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【番外編】
ORIENT EXPRESS No,2
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食堂車の隣のバーサロン車。
たっぷり時間をかけた優雅で贅沢なフルコースの晩餐の後、正装のままで隣に移動する。
エミール・ガレによるアール・ヌーヴォ-調の内装。ビロード仕立ての居心地良いソファーに身を沈めれば、オリエント急行の本格的な夜の始まりだ。
※ ※ ※
ピアノマンがスローなJAZZではなくボサ・ノヴァを奏でてくれるのは、澤木さんに言い含められているのだろう。アントニオ・カルロス・ジョビンとまでは言わないけれども、それなりの腕前だ。心地好いリズムを奏でてくれているのだから。
メニューを開いてあれやこれやと楽しく悩み、アタシは深紅のドレスの色に合わせて【ルビー・カシス】なんぞにしてみた。紅玉は貴志さんの守護石だから(照)。すると優里ちゃんも、翠君も同じカクテルだった。
「…悟君の誕生石だから…」
とは、優里ちゃん。
「ルビーは、京兄の瞳の色だから♡」
とは、翠君。
その京牙さんが緑色のカクテルだったのは、多分同じ意味からだろう。
貴志さんが同じ緑色のカクテルだったのは、意外だったけど。
名前と理由を聞いて納得してしまった。
旦那さまは、のたまわれたのだ。
「今夜は、【ノック・アウト】された気分なんですよ。」
と。
香月さんと紫さんは【ブルー・ムーン】を楽しんでいる。みんなもそれぞれのカクテルを楽しんでいるが、ギルはトーシローの為にノンアルコールのカクテルを頼んでいた。トーシローはアルコールがダメなんだから仕方がないやね。雰囲気だけでも楽しんでくれたら嬉しい。折角のオリエント急行の特別な夜なのだから。
柔らかなオレンジ色のランプの灯りがバーサロンにいる人々を優しく照らし出す。
男性陣はそれぞれのパートナーの腰を抱いているが、澤木さんとリザさんは一人用のチェアーに座り互いを束縛する様子は見せない。
……あの境地に達するには、アタシには何十年必要なのだろうか……。アタシは腰を抱く貴志さんの腕に触れ、その優しさと温かさに安堵して。一生、離して欲しくないと思ってしまった。
と、誰かがリクエストしたのか、ピアノが有名な映画音楽やポピュラーなJAZZの名曲などを奏で出す。アタシは大人しく聴いていたが、貴志さんのためにスティーヴィー・ワンダーの「Happy Birthday」をリクエストしてしまった。本当はMISIAの「THE GLORY DAY」が良かったのだが、日本の曲は知らないだろうと諦めた。アメリカで黒人の公民権運動の指導者であるマーティー・ルーサー・キング牧師の誕生日を、平和のために国民の祝日にしようとする運動のテーマソングとして、スティーヴィーが手掛けたとされるこの曲。真偽の程は定かではないが、明るい良いメロディーなのは間違いない。今日という日のために、貴志さんにプレゼントするにはピッタリだ。
アタシにとって唯一無二の、大切な男性の生誕を祝う特別な夜のために。
ピアノマンが奏で終わると同時に、アタシは「サンキュー! ブラボー!!」とピアノ奏者に拍手と賛辞を贈り。隣の旦那さまには「改めまして、お誕生日おめでとうございます!!」との言葉と共に頬に接吻を贈ってしまったのは、雰囲気に酔っていたせいに違いない。喜んだ旦那さまがお返しにすぐに接吻を返してくれたのは言うまでもない。
その後も何曲かのリクエストを受付け。
それに全て応えてしまうと、また色んな曲を弾き始めた。
哀愁のメロディー、陽気なナンバー、何でもござれだ。
誰も口を開かない。
黙って、グラスを傾けている。
そうして特別な夜は、ゆっくりと更けていったのだった。
※ ※ ※
シャワーを浴びて、歯を磨いて。
後は眠るだけとなると、どうしても離れ難い。
結局、二段ベッドの下段に貴志さんと、一緒に眠る事にした。
狭いシングルベッドだが、寝具は超一流だ。
寝心地も抜群だ。
列車が揺れるリズムも心地良い。
愛する旦那さまの腕の中だと思うと、ぐっすり眠れそうだが……眠ってしまうのが勿体なくて仕方がない。
