IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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【番外編】

上井夫妻の初詣デート 【西新井大師】

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平成最後のお正月。
今年は元旦から晴天に恵まれた。
元旦の朝は、アタシの手作りのお雑煮でお祝いするのがお約束だ。
新たな年を愛する旦那さまと無事に迎える事が出来た事が嬉しい。
初詣は相も変わらず草加の弁財天様であるが。
市内に浅間神社がある事を知り、お浅間様にも参拝させて頂いた。
御神楽が奉納されていて、かなり優雅な気分に浸る事が出来た♪
参拝者には御神酒も振る舞われ、昼前から酒精アルコールを頂くのはかなりの贅沢だ。しかもここには富士塚があって、ご社殿からその塚までかなりの出店で埋め尽くされていた。さすがお正月の元旦である。あれも食べたいが、これも食べたい。富士塚の【小御嶽神社】を参拝した後でゆっくりと回ったら、福島県産の野菜で作った汁物があって。福島復興支援の為にも、有り難く美味しく頂いて、ほっこり温まったのだった。



※ ※ ※



アタシは人混みが嫌いだ。
だから昔、足立区に住んでいた時にも西新井大師への初詣は、一月以内なら『まあ、いっか』と思ってた。だが、ふと郷愁にでも誘われるように三箇日に参拝してみたくなったのだ。貴志さんに相談したらにっこり笑顔で了承してくれて、二日の日に行ってみた。
のだが。
さすがは“関東三大厄除け大師”に数えられるお寺さんである。
アタシが住んでた頃とはすっかり様変わりしていて。
警察官が交通整理の如く、人の整理をしていたのだ。
これでは上野の不忍池弁天の巳成金大祭と変わらない。
西新井大師も出世したものである。
参拝の列に大人しく並び、ひたすら順番を待つ。
救いは晴天でお日様が当たる処は比較的暖かい事だ。
けれども、これはこれで悪くない。
それは貴志さんと一緒に並んでいるから。
かれはその大きな体躯からだでアタシの風避けになってくれて。
アタシの肩を抱いて、真冬の冷たい凍てつく空気から守ってくれてる。
それだけではない。
アタシのつまらない雑談も楽しそうに相手をして下さるのだ。
そうしてアタシの興味を引きそうな物があると、色々と教えてくれて。
アタシを少しでも楽しませようとしてくれる。
こんな時、アタシは謝罪はしない。
アタシの申し訳なさそうな表情かおは、かれを哀しませる。
だからひたすら笑顔を作る。
かれへの感謝を込めて。

ようやく参拝の順番が回ってくると、アタシはお大師様に感謝を捧げるだけだ。
内陣には祈禱をする人々で埋め尽くされている。
お賽銭は五円玉で充分であろう(笑)。
元号が変わる新たな年も幸多からん事を。
他ならぬ最愛の旦那さまに。



※ ※ ※



ご挨拶の参拝が済んだら、お待ちかねのランチタイムである。
出店から香る香ばしい匂いが、アタシの胃袋を容赦なく刺激していたのだ。
焼きそばも良いし、たこ焼きや大判焼きも美味しそうだ。
国籍不明の屋台も、アタシの好奇心を刺激する。
食べ歩きしている人々の表情が輝いていて、その人の持っている物を食べたくなってしまう(笑)。『空腹は最高の調味料』と言われる通りに何でもかんでも美味しそうに見えてしまう。贅沢な悩みを抱えつつ歩いていると座れる場所を見つけて。ここで頼もうとようやくの決心がつく。貴志さんを促せば、直ぐに付いて来てくれる。寒風から身を守ってくれるシートが有り難い。簡易店舗内で案内された席に着くと、ようやく落ち着き人心地がつく。メニューを見れば、どれも定番商品が並んでいて安心する。アタシは焼きそばともつ煮込みをチョイスして、たこ焼きを貴志さんと半分こにする事を提案して快く受け入れて貰う。その際、かれが焼きそばともつ煮込みを頼む事は、もう諦めて最早悟りの境地である(苦笑)。


「改めまして、新年明けましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いします。」
と、缶ビールを掲げれば。

「明けましておめでとうございます。
 こちらこそよろしくお願いします。」
と、旦那さまもビールの缶を掲げる。

こんな乾杯も乙なものである。
アタシ達の話題は尽きる事はない。
アタシを溺愛している旦那さまは、どんな話題も楽しそうに聞いてくれるし。
かれの会社の話や読んだ本、過去に旅した外国の話などはとても興味深い。
仏像や神社仏閣めぐりの話になれば、アタシの舌は更に滑らかになる。
今月半ばに念願の「東国三社参り」のツアーの予定もあるし、三月から六月にかけては東博に東寺の仏像がご出張遊ばされるのだ。あの立体曼荼羅もやって来ると言うので非常に楽しみにしている。先ずは一人で楽しみ、優里ちゃんと遊びに来て、貴志さんとデート。最低、三回は行く事になるであろう。非常に楽しみである♪


「私も奈良や京都にご一緒したいですね。」
「貴志さんには是非とも参拝して頂きたい神社仏閣が沢山あります!」
「…一番のおすすめは…」
「勿論、浄瑠璃寺です!」
「次点は、どこですか?」
「う~ん、迷いますねェ~。…白毫寺か西大寺…興福寺でしょうか…」
「興福寺の中金堂も、無事に再建されましたしね。」
「…う~ん、それも微妙なんですよね~…
 アタシが好きだった奈良の良さが、どんどんと失われてゆく気がして…」
そうしてアタシは昔の奈良の『わび・さび』の言葉に代表される、日本文化の美意識について熱く語ったのであった。


空腹を満たしたら、後は散策である。
広い境内内の屋台を冷やかし、達磨や縁起物に眼を細め。
玉こんにゃくがあんまり美味しそうだったので、食べながら歩く事にして。
昔とすっかり変わってしまった部分と、全く変わらない部分の違いを楽しみ。
除夜の鐘を打つ列に並んで、鐘を打たせて頂く。
これも三箇日限定のお楽しみである。
場所が変わっていた山門前の七味唐辛子も無事にゲットし。
山門外の参道を歩いていると、以前にはなかったお店を発見して入ってみる。
そこは東北地方の地酒や地ビール、東北産の鶏の焼き鳥を売っていて『東北復興支援』を謳っているのである。その文字に惹かれてアタシは特製・甘酒を。貴志さんは、地酒を召し上がった。成程、甘酒もスッキリとした味わいで、甘さの中に旨味があるのが理解る。旦那さまのお酒も一口頂いたけど、これも美味しかった。食べて飲んで震災復興支援になるなら、これは『WIN-WIN』ではなかろうか。
是非とも他の方々にも召し上がって頂きたいものである。
その後、草餅と葛餅をお土産に購入し。
アタシ達は帰路についたのである。




尚、こんな混雑時の初詣を敢行したのも、SPさん達をかなり信頼出来ている証であると自画自賛しているし。常に感謝の気持ちを忘れずに、また今年一年を過ごして行きたいと思う、二○一九年の年の始めなのであった。





FIN
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