IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

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三年目の新婚クライシス

No,261 五月闇 其の十二

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空梅雨だと油断してたら、満月を過ぎた頃から急に雨が降り出した。
降り続く雨は気分が滅入る。暗い曇天を見てると気持ちが塞ぐ。
折角、風邪が治ったのに、どこにもゆけない。

仕方がないので、本当に久し振りにPCに電源を入れてみた。
読書したい気分ではないし、今まで電源を入れる気力もなかったのだ。
ブログの読者さまには、引っ越しの前に『都合による無期休載のお知らせ』として通知はしてたから、何の心配も要らなかった。楽しみにしてて下さる皆さまには申し訳ないけど、再び更新出来る日が来るかは全く分からない。あるいは、このまま閉めてしまう事も……実は考えてたりする。

アタシを支えてくれてた一番の理解者であり、一番の最高のファンを失ってしまったのだから。



ネットの世界は、今日も盛況だ。
色んな話題で溢れてる。
検索キーワードには興味ナッシング。
芸能人の誰かと誰かの不倫報道スキャンダルなども以下同文。
仕方がないから、久々にYouTubeでも見てみよう。
こっちの世界も相変わらず賑やかだ。
立派な著作権侵害もあって、笑……ってはいけない、ですね、ハイ。
すごく今更だけど、夢を掴んで有名になったオバサンの歌声を聴いてみた。ミュージカルの曲だから、アタシは知らなかったけど、成る程かなり上手い。ギャップ萌えと云う奴だろうか? 『千本桜』と云うとアタシは吉野山を思い出すけど世間さまは違うらしい。鳥居の奥になぜ断頭台ギロチンがあるのが理解出来ない。訳の理解らん女の子が【鼓童】とコラボしてて、これもなかなか面白かった。某有名格闘家が中心のユニットグループのパフォーマンスは相変わらずユニークだ。二人の某管理官が在籍してた路上パフォーマンス集団(in 原宿)が踊ってたかと思うと、黒服スーツでグラサンの帰国子女たちが箱根を聖地とするアニメと快盗のアニメの曲をBGMにパフォーマンスを繰り広げてた。
調子ブッこいて、色んなものを次から次へと見てみる。
星間戦争の悪役兵士たちが踊り出したかと思うと、古着の背広を着たトリオのオジサンたちがいきなり『実行不可能な任務』を素晴らしいテクニックでバイオリンを弾き出して喝采を浴びてたり。そうかと思えば老人がバスケやフットサルのスーパープレイを見せたりするが、実はハリウッド並みの特殊メイクをした玄人プロだったと云うオチだ。アタシは『夜中にみんな元気だネ★』なんて、明後日な感想を持ったりする(苦笑)。ハリウッドと云えば、知事にまでなった筋肉系役者アクション・ヒーローが殺人機械人間の自分のパロをやって街中を闊歩してる場面ものもあった。
昼食と夕飯を食べても見続けて気が付けば徹夜をしていたが、それはいくつのオススメのリンクを繰り返していた時だっただろう。以前、美輪さんの番組で観た事のある舞踊をってて、何の気なしにクリックしてみたが。……アタシは、いつしか涙を流してた。



画面そこには、生身の千手観音があらっしゃった。


荘厳な鐘の音が鳴り響いたかと思うと神秘的な曲が流れて。


千の御手で悩める衆生を救いたもう観世音菩薩が確かにおいでになった。


それは演技パフォーマンスなどと云う次元を遥かに超えた舞踏だった。
“舞踏”と云うものは元来、神に捧げる人間ひとの表現の一種だが。

それは明らかに、そんなものを超越してしまっていた。

シルヴィ・ギエムの【ボレロ】が“神”と云う超越者グレート・サムシングへ至る“道”を繋げる女祭祀であった事を、オレリー・デュポンが【地球の女神ガイア】そのものと化して、超えてしまったように。
彼女らは、彼らは。単なる表現者と云う枠を超えて、【千手観世音菩薩】と云う至高の存在をその身に降ろし宿し、地上に降りたもうたのだ。生身の【観世音菩薩】が降臨なさって……衆生われらをお救い下さるのだ。その有り難い千の御手を、こちらに差し伸べて。