すると、そんなアタシの気持ちを見透かしたような、旦那さまの声が響いた。
「…眠れないのでしたら、少し話でもしましょうか…?」
と。
「…本来でしたら、貴女のお誕生日にオリエント急行に乗りたかったのですが…」
「…でも…アタシ達二人の結婚記念日でもあるんですから…丁度良いじゃありませんか…」
「…それは、そうなんですが…」
「…アタシは嬉しかったですよ…新しい友人達と一緒に旅行が出来て、一緒に祝えて頂けて…」
「…真唯さん…」
「…アタシは『友人』と呼べる人が少ないから…こんなに大勢の人とご一緒出来て、凄く楽しくて嬉しいです…」
「……………」
「…出会ってまだ間もないのに…こんなお付き合いが出来るなんて、思ってもみなかった…」
「…貴女にそんなに喜んで頂いているのなら…紹介した甲斐もありますね…」
「…『類は友を呼ぶ』とも言いますから…みんな、貴志さんのお陰です…」
「……………」
「…ありがとうございます…あのハロウィン・パーティーに連れて行って下さって…」
「……本音を言えば……」
「…ええ…」
「…二人っきりで…使い魔の仔猫か、修道女のコスプレでもして頂きたいのですが…」
「…はい…?」
「…聞こえませんでしたか…?」
「…いえ…残念ながら、ハッキリ聞こえました…」
「…やはり三年前のバレンタインデーが、最高でしたね…」
「~~///」
「…次点が、CAのコスプレでしょうか…」
「……………」
「…ああ…一昨年の誕生日も、捨て難い…」
「……………」
「…真唯さん…何とか、おっしゃって下さい…」
「…使い魔と言うか…森の精霊なんて、どうですか…?」
「ロマンの欠片も、ないじゃありませんか…っ」
「トトロなんて、メッチャ浪漫的じゃありませんか…っ!」
―――こうして。
上井夫妻のオリエント急行の夜は、更けてゆくのであった―――
※ 【ブルー・ムーン】というカクテルが恋人と共にいる時に飲むに相応しくないという事を二人は承知しておりますが、この二人は天野のBL作品の中で既に監禁されているので、安心し切っているのです。
※ 天野が自分のサイトからムーンライトノベルにお引越しをした二周年記念作品の中で、真唯ちゃんはCAのコスプレをしております。
たっぷり時間をかけた優雅で贅沢なフルコースの晩餐の後、正装のままで隣に移動する。
エミール・ガレによるアール・ヌーヴォ-調の内装。ビロード仕立ての居心地良いソファーに身を沈めれば、オリエント急行の本格的な夜の始まりだ。
※ ※ ※
ピアノマンがスローなJAZZではなくボサ・ノヴァを奏でてくれるのは、澤木さんに言い含められているのだろう。アントニオ・カルロス・ジョビンとまでは言わないけれども、それなりの腕前だ。心地好いリズムを奏でてくれているのだから。
メニューを開いてあれやこれやと楽しく悩み、アタシは深紅のドレスの色に合わせて【ルビー・カシス】なんぞにしてみた。紅玉は貴志さんの守護石だから(照)。すると優里ちゃんも、翠君も同じカクテルだった。
「…悟君の誕生石だから…」
とは、優里ちゃん。
「ルビーは、京兄の瞳の色だから♡」
とは、翠君。
その京牙さんが緑色のカクテルだったのは、多分同じ意味からだろう。
貴志さんが同じ緑色のカクテルだったのは、意外だったけど。
名前と理由を聞いて納得してしまった。
旦那さまは、のたまわれたのだ。
「今夜は、【ノック・アウト】された気分なんですよ。」
と。
香月さんと紫さんは【ブルー・ムーン】を楽しんでいる。みんなもそれぞれのカクテルを楽しんでいるが、ギルはトーシローの為にノンアルコールのカクテルを頼んでいた。トーシローはアルコールがダメなんだから仕方がないやね。雰囲気だけでも楽しんでくれたら嬉しい。折角のオリエント急行の特別な夜なのだから。
柔らかなオレンジ色のランプの灯りがバーサロンにいる人々を優しく照らし出す。
男性陣はそれぞれのパートナーの腰を抱いているが、澤木さんとリザさんは一人用のチェアーに座り互いを束縛する様子は見せない。
……あの境地に達するには、アタシには何十年必要なのだろうか……。アタシは腰を抱く貴志さんの腕に触れ、その優しさと温かさに安堵して。一生、離して欲しくないと思ってしまった。
