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本編
No,61 バレンタインの宴 【貴志SIDE】 ※R18
しおりを挟む「…はァ…ッ! ンァ…ヤァッ…! …も、もう許してぇ…っ!」
「…まだだ…まだだよ、真唯……私は全然満足してはいない…」
「…っ! …イヤァ…ンッ! …も、もう…死んじゃう…っ!」
―――まったく無自覚に無意識に、この小悪魔は俺を煽る。
「…腹上死は男の夢だが…君が死んでしまっては何にもならないね…
理解ったよ…次で最後にしてあげよう。」
「……ホント…?」
「…本当だ。 …ただし、君が私の上に乗るんだよ…いいね?」
「…っ! …そんなこと…っ、…できない…っ!」
……俺の恋人は酷くシャイだ。が、まれに【スイッチ】が入る時がある。そのスイッチの在り処を是非とも知りたいところだが……
「…騎上位の何がそんなに恥ずかしいの…? …フェラはしてくれたのに…」
「…いやぁ…っ! …言わないでぇ…っ!」
「…それがイヤなら、やっぱり朝までコースだね。」
……絶望的な表情までが俺をソソると云うのは……もう、この恋人の可愛いらしさは犯罪的だ。俺は頭の中で勝手な事をホザきつつ、ラストスパートをかける事にした。 ……そろそろ俺も限界だったから。
※ ※ ※
「…真唯…真唯さん…真唯さ~ん!」
俺は気を失ってしまった彼女の頬をペチペチと叩きながら呼び掛けてみたが……応答なしだ。今夜は真唯があまりに可愛い事をしてくれるので、俺も箍が外れてしまった自覚はある。玄関でバックで1回。リビングのソファーに縺れ込んで2回。そしてベッドで正常位で1回。 ……俺的には、まだまだ足りない。ここのところ放っておかれて、俺の【真唯欠乏症】は深刻だ。
「……折角、体力作りにバレエを習い始めたのに…たった4回で気を失ってしまうなんて、まだまだだね。」
真唯が俺に内緒にしているので、彼女が起きている時には決して言えない台詞を呟く。
真唯には【緋龍院警備保障】と云う会社からトップクラスの警備が常時付いている。将来、俺の妻になる唯一の女性なのだから当然の用心だ。
……だが、そこからあの兄に真唯の事が漏れてしまったのは痛かった。正月2日の苦い会話が蘇る。
『…警備保障の“SP”をまわしているそうじゃないか……お前にそこまでご執心の女性が出来るとはな…』
無言で応える俺に、兄は続ける。
『一体、どちらのご令嬢なのかな? 折角の正月だ。私や母さんに紹介してくれても良いんじゃないか?』
……何を白々しい事を。こんな電話をかけてくると云う事は、真唯の素性などはとっくに調べ上げられていると考えて間違いないだろう。 ……最初から俺のスマホではなく、家の電話にかけてくると云う事自体、“彼女”がマンションにいると知っての嫌がらせだ。
『それとも、私たちには紹介出来ないところのお嬢さんなのかな?』
「……社長…私は、いつそちらの家を出ても構わないんですがね……」
『……貴志…いつまでもそう我儘を言わないでくれ。お前には早く副社長になってもらって、どこに出ても恥ずかしくない家柄のお嬢さんと、』
「兄上」
……俺の声が一段と低くなるのを自覚する。
『…っ!』
“兄上”と呼びかける時の俺を知っている兄が息を飲む気配がした。
「……兄上…あまり、私を怒らせない方が良い……」
そう言って、俺は電話を一方的に切った。 ……兄からの電話が再び掛かってくる事はなかった―――
※ ※ ※
「…何をやっているんですか…」
いつの間に起きていたのか、俺は腕の中の姫君が俺の腕から抜け出そうとゴソゴソと動き出している事に気付いた。
「私が貴女を逃がすと思っているのですか」
……捕まえて、二度と俺から逃げ出せぬようにしてやろうか…危険な想いの命ずるままに手を伸ばしたら、「…ちがう…違うの…」と言って、今度は逆に俺の胸に縋ってくる。
……? 真意が掴めないので、やりたいようにさせてやる事にした。すると俺を横にさせ、自分がなんとかその上に乗ろうとする。力が思うように入らないらしい、つたない動きだが……
「…私のお願いを…きいて下さるんですか?」
俺の問いに顔を真っ赤にした真唯が、しばらく黙ってコクンと確かに頷いた。 ……どう云う心境の変化か知らないが、やってくれると言うのだから有り難くして頂く事にした。だが、真唯の動きはゆっくりでおまけに酷くしんどそうだ。