―――ああ。


どうして、忘れてしまっていられたのだろう。




すべての偶然は、必然であると。

すべての出来事は、すべてアタシの為に起こると云う事を。



―――アタシは。


こんなにも、愛されてる―――



そうして思い出す。
この土地に勧請されてる神様の総氏神様であるお伊勢さんに参拝させて頂いた時の事を。内宮に参拝させて頂いた時に感じた事を。


……この広大な宇宙の中、二千億個もの星々が集う銀河系の中、太陽系が存在すると云う奇跡。

……地球と云う惑星ほしが存在し、太陽が輝き万物を照らしていると云う奇跡。

……海が、水が、空気が、大地があり…そして“アタシ”と云う存在が許されていると云う奇跡。



―――そうして。

【緋龍院貴志】と云う男性ひとと出逢い、愛し合い、“結魂”出来た……大いなる奇跡。



泣けた。
ようやく泣く事が出来た。

泣けて、泣けて、泣けて仕方がなかった。
声を上げて号哭した。




いつしか夜が明けていた。
分厚い雲の切れ目から、が差していた。
天照大御神様がそのかんばせを覗かせて下さったのだ。
けれど、すぐに雨雲に隠されてまた雨が降り出してしまった。
きっと、級長津彦命様と級長戸辺命様のお慈悲だったのだろう。


『何事の おわしますかは 知らねども かたじけなさに 涙こぼるる』
その昔、西行法師が詠んだ句の通り、また泣けた。



この二柱の神様は風雨の神様で、稲作には欠かせない大切な神様だけど。

人間ひとの人生の風雨をも左右し、時には思わぬ大波を起こす神様でもある。



今回の出来事はアタシの人生の中でも、最大級の大波であり荒波でもあった。

でも、思えば。
これは。


木花開耶姫命さまの“お試し”であり。

聖観世音菩薩さまの“お諭し”であったのだ。


……いや、すべては…産まれる前に自分が設定して来た試練であったのだ。


冷たい水で顔を洗ってスッキリしたら、本当に久し振りに鏡をのぞいてみた。
泣き過ぎで目蓋が腫れて浮腫んで酷い顔だ。
けれど、スッキリした良い表情かおをしている。
そして久し振りに感じる朝の空腹感に頬が緩む。
ブランチ用に買い置きしてた食パンで朝食を取ろうとして少し工夫をしてみたくなった。久し振りにピザトーストを食べたくなったのだ。ピザと云っても特別な事は何もない。ピザソースも必要ない。だけど、アタシのとこには壊滅的に何もなかった。かろうじてお醤油とマヨネーズがあっただけだ。昔のしば漬けのCM並みに食べたくなってしまったので、ビニール傘を差して近くのコンビニでお買い物。必要なのはケチャップと蕩けるチーズ、これだけだ。帰宅したら食パンにケチャップを塗ってチーズを乗せてオーブントースターでチン♪ これだけだ。これで立派な“お手軽ピザトースト”の出来上がりだ。そしてこれまた久々にWEDGWOODのカフェ・オ・レ・ボウルでなみなみとカフェ・オ・レを作ってしまった。
「…頂きます…」合掌して、手をつけ頬張った。



「……美味しい……」



思わず声が漏れた。
ホントに久し振りに“食事”が出来た気がする。
少しだけ、また泣けた。

満腹になったら猛烈に眠くなってしまって、素直に身体の欲求に従った。
良く眠って起きたらまたお腹が空いた。お昼を過ぎてたのには驚いたけど。
何だかホントに久し振りに“眠れた”気分がする。

ほったらかしにしてたお肌に久々に化粧水とクリームで栄養をあげて。
アパートから一番近いファミレスで昼食を取る事にした。
ワンコインランチプレートは和食にした。
メニューの内容はシンプルだったけど、それが良かった。
赤味噌のお味噌汁が五臓六腑に沁み渡り。お新香をパリポリと噛み締めて、お魚さんの生命いのちやお米の一粒までをも残さず美味しく有り難く頂いた。……頂けた。
嬉しくて嬉しくて……また、ちょっぴり泣けた。

帰宅する途中、民家のお庭に咲いてた紫陽花の雨に濡れた濃い紫がやけにに沁みて。ようやく思えた。
(…ああ…とても、綺麗だなァ…)
と。





そしてアパートに帰ったアタシがした事は―――“封印”を解く事だった。







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