IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

文字の大きさ
上 下
102 / 315
本編

No,101 真唯のお盆休み 其の一

しおりを挟む


ギルフォードは、マンドラゴラ夫婦の自宅へと入ると、双葉へと近づいていく。
双葉は、ピンと天へと伸びて元気そうだが、成長しているようには見えない。
種から発芽するまでも長い時間がかかった。

オフィーリア様曰く、この双葉は、両親以上に上位種のマンドラゴラらしく、魔王城から溢れる魔素マナを浴びてはいるが、それだけでは魔素が足りていないらしい。
魔素が一定以上溜まるまでは、成長できないとのことなのだ。

ギルフォードは、少しでも双葉の成長の足しになればと、森の中で魔石を探しては、双葉の近くに埋めている。
魔石は魔獣の身体の中に核として在る物だ。簡単に言えば、大気中の魔素が凝縮されて固まったものだ。獣と魔獣の違いは、体内に、この魔石が有るか無いかだといえる。

人間は魔石を魔道具の動力にするため必要としてはいるが、中々手に入るものではない。
魔獣を倒して、その体の中から取り出さなければならないからだ。しかし魔獣を倒せる人間は、そうそうにはいない。
ギルフォードは、そんな魔石を魔の森の中で、拾ってくる。
人の手にかからなくとも、死ぬ魔獣は多くいるから。魔獣は死ぬと身体から魔石がこぼれ出て、一定の時間が経つと地に帰る。
ギルフォードは、地に帰る前の魔石を探して、せっせと双葉の元へと届けているのだ。


「きゅっ」
「うきゅっ」
ギルフォードが魔石を埋め終わるころ、マンドラゴラ夫婦がやってきた。手に手にぞうさんじょうろを持っているから、水を汲みに行っていたのだろう。

マンドラゴラ夫婦は、それはそれは双葉を大切にしている。
芽が出る迄は、ヤキモキしていたが、芽が出たら出たで、なかなか大きくならない双葉に、またもヤキモキしている。
それを側で見ていたギルフォードは、自分にも何か出来ないかと、魔石を集めるようになったのだ。

「うきゅきゅー」
ドラ子が双葉に向かって、水をかける。その横で、ゴラ男が謎の伸縮踊りを踊っている。

「早く大きくなれよぉ」
ギルフォードも双葉に向かって声をかける。
柵の外では、シアと亀助が、まだ揉めているようだが、一切無視する。

「きゆゅ」
「え?」
ギルフォードの目の前で、双葉が揺れると、小さな声が聞こえた。

「もしかして、双葉の声?」
ギルフォードは微かに聞こえた声の方に向かい、耳を近づける。マンドラゴラ夫婦も耳を澄ましているのか、双葉に注目している。

ポコリ。
小さな土くれが双葉の横からこぼれ出ると、双葉が揺れながら、伸びていく。
小さな顔が、現れてくる。

「うっわぁ、可愛い」
小さな小さなマンドラゴラが上半身を土から出して、ギルフォードを見ている。
未だ頭の葉っぱは双葉だけだが、双葉はピコピコと動いている。

「「うきゅきゅきゅきゅ~」」
マンドラゴラ夫婦も大喜びだが、その場からは動かない。

双葉は力を入れて身動きしているのだが、中々土の中から出てこられないようで、思わずギルフォードは手を挿し伸ばす。

「あらあら駄目よぉ。生まれたてのマンドラゴラは、自分の力で土から出なければならないのよ」
いつの間にかにギルフォードの背後には女神オフィーリアがいて、ギルフォードの手を押さえ付ける。半透明なオフィーリアの腕は、ギルフォードの手を通り抜けてしまったが。
お手軽顕現の女神に、ギルフォードは驚いて、ピクリと身体を震わせてしまう。

「うわぁ、そうなんだ。知らなかったとはいえゴメン。オフィーリア様に止めてもらって良かった」
ギルフォードの手は、双葉にあと少しという所まで来ていたのだ。慌ててギルフォードは、自分の伸ばした手を引っ込める。

やや長い時間をかけ、やっと双葉は土から自分の力で這い出てきた。
その時、可愛らしい悲鳴を上げたのだが、魔の森に認められているギルフォードに、悲鳴が作用することは無かった。
そして、おぼつかない足取りで、マンドラゴラ夫婦ではなく、ギルフォードへと抱き着いてきたのだ。

「ウフフフ。可愛らしい赤ちゃんねぇ。生まれたばかりなのに、双葉ちゃんはギルフォードのことが好きなのね」
ホンワリと笑うオフィーリアだが、マンドラゴラ夫婦の冷たい視線にさらされているギルフォードは、それどころではない。

「うきゅう、うきゅう」
小さなマンドラゴラは、ギルフォードの腰にしがみつき、嬉しそうに双葉を揺らしている。

「騒がしいけど、どうしたの?」
リーリアが魔王城から出てきた。
夕飯を作っていたのだろう、片手にお玉を持っている。

「もしかして、双葉ちゃんが土から出てきたの?」
ギルフォードに抱き着いている双葉を見て、リーリアが嬉しそうに、駆け寄って来る。

「キシャーっ」
双葉が威嚇音を発し、ピリピリと辺りに魔力が放出される。

「双葉ちゃん……」
リーリアは畑の柵から中に入ることが出来ず、悲しそうに双葉を見ている。

(どうしてこんなにリーリアを嫌うのだろう?)
小さな双葉に触れるのも躊躇われ、ギルフォードは、ただただ困惑してしまうのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

モース10

藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。 ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。 慧一は興味津々で接近するが…… ※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様 ※他サイトに投稿済み

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...