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三年目の新婚クライシス
No,237 新春の富士山五社めぐり 【前編】
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アタシの“富士山運”は、本当に良いとつぐづく思う。
こうしてバスの前面のガラス窓から、富士の御山の威容をこの目にすると。
※ ※ ※
新年、二○一七年の初詣は相変わらず、出世弁財天さまだ。去年は海外にいて参拝出来なかったので、その分までキッチリご挨拶させて頂いた。近くの【神明庵】と云う御休み処で丁度、甘酒の無料配布サーヴィスがあったので有り難く頂戴した。この寒い中、温かな一杯の甘酒は何にも勝るご馳走だ。なかなか風情のある佇まいの中で、見ず知らずの方々と交わす会話にほっこりとさせられてしまう。これこそ正に“一期一会”だ。お正月の三箇日はこうして平和に過ぎてゆき、新年の先行きも明るいものになりそうでアタシを喜ばせた。四日から貴志さんは、早々と出勤だ。アタシも張り切って今年最初のお弁当を作った。貴志さんに少しでも“庶民の味”を知って頂きたい。幸い好き嫌いのない旦那さまは何を作っても『美味しいです♡』と喜んで食べて下さるから作り甲斐がある。元旦のお雑煮も勿論アタシが作って、二人でお祝いした(お休みは元旦だけで良いと言う君枝さんには、三箇日をゆっくり休んで頂いた)。よ~し、今年も頑張るゾ~♪ などと力が入ってしまうのも、無理からぬ事だろう。ちなみに、三箇日は温泉旅行へ行きましょうなどと云う寝言を謹んで撃退させて頂いたのは、今年最初の余談である(笑)。
そして。
今月は、以前から憧れていた【富士山五社めぐり】のツアーがある。
【レグルス・ツーリズム】のパンフでこのツアーを見つけた時は、小躍りしてしまいそうになった。と言ってもご利益目当ての旅でも、増してやパワースポット巡りがしたいのでもない。単に浪漫を感じるだけである。お正月に冠雪の富士山を間近に拝む事が出来たら、『こいつは春から縁起がよいわえ』だろう。まあ曇天でも雨天でも、その時はその時だ。それもお浅間さまのお導きである。何よりバスのツアーだから、人数が集まらないと中止になってしまう。催行が決定するまではドキドキハラハラだったけど、今回も無事に御縁を頂く事が出来そうで何よりだ。しかも、年末の忘年会で由美センセとご一緒する事になったから、余計に楽しみだ。仏友の優里ちゃんは本当に残念がっていた。気の毒だが仕方がない。四月の西大寺展まで辛抱して頂こう。
その日は朝から本当に良い天気だった。
見事な快晴で空気も澄んでいる。
早朝の空気は冷たくて気持ちが良い。
出勤しなければならない貴志さんとは、玄関で『行ってらっしゃい』『行って来ます』のキスをして、ここでお別れだ。アタシはSPさんの車で新宿駅まで送って頂いた。待ち合わせをしていた由美センセと合流して新年のご挨拶をして、集合時間ギリギリまで楽しくお喋りをして過ごした。女二人旅の相手はいつも優里ちゃんだったから、こんなのも偶には新鮮だ。夕べは興奮してあまり眠れなかったって、あんたは遠足前の子供か!(笑) 由美センセもお正月休みは山中さんと過ごしたそうだ。仲が良くて何よりである。しかし、それよりも。
「…由美センセ…婚約の日取りは、決まったんですか…?」
「え!? 真唯さん、気が早過ぎ…!」
「…センセ…もしかして、プロポーズもまだなんじゃ…」
「………………………」
「もう、山中さんたらっ! 何グズグズしてるのかしら!?」
「…で、でも…春って言ってたから、暖かくなってからで…」
「何言ってんですか! 『来春早々』って言ってたんですから、今月でも全然OKなんですよ!?」
「………………………」
「お正月休みに、由美センセの実家にご挨拶でもしてるのかと思ってました!!」
「………………………」
「明日にでも抗議してやる!!」
「…! そ、それは…止めてあげて…」
真っ赤になってしまった由美センセは、本当に可愛い。
山中さんったら、乙女心が理解ってない!
グズグズしてて他人のものになってから、後悔したって遅いんですからね!!
これは、今日のお参りで、キッチリ祈願しなければ!!!