仕方なしに俺は腹筋で起き上がり、真唯の身体を支えてやる事にした。
……これでは騎上位ではなく対面座位だが、これはこれで初めてなので、まあ許してやる事にした。 ……本当は俺の上で淫らに踊る真唯を見たかったのだが……お楽しみは先に取っておく事としよう。
俺の身体の上に乗り上がった真唯は左手で俺の肩に手を掛ける事で自分の身体を支え、真唯の健気な姿を見ただけですっかり元気になってしまっている俺自身を真唯は震える右手でつかみ、何とか狙いを定めようとするがフラフラな身体でそれがなかなか難しい。俺はニヤつきそうになってしまう顔を堪え、真唯を励ました。
「…ゆっくりで良いですよ…そう…上手ですよ…上手に私を呑み込んでいってくれてますよ…」
「…んっ…ふぁ…っ…!」
根元まで俺をおさめきった彼女は汗だくで大きな息を吐き、俺に寄り掛かり少し休憩すると、ゆっくりと、だが確実に上下に身体を揺らし始めた。俺は彼女の細い身体を支えつつ、その動きを助けるように上下に動かす力を加え、更に腰を少し突き上げるようにしてやった。たちまち上がる色っぽい嬌声に、俺の動きも段々大きくなっていって……それに煽られるように真唯の動きも大胆になってゆく。
願ったり叶ったりの状況に我を忘れて酔い痴れそうになった時、その嬌声は俺に届いて、一瞬、俺の動きは止まってしまった。
「……いちじょうさん…貴志さんっ!
……そんなに寂しそうな表情しなくて…いいから…ね…っ!
……これからは…アタシがいるから…っ! …ハァぁ…アァ…ッッ!」
……思い当たるのは、言う間でもなく兄とのあの不愉快な電話を思い出していた時。
自分では寂しそうな表情と云えるほどの顔をしていた覚えもないのだが……真唯がそう言うなら、そうなのだろう。
―――真唯がこんな行為をすすんでやろうとしてくれたのは……彼女は俺を慰めてくれている心算なのだ―――
そして真唯がチョコレートを作ってくれている時の、友人との会話が思い出される。
『……優しいとこ……』
『……アタシの事を誰よりも理解してくれるトコ……』
『……アタシのメンドイ部分を愛してくれるトコ……』
『……アタシの家族を理解してくれるトコ……』
『……すごくカッコイイ男性なのに、ホントはすごく寂しい人なトコ……』
真唯が俺をどう思ってくれているのか知る事が出来た事に関しては、真唯に数々の許し難い暴言を吐いた事を忘れてやっても良いと思わせるくらいの、マッツンとか云う女性のお手柄だった。
―――ホントはすごく寂しい人なトコ……―――
……これが他の女性の言葉だったら、何をバカな事をと一蹴しただろう。
だが、シンプルな真唯の言葉は俺の胸に……ストンと落ちた。
(……そうか…俺は……寂しかったのか……)
そして、たった一筋だけ涙が流れた。
自分が泣いてしまった事にも驚いたが、流れた涙は妙に暖かく……俺の心に沁みいった。
そして彼女があのイヤリングをしてくれたお陰で聞く事が出来た、惚気とも云える俺への誉め言葉はいっそ面映ゆいほどで。録音して何度も聞いているのは言う間でもない。
CDで良かったと心底思う。これがテープレコーダーの時代だったら、そのテープは擦り切れてしまっただろうから。
彼女がその心算でいるのなら、しっかりと慰めて頂く事としよう。
ちゃっかり、真唯の優しさにつけ入る俺は、やはり悪い男なのだろう。
「…真唯さん…貴女がいつも私といて下さるなら、私は少しも寂しくなどありませんよ…」
想いの丈を込めて接吻を贈る。真唯が積極的に応えてくれるのが、何とも言えない高揚感を味わわせてくれる。俺の舌は、もうシャンパントリュフの味は消えてしまっているのだろうが、あの時の感激を舌に乗せて真唯の舌と絡み合わせる。
真唯の小さな口には含み切れなかった彼女の唾液が口の端から流れていくのが惜しくて、俺は舌でその甘い蜜を舐めとっていった。
真唯の腕を俺の首に絡みつくように抱き付かせ、首筋を吸い上げ、朱い花をいくつも咲かせる。タートルネックのセーターに隠れる範囲内で。その辺は俺も考えている。 ……出来る事なら、あの北原と云う男に見せつけてやりたいところだが、シャイな俺の恋人はそんな事は許してくれないだろう。
