
……今度の、俺の誕生日に、勝負をかけよう。
そう、決意した瞬間だった―――
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