IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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【番外編】

コヤ・ライミ【皇妃の祭り】 前編

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「…きれい…っ!」
「…本当ですね…」
 「…『春のうららの隅田川~♪』…ならぬ、『秋のうららの綾瀬川~♪』でしょうか…まァ、『麗ら』とは、春の季語ですけどね(クスッ)」
 「…『錦秋』とは紅葉の事ですが…これは、どう形容したら、良いのでしょうね…?」


アタシと貴志さんは、現在いま
和船で綾瀬川の川下りをしている。
両岸に広がる曼珠沙華の花を楽しみながら。




※ ※ ※




アタシが今年の初春、富士山五社に参拝した時にご一緒した『“バレ友”のYさん』がこの夏に無事にゴールイン出来た事を木花開耶姫様にお礼参りの参拝をさせて頂いて来た時の事をブログの記事にアップしたら、既に常連となってる草加市在住の読者様から丁寧なご感想と共に耳寄りな情報を頂いた。綾瀬川沿いの松並木の川縁の彼岸花が満開で、期間限定で和船が運行されると云うのだ。ちなみにこの女性かたは、松並木の桜や弁財天さまの事を教えて下さった女性かたでもある。桜が満開時の春に和船が運行するのはもう毎年恒例の事になってるが、秋にやると云うのは初めての試みだそうだ。アタシはその情報を聞いた瞬間とき、思った。
『その話、ノッた!!』
と。

秋にも色んな花が咲くが、アタシが好きなのは黄花秋桜と曼珠沙華だ。
ただァ~し!
あまりにあまりな群生は、却っての毒であり視覚の暴力だ(苦笑)。
いや、アタシは何も、巾〇田のような名所を愚弄する気も冒涜する気もない。ただ、あの浜離宮庭園のように、群れをなして真っ黄ッ黄に咲いてるキバナコスモスが苦手なだけなのだ(厳密に言えば、橙色だけどネ/笑)。
アタシが好きなのは、東大寺の戒壇堂の片隅にひっそりと人目を忍ぶように咲いていた黄花秋桜であり。
大々的な名所になってしまってる「彼岸花」ではなく、人の死を悼むように楚々とした風情で咲いてる「曼珠沙華」なのだ。
ちなみに「曼珠沙華」と云うのは、仏典に由来する「彼岸花」の別名であり全く同じ花だ。彼岸花には「死人花しびとばな」「地獄花」「幽霊花」などの不吉な異名が数多いが、花言葉は以外にもポジティブなものが多く『情熱』や『想うのは、あなた一人』などと、是非とも愛する旦那さまに贈りたい言葉であり、一緒に見たい花なのだ(照)。
ちなみに(×2/笑)。
ベゴニアの【インカローズ】だが、アタシがネット検索して調べた通りに丹精込めて丁寧にお世話して。ついでに常に肯定的な言葉で話し掛けるように心掛けてたら、八月の初旬になったら無事に休んでくれて。九月の現在いまは、また元気なすがたを魅せてくれている。とりあえずは一安心だ。
              
そんな訳で。
週末の貴志さんの予定を伺ったら全くの白紙だと言うので、和船と曼珠沙華の話をしてみたら、“アタシ溺愛至上主義”がパワーアップしてるかれは一も二もなく賛成して下さって。そうして、冒頭の場面シーンへと戻るのである。




※ ※ ※




週末の金曜の夜は、貪るようにアタシを抱く貴志さんだが、さすがに昨夜は手加減して下さった。我慢してくれれば何よりなのだが、『それは無理です!』と涙目で抗議されて以来、諦めてる(苦笑)。お陰で和船の乗船時間に間に合った。おまけに先着順だから、希望者が多ければ乗れない場合もあるのだ。雨天中止だったので、普段はお祈りなどしないアタシが、昨夜は夜空を睨むように祈った。天候神を脅すような勢いで(笑)。何故ならば、この曼珠沙華の為だけではなく、後のお楽しみも待ってるからだ。
そして無事に乗船が叶ったのだが。
お江戸の昔にタイムスリップしてしまったかのような船は、とても風情があった。江戸の町人が舟遊びを楽しんだと云うのも、なるほど頷ける話である。「鬼平犯科帳」では鬼平が度々舟を利用して酒を楽しんだり、「剣客商売」では秋山小兵衛が妻女のおはるが漕ぐ舟で大川を渡っていったが、あれはこのような野趣溢れるものであったと推察される。
船に乗っているから、当然だが視点が低い。
 川辺には美しい曼珠沙華が今を盛りと咲き誇り、可憐な秋の色彩いろを魅せてくれている。松並木の緑と鮮やかな曼珠沙華の朱の色の対比が実に見事だ。ところどころに咲いている秋桜も秋の訪れを喜んでいるかのようだ。綾瀬川に掛かる橋からこちらに手を振る人や声を掛けて来る人もいるが、みんな笑顔なのが嬉しい。爽やかな秋晴れの下、こんな舟遊びは実に雅で風流だ。『日本人に生まれて良かった♡♡♡』と、
精神こころから思わせてくれるひと時であった♪



