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本編
No,85 【番外編】室井紗江子の憂鬱 前編
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この際だから、ハッキリ言おう。
あの男は―――悪魔である。
最もタチが悪い、ド悪魔だ。
※ ※ ※
あの男が、紗江子のスマホに直接連絡して来たのは、GWが終わった直後の平日、家で寛いでいる時の事だった。
『初めまして。緋龍院建設の専務をしております、一条貴志と申します。本日は突然ご連絡を差し上げますご無礼をお許し下さい。実は、大事なお話があるのですが…少しばかりお時間を割いては頂けませんか?』
慇懃無礼に名乗った声は深い響きのバリトンだったが、そんなものに紗江子は誤魔化されない。 ……背中にゾクゾク悪寒が走るのだ。初対面(?)に抱くこの印象は、紗江子を裏切った事はない。
……相手が、あの人畜無害の牧ちゃんの恋人である事は理解っている。
だが牧ちゃんが、紗江子の連絡先を簡単に教えるとは思えない。
「……お話の前に、お尋ねしたい事があるのですが…よろしいですか?」
『どうぞ。何でも包み隠さずお話し致しましょう。』
「このナンバーは、どこでお調べになったのですか?」
『…牧野さんが、貴女にお土産のワインを手配する時、隣にいましたので…記憶致しました。』
……成る程…筋は通っている。だが……
「…あなた程の方ならば、私のケーバンを調べる事など、容易い事なのではありませんか…?」
『…それは、否定致しません。』
……そこは、否定しろよ…っ!
『お気に障ったのなら、いかようにも謝罪致します。』
……あくまでも下出に出て来るのが、気に入らない。紗江子の中の危険探知機がMAXを振り切る。 ……しかし、わざわざこの男が自分に連絡を取って来る用件は、10中10、可愛い後輩・牧ちゃんの事に間違いあるまい。あの娘の事は放ってはおけない。 ……あの子には負い目がある。あのいわれのない中傷の嵐から守ってあげられなかった……
「了解りました。お話をお伺い致します。」
『…ありがとうございます。助かります。』
「で、どこへ行けば良いんですか? 早い方が良いんですよね?」
『はい。早速で申し訳ないのですが、明日はいかがでしょうか? もし先約がおありでしたら、貴女の都合の良い日を教えて下さい。いくらでも合わせます。』
……必死ね……
「…明日で大丈夫です。約束なんてありませんから。」
『それは助かります。では、18時にお迎えに上がりますので、KY商事の正面玄関でお待ち頂けますか?』
「…妙な高級車で迎えに来ないで下さいね。変な噂が立つのはイヤですので。」
『考慮しておりますので、ご心配には及びません。』
「理解りました。お待ちしております。」
『ありがとうございます。
…貴女にお会い出来るのを、楽しみにしていますよ。』
「…っ!」
『それでは、明日。夜分遅くに失礼致しました。』
……今、あいつ…思いっ切り低音で囁きやがった…っ!
……並みの女なら、腰砕け必至なエロボイスで…っ!!
通話の切れたスマホを睨み付けながら、牧ちゃんと云う可愛い恋人がいる身で、女性を誤解させそうな台詞と声に疑問を抱き……1つの推測と結論に行き当たると、怒りが湧き上がる。
……あいつ……私を試しやがった…っ!!
だが、その怒りは瞬時に鎮火する。
(…あれだけの地位とルックスだもんね~~)
勘違い女に悩まされた経験など、掃いて捨てるほどあるのだろう。女性と云う生き物にトコトン信用がないのだ。 ……特に今回は、牧ちゃんと云う可愛いカノジョが関係する大事な話があるのだろう。その話を打ち明けるに値する人間かどうか心配になって……一応、試してみたいと思っても無理はない……と思ってやろう、カワイソウだから。
だが。
あの男の正体が理解った現在なら言える。
自身の自尊心をちょっと曲げてやってまで抱いた、私の同情心を返せ~~~っ!!
※ ※ ※
まあ、とにもかくにも、建設業界に君臨する男と会う事になってしまった訳だが、変に着飾る事はしなかった。どこへ連れて行く心算なのか知らないが、恐らく個室を予約っておいてくれるだろう……とは、思っていたが、何もこんな超高級老舗料亭の離れに連れて来る事ないじゃないのよーーーっ!!
