IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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【番外編】

ORIENT EXPRESS No,6

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アタシのブログには『限定記事』というものがあって。
 限られた人間しか読めない記事が存在している。
あの有名なアメブロでいうところの『アメンバー限定記事』のようなものだ。
ただ、アタシは、この記事を露悪的なまでのディープな内容にしているので、承認する人達をかなり厳選している。何回かはメッセージのやり取りをして、その方のお人柄を良く理解してからにしている。その最新の承認者メンバーが、「龍水」さんなのであるが。


 「…もしかして…『龍水』さんって、龍樹さんの事だったんですか…?」
 「…そうです…改めまして…龍水です…いつも、ありがとうございます…」
 「…神社仏閣の話が合って…精神的にも深い話が出来る…素敵な男性かただと思っていました…」
 「…光栄です…尊敬する真唯さんに、そのような評価をして頂けて…」
 「…でも…承認したのは、ハロウィンでお会いするかなり以前ですよね…?」
 「…【強引g 真唯道ゴーイング・マイウェイ】は、かなり昔から読者ファンでしたし…本名で書かれているとは、思いませんでしたけど…」
 「……………」
 「…嬉しかった…実際にお会い出来て…」
 「……幻滅されませんでしたか…?」
 「まさか…っ、…想像イメージ通りの女性かたで…とても嬉しかったです…」
 「~~///」
 「…好きなんです…貴女の考え方や、人生観が…」
 「……ありがとうございます……」

それまでアタシのを見て話していた龍樹さんが、水平線に眼を向けた。
暗くて黒い海面を見つめる龍樹さんは、水面そこに何を見ているのだろうか……



※ ※ ※



しばらく無言でいた龍樹さんは、海を見たまま再び話し始めた。
 「…ルゥと暮らし始める前に、京都や奈良の神社仏閣めぐりをしました…自分の気持ちを整理する為に…」
 「…私も沈思黙考したい時は、鎌倉や江ノ島へ行きますから…良いんじゃないでしょうか…?」
 「…でも…整理し切れていないんです…」
 「……………」
 「…と言うより…納得し切れていないんです…」


 龍樹さんは『答え』を求めてはいない。
ただ、気持ちを吐き出したいんだ。
そう思ったアタシは無言を通す事にした。


 「…僕は、病に苦しむ人達を一人でも多く救いたくて…会社を設立しました…」

 「…その中にはアルコール依存症で苦しむ人達や…中には、麻薬依存症で苦しむ人達もいました…」

 「…彼らの話を…僕が販売していたお水を飲んで、依存症を克服したと言う話を聞いて…僕は、とても嬉しかった…」

 「…常習者であった彼らは、とても苦しんでいました…」

 「…それを克服出来たと言う彼らの話を聞いて…僕は仕事の遣り甲斐を感じていました…」

 「…アルコールはまだ良い…けれども、麻薬は犯罪です…」

 「…麻薬の常習者になってしまうと…一度や二度やめる事が出来ても結局は、元の木阿弥になってしまう事が多いです…」

 「…そんな人達の体験談は、胸をえぐられるような気持ちになりました…」

 「…麻薬を憎みました…売って儲ける人達の気持ちが理解らなかった…」

 「…麻薬は、人間ひとを破滅に追いやる危険な物です…それを使ってお金儲けを企む人の気持ちなんか、到底理解出来ないと思ってた…」

 「…それなのに…現在いまでは……その麻薬の売人の元締めマフィアが恋人で…一緒に暮らしているんです…」

 「…あの苦しんでいた人達に…今も苦しんでいる人達に、何て謝って良いのか…僕には理解らない…」


 龍樹さんは話している内に、つかまっていた手摺に顔を伏せてしまう。
両腕で頭を抱え込んで。
 彼の苦悩が伝わってくるようだ。
 彼は散々、悩んできたのだろう。
しばらく待って。
 彼がもうこれ以上、吐き出す事がなくなったを確認すると。

アタシは徐に話し出した。
龍樹さんの考え違いを指摘する為に。
 「…これから相当、生意気な事を話しますけど…怒りを感じたらごめんなさい…」
と、先に謝っておいて。



※ ※ ※



「…私の限定記事を読んでいるなら、ご存知だとは思いますが…
 …人間ひとは予め“課題”を持って生まれてくるって、私は信じてるんです。」

アタシの言葉を頷く事で肯定するが。
まだ顔は上げてはくれない。
そんな彼に構わずに続ける。


「…乱暴な言い方をしますけど…麻薬依存症の人間かたは、“そういう課題”を自らに課して生まれてくる選択をしたんです…」

 「…考えてもみて下さい…麻薬は、最初から『買わない』という選択も出来た筈なんです…」

 「…購入しても、怖くなって『使わない』という選択も可能だった筈なんです…」

 「…色んな選択肢の中から依存症にまでなってしまうのは、ぶっちゃけその人の弱さが最大の原因なんですが…」

 「…それってつまりは、『麻薬依存症になる』という経験を積む為に生まれてきたからなんです…」

 「…その人間ひとが生まれる前に、自分で決めてきた“課題”でもあるんですよ…」

 「…もっと乱暴な言い方をすると、『麻薬で苦しむ』必要があって、『麻薬で苦しむ』経験を積む為に生まれてきた魂なんです…」

 「…そのひとの自らの“修行”の為の“課題”について、龍樹さんあなたには何の責任もないんです…」


ようやく顔を上げてくれた龍樹さんのが大きく見開かれている。
 『そんな事、考えもしなかった。』とでも言いた気な。
……そうだよね。
 普通は、こんな考え方、しないもんね。


「…依存症になってからも、色んな選択肢が存在します…究極、発狂するとか、自殺してしまうとかの選択肢もあるんです…」

 「…龍樹さんの販売している「水」を知っても、信用出来なくて『買わない』という選択肢を選んだ人も多い筈です…」

 「…そんな中から、信じて購入して…見事に更生出来た方は、それだけの“運”と行動力を持って生まれてきた…それで、充分じゃないですか…」


 随分とキツイ事を言ったけど。
 柔らかい口調を心掛けた心算だ。
 龍樹さんの精神こころに少しでも響いてくれれば嬉しい。
 瞳が潤み始めている龍樹さんに、アタシは最後のアドバイスをした。
少しでも彼の精神こころに響く『言霊』を、贈り届けプレゼントしたかったから。
お節介なのは重々承知だが、言わずにはいられなかったのだ。
彼の恋人ルチアーノさんのためにも。





―――それにね。


 恋をしてしまえば…愛してしまえば……その相手ひとが正義なんです。



アタシは―――貴志さんが麻薬ヤクの売人でも、例え人を殺していたとしても……彼が彼である限り……大好きなんです。






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