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本編
No,45 リザの言葉の威力
しおりを挟む「ふ~~ん、真唯ちゃんもやるわね~~」
「全然嬉しくないですよ~
リザさんも感心してないで、何か良い知恵かして下さ~~い!」
※ ※ ※
昨晩、北原さんは言いたい事だけを言って消えてしまった。
勝手に納得していたが、一条さんと約束なんかしていない。ホントはあの時、ポロリとそれを言いそうになってしまったのだが、後から考えてホント言わなくて良かったと自分で自分を誉めたくなった。もし一条さんとの約束などないと言おうものなら、じゃあ自分と夕飯をと北原は言い出して、断るのにどんなに骨が折れた事か。
地元まで帰って来た真唯は、コンビニで適当にお弁当を買って帰ろうかと思ったのだが、それも面倒で駅前の博多ラーメンの店でとんこつラーメンを食べた。こんな時は自棄食いだ~~! とばかりに替え玉まで頼んでしまった。
(一条さんには決して見せられない姿よね~~、…やっぱりおひとりさまの方が気楽で良いかな~~)などと、こんな時は一条さんと恋人になった事をちょっぴり後悔してしまうのだった。
おまけにその一条さんが、夜の定時連絡でやけにしつこかった。驚いた事に一日で北原さんの事をある程度は調べ上げたようで、『あいつがあんまりしつこいようだったら、遠慮なく私を頼って下さいね。』などと言い出し、あんなに嫌がっていた【一条さん】呼ばわりを許した上に、常時スマホを持つ事を義務づけられてしまったのだ。そして、いつからマンションに来てくれる心算なのかと矢の催促だ。
真唯は本当に疲れてしまった。
そして、頼ったのがリザさんだったのだ。
リザさんの店だが、セレクトショップは年内の営業予定はもうなくて、アンティークショップの方は大晦日までの前日まで開いているらしい。そこで真唯はリザさんに連絡をとって相談に乗ってもらうべく、今現在、アンティークショップにお邪魔させて頂いているのだ。
※ ※ ※
「……でも、その北原君って子、ガッツあるじゃない。
貴志にそれだけ脅かされて、それでも諦めないなんて。」
「そーなんですよ~~、アタシなんかのどこがそんなにいいんだか…
…一条さんも、北原さんも、どっかおかしいんじゃないかと…」
そこまで言ったら、リザさんに「メッ!」と怒られてしまった。
「真唯ちゃんは充分可愛いわよ。いいかげん、自信をお持ちなさいな。
毎回ドレスアップして似合ってるでしょ!」
「……あれは、リザさんの腕がいいんですよ。 …私自身の魅力じゃ…」
「馬鹿ね。
素材となる人間が良くなきゃ、洋服たちはその人を惹きたてたりしないわ。
それに私はこう見えて、人間の好悪が激しいの。
その私にこんなに気に入られてる事が、貴女に魅力がある何よりの証明よ。」
リザさんの言葉は聞き様によっては、強烈な自分自慢だ。
……アタシも、こんな風になりたかった。リザさんのようにとは言わない。
……せめて、その百分の一……ううん、千分の一か万分の一でもいい。 ……自分に自信が持てたら……
「こんな事言うと真面目な真唯ちゃんに怒られちゃいそうだけど、二人同時に付き合ってみるのも一つの手よ?」
「二人同時…って、二股って事ですか!?」
「そんなに深刻に考えないのよ。真唯ちゃんみたいに自己評価の低い女性には、自分に自信をつける近道になってよ。」
『そんな不誠実な事、出来ません!』って言おうとして、リザさんの瞳が悪戯っぽく、でも優しく輝いているのに気が付いた。
……もう、この女性は……アタシを浮上させようとして、こんな冗談を……
「…生憎、一条さん一人で手一杯で、他の男性の事なんて考えられそうにありません。悪しからず。」
「あら、まあ、それはご馳走さまです。」
眼を見交わせて笑い合う。