「呼び出しておいて申し訳ございませんが、一条は急用が入りまして、少し遅れて参ります。よろしければ食前酒など如何でしょうか? ドリンク・メニューをお持ち致しますが。」
マツダのアテンザで迎えに来た男性……秘書の山中と名乗ったその男は、紗江子にひたすら低姿勢だった。
『…いえ…そんな扱いを受けると気持ちが悪いので、そんなお構いなく…』
……喉まで出掛かった言葉を、紗江子は何とか呑み込んだ。 …そして、気が変わった。もう二度と来る事の出来ないであろう料亭のメニューなるモノを見てみたくなったのだ。
「…では、お言葉に甘えて…見せて頂けますか?」
……お~~、揃ってる揃ってる…“幻”と云われる逸品が勢ぞろい…しかも、値段が書いてないし……
ウーロン茶1つとっても、○○産とわざわざ表記があって、数種類揃っている。
……紗江子はちょっと悩んだ。ここは当然、一条専務持ちだろう。“タダより高いものはない”。 ……それは理解っているが…【森伊蔵】には、やっぱ惹かれる……。 ……悩んで、悩んで……
「…すみません…【魔王】を頂けますか…?」
……現在から思えば……なんて、ナイスチョイスだったんだ、私……
「すみません! すっかりお待たせしてしまって…っ!」
それから約30分ほど遅れてやって来た一条専務を迎えた私は、すっかりご機嫌だった。熟成酒ならではの風味が堪らない。遅れてやって来た専務に、むしろ感謝だ。1人だからこそ、気楽にこの銘酒を楽しめたのだ。
……さあ、これからが本番だ。
「……いえ、専務がお忙しい事は良く理解りますので、どうかご心配なく。」
「そう云う訳にはいきません! こちらからお呼び立てしておいて…っ!」
「……この美味しいお酒に免じて許して差し上げますから…早く座布団にお座りになって下さい。」
……天下の緋龍院建設の専務を、いつまでも座布団の横に…畳に座らせておくには忍びない。そう思って掛けた言葉に、なぜか男は眼を見開き…フッと微笑った表情は…何て男前なんだ、チクショーっ!
「……さすが、牧野さんの尊敬する先輩だ…山中、料理を始めてくれ。」
……何やら、そこはかとなく誉められてるような気がするが……やっと座布団に座って下さった専務サマは、廊下に控えていた秘書の男性に声を掛けると、程なくして仲居さんが前菜である先付を運んで来る。 ……どうやら本格的な会席料理のようだが、専務の前に置かれたのがビールのグラスだったのには少なからず驚いた。こう云う男性は、こう云う処では日本酒と云う先入観があったようだ。……いや、きっとどこぞの国の拘りのビールだったりするに違いない。メニューにも、種類が沢山あったではないか。
……そんな私の心の声が聞こえたのか、専務は苦笑しながらのたまわった。
「…ご期待にそえずに申し訳ありませんが、これはコンビニでも売っている普通の…エビスビールですよ。」
「……ご馳走様です。」
……決して、始まったばかりの料理に対して言ったわけではない。なんの事はない。牧ちゃんの1番好きな銘柄だったのだ。
「…もう先に始めていらっしゃっていて今更ですが…よろしければ乾杯しませんか?」
「…何にですか?」
「私の話を聞いて下さる機会を設けて下さった、貴女と云う女性に。」
にっこり微笑って、エビスビールを掲げる一条専務。
……歯が浮く~~……
「……私ごときオンナに、こんな豪勢な場を設けて下さった、お優しい専務さまに。」私は、とりあえずそう応えておいた。
……マナー違反だろうし、席も離れているので直接グラスをぶつけはしないが……その瞬間、『カ~ン♪』と云う小気味の良い闘いのゴングの音が聞こえた気がしたのは、決して幻聴ではあるまい。
会食の席は、一見和やかに進んで行く。私たちの食べる速度に合わせるように運ばれて来る、その仲居さんの絶妙な間に、熟練の技を感じた。一条専務は性急に牧ちゃんの話をしようとはせずに、一般の世間話から始まって、ファッション、音楽、今、話題のレスラン、果ては映画やテレビドラマの役者の話まで、話題は尽きる事はなかった。それがいわゆる、アラフォー女性をターゲットにしている事に気付かないほど、紗江子は鈍くはない。
……きっと相手がアラサーの女でも、キャピキャピの平成生まれ世代でも……果てはアラフィフ以上の世代でも、その相手に合った話題が提供出来るように訓練されているのだろう。
……スーパーゼネコンの専務はこんな事まで知っていなきゃ勤まらないのかと、何やら物悲しい心地になってしまった紗江子は旬の素材を使った一流の味を堪能させて頂いて。水菓子に旬の果物の盛り合わせを頂いて、最高級の玉露と思われるお茶を頂き……さて、いよいよかと思っていると、相手は何を思ったのか自分の前に置いてあったお膳を横にずらし、紗江子ににじり寄り……ソッと手を重ねて来た時。 ……いつもの条件反射で投げ飛ばしてやれば良かったと、後々、後悔した紗江子なのであった。