と、誰かがリクエストしたのか、ピアノが有名な映画音楽やポピュラーなJAZZの名曲などを奏で出す。アタシは大人しく聴いていたが、貴志さんのためにスティーヴィー・ワンダーの「Happy Birthday」をリクエストしてしまった。本当はMISIAの「THE GLORY DAY」が良かったのだが、日本の曲は知らないだろうと諦めた。アメリカで黒人の公民権運動の指導者であるマーティー・ルーサー・キング牧師の誕生日を、平和のために国民の祝日にしようとする運動のテーマソングとして、スティーヴィーが手掛けたとされるこの曲。真偽の程は定かではないが、明るい良いメロディーなのは間違いない。今日という日のために、貴志さんにプレゼントするにはピッタリだ。
アタシにとって唯一無二の、大切な男性の生誕を祝う特別な夜のために。
ピアノマンが奏で終わると同時に、アタシは「サンキュー! ブラボー!!」とピアノ奏者に拍手と賛辞を贈り。隣の旦那さまには「改めまして、お誕生日おめでとうございます!!」との言葉と共に頬に接吻を贈ってしまったのは、雰囲気に酔っていたせいに違いない。喜んだ旦那さまがお返しにすぐに接吻を返してくれたのは言うまでもない。
その後も何曲かのリクエストを受付け。
それに全て応えてしまうと、また色んな曲を弾き始めた。
哀愁のメロディー、陽気なナンバー、何でもござれだ。
誰も口を開かない。
黙って、グラスを傾けている。
そうして特別な夜は、ゆっくりと更けていったのだった。
※ ※ ※
シャワーを浴びて、歯を磨いて。
後は眠るだけとなると、どうしても離れ難い。
結局、二段ベッドの下段に貴志さんと、一緒に眠る事にした。
狭いシングルベッドだが、寝具は超一流だ。
寝心地も抜群だ。
列車が揺れるリズムも心地良い。
愛する旦那さまの腕の中だと思うと、ぐっすり眠れそうだが……眠ってしまうのが勿体なくて仕方がない。
すると、そんなアタシの気持ちを見透かしたような、旦那さまの声が響いた。
「…眠れないのでしたら、少し話でもしましょうか…?」
と。
「…本来でしたら、貴女のお誕生日にオリエント急行に乗りたかったのですが…」
「…でも…アタシ達二人の結婚記念日でもあるんですから…丁度良いじゃありませんか…」
「…それは、そうなんですが…」
「…アタシは嬉しかったですよ…新しい友人達と一緒に旅行が出来て、一緒に祝えて頂けて…」
「…真唯さん…」
「…アタシは『友人』と呼べる人が少ないから…こんなに大勢の人とご一緒出来て、凄く楽しくて嬉しいです…」
「……………」
「…出会ってまだ間もないのに…こんなお付き合いが出来るなんて、思ってもみなかった…」
「…貴女にそんなに喜んで頂いているのなら…紹介した甲斐もありますね…」
「…『類は友を呼ぶ』とも言いますから…みんな、貴志さんのお陰です…」
「……………」
「…ありがとうございます…あのハロウィン・パーティーに連れて行って下さって…」
「……本音を言えば……」
「…ええ…」
「…二人っきりで…使い魔の仔猫か、修道女のコスプレでもして頂きたいのですが…」
「…はい…?」
「…聞こえませんでしたか…?」
「…いえ…残念ながら、ハッキリ聞こえました…」
「…やはり三年前のバレンタインデーが、最高でしたね…」
「~~///」
「…次点が、CAのコスプレでしょうか…」
「……………」
「…ああ…一昨年の誕生日も、捨て難い…」
「……………」
「…真唯さん…何とか、おっしゃって下さい…」
「…使い魔と言うか…森の精霊なんて、どうですか…?」
「ロマンの欠片も、ないじゃありませんか…っ」
「トトロなんて、メッチャ浪漫的じゃありませんか…っ!」
―――こうして。
上井夫妻のオリエント急行の夜は、更けてゆくのであった―――
※ 【ブルー・ムーン】というカクテルが恋人と共にいる時に飲むに相応しくないという事を二人は承知しておりますが、この二人は天野のBL作品の中で既に監禁されているので、安心し切っているのです。
※ 天野が自分のサイトからムーンライトノベルにお引越しをした二周年記念作品の中で、真唯ちゃんはCAのコスプレをしております。
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