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本編
No,64 弥生に苦渋の選択 ※R18
しおりを挟むブランチをとった後、自称【夫】は真唯を抱き枕にゴロゴロと懐いて離れようとしなかったのだが、3月中旬にしては珍しく暖かかったので真唯はお庭を散策させて欲しいと願い出た。本当は屋敷内の探索もしたかったのだが、古伊万里の絵皿やガレのランプ、セーヴルの壺やら、壊したらン十万か、○百万のような請求書が来そうで怖くなってやめておいた。
着替えに選ばれたドレスには大いに抵抗を感じたのだが、あのネグリジェのままでいて万が一突入でもされたら一大事と、そこは黙って従っておいた。
まだ3月だと云うのに、唯一咲いているピンクのバラに近付く。
「…綺麗…一条さん、この薔薇何て云う名前かご存知ですか?」
「…済みません。残念ながら理解りません。
…松田さんに聞いてみますか?
ここの管理を任されてる人だから知ってると思いますよ?」
「ああ。はい、あの薔薇の名前は【弥生】でございます。」
一通りお庭を散策させて頂いて。
お茶でもいかがですか?と近付いて来てくれた松田さんに、お庭の中の白亜の東屋でお茶の支度をして頂いている時に聞いてみた。
「あの薔薇は、御方さまが3月に咲かせるのに唯一成功なされた品種なので。」
にっこり微笑う笑みが誇らしさに満ちているようだ。【御方さま】とは、ここの本来の持ち主なのだろう。その人の名前は聞いてはいけない事のように感じて、黙ってWEDGWOODの【ワイルドストロベリー】のティーカップに口をつけた。 ……なるほどこの柄は、このような庭園でこそ引き立つ柄なのだろう。
……そうなると、益々、このドレスが小っ恥ずかしくなって来た。松田さんの眼から少しでも逃れたくて自分の身体を抱き締めるようにすると、真唯が寒いと勘違いした一条さんが慌ててスーツの上着を脱ごうとするのを、松田さんが止めて持っていた大判のストールで真唯を包んでくれた。
「…ありがとうございます…」
勘違いしてくれた松田さんには悪いけど、有り難く拝借させて頂いた。
「いえ、お役に立てて良うございました。」
にっこり笑顔の松田さんに微笑み返す。
「……ちょっと勿体ないですね……」
松田さんが去った後、一条さんがポツリと呟いた。
「…え? なにが…キャッ!」
最後の悲鳴は、一条さんが急に真唯を抱きあげて膝に乗せたから。
「…もう! 何するんですか!?」
「一応、松田さんがいる時は我慢したんだから誉めて欲しいくらいですよ、愛しい奥さん。」
「…っ! もう…っ」
頬にキスする男性を引っ叩く振りをする。すると一条さんは、「良いんですか? そんなに甘やかして」と、ニヤリと笑った。
…っ!!
その笑みに黒い物を感じたのは気のせいじゃなかった。一条さんがストールの中に手を忍び込ませ、ドレスの上から胸を弄って来たのだ。昨日、一昨日と散々高みに昇らされた躯は、一条さんの愛撫に簡単に熱を思い出させる。
「…や…っ、…だめ…松田さんに気付かれたら…」
「大丈夫ですよ。主人夫妻の情事に眼を瞑るのも執事の役目です。」
……制止にならない……そうだ……さっき、勿体ないって……
「…い…一条さん…さっき、勿体ないって言って…何の事ですか…?」
「…ああ。 …このドレスの事ですよ。折角、似合ってるのに、ストールなんかで隠されるのは勿体ないって思いましてね」
「……………」
このドレスは、小花柄のコットン生地とチュールレースをふんだんに使った優雅なシルエットのホームドレスだ。袖口と裾のスクエアカットがポイントになっている中世風のデザインで、この洋館には相応しいけれどアタシが着るには……と思っていたら、天啓を得た。
「…一条さん…折角のリザさんの処で買った物を皺にしたくないから、止めて…」
「……………」
一条さんが無言になって、手を離してくれたから(やった!)と思っていたら、それは早計だった。何と一条さんは、スカートの中に手を入れて太腿を撫で上げて、ショーツの上から真唯の秘められた部分を愛撫してきたのだ!
「…スカートに隠れるから、万が一、松田さんに見られても何をしているのか理解りませんよ。」
「…やっ! …は…んっ、…だめっ! …わ、私の様子から…分かっちゃう…っ!!」
「…松田さんが近付いて来たら止めますよ。こんな貴女の表情を見て良いのは私だけだ…」
「…ふっ…あぁっ…! …大声で…ま、松田さんを呼んでも…良いですか…?」
「…その艶声で、私以外の男の名前を呼ぶのは許さない…っ!!」
どうやら私は一条さんの地雷を踏んでしまったみたいで、本気になった彼はショーツの中に指を入れ私の花弁を優しく愛撫してきた。
「…呼ばない…私が呼ぶのは一条さんだけ…んぁ…っ」
「…そうですよ…貴女は私の名前だけ呼んでいれば良い…」
「…っ!! …ハぁ…んっ!」
「…松田さんも、ジョシュアやフランソワ・アリュとやらも…ガリムーリンも厳禁です。」
……ガリムーリンもダメなのかと思ったが、賢くも口には出さなかった。
……この状態でガリムーリンの名前を口に出せば喘ぎ声にしかならず、恥ずいのを我慢するほどの命知らずのチャレンジャーにはなれなかった。
……などとおバカな事を考えていたら、一条さんは芽吹き出して来たアタシの花芯を捉え愛撫しつつ、2本の指を花弁を掻き分け花園の内部に侵入させて来て……真唯の悦い処を執拗に攻めて来た。
「―――秘密の花園……いや……【秘密の薔薇の園】かな―――」
「…アァ…ッ! …もうダメ…ッ…! …イく…イっちゃう…っ!!」
「…良いですよ…イきなさい…」
「……っっ!!!」
―――駆け昇った絶頂の悲鳴は、一条さんが口唇で吸い取ってくれた―――
※ ※ ※
「…もう、信じられないっ! こんな処であんな事するなんてっ!!」
俺の腕の中の姫君はひどくご立腹だ。
(あんな事って何ですか?)