「…牧野さんのおっしゃる“室井女史”と云う女性に、ずっと興味を持っていました…隣の部屋で、ゆっくりと貴女の事を知りたい…と申し上げたら、どうなさいますか…?」
その言葉を聞いた瞬間、紗江子はそれはそれは艶やかに見える微笑みを浮かべた。
(こいつ、殴ったろか…!)と云う、内心を綺麗に押し隠して。
「……それは、魅力的なお誘いですわね。 ……さぞかし立派な寝具をご用意下さったのでしょうね?」
「……皇室の方々も愛用されている御用達の店の寝具です。 …寝心地は保障致しますよ…?」
「それは素敵ですわね! …ですが、枕は1つでお願い致します。」
「…?」
「起床は6時半。朝食は7時頃、お願い致します。ああ、熱海の干物があったら嬉しいですわね。」
「……………」
「…会社までは当然、車で送って下さいますわよね…一条専務?」
「クク…ッ! ……了解りました、…お約束致します。」
クスクス笑いながら自分の席に戻った一条専務はキチンと正座をして、まるで土下座のように畳に額を付けるようなお辞儀をした。
「……失礼致しました。 …何度も貴女と云う女性を試してしまって…どうか、ご容赦下さい。」
……こんなに潔く謝られてしまっては、怒るに怒れない。 ……きっと、それを理解ってやっているのだろう…ずるい男性だ。
「……もう、良いです…頭を上げて下さい。 …それで私は、一条専務のテストに合格出来たと喜んで良いんですか…?」
「ええ。立派な合格です。 ……今まで、こうやって私が迫った女性は、100%の確率で試験に落ちていたんですが…今度からは、99%と言わなければならないようですね。」
やっと頭を上げてくれた一条専務は、それは晴れやかな笑みを見せてくれて……今までの笑みが、いかに営業用の作り笑いであったかを教えてくれる。 ……まあ、私は、この人が牧ちゃんだけに見せる極上の笑みを知っているけれど……
膝を崩して、あぐらをかいた専務は、手酌でビールを注いで。一気に飲み干すと、すぐに2杯目を注いだ。
「貴女も楽になさって下さい。【魔王】ばかり飲んでいないで、他の酒もいかがですか? 私はビールを一本追加したら、しばらくは人払いをしますので、注文するなら今の内ですよ。」
「あ、いえ。これだけで結構です。」
「そうご遠慮なさらずに。」
「いえ、遠慮じゃなくて…性分なので気にしないで下さい。」
「……本当に…牧野さんを見てるようですよ。」
正座から横座りに崩した紗江子は、一条専務のご厚意だけを有り難く受け取ったのだが……あの時、【森伊蔵】でも追加オーダーしておけば良かったと、つくづく後から思うのであった。
※ ※ ※
眼の前に置かれたCDプレーヤーから流れて来る男女の会話を……そして、それに割り込んだ男の声を、紗江子は信じられない心地で聞いていた。
この声は紛れもなく、牧ちゃんとケイちゃんの声だ。そして、2人の会話に割り込んだ主は……現在、眼の前にいる、この男性。ケイちゃんが牧ちゃんに告白して。それに対して、男の恫喝とも取れる声が聞こえる。
……場面が変わって、今度は牧ちゃんと男の会話。どうやら、車の中らしい。
……だが、1つ、気に掛かる
―――マイって誰……?―――
……話の流れからすると、牧ちゃんの事としか思えないのだが……男がごく自然に牧ちゃんをそう呼んでいて、彼女もそれを当たり前のように受け入れている。
牧ちゃんの喧嘩腰から始まった会話は、だんだん犬も食わないモノに変化してゆき……
『……束の間のドライブだけれど……君に会えて嬉しいよ、真唯……』
……男の極甘の声を聞かされて…やっぱり【マイ】とは、牧ちゃんの事だと確信した。
そして、再びの場面転換。
牧ちゃんとケイちゃんの会話だ。舞台はどうやら、どこかのサテンのようだ。
牧ちゃんに彼女への想いを訴えるケイちゃんに、男の前だと云う事は百も承知で(グッジョブ! ケイちゃん!!)と、北原を誉め讃えたくなる。
だが、それに続く牧ちゃんの、男を想う気持ちが痛いほど伝わって来る切々とした語り口に(…騙されてる! あなた、騙されてるわ、牧ちゃん!!)と思わず叫びたくなってしまう。
だが、しかし。
続く北原の期待に満ちた歓喜の声に、その思いはしぼんでいってしまう。
(……ダメ…ダメなのよ、ケイちゃん……キミでは、この男性には敵わない……)
そして。
『ホントはメシでも誘いたいとこだけど、どうせ専務との先約があるんだろうしな。休みの間は専務に譲るけど、年が明けたらガンガン攻めていくからな!!
