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【番外編】
ORIENT EXPRESS No,4
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「…単刀直入に行こう…
…もうここが、“夢の中”だって事は理解ってるんだろう…?」
口火を切ったのは、従兄の京牙だった。
※ ※ ※
真唯が眠りに落ちるのをしっかり見届けて。
俺は再びタキシードに身を包むと、バー・カーに行った。
……アイコンタクトで、京牙と深水が言ってきたのだ。
『真夜中に、バー・カーに再集合』
と。
果たして二人は当然のようにいたが。
ギルや木島君、高見沢氏や各務氏までもがいた。
それぞれのパートナーが眠った後、足がバー・カーに向いてしまったのだろう。
ドン・アレッサンドリがいないのが腑に落ちなかったが、彼は遅れてやって来た。
恋人がなかなか眠ってくれなかったそうだ。
結局、全員が集まって。
初めに口を開いたのは、京牙だった。
「…単刀直入に行こう…
…もうここが、“夢の中”だって事は理解ってるんだろう…?」
と。
※ ※ ※
「…最初は、真唯ちゃんと貴志を祝う為だけの茶番だと思ってたが…
…俺達は、とんでもない話を聞いちまった…」
京牙が言葉を続けると、誰もが無言になってしまう。
誰が依頼したのかは知らないが、バーテンダーは残っていて。
ピアノマンは姿を消していた。
バーテンダーは欧米人らしい。
日本語で会話するのが、一番安全だ。
乗務員達がどんな原理でこの列車に乗っているかは知らないが、今から話す内容は誰にも理解されたくはない。
バーテンダーが注文もしていないのに、俺達それぞれに酒を配り出す。飲まなければやってられない気分だったので丁度良いが、ギルの前にはブランデーが置かれ、俺の前にはウィスキーが置かれたのには『さすがだ。』と思わせた。
澤木様が選んだ「オリエント急行のスチュワード」だけの事はある、と。
京牙の言葉に続く者はおらずに、ただ無言で酒精を煽る。
それぞれが互いのパートナーに付き合って軽い酒で我慢していたのだ。
だが、どんなに強い酒を飲んでも、今夜は酔える気がしない。
「…問題は…澤木の真意だな…」
ボツリと囁いたのは、深水だった。
相変わらず、澤木様を『あいつ』呼ばわりする剛胆さには、心底敬服するが。
「…貴志を、『義理の息子』だと言い切りやがったんだぜ…」
こんな時には、そんな剛胆さが逆に恨めしい。
「…貴志…お前の嫁さんは、何て言ってるんだ…『義娘』呼ばわりされた事について…」
「…彼女は、何も気にしてはいません…恩義は感じているようですが、それ以上の事は何も…」
「…うへェ…『知らない』ってのは、怖ェなァ…」
……そうだ。
真唯は何も気にしてはいない。
様々な便宜を図って頂いた恩義以上の感情を、澤木様に対して抱いてはいない。
だからこそ澤木様に、あれ程気に入られているとも言えるのだが。
「…深水が【懐刀】なら…貴志は、【参謀】と呼ばれているからな…」
「…だーかーらー…俺が澤木の為に動いた事なんか、数えるくらいしかないってーの…っ」
「…貴志、お前…澤木からの“依頼”、増えてねーか…?」
「……………」
兄弟揃っての無礼を咎める気にもなれずに。
無言をもって、肯定とした。
そうして、ひたすらウィスキーを煽る。
ジンかウォッカをショットで煽りたい気分だ。
が、しかし。
誰もが無言になっていた空間を切り裂く言葉が放たれた。
「…普通に考えて…
…ご自身の組織の後継者になさろうとされているのではありませんか…?」
誰もが凍り付いた。
誰もが言葉に出来なかった思いを平然と口にしたのは、高見沢医師だった。
「…お前ェは相変わらず、怖ェ事を平然と言うな…」
と、京牙。
「…現実の世界に戻ったら、絶対ェ口外するなよ…」
と、深水。
「…フカミの言う通りだ…まだ、命は惜しいだろう…?」
と、ドン・アレッサンドリ。
その言葉に、ギルが力強く頷く。
各務氏は『我関せず』とばかりの表情をしているが、木島君の顔色は些か青白い。
そういう俺の顔色も似たようなものだろう。
確かに澤木様からの“依頼”は増加傾向にあった。
それも出版社の仕事の負担にならないギリギリのラインで。
『今までの貸しを返せ。』
とのお言葉に、素直に従っていたのだが。
……真唯可愛さの……澤木様の戯れ言だと思いたい…いや、信じたい……
そんな思いを、冷酷無比のマフィアのドンが無情にも切り捨てた。
「…それしか考えられないが…暗黒街を牛耳る頭領の奴らの耳に入ったら…
…血を血で洗う“戦争”になるぞ…暴力団の抗争どころの騒ぎではない…」
と。
思わず呻き、頭を抱えそうになったが。
それを救ってくれたのは、俺を失意のどん底に突き落とした張本人だった。
「…本気でそのお心算がないからこそ…
…こんな場所で口にされたのではありませんか…?」
と。
堕天使に見えていた高見沢医師の言葉が、大天使の福音に聴こえる!!
そうであれば、どれだけありがたい事かっ!!
