IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

文字の大きさ
上 下
41 / 315
本編

No,40 真唯と一条さんのクリスマスデート No,6

しおりを挟む

一条さんは、身体の辛い真唯をご機嫌でお風呂に入れてくれた。勿論、自分も一緒だ。そして今、二人はバスローブ姿で壁際のベッドに横になり、真唯は再び一条さんの抱き枕になっていた。
再びと云えば、お風呂の中で真唯がつい「一条さん」と呼びかけてしまい、真唯はこのまま二回戦が始まるのではと青くなったが、一条さんは苦笑で許してくれて。男の呼び名は、再び一条さん・・・・に戻ってしまっていた。



「…真唯さん…今夜も素敵でしたよ…」
一条さんは真唯の髪にキスの雨を降らせ、称賛を送る。いつもなら、一条さんのそんな言葉には真っ赤になって黙ってしまう真唯だが、
「…一条さんの方こそ…素敵と云うか…とても綺麗でした…」
耳まで赤くしながらも、情事の最中、都会の夜景を背景にした男がとても美しく感じた事を伝えた。すると男はクスッと微笑った。
「オーシャンビューを見ながら愛し合うのも良いと思って、このホテルにしたのですが、セレクトは間違っていなかったみたいですね。お互いに。」
「…お互い…?」
「ええ。都会の夜景を背景バックに喘ぐ貴女は、聖夜クリスマス・イヴ降臨つかわされた雪の妖精のように清廉でありながら、快楽の神ジュピターのように妖しく私を支配する―――」
「~~~~~」

誰か、この天才的に口の減らない人をどうにかしてくれないかと思う。冗談ならいい。だが、この男性ひとは200%本気で、『一条さんったら、口が上手いんだから~~』と冗談に紛らわせて逃げる事を許してくれないのだ。
だが。


「……一条さん…ジュピターは男性ですよ。」
つっこみどころを見つけたと思ったのだが、数瞬後には深く後悔した。



「全知全能の神ですよ。
 真唯さんは、私にとってそれに等しい存在だと云う事です。」



そして、真唯の左手の薬指にキスを落としながら耳元に囁く。
必殺の低音ヴァリトンで。

「……真唯さんは私にとって、運命を紡ぐ女神でもある。
 ……受けて頂けますか? 私の求婚プロポーズを。」




―――……どうしよう…?……―――



『迷うことなんかないわよ、受けちゃいなさいよ。
 あんたも一条さんを好きなんでしょう?』
恋愛に積極的な真唯に、

『あんたに受ける資格があると思ってるの!?
 一条さんを不幸にしたいの?!』
幼い頃から形成された自己否定の塊である“真唯”が文句をつける。

二人の真唯が頭の中でいがみあってる時に、一条さんの微かな歌声が聞こえた。
それは、クリスマスの定番。ワムの「ラストクリスマス」のサビの部分だった。
二人はカラオケなど行った事がない。初めて聞く一条さんの美声に酔いそうになるが……その歌詞の意味が真唯の胸を切なくさせる。
だが、やはり一条さんは一条さんだった。



「私は、この歌の愚かな男のような事はしない。
 心のすべてを捧げて、それを捨てさせるなんて。
 第一、心のすべてを捧げたと云うなら、それを捨てられれば、その男は生きてなどいられないはずだ。

 ―――私の心のすべては、未来永劫、貴女のものだ…真唯―――」



……負けた…完敗だと思った。

これ以上、真唯の精神ココロに入りこめる男性ひとなんて、最初で最後だと。


そして、同時に。
あんたに幸福しあわせになる権利があるのかと。
あんたみたいなサイテーな人間に、一条さんみたいな素敵な男性ひとと一緒になる資格があると思っているのかと責め立てる“真唯”がいる。



結局、真唯が言えたのは、こんな一言だった。
「少し…考えさせて頂けませんか?」

間髪いれずに追撃がやって来る。
少し・・とはどれくらいですか? 1週間? 1ヶ月? 3ヶ月?」

「…っ! 性急過ぎます、一条さん! …私たち、お付き合いし出して間もないんですよ!?」
半ば叫ぶように言う真唯の抗議も、
「そのお付き合いに至るまでに充分な時間があったはずです。
 相互理解は充分に深めていると思いますが。」
一条さんの追撃の手は弱まる気配がない。

悩みに悩んで……

「……え~と…1年くらい…?」
真唯の出した答えに、

「真唯さん! 私を焦らして、そんなに楽しいですかっ!?
 せめて半年…いや、3ヶ月ぐらいで答えを出して下さい!!」

一条さんの悲鳴混じりの声が、広い寝室ベッドルームに響く。


そこで真唯は考えた。

「それじゃ、中をとって半年はいかがですか…?
 丁度、私の誕生月でもありますし……」


その答えに少し考えた一条さんは、

「よろしい。貴女の答えは、貴女の誕生日インティ・ライミまで待ちましょう。」

と、妥協してくれた。
そして、真唯の耳元で囁きで聞いて来た。


「…真唯さん…もしかして、ジューンブライドになりたいのですか?」
と。

自分のプロポーズを受け入れられる事が前提な一条さんの言葉に、自分の乙女度を指摘されたような心地になった真唯は猛反撃した。

「一条さん! 半年じっくり考えて、お断りする場合だってあるんですからね!」
と。

しかし、それに対する一条さんの答えは、とても物騒なものだった。



「私の求婚プロポーズを退けるお心算でしたら、自殺する覚悟でどうぞ。
 私は貴女を他の男性おとこに渡す心算など毛頭ありません。
 貴女に断られたら、貴女を殺して、私もすぐに後を追います。」



二の句を告げられなくなった真唯は、冗談の笑みの欠片も見当たらない一条さんのをただ呆然と見返す事しか出来なかった。


「……い、一条さん……」
「本気ですよ、私は。こう見えても、結構、闇の世界にも知り合いが多くいますから、その手の事にも詳しいんですよ。
大丈夫。痛みや苦しみを与えるような殺し方はしません。そうすれば本当に―――貴女は永遠に私だけのものだ。」

そう言って真唯をギュウッと抱き締める一条さんに、真唯は【太陽の祭りインティ・ライミ】に一条さんに殺される自分を想像してしまった。




それ・・は―――なんて、甘美な妄想ゆめだろう。



一条さんに抱かれて死ねるのなら、それは真唯にとって、最高の人生の終焉となるだろう。





……それに、自分の誕生日が命日になるなんて、あの身勝手な親たちへの最高の復讐になるに違いない。

そんなズルイ事まで考えてしまった。


「……ああ、ダメです、真唯さん。」
いきなり頬にキスされて、そんな事を言う一条さんに戸惑う。何事かと見上げる真唯を、嬉しそうではあるが、どこか困惑を含んだが見下ろして来る。


「……私に殺されると云うのに、そんなに陶酔うっとりしたで私をみないで―――」


その言葉を聞いて納得する。
だって仕方がない。


【死】は真唯にとって、永い間の憧憬あこがれだった。


それを愛する男性ひとの手で叶えてもらえるなら―――こんなに幸福しあわせな事はない。



……と、そこまで考えて。
ようやく、腑に落ちる。





―――ああ…アタシは本当に、一条さんを…貴志さんを愛しているんだ―――






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

モース10

藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。 ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。 慧一は興味津々で接近するが…… ※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様 ※他サイトに投稿済み

処理中です...