それじゃ、マキちゃん、良いお年を!』
ケイちゃんの明るい声が聞こえたところで、男はCDプレーヤーを止めた。
―――……沈黙が痛い……―――
……けれども紗江子は、口を開く気になれなかった。
紗江子が口をきく気になれない雰囲気を読み取ったのか、CDプレーヤーを仕舞いながら男が言う。
「……こんな訳で、本当に困っているのですよ。」
……その表情は、ほんの少しも、これっぽっちも困った様子など見られない。
「……信じては頂けないようですが…今、聞いて頂いた通り、私はキチンと警告しているのです。 ……その警告通りに行動しない私も悪いのでしょうが…貴女もご存じの通り、真唯は優しい娘です。私が思う通りに、その北原とやらに行動を起こしてしまったら……一番哀しむのは真唯ですから。」
「……あの~~……」
そこで初めて紗江子は口を挟んだ。
「はい? なんでしょうか?」
「……1つ聞いても良いですか……?」
「どうぞ。最初に申し上げました通り、貴女には何もかも包み隠さずお話し致します。」
……いや…それは遠慮したい……
「【マイ】と云う女性は、牧ちゃんの事で良いんですよね?」
「ああ、失礼。うっかりしておりました。貴女は【上井 真唯】と云うブロガ―をご存じですか?」
「……ええ…そりゃ、まあ、有名ですから名前くらいは……って、えっ? …ちょっと、待って下さい!! …まさか…っ!?」
「…その、まさかですよ。【真唯】と云うのは、牧野さんのHNです。」
「…っ!!」
……驚いたなんてもんじゃない。まさか、ネットの中での有名人がこんなに身近に……しかも、あの牧ちゃんの事だったなんて……っ!!
「【牧野】などと云う名前よりも、【真唯】の方が呼び慣れておりますので、以降はご了承下さい。」
「……了解りました……」
半ば呆然とした心地で呟く私に、男は話を続けた。
「……話を戻しますが…私が実際に報復をしないものですから、北原氏は調子に乗っているようなのですよ。 ……GWの最終日には、真唯の部屋にまで押し掛けて来て…優秀なSPがいたから事無きをえたものの……」
「……ちょ、ちょっと待って下さい。……“SP”って……」
またまた、つっこみどころを見つけた紗江子は口を挟んだのだが、男は事も無げに教えてくれた。
「【緋龍院警備保障】と云う会社がありまして、そこには通称『SP』と呼ばれる陰の存在があります。任務は、緋龍院グループの重要人物の警護です。真唯には、このSPを2人付けています。」
「…っ!!」
……一体、どこの皇族の話なのかと思ってしまいそうになるが……現実なのだ……この眼の前の男は、牧ちゃんをそれほど大事に思っているのだ。 ……だが、1つ疑問に思った。いくら緋龍院建設の専務と云えども、たかが恋人1人の為にその大仰な護衛を付ける事を許される権限を持っているのかと。
その疑問を素直にぶつけると、世にもおっかない答えが返って来た。
「……申し遅れましたが…私は今、母方の姓を名乗っておりまして…実は本名を、緋龍院貴志と申します。」
「……っっっ!!!」
……驚いたなんてもんじゃない。『一条家』だって、大したブランドだと云うのに、この男は……それ以上の権力をその掌の中に持っていたのだ。
「……この事は、ごく一部の限られた人間しか知りません。 ……ちなみに、真唯にも…恋人にも教えてはおりません。」
……そこで当然抱く、大いなる疑惑。
「……そんな大事な事を、どうして私に打ち明けるのですか…?」
「勿論、私たちの大事な女性を守るためですよ。」
「……私はまだ、あなたの謀り事に加担すると言った覚えはありませんよ……?」
「……いいえ…貴女は必ずこの企みに参加して下さいます。 ……私のためではない、真唯のために…貴女は、恋人に盗聴までされて護衛されている可哀想な女性を、見捨てる事など出来ないでしょう?」
……っ!!
……やっぱり、あの音声は、盗聴器か……っ!!
……あっさり認めやがって、こいつ……っ!!!