「…高見沢…お前ェ…面白がってねえか…?」
「まさか! 私は一介の精神科医に過ぎません。
だからこそ、常に客観視する癖がついているだけです。」
「…どーだかな…ま、確かに澤木も、本気で後継者を指名するなら、もっと上手い方法がある筈だもんな…」
「そうですよ。
ただ、ここにいる面々に、周知させたかっただけだと思いますよ。」
……それはそれで、嫌な気もするのだが……
京牙と高見沢医師の会話を聞きながら、複雑な気分を抱いてしまった俺に罪はないだろう。
…もうここが、“夢の中”だって事は理解ってるんだろう…?」
口火を切ったのは、従兄の京牙だった。
※ ※ ※
真唯が眠りに落ちるのをしっかり見届けて。
俺は再びタキシードに身を包むと、バー・カーに行った。
……アイコンタクトで、京牙と深水が言ってきたのだ。
『真夜中に、バー・カーに再集合』
と。
果たして二人は当然のようにいたが。
ギルや木島君、高見沢氏や各務氏までもがいた。
それぞれのパートナーが眠った後、足がバー・カーに向いてしまったのだろう。
ドン・アレッサンドリがいないのが腑に落ちなかったが、彼は遅れてやって来た。
恋人がなかなか眠ってくれなかったそうだ。
結局、全員が集まって。
初めに口を開いたのは、京牙だった。
「…単刀直入に行こう…
…もうここが、“夢の中”だって事は理解ってるんだろう…?」
と。
※ ※ ※
「…最初は、真唯ちゃんと貴志を祝う為だけの茶番だと思ってたが…
…俺達は、とんでもない話を聞いちまった…」
京牙が言葉を続けると、誰もが無言になってしまう。
誰が依頼したのかは知らないが、バーテンダーは残っていて。
ピアノマンは姿を消していた。
バーテンダーは欧米人らしい。
日本語で会話するのが、一番安全だ。
乗務員達がどんな原理でこの列車に乗っているかは知らないが、今から話す内容は誰にも理解されたくはない。
バーテンダーが注文もしていないのに、俺達それぞれに酒を配り出す。飲まなければやってられない気分だったので丁度良いが、ギルの前にはブランデーが置かれ、俺の前にはウィスキーが置かれたのには『さすがだ。』と思わせた。
澤木様が選んだ「オリエント急行のスチュワード」だけの事はある、と。
京牙の言葉に続く者はおらずに、ただ無言で酒精を煽る。
それぞれが互いのパートナーに付き合って軽い酒で我慢していたのだ。
だが、どんなに強い酒を飲んでも、今夜は酔える気がしない。
「…問題は…澤木の真意だな…」
ボツリと囁いたのは、深水だった。
相変わらず、澤木様を『あいつ』呼ばわりする剛胆さには、心底敬服するが。
「…貴志を、『義理の息子』だと言い切りやがったんだぜ…」
こんな時には、そんな剛胆さが逆に恨めしい。
「…貴志…お前の嫁さんは、何て言ってるんだ…『義娘』呼ばわりされた事について…」
「…彼女は、何も気にしてはいません…恩義は感じているようですが、それ以上の事は何も…」
「…うへェ…『知らない』ってのは、怖ェなァ…」
……そうだ。
真唯は何も気にしてはいない。
様々な便宜を図って頂いた恩義以上の感情を、澤木様に対して抱いてはいない。
だからこそ澤木様に、あれ程気に入られているとも言えるのだが。
「…深水が【懐刀】なら…貴志は、【参謀】と呼ばれているからな…」
「…だーかーらー…俺が澤木の為に動いた事なんか、数えるくらいしかないってーの…っ」
「…貴志、お前…澤木からの“依頼”、増えてねーか…?」
「……………」
兄弟揃っての無礼を咎める気にもなれずに。
無言をもって、肯定とした。
そうして、ひたすらウィスキーを煽る。
ジンかウォッカをショットで煽りたい気分だ。
が、しかし。
誰もが無言になっていた空間を切り裂く言葉が放たれた。
「…普通に考えて…
…ご自身の組織の後継者になさろうとされているのではありませんか…?」
誰もが凍り付いた。
誰もが言葉に出来なかった思いを平然と口にしたのは、高見沢医師だった。
「…お前ェは相変わらず、怖ェ事を平然と言うな…」
と、京牙。
「…現実の世界に戻ったら、絶対ェ口外するなよ…」
と、深水。
「…フカミの言う通りだ…まだ、命は惜しいだろう…?」
と、ドン・アレッサンドリ。
その言葉に、ギルが力強く頷く。
各務氏は『我関せず』とばかりの表情をしているが、木島君の顔色は些か青白い。
そういう俺の顔色も似たようなものだろう。
確かに澤木様からの“依頼”は増加傾向にあった。
それも出版社の仕事の負担にならないギリギリのラインで。
『今までの貸しを返せ。』
とのお言葉に、素直に従っていたのだが。
……真唯可愛さの……澤木様の戯れ言だと思いたい…いや、信じたい……
そんな思いを、冷酷無比のマフィアのドンが無情にも切り捨てた。
「…それしか考えられないが…暗黒街を牛耳る頭領の奴らの耳に入ったら…
…血を血で洗う“戦争”になるぞ…暴力団の抗争どころの騒ぎではない…」
と。
思わず呻き、頭を抱えそうになったが。
それを救ってくれたのは、俺を失意のどん底に突き落とした張本人だった。
「…本気でそのお心算がないからこそ…
…こんな場所で口にされたのではありませんか…?」
と。
堕天使に見えていた高見沢医師の言葉が、大天使の福音に聴こえる!!
そうであれば、どれだけありがたい事かっ!!
「…高見沢…お前ェ…面白がってねえか…?」
「まさか! 私は一介の精神科医に過ぎません。
だからこそ、常に客観視する癖がついているだけです。」
「…どーだかな…ま、確かに澤木も、本気で後継者を指名するなら、もっと上手い方法がある筈だもんな…」
「そうですよ。
ただ、ここにいる面々に、周知させたかっただけだと思いますよ。」
……それはそれで、嫌な気もするのだが……
京牙と高見沢医師の会話を聞きながら、複雑な気分を抱いてしまった俺に罪はないだろう。
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