IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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【番外編】

紫陽花色の【インティ・ライミ】

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「わァ、すごく素敵…っ、…貴志さん、ありがとうございます…っ!!」
「何の。奥方さまに喜んで頂けて光栄です。
  それで、この簪を付けての明日のデートをご了承頂けますか?」
「勿論です!!」

アタシの誕生日である、【太陽の祭りインティ・ライミ】。
その誕生日プレゼントに、優里ちゃんのお店と提携している『つまみ細工』の「NEZU工房」の紫陽花の簪とティッシュケースを贈られて有頂天になってしまっていたアタシは気付けないでいた。あのお店に置いてある物は、そんなに高価な物ではないと安心してしまっていたのだが。
相手は、この・・貴志さんなのである。“アタシ溺愛至上主義”のかたなのである。並みの品物をアタシにプレゼントする筈がなかったのだ。その工房の女主人に特別に造らせた逸品であり、後にこの職人マイスターが文化勲章を受賞して伝統工芸の人間国宝にまで認定されて。その作品群が博物館で展示されたり、高値で取引されるようになるのは、現在いまのアタシには預かり知らぬ未来のお話なのである。




※ ※ ※




「…風流ですねェ…」
「…折角の貴女のお誕生日だと言うのに…雨でガッカリされてませんか…?」
「とんでもないです! ほら! 紫陽花が雨に濡れて、とても綺麗…っ!!」
「…貴女に喜んで頂けているのなら、良いのですが…」

アタシは現在いま、都内の某所の御寺に来ている。
優里ちゃんのお店で購入した、かなりモダンで大胆なデザインの紫陽花柄の着物を着ているのだが。そのアタシの髪を、「NEZU工房」のつまみ細工の紫陽花の簪バースデープレゼントが彩っているのはお約束である♪ さしている傘は、和柄の傘ホワイトデーのプレゼント。巾着に入っているのは、やはりプレゼントである紫陽花のティッシュケース。このケース、何と白檀の薫りがするのである♪ 今日ばかりは纏う香りが【IMprevu】でなくとも貴志さんも許してくれてる。
ちなみに、貴志さんは。ラフな格好ではあるが、バーバリーのトレンチコートをお召しで、レイバンのサングラスを装備してらっしゃる。アタシがリクエストしたのだ。お邪魔虫の視線を集めないように(照)。
とは言っても、実はこの御寺はあまり他人ひとはいない。
 山門と土塀が朽ちた感じがするので、入るのに勇気が要る御寺なのだ。
だが、一歩、中に入れば。様相は一変する。
 参道は季節の花で埋め尽くされていて、今の季節は紫陽花が見事である。
 赤や青の紫陽花が雨に濡れて、緑の葉の上にはチョコンと雨粒が乗っている。
カタツムリさんがいたから、奇声喜声を発してしまいそうになるが、ここは我慢である(苦笑)。御寺さんの営業妨害などしてはならないし、世間様のご迷惑であり。何よりも、御本尊様に失礼千万極まりないではないか。風情を感じるのは後回しにして、先ずはその御本尊にご挨拶が筋である。御手水を使い、を済ませ。小さな本堂に参拝をさせて頂く。この御寺ここは阿弥陀様が御本尊である。今年の戌年の守り神様である。半年は過ぎてしまった今年ではあるが、再びの御縁に感謝を捧げ。愛する旦那さまと一緒に参拝させて頂けた事と、いつもお見守り頂けている事に感謝を申し上げたのだった。
ご挨拶の参拝が済んだら、ゆっくりのんびりまったりする事にする。
この御寺の裏に回れば、思わず歓声を上げてしまいそうになる。
ちょっとした竹林になっているのである。
 竹林の間の石造りの径は、傘をささなくても平気なぐらいだ。
アタシは傘を畳んで、貴志さんと腕を組んで歩いた。
すると。何と、この旦那さまは。
コートの中にアタシを入れて、抱き寄せてくれやがったのであるっ!(照)


 (…うわァ…思いっ切り、バカップルだ…っ!!)


そうは思っても、貴志さんから逃れる事など考えられなくて。他人ひとが少ない事を免罪符にして、アタシはそのままかれの温もりを感じていたのだった。

その際、折角の簪が少し潰れてしまいそうになっていた事は、工房の方々には笑ってお許し願いたい(てへぺろ★)。




※ ※ ※




「…さすがに、真唯さんは素敵なお店をご存知ですね…」
 「ありがとうございます。
  …とは言っても、単にチャレンジ精神が旺盛なだけですよ。
  現に、外れのお店に入ってしまう事もありますしね。」
 抹茶パフェの抹茶アイスを頬張りながら答えた。
 珈琲はホットだ。やっぱり、大納言小豆と珈琲の結婚マリアージュは最強のコラボだね♡


あの後アタシ達は、竹林の中を抱き合って進んで。
その径が終わる寸前で、ダッシュで逃走した(恥笑)
 愛用のバーバリーの傘をさしながら、背後で苦笑いする気配を感じながら。
そうしてやって来たのが、この甘味処なのだ。完全に和風なのに、BGMは。


 「…真唯さん…この曲…」
 「あ、理解ります?」
 「…私もジブリのアニメくらい見ますから…ですが…」
 「そうなんです。ここのママさんのこだわりなんです。」
 「…はぁ…」

 貴志さんの戸惑いも無理はない。
さっきはレゲエ・アレンジのナウシカとJAZZアレンジのトトロだったが、今度はゴスペルのポニョだ。珈琲の器は伊万里焼だし、何とも言えない心地になるが。これが意外や意外。メッチャ居心地が良い空気感アトモスフィアーに成るのである。



 夕飯を食べて帰りたい気分ではあるが。
 君枝さんが張り切ってアタシの為の御馳走バースデー・ディナーを作ってくれて待っていてくれているのである。
……そうなのだ。
 実は今晩の晩餐ディナーはパーティーなのだ。
 君枝さんは勿論、SPさんの明石さん達の女性陣を加えての。
 瀬尾さんや阿部さんには断られてしまった。多分、貴志さんのご機嫌を考慮した上での事であろう(苦笑)。こんな調子なら、SPさん達のご家族を加えての慰安旅行はいつの日になる事やら……(遠い目)。






そして、この晩。
 紫陽花柄のドレスワンピに着替えて、楽しいバースデー・パーティーに大喜びしたアタシの髪を紫陽花の簪貴志さんのプレゼントが再び彩っていた事は言うまでもない。

 尚、食後酒ディジェスティフのデザートワインは、貴志さんと美味しく頂いたが。
 酒量に注意して飲んだ為、記憶を飛ばすような失敗はしなかった。その事を愛する旦那さまが、些か残念そうなお表情かおで恨めし気にしてらしたのは、アタシの預かり知らぬささやかな余談である(苦笑)。







 FIN

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