「……それに……」
人が怒りとか困惑とか、様々な複雑な思いを抱えていたら……それを地の底から響いて来るような不気味な声が遮って下さった。
「……真唯が苦しめられた、あの噂には以前から少々腹が煮えておりましてね…この噂話に加担した人間の調べはついております。 …その人間たちを辞職に追い込み、再就職の道など全て塞ぎ…親類縁者にまで累を及ぼす事など容易い事です。 …しかし、それをしてしまうと、あの会社を潰す事にもなりかねないので、今までひかえていたのですが…今回、北原などと云う不愉快な輩まで出て来てくれて…もう、あんな会社必要ないかと思ってしまったのですが…貴女はあの件で、唯一、真唯の味方をして下さった方だ…貴女は、それを今でも心苦しく思っている…違いますか…?」
―――……こいつ、人の弱みを…っ!―――
―――……おまけによりによって、KY商事そのものを人質に…っ!!―――
―――……一条専務は…【魔王】だ……っ!!!―――
あの男は―――悪魔である。
最もタチが悪い、ド悪魔だ。
※ ※ ※
あの男が、紗江子のスマホに直接連絡して来たのは、GWが終わった直後の平日、家で寛いでいる時の事だった。
『初めまして。緋龍院建設の専務をしております、一条貴志と申します。本日は突然ご連絡を差し上げますご無礼をお許し下さい。実は、大事なお話があるのですが…少しばかりお時間を割いては頂けませんか?』
慇懃無礼に名乗った声は深い響きのバリトンだったが、そんなものに紗江子は誤魔化されない。 ……背中にゾクゾク悪寒が走るのだ。初対面(?)に抱くこの印象は、紗江子を裏切った事はない。
……相手が、あの人畜無害の牧ちゃんの恋人である事は理解っている。
だが牧ちゃんが、紗江子の連絡先を簡単に教えるとは思えない。
「……お話の前に、お尋ねしたい事があるのですが…よろしいですか?」
『どうぞ。何でも包み隠さずお話し致しましょう。』
「このナンバーは、どこでお調べになったのですか?」
『…牧野さんが、貴女にお土産のワインを手配する時、隣にいましたので…記憶致しました。』
……成る程…筋は通っている。だが……
「…あなた程の方ならば、私のケーバンを調べる事など、容易い事なのではありませんか…?」
『…それは、否定致しません。』
……そこは、否定しろよ…っ!
『お気に障ったのなら、いかようにも謝罪致します。』
……あくまでも下出に出て来るのが、気に入らない。紗江子の中の危険探知機がMAXを振り切る。 ……しかし、わざわざこの男が自分に連絡を取って来る用件は、10中10、可愛い後輩・牧ちゃんの事に間違いあるまい。あの娘の事は放ってはおけない。 ……あの子には負い目がある。あのいわれのない中傷の嵐から守ってあげられなかった……
「了解りました。お話をお伺い致します。」
『…ありがとうございます。助かります。』
「で、どこへ行けば良いんですか? 早い方が良いんですよね?」
『はい。早速で申し訳ないのですが、明日はいかがでしょうか? もし先約がおありでしたら、貴女の都合の良い日を教えて下さい。いくらでも合わせます。』
……必死ね……
「…明日で大丈夫です。約束なんてありませんから。」
『それは助かります。では、18時にお迎えに上がりますので、KY商事の正面玄関でお待ち頂けますか?』
「…妙な高級車で迎えに来ないで下さいね。変な噂が立つのはイヤですので。」
『考慮しておりますので、ご心配には及びません。』
「理解りました。お待ちしております。」
『ありがとうございます。
…貴女にお会い出来るのを、楽しみにしていますよ。』
「…っ!」
『それでは、明日。夜分遅くに失礼致しました。』
……今、あいつ…思いっ切り低音で囁きやがった…っ!
……並みの女なら、腰砕け必至なエロボイスで…っ!!
通話の切れたスマホを睨み付けながら、牧ちゃんと云う可愛い恋人がいる身で、女性を誤解させそうな台詞と声に疑問を抱き……1つの推測と結論に行き当たると、怒りが湧き上がる。
……あいつ……私を試しやがった…っ!!
だが、その怒りは瞬時に鎮火する。
(…あれだけの地位とルックスだもんね~~)
勘違い女に悩まされた経験など、掃いて捨てるほどあるのだろう。女性と云う生き物にトコトン信用がないのだ。 ……特に今回は、牧ちゃんと云う可愛いカノジョが関係する大事な話があるのだろう。その話を打ち明けるに値する人間かどうか心配になって……一応、試してみたいと思っても無理はない……と思ってやろう、カワイソウだから。
だが。
あの男の正体が理解った現在なら言える。
自身の自尊心をちょっと曲げてやってまで抱いた、私の同情心を返せ~~~っ!!
※ ※ ※
まあ、とにもかくにも、建設業界に君臨する男と会う事になってしまった訳だが、変に着飾る事はしなかった。どこへ連れて行く心算なのか知らないが、恐らく個室を予約っておいてくれるだろう……とは、思っていたが、何もこんな超高級老舗料亭の離れに連れて来る事ないじゃないのよーーーっ!!