舟遊びをして楽しんだ後は、船着き場の近くの広場でバドミントンなどをやってみた。実に久し振りである。中学時代、テニスを齧った事はあるし、友達と遊んだ事もあるが。それっきりだ。貴志さんはさすがの身体能力で、アタシが返す羽根シャトルは全て返球(?)してくれる。それにとても上手で、アタシに返し易いレシーブをしてくれる。ラリーが続けば楽しいし、アタシが落としてしまっても「真唯さん、ドンマイ!」とやはり笑顔を返してくれる。実にデキた旦那さまである(照)。
 運動をたっぷりした後は、お待ちかねの昼食ランチだ。アタシの腕もかなり上がったので、お弁当を作って来た。このまま広場で食べるのも良いが、とっておきの場所があるのだ。そこに貴志さんをご案内して、秋の外飯ランチと洒落込んだ。

 「…ここは…すごい穴場ですね…」

貴志さんの感嘆の声が心地好い。
ここも今回の和船の事を教えてくれたからの情報なのだ。松並木からは少し歩くが、地元の人間ひとしか知らない穴場スポットがあると。そこはススキと萩と秋桜に囲まれた小さな公園だ。落ち着いたライトブルーのトップスとパンツルックにしたのはこの為なのだから。秋のお花見を楽しみ、花が映えるファッションにしたのだ。ちなみにコンセプトは“大人っぽいクールさ”で、纏う薫りは【Week End】のメンズだ。フローラルな【IMprevu】は、涙を飲んで諦めた。ついでながらかれは“チョイ悪親父風”コーデで、何とレイバンのサングラスをしてらっしゃるのだ! 心なしか、女性の視線を感じないのだが、こんな事ならもっと以前まえから常にグラサンを常備して頂きたかった!!
閑話休題。
ロケーションは抜群なのに、人っ子一人いない。でも、あまり雑草がないから、時々の手入れはされているのだろう。公園の真ん中に設えられてる石のテーブルに渾身の力作を並べてゆく。流行りのキャラ弁などはまだまだ難易度が高いが、『秋 行楽 ピクニック お弁当』で検索してみたレシピで作ったのだ。卵焼きや唐揚げの定番選手の出場は勿論、ウィンナーもタコさん形にする高等技術も身に付けた(笑)。秋の味覚の秋刀魚のハンバーグにカボチャの煮物、椎茸のニンニクマヨ味噌焼き、セロリのきんぴら、その他諸々張り切って作った。おにぎりも三角に結べるようになってるし(大笑)。彩り豊かなそれを、貴志さんは喜んで食べてくれた。あ、石の椅子に座る時、アタシの処にだけハンカチを敷いてくれるのは、最早、かれのお約束だ(苦笑)。色鮮やかな秋桜が揺れる中、アタシは愛する旦那さまと心ゆくまでランチを楽しんだのだった。
 満腹になれば眠くなるのが、道理である。
 元の広場に戻る事にするが、そこへ帰るまでの道程みちのりがまた素敵だ。さっきの綾瀬川の支流になってる川沿いを手をつないで歩くのだが、川を渡る秋風に揺れるススキと秋桜の並木なのだ。さっきの公園のような人間ひとの手が入った秋桜ではない、背の高い自然で天然な秋桜なのだ。白や薄紅色ピンク、濃いピンク色の秋の桜が何とも可憐でつい微笑みを誘われてしまう。
 先程、船から見た時はチラリとしか見えなかったから眼の錯覚かと思ったのだが、弁財天さまの御社が改装リニューアルされていた。と言っても御社自体がどうこうではなく、小さな社殿自体を風雨から守るように立派な屋根と外壁(?)が造られていたのである。しかも、よくよく見れば、あの琵琶をお持ちの弁財天立像が社殿の中に安置されているではないか。色鮮やかな秋桜に守られているかのようななよやかな風情は失われてしまったが、その代わり御夫君の梵天ブラフマーに護られているかのような絶対的などっしりとした安定感と安心感がある。まるで、アタシがかれに守られているかのような(照)。アタシは貴志さんと改めて参拝させて頂き、再びの御縁に感謝を申し上げたのだった。
 先程の広場は春は桜が綺麗なのだが、秋は芝生が広がるばかりだ。そこの桜の樹の木陰にレジャーシートを敷いて寝転がり、秋の午睡と洒落込む事にした。腕枕をしたがる旦那さまは、丸っと無視だ!(赤面)