問いたい疑問は腹の中に収めた。
姫君の怒りを煽るだけだと理解っていたから。
「…愚かな男をお許し下さい。 …可愛い薔薇の姫君が…私の妻があんまり愛らしいからいけないのです。」
「…っ! …もう、ズルい…お世辞で誤魔化そうとしても、そうはいかないんですからねっ!!」
「…これは心外な。私は愛しい妻に、お世辞などと失礼な事を申し上げた事は一度としてありません。」
そうだ……世辞など冗談ではない。そんなモノは仕事にしか……仕事と家族にしか使った事はない。
もしも真唯が、本当の家族になってくれたなら―――そんなモノは、仕事と実家にしか使わない……いや、使えなくなるだろう。
―――……真唯……私の愛しい愛しい、ただ独りの女性……―――
「…ダメ…許してあげない…」
……う~ん……これは困った。
……アオカンをした訳ではないのだから、許してはもらえないだろうか……
「…何をしたらお許し頂けますか、私の姫君?
…言って下さい。何でもしましょう…【弥生】のように美しい、私の奥方。」
「……ホントに何でもしてくれる?」
……嗚呼…っ! 上目遣いが、何て可愛いらしいんだっ!!
どんな我儘だってきいてやる! どんなに高価な物だって買ってやるっ!!
「本当ですともっ!」
「じゃあ、古い御守り、ちょうだい。」
「……は…?」
「江島神社の【身代り守】ちょーだい」
……しまった!
俺が承知しないからとは云え、まさか、こんな手でくるとは…っ!?
「……………」
「何でもしてくれるって言ったでしょ?」
「……それは…それだけは勘弁して下さい……」
「……なんでそんなに嫌がるんですか? お焚きあげに出すだけなんですよ?」
「……この【身代り守】は、真唯さんが私に初めて買って来て下さった、世界で唯一の貴重な品なんですよ? 例え、邪霊が寄って来ても手放せません!!」
「……一条さんのお気持ちは嬉しいんですが……」
「……お願いです…一生持っていても良いと云う許可を下さい…っ!」
「……何でもしてくれるって言ったのに……」
「……他の事を! その他の事なら、本当に何でもします!!」
「……………」
「……真唯さんっ!!」
「……それじゃあ、2択にしてあげます。」
「春の信州旅行、1人で行かせて下さい。」
……っ!!
……それはもしかして、あのチョコレート作りに協力してくれた“御友人”へのお礼の旅の事だろうか!?
……信じたくはないが、それ以外に考えられない!!
「……だ、駄目ですっ!」
「どうしてですか?」
「……ど、どうしてって…2人で初めて行ける旅行だから楽しみにしていたんですよ? GWにゆっくり信州を楽しもうと……」
「あ、GWじゃないですよ? 信州にはその前に…出来れば4月頃行く心算です。」
「そうなんですか? 春の旅行だから、てっきりGWなのかと……」
「あのね、一条さん。自慢じゃないですが、私のブログって結構スゴイんです。」
「それは理解っています。誰よりも良く存じ上げている心算です。」
「それに今、私、新規開拓に色々なお店を巡っていますが、まだアップ出来るようなお店に巡り会っていません。私のブログの読者は新しい情報に餓えているんです。」
「だから…?」
「4月に美穂のお店を紹介して、5月のGWには、私のブログを読んで下さる方に行って欲しいんです。」
……真唯さんの友人を想う気持ちには感服するが、それとこれとは別問題だっ!
「納得出来ません!」
「…4月にちょこっと行ってくるだけなんですよ?」
「女性の1人旅なんて危険ですっ!」
「今更ですよ。私、色んな処に1人で行ってきてるんですよ?」
「男が寄って来たら、どうなさるんですか!?」
「そんなの、一条さんの欲目ですよ~~」
……コロコロと笑う女性が憎らしい。
北原と云う前例があるのに、この人は自分の魅力にはとことん無頓着だ。
「承服出来ません!!」
「…じゃあ、【身代り守】下さい」
「……っ!?」
「以前、一条さんは、私に同棲かスマホを持つかの2択を迫りましたよね? それと同じだと思って下さい。【身代り守】をお焚きあげに出すか、春の信州旅行1人旅を許可するか。2つに1つです。」
にっこり
……いつもなら、それはそれは愛狂しく見える微笑みが、ハデスの微笑みに見える俺はいっそ狂いそうだ。
……いっその事、ハデスがペルセポネを略奪したように、この女性を閉じ込めてしまおうか……
―――究極とも云える2択に考えて、考えて……世話になった松田さんに、あの方へのお礼を言うのは流石に忘れなかったが、それでも考え続けて……苦渋の決断をしたのは、真唯をアパートに送り届ける直前の事だった―――
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