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本編
No,13 朝食にはこだわりましょう
しおりを挟むこんなホテルのスイートルームでのブランチなら、フツーの娘ならオサレに“アメリカン・ブレックファースト”のような洋食だろう。
だが、真唯は違う。
普段、自炊をしない真唯の朝食はパンに珈琲だ。
こーゆー時に、お米を食べないで何とする!
本来ならランチメニューにはないソレを、一条は無理を言って作らせた。
由緒正しい“朝ご飯”のような【和定食】
……いつもは、ホテルや店に真唯のために無理強いをする男を面映ゆくも、非難するように見てしまう真唯だが、今日は違う。
『私が、ルールブックよ』
とは、リザさんの常套句だが、今日はアタシが使わせてもらう。
今日は、アタシが法律なのだっ!!
ほどなくやって来たソレに、ココロが和む。
一条の前にも同じお膳が用意されたが、無視だ、無視!
「いただきます」合掌して、一礼をして箸をとる真唯に、一条もそれにならう。
嗚呼、お味噌汁が五臓六腑に染み渡る。
ふっくら、ツヤツヤとした白米は、一粒も残さず食べなければ。
魚の干物を、お海苔を味わい、玉子焼きに真唯の眼がとまって思わず頬が緩む。
真唯は玉子焼きが大好きだ。
特に、鎌倉の【おざわ】の玉子焼きをこよなく愛している。
鎌倉かァ~~、これから紅葉の季節だから、特に良いかも知れない。
そんな事を考えつつ、玉子焼きを味わっていた真唯の手が止まる。
納豆だ。
真唯は、出汁も醤油も両方使う。
……いや、真唯の手を止まらせたのは、そんな事が問題ではない。
一条だ。
一条の存在が、納豆を掻き混ぜたい手を止まらせたのだ。
―――納豆味のキスをする女の子って、どないなもんだろう―――
……一条さんは納豆食べるのかなァ~と、向かいの席に座って黙々と食べている彼のお膳を確かめたい欲求を真唯は必死で押し殺した。
彼は今、普通のスーツ姿だ。彼の着替え一式は、あのコンシェルジュの松田さんが持って来た。 ……どこまでも、そつのない用意周到な男だ、と思う。
そんな想いが、真唯の反発の炎を芭蕉扇で煽る。
ええ~~い、そんな乙女な事でどーする!?
干物女の名が泣くぞっ!!
真唯は、猛然と納豆を掻き混ぜ始めた。
勿論、辛子は忘れずに。
紀州のものに違いない梅干しでラストをしめて。最初の誓い通りに、真唯はお米の粒を一粒一粒噛み締めて味わい残す事はなかった。ズズッと緑茶を啜っていると、向かいの一条さんの感嘆したような声が聞こえる。
「……貴女は本当に、気持ちの良い食べ方をする……」
……シマッタ。
……これ以上、気に入られてどーする、アタシ。
「…一条さん、あの私、食後は…」
「…了解っています。」
その時、実にタイミング良くベルが鳴り、コンシェルジュの松田さんがワゴンを押して現れた。
「食後の珈琲をお持ち致しました。
こちらのソファーにご用意致します。
そちらのテーブルはそのままで、どうぞ。」
言われるがまま、ダイニング・ルームからリビング・ルームのソファーに移ろうと思って、気が付いた事を言った。
「松田さん。我儘をきいてもらって、ありがとうございました。
お食事、美味しかったです。ご馳走さまでした。」
にっこり笑って松田さんに挨拶すれば、「いえ。お口にあって何よりでございました。」と微笑み返され。ほっこりした気分でいる時に、『しまった!』と思って、一条さんに恐る恐る視線を向ければ、“優し気”を通り越して、“愛し気”に見える瞳でアタシを見つめていて……
しょーがないだろー、チクショー
心の籠ったサーヴィスには、相応の礼儀を返すのが、【上井 真唯】流なんだヨ!!
その後、Noritakeのカップに、薫り高い珈琲が供されて。
でも、松田さんには申し訳ない事に、味なんか全然分からなかった。
――― 一条さんの熱のこもった視線にヤられてしまって―――
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