「…真唯さん…しっかりつかまっていて下さいよ。」
「…? …っ! …ハアァ…ッッ! ……んアアァ…ッ」
彼女の腕が俺の首にしっかり巻き付いているのを確認すると、俺は彼女を揺すり上げる力を強くし、それにあわせるように同じリズムで腰の突き上げもより強くしていった。
上下に揺さぶられる真唯は、正常位で抱かれる時と当たる場所が違うようで、明らかに快感を得ている表情をしている。それが俺を昂らせ、俺の腰の動きはますます激しくなる。
「アンッ! アゥン…ッ!」
「…真唯…悦いの?」
「…はぁ…な…なに……?」
「…気持ち良いかい?」
「…っ!」
「…気持ち良いなら、イイって言ってごらん?」
「…ヤァ…ッ、…そんなの言えない…っ」
シャイな俺のお姫様に、俺は罰を与える事にした。
「……あ……どうして……?」
急に全ての動きを止めてしまった俺に、真唯は不思議そうに見下ろしてくるが、俺は笑みをもってそれに応えた。
「…貴女が素直になってくれるまで、私は動きません。」
「…?」
「真唯さんが素直に『気持ちイイ』と言ってくれるまで動かないと言っているのです。」
「…っ!」
ようやく話の通じた恋人は、それでなくても真っ赤な顔を首筋や耳朶は言うに及ばず全身を真っ赤に染め上げてモジモジしていたが、身体が疼いて仕方がないのだろう、俺の顔を見下ろし口を開き掛けては閉じるを繰り返している。
真唯に見下ろされると云うこの構図が新鮮で、しばらくはその初初しい様子を堪能していたが、緊張のためか無意識に真唯の内部にいる俺自身を締めあげてくるのだから堪らない。俺は彼女を陥落すべく腰を少し揺らしては止めると云う行為を繰り返してみた。
すると目論見通り、俺が動き出すと嬉しそうな表情をするものの俺がすぐに動きを止めてしまうので、その表情は段々泣き出しそうなものに変わっていく。その表情の変化が可愛いくて。俺は真唯をもっともっと追い詰めてみたくなってしまう。揺さぶって突き上げてはすぐに止めてしまう。その繰り返しに先に焦れて堕ちたのは……真唯だった。
「…あ……貴志さん…お願い…っ」
「…ん? …何をお願いしたいのかな?」
「…っ! ……理解ってるくせに…っ」
「…理解りませんよ…私はエスパーではありませんからね。 …言って下さい。真唯さんのこの可愛い口から出て来るお願いなら、何でもきいて差し上げますよ?」
「……っ」
それでも結局は言えなくて俯いてしまう初心な恋人に、俺は奥の手を出す事にした。
「―――慰めて頂けるのではないのですか…?―――」
「…っ!!」
その言葉の効力は絶大だったようで、一瞬、息を飲んだ真唯は、しばらく瞑目し……散々逡巡したのがまるで嘘だったように、その一言を口にした。
「……きもちいい…イイから…動いてぇ…っ!」
まるで最後の抵抗のように俺に表情を見せまいと、俺の首筋にしがみつき顔を埋めながら言い放ったその言葉は、俺の耳元で叫ばれる羽目に陥り……俺の理性は崩壊した。
「アあっ…! …そんな…いきなり…っ、…ハゥァ…ッん!!」
「…真唯っ…俺の可愛い真唯っ! …もっとだっ! …もっと言って!!」
俺は腰のバネを使って思い切り突き上げながら、両手で彼女の細い腰を捕らえ上下に揺さぶった。
「ヒィアァ…ッ! イイッ! ……たかしさんっ……キモチイイっ!!」
真唯も一度言ってしまったら吹っ切れたようで、俺の欲しかった言葉を連発してくれるのだから堪らない。段々と瞳の焦点が失われて、口の端から蜜を流しひたすら喘ぐ真唯は壮絶なまでに艶っぽい。もっとその艶姿を愉しみたいところだが、そろそろ俺の方がヤバイ。俺は奥歯を噛み締めながら真唯を追い詰め……高みに昇り詰める一瞬を目指した。
そして真唯は意識を彼方へと飛ばし……崩れ落ちた。
※ ※ ※
その身体をしっかり抱きとめながら、俺は再びマッツンやら云う友人との会話を思い出していた。
『……彼…生まれが複雑なんだって…だからだと思う……』
『……う~ん、恋人でも踏み込んで良いとこと、悪いとこがあるでしょ?』
真唯……君に踏み込んでもらって悪いとこなんて、俺にはないよ……
―――俺の出生の秘密を…真唯になら……いや、貴女にしか話したくはない―――
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