……不思議だ。ここに来る前にはもう八方塞がりの気分だったのに、今では一条さんへの想いを新たにして、北原さんに何とかアタシの一条さんへの想いを理解してくれるよう説得してみようと気力が湧いて来るのを感じる。
……真唯は改めて、他人に話すと云う事の効力を思い知った気がした。
その後は他愛もない雑談に興じて。
ただ、一条さんの家に行くタイミングを計りかねている事を話すと、
「そんなの簡単よ。貴志に会いたくなったら行けば良いのよ。
それまでは無理してまで行く事なんかないわ。」
と云うお言葉を頂戴して、途端に気分が軽くなった。
現在まで一条さんや北原さんの事を考え過ぎていて、やっと本来の真唯の思考感覚を取り戻した気がする。
リザさんと少し話しをしただけで、この効果。
リザさんには、本当に感謝だ。
リザさんに丁寧に謝意を表して腰を上げた真唯は、正月用のお香を買うべく【銀座 香十】へ向かった。
だから、その後、リザさんと一条さんとの間にあった物騒な会話など、知る由もなかったのだ―――
※ ※ ※
『…と云うわけよ、貴志。』
いきなりリザから連絡があったと思ったら、彼女は開口一番そう言った。
全然話が繋がってないぞと言おうとして、さては気付かれたかと悟った。
『あのイヤリングの細工に、私が気付かないとでも思ってるの!?』
「……………」
『…そんなに、真唯ちゃんを束縛したいの…?』
「…したいが、それだけじゃない。真唯に厄介な虫が近付いて来た場合にも必要なんだ。」
『それって、まさか、あの北原って子の事じゃ、』
「馬鹿。あんな奴など、問題外だ。」
『……………』
今度はリザの奴が黙る番だった。
「すべて言い含めた護衛が常時ついてはいるが、真唯には身体は勿論、精神にも欠片の傷も負わせたくない」
『…どちらのバカな御令嬢が突撃して行ったの?』
……やはり、リザは理解が早くて助かる。
「この前は東條家のアホ娘だった。真唯を車に連れ込もうとしやがった。
一億の小切手付きだ。」
『手切れ金としては、安過ぎない?』
「私にとっての真唯の価値を、まったく理解っていない愚か者どもだ。」
『…もしかして真唯ちゃん、誘拐されかけたりしてるの?』
「…ああ。もう、何度もな。」
『ああ……そりゃ~、スマホも持たせたくなるわね~~
盗聴器はどうかと思うけど…』
「万が一、真唯が誘拐された場合、どんな言葉の刃に晒されるか理解らない。
守りたいんだ、彼女を。」
100%の本音を言った心算だったのだが、リザの奴はやはり上手だった。
『それだけじゃないでしょーが、この変態。
真唯ちゃんがどこで何をしているのか、逐一知りたいんでしょーが!』
「……………」
『…!? …ちょっと待ってよ。
まさか、彼女の部屋にまで、盗聴器や盗撮なんかしてないでしょうね!?』
「……………」
『ちょっと、そこで黙らないでよっ! 沈黙は肯定とみなすわよ!!』
「……………」
『あ~~、もうっ! 真唯ちゃんに言った、前言撤回っ!!』
「…どの言葉の事だ?」
『今日の会話じゃないわよっ! 随分前に言っちゃったのよ!
貴女たちはお互いを補いあう最高のカップルだってね!!』
思わずニヤリと黒笑う。
「撤回などする必要はない。さすがはリザ。良く理解ってるじゃないか。」
『……っ!』
悔しそうな唸り声はするが、反論は返って来なかった。
そうだ。
リザにも良く理解っているのだ。
俺の根深い人間不信は、真唯によってしか癒される事はなく―――
真唯の自己否定は、俺の執着にも似た狂った愛が不可欠だと―――
互いが無言になってしまったため、俺はスマホを切ろうとしたが、その直前、飛び込んで来たリザの声がやけに耳に残った。
―――……とにかく、どんな形でも良いわ……幸福になってね……―――
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