……ああ…空が青くて、高い……


ここに初めて来たのは、まだ恋人時代の事だった。
あの時、初めて『お弁当』なる物を作ったのだった。
マッツンの力を借りて、お花見をしたのだ。
そして、かなり特殊な境遇の初彼に、“普通の幸福しあわせ”を味わってもらうべく画策したのであった。それが現在いまでは立派な旦那さまなのだから、アタシも頑張ったものである(笑)。

 秋空に吸い込まれそうな良い心持ちになりながら、アタシは眼を瞑り……やがて、すっかりと寝入ってしまったのだった。



 短い午睡を愉しんだ後は、駅の近くの市立図書館に行った。
 以前は文化会館の横にあったのだが、今ではすっかり近代化されている。
ちなみに。
この市立の文化会館も色んな公演で何度かお邪魔させてもらってるが。
鋳物で有名な市と湖街レイクタウンで有名な市は立派な施設を建て、その箱に恥じない演者をんでいるのに。お煎餅で有名な市は随分と遅れているようだ。ロビーと呼べる場所が猫の額のように狭くてチープで、未だに和式便器が活躍してる事に驚愕したのは余談である(苦笑)。
が、図書館は、そんな事はない。
キチンと時代の波に乗ってるし、ラノベやマンガ文庫も揃ってるのだ。点字の本や高齢者に優しい大きな字で書かれた本まであるのは嬉しいが、『何故なにゆえその予算を、他の文化事業に回せんのだ!?』と、アタシは声を大にして問いたい気分だ。
閑話休題。
貴志さんとは集合の時間と場所を決めて、一時解散だ。
アタシは先ずは、文庫の場所で池波先生の著作が一通り揃ってる事にニンマリし。最近読んでないマンガのコーナーへ行ってみた。お決まりの手塚氏の古典を横目に、昔懐かしいマンガの続編(?)にを輝かせ飛び付いた。明治時代の旧制高校の『心優しき野蛮人』たちの物語なのだが、このシリーズはかなり忠実に時代を反映していて、第二次世界大戦の終戦で一旦は幕を閉じるのだ。けれども、本編(?)では端折られてしまってる、混血のもう一人の主人公の欧州滞在時代の逸話エピソードが披露されていたのだ。ロシア革命を逃れて亡命して来た佳人や、正体不明のあしながおじさんのお話は夢中になって読んでしまった。『ロシア革命』と云えば思い出すのは、「オルフェウスの窓」だが。ある日、ネット検索してて、『幻のオスカルとアンドレの結婚式』なる物にはブッ飛んだ(笑)。「はいからさんが通る」もこの革命が大きく関わってるが、この秋に公開予定の映画を観に行くかは極めて微妙である(苦笑)。
その他にも、巫女さん(?)が原作者の役者さんたちの永い物語や、転生を繰り返す壮大な愛の物語などがあって。アッと云う間に、閉館時間になってしまったのだった。慌てて貴志さんとの待合場所に急いだのだが、「ご心配なく。私も今、来たところですよ。」などと、定番の台詞を吐いて下さったのだが。このひとの言う事は、あんまりあてにはならない。アタシを思い遣っての事が多いからだ。尚、エプロンをつけたご年配の司書(?)さんが、某ロマンス小説を『ハーレムクイン』と言って市民の方にご案内していたのは、かなり気になる余談である(苦笑)。





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