「呼び出しておいて申し訳ございませんが、一条は急用が入りまして、少し遅れて参ります。よろしければ食前酒など如何でしょうか? ドリンク・メニューをお持ち致しますが。」
マツダのアテンザで迎えに来た男性……秘書の山中と名乗ったその男は、紗江子にひたすら低姿勢だった。
『…いえ…そんな扱いを受けると気持ちが悪いので、そんなお構いなく…』
……喉まで出掛かった言葉を、紗江子は何とか呑み込んだ。 …そして、気が変わった。もう二度と来る事の出来ないであろう料亭のメニューなるモノを見てみたくなったのだ。
「…では、お言葉に甘えて…見せて頂けますか?」
……お~~、揃ってる揃ってる…“幻”と云われる逸品が勢ぞろい…しかも、値段が書いてないし……
ウーロン茶1つとっても、○○産とわざわざ表記があって、数種類揃っている。
……紗江子はちょっと悩んだ。ここは当然、一条専務持ちだろう。“タダより高いものはない”。 ……それは理解っているが…【森伊蔵】には、やっぱ惹かれる……。 ……悩んで、悩んで……
「…すみません…【魔王】を頂けますか…?」
……現在から思えば……なんて、ナイスチョイスだったんだ、私……
「すみません! すっかりお待たせしてしまって…っ!」
それから約30分ほど遅れてやって来た一条専務を迎えた私は、すっかりご機嫌だった。熟成酒ならではの風味が堪らない。遅れてやって来た専務に、むしろ感謝だ。1人だからこそ、気楽にこの銘酒を楽しめたのだ。
……さあ、これからが本番だ。
「……いえ、専務がお忙しい事は良く理解りますので、どうかご心配なく。」
「そう云う訳にはいきません! こちらからお呼び立てしておいて…っ!」
「……この美味しいお酒に免じて許して差し上げますから…早く座布団にお座りになって下さい。」
……天下の緋龍院建設の専務を、いつまでも座布団の横に…畳に座らせておくには忍びない。そう思って掛けた言葉に、なぜか男は眼を見開き…フッと微笑った表情は…何て男前なんだ、チクショーっ!
「……さすが、牧野さんの尊敬する先輩だ…山中、料理を始めてくれ。」
……何やら、そこはかとなく誉められてるような気がするが……やっと座布団に座って下さった専務サマは、廊下に控えていた秘書の男性に声を掛けると、程なくして仲居さんが前菜である先付を運んで来る。 ……どうやら本格的な会席料理のようだが、専務の前に置かれたのがビールのグラスだったのには少なからず驚いた。こう云う男性は、こう云う処では日本酒と云う先入観があったようだ。……いや、きっとどこぞの国の拘りのビールだったりするに違いない。メニューにも、種類が沢山あったではないか。
……そんな私の心の声が聞こえたのか、専務は苦笑しながらのたまわった。
「…ご期待にそえずに申し訳ありませんが、これはコンビニでも売っている普通の…エビスビールですよ。」
「……ご馳走様です。」
……決して、始まったばかりの料理に対して言ったわけではない。なんの事はない。牧ちゃんの1番好きな銘柄だったのだ。
「…もう先に始めていらっしゃっていて今更ですが…よろしければ乾杯しませんか?」
「…何にですか?」
「私の話を聞いて下さる機会を設けて下さった、貴女と云う女性に。」
にっこり微笑って、エビスビールを掲げる一条専務。
……歯が浮く~~……
「……私ごときオンナに、こんな豪勢な場を設けて下さった、お優しい専務さまに。」私は、とりあえずそう応えておいた。
……マナー違反だろうし、席も離れているので直接グラスをぶつけはしないが……その瞬間、『カ~ン♪』と云う小気味の良い闘いのゴングの音が聞こえた気がしたのは、決して幻聴ではあるまい。
会食の席は、一見和やかに進んで行く。私たちの食べる速度に合わせるように運ばれて来る、その仲居さんの絶妙な間に、熟練の技を感じた。一条専務は性急に牧ちゃんの話をしようとはせずに、一般の世間話から始まって、ファッション、音楽、今、話題のレスラン、果ては映画やテレビドラマの役者の話まで、話題は尽きる事はなかった。それがいわゆる、アラフォー女性をターゲットにしている事に気付かないほど、紗江子は鈍くはない。
……きっと相手がアラサーの女でも、キャピキャピの平成生まれ世代でも……果てはアラフィフ以上の世代でも、その相手に合った話題が提供出来るように訓練されているのだろう。
……スーパーゼネコンの専務はこんな事まで知っていなきゃ勤まらないのかと、何やら物悲しい心地になってしまった紗江子は旬の素材を使った一流の味を堪能させて頂いて。水菓子に旬の果物の盛り合わせを頂いて、最高級の玉露と思われるお茶を頂き……さて、いよいよかと思っていると、相手は何を思ったのか自分の前に置いてあったお膳を横にずらし、紗江子ににじり寄り……ソッと手を重ねて来た時。 ……いつもの条件反射で投げ飛ばしてやれば良かったと、後々、後悔した紗江子なのであった。
「…牧野さんのおっしゃる“室井女史”と云う女性に、ずっと興味を持っていました…隣の部屋で、ゆっくりと貴女の事を知りたい…と申し上げたら、どうなさいますか…?」
その言葉を聞いた瞬間、紗江子はそれはそれは艶やかに見える微笑みを浮かべた。
(こいつ、殴ったろか…!)と云う、内心を綺麗に押し隠して。
「……それは、魅力的なお誘いですわね。 ……さぞかし立派な寝具をご用意下さったのでしょうね?」
「……皇室の方々も愛用されている御用達の店の寝具です。 …寝心地は保障致しますよ…?」
「それは素敵ですわね! …ですが、枕は1つでお願い致します。」
「…?」
「起床は6時半。朝食は7時頃、お願い致します。ああ、熱海の干物があったら嬉しいですわね。」
「……………」
「…会社までは当然、車で送って下さいますわよね…一条専務?」
「クク…ッ! ……了解りました、…お約束致します。」
クスクス笑いながら自分の席に戻った一条専務はキチンと正座をして、まるで土下座のように畳に額を付けるようなお辞儀をした。
「……失礼致しました。 …何度も貴女と云う女性を試してしまって…どうか、ご容赦下さい。」
……こんなに潔く謝られてしまっては、怒るに怒れない。 ……きっと、それを理解ってやっているのだろう…ずるい男性だ。
「……もう、良いです…頭を上げて下さい。 …それで私は、一条専務のテストに合格出来たと喜んで良いんですか…?」
「ええ。立派な合格です。 ……今まで、こうやって私が迫った女性は、100%の確率で試験に落ちていたんですが…今度からは、99%と言わなければならないようですね。」
やっと頭を上げてくれた一条専務は、それは晴れやかな笑みを見せてくれて……今までの笑みが、いかに営業用の作り笑いであったかを教えてくれる。 ……まあ、私は、この人が牧ちゃんだけに見せる極上の笑みを知っているけれど……
膝を崩して、あぐらをかいた専務は、手酌でビールを注いで。一気に飲み干すと、すぐに2杯目を注いだ。
「貴女も楽になさって下さい。【魔王】ばかり飲んでいないで、他の酒もいかがですか? 私はビールを一本追加したら、しばらくは人払いをしますので、注文するなら今の内ですよ。」
「あ、いえ。これだけで結構です。」
「そうご遠慮なさらずに。」
「いえ、遠慮じゃなくて…性分なので気にしないで下さい。」
「……本当に…牧野さんを見てるようですよ。」
正座から横座りに崩した紗江子は、一条専務のご厚意だけを有り難く受け取ったのだが……あの時、【森伊蔵】でも追加オーダーしておけば良かったと、つくづく後から思うのであった。
※ ※ ※
眼の前に置かれたCDプレーヤーから流れて来る男女の会話を……そして、それに割り込んだ男の声を、紗江子は信じられない心地で聞いていた。
この声は紛れもなく、牧ちゃんとケイちゃんの声だ。そして、2人の会話に割り込んだ主は……現在、眼の前にいる、この男性。ケイちゃんが牧ちゃんに告白して。それに対して、男の恫喝とも取れる声が聞こえる。
……場面が変わって、今度は牧ちゃんと男の会話。どうやら、車の中らしい。
……だが、1つ、気に掛かる
―――マイって誰……?―――
……話の流れからすると、牧ちゃんの事としか思えないのだが……男がごく自然に牧ちゃんをそう呼んでいて、彼女もそれを当たり前のように受け入れている。
牧ちゃんの喧嘩腰から始まった会話は、だんだん犬も食わないモノに変化してゆき……
『……束の間のドライブだけれど……君に会えて嬉しいよ、真唯……』
……男の極甘の声を聞かされて…やっぱり【マイ】とは、牧ちゃんの事だと確信した。
そして、再びの場面転換。
牧ちゃんとケイちゃんの会話だ。舞台はどうやら、どこかのサテンのようだ。
牧ちゃんに彼女への想いを訴えるケイちゃんに、男の前だと云う事は百も承知で(グッジョブ! ケイちゃん!!)と、北原を誉め讃えたくなる。
だが、それに続く牧ちゃんの、男を想う気持ちが痛いほど伝わって来る切々とした語り口に(…騙されてる! あなた、騙されてるわ、牧ちゃん!!)と思わず叫びたくなってしまう。
だが、しかし。
続く北原の期待に満ちた歓喜の声に、その思いはしぼんでいってしまう。
(……ダメ…ダメなのよ、ケイちゃん……キミでは、この男性には敵わない……)
そして。
『ホントはメシでも誘いたいとこだけど、どうせ専務との先約があるんだろうしな。休みの間は専務に譲るけど、年が明けたらガンガン攻めていくからな!!
それじゃ、マキちゃん、良いお年を!』
ケイちゃんの明るい声が聞こえたところで、男はCDプレーヤーを止めた。
―――……沈黙が痛い……―――
……けれども紗江子は、口を開く気になれなかった。
紗江子が口をきく気になれない雰囲気を読み取ったのか、CDプレーヤーを仕舞いながら男が言う。
「……こんな訳で、本当に困っているのですよ。」
……その表情は、ほんの少しも、これっぽっちも困った様子など見られない。
「……信じては頂けないようですが…今、聞いて頂いた通り、私はキチンと警告しているのです。 ……その警告通りに行動しない私も悪いのでしょうが…貴女もご存じの通り、真唯は優しい娘です。私が思う通りに、その北原とやらに行動を起こしてしまったら……一番哀しむのは真唯ですから。」
「……あの~~……」
そこで初めて紗江子は口を挟んだ。
「はい? なんでしょうか?」
「……1つ聞いても良いですか……?」
「どうぞ。最初に申し上げました通り、貴女には何もかも包み隠さずお話し致します。」
……いや…それは遠慮したい……
「【マイ】と云う女性は、牧ちゃんの事で良いんですよね?」
「ああ、失礼。うっかりしておりました。貴女は【上井 真唯】と云うブロガ―をご存じですか?」
「……ええ…そりゃ、まあ、有名ですから名前くらいは……って、えっ? …ちょっと、待って下さい!! …まさか…っ!?」
「…その、まさかですよ。【真唯】と云うのは、牧野さんのHNです。」
「…っ!!」
……驚いたなんてもんじゃない。まさか、ネットの中での有名人がこんなに身近に……しかも、あの牧ちゃんの事だったなんて……っ!!
「【牧野】などと云う名前よりも、【真唯】の方が呼び慣れておりますので、以降はご了承下さい。」
「……了解りました……」
半ば呆然とした心地で呟く私に、男は話を続けた。
「……話を戻しますが…私が実際に報復をしないものですから、北原氏は調子に乗っているようなのですよ。 ……GWの最終日には、真唯の部屋にまで押し掛けて来て…優秀なSPがいたから事無きをえたものの……」
「……ちょ、ちょっと待って下さい。……“SP”って……」
またまた、つっこみどころを見つけた紗江子は口を挟んだのだが、男は事も無げに教えてくれた。
「【緋龍院警備保障】と云う会社がありまして、そこには通称『SP』と呼ばれる陰の存在があります。任務は、緋龍院グループの重要人物の警護です。真唯には、このSPを2人付けています。」
「…っ!!」
……一体、どこの皇族の話なのかと思ってしまいそうになるが……現実なのだ……この眼の前の男は、牧ちゃんをそれほど大事に思っているのだ。 ……だが、1つ疑問に思った。いくら緋龍院建設の専務と云えども、たかが恋人1人の為にその大仰な護衛を付ける事を許される権限を持っているのかと。
その疑問を素直にぶつけると、世にもおっかない答えが返って来た。
「……申し遅れましたが…私は今、母方の姓を名乗っておりまして…実は本名を、緋龍院貴志と申します。」
「……っっっ!!!」
……驚いたなんてもんじゃない。『一条家』だって、大したブランドだと云うのに、この男は……それ以上の権力をその掌の中に持っていたのだ。
「……この事は、ごく一部の限られた人間しか知りません。 ……ちなみに、真唯にも…恋人にも教えてはおりません。」
……そこで当然抱く、大いなる疑惑。
「……そんな大事な事を、どうして私に打ち明けるのですか…?」
「勿論、私たちの大事な女性を守るためですよ。」
「……私はまだ、あなたの謀り事に加担すると言った覚えはありませんよ……?」
「……いいえ…貴女は必ずこの企みに参加して下さいます。 ……私のためではない、真唯のために…貴女は、恋人に盗聴までされて護衛されている可哀想な女性を、見捨てる事など出来ないでしょう?」
……っ!!
……やっぱり、あの音声は、盗聴器か……っ!!
……あっさり認めやがって、こいつ……っ!!!
「……それに……」
人が怒りとか困惑とか、様々な複雑な思いを抱えていたら……それを地の底から響いて来るような不気味な声が遮って下さった。
「……真唯が苦しめられた、あの噂には以前から少々腹が煮えておりましてね…この噂話に加担した人間の調べはついております。 …その人間たちを辞職に追い込み、再就職の道など全て塞ぎ…親類縁者にまで累を及ぼす事など容易い事です。 …しかし、それをしてしまうと、あの会社を潰す事にもなりかねないので、今までひかえていたのですが…今回、北原などと云う不愉快な輩まで出て来てくれて…もう、あんな会社必要ないかと思ってしまったのですが…貴女はあの件で、唯一、真唯の味方をして下さった方だ…貴女は、それを今でも心苦しく思っている…違いますか…?」
―――……こいつ、人の弱みを…っ!―――
―――……おまけによりによって、KY商事そのものを人質に…っ!!―――
―――……一条専務は…【魔王】だ……っ!!!―――
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