鼻息荒くバスに乗り込んで。
そうして、冒頭の場面へと戻るのである。
※ ※ ※
山中さんへの理不尽な憤りも、流れる車窓の景色を眺めていれば紛れるし。高速で眩いばかりの富士山が見えて来れば、たちどころに消え失せてしまう。蒼い空に映える富士山は広がる裾野の稜線まで流麗で、正に日の本一の御山である。ハッキリくっきり見えて、思わず伏し拝みたくなってしまう。暖冬のせいか残念ながら冠雪はしてないが、それでも湖の畔を走行中に湖面に綺麗な逆さ富士が見えた時は感動してしまった。
【河口浅間神社】
本日の第一の御社に到着だ。
【浅間神社】とは、一般的に『せんげんじんじゃ』と読むが、この御社は『あさまじんじゃ』と読む。富士山そのものを御神体とするが、御祭神は【浅間大神】と申されるので、ここが正しいのではないだろうか。駐車場から少し歩くと大きな朱の鳥居と天を突くばかりの大樹が見えて来る。恥ずかしながら、この御社への参拝は初めてである。と言うか、【北口本宮冨士浅間神社】と【浅間大社】にしか参拝した事がない。ちなみに由美センセはどこも今回が初との事なので、しっかり参拝して富士の御山のパワーを頂いて欲しいものである(上から目線で済みません/ペコリ)。鳥居の下を深々とお辞儀して潜る。由美センセがそんなアタシを見て慌ててご自分もなさってた。うん、神さまの御社に入らせて頂くご挨拶ですから、なるべくならした方が良いと思いますよ。一歩足を踏み入れた瞬間、厳粛な雰囲気に心を打たれる。最近、パワースポットとして注目を集めてるらしいけど、納得だ。北口本宮に通じる神聖さと“御神気”を確かに感じる。堂々たる杉の古木の参道を歩いてゆくと参道の中央に小さな祠が鎮座していた。かの徐福の子孫ではないかとの伝説がある、この御社の創始者を祀っているらしい。アタシは古代の浪漫に想いを馳せ、お参りした。お手水舎を使うと、古く立派な随神門を潜り、広壮な拝殿に参拝させて頂く。先ずは今回の御縁に感謝の祈りを捧げ。そして祈願をしてしまった。
(…木花開耶姫さま…どうか、由美先生と山中さんの仲が、上手くいきますように…!)
アタシはいつもはお賽銭は五円と決めているが、今回は『充分な御縁』を願って十五円にしておいた。って、アタシってセコイ?(笑)
参拝が終わったら御集印だが、今回は由美センセの『御朱印デビュー』だ。ネットで購入したと云う可愛い千代紙柄の表紙の御朱印帳を持参しておられた。初の御朱印が富士山五社めぐりだなんて、センセは果報者だ。そして今年最初の運試し。御神籤の結果は「凶」だった。……まあ、こんなもんでしょ。後、四つも回れるのだ。何が出て来るかは、その時のお楽しみである。その後は由美センセと、集合時間まで境内をのんびりと散策した。御神木の七本の杉が有名な処だが、それに限らず参道や境内の杉はみィ~んな逞しい生命力に満ち溢れている。注連縄がないから抱き付きたいのを、由美センセと一緒だから我慢ガマンなのだ。見上げたりしたらトリップしちゃいそうだから、ひたすら我慢の子なのだ(苦笑)。その代わりブログでアップする為の写真を撮ったり、由美センセ専属のカメラマンに変身した。キャピキャピの由美センセは、御社殿や御神木が背景のご自分の写真を欲しがったから。
ここがパワースポットとして注目を浴びてると前述したが、ネットに宮司さんのお言葉が載ってて苦言を呈していた。『日本には古来より、「素晴らしい場所」「住みやすい場所」と云う意味で「まほろば」と云う言葉があります。この神社は「パワースポット」ではなく、「まほろば」であると私は思っております』と。至言だと思う。「まほろば」とは日本の古語だが、何とゆかしい響きであろうか。これからは是非我が【強引g 真唯道】でも提唱させて頂きたいと思う。
【北口本宮冨士浅間神社】
もう何回目になるのか、数えるのも忘れてしまう程訪れているアタシの大好きな御社が、本日二番目の目的地である。一之鳥居は街中の車道にあり、御社にある二之鳥居の前に立てば自然と頭が下がってしまう。貴志さんとの初旅行で来た思い出の地でもある(照)。思えば、木花開耶姫さまの御神徳で貴志さんと結婚出来た様なものだ。由美センセたちも是非とも御利益に与って頂きたいものである。苔生した燈籠がズラリと並ぶ杉木立の参道は今日も荘厳で。木漏れ陽が眩しいくらいだ。ここを新年早々歩けるなんて、今年は本当に縁起が良い。三之鳥居は木造の両部鳥居では日本最大の大きさを誇っている。扁額には【三国第一山】とあり、その矜持を伺わせる。随神門を潜れば、神楽殿とその奥に拝殿が見える。だが先ずは、お手水舎を使う。ここの龍神の彫刻はいつ見ても見事だ。龍の口から噴き出る水は、富士山麓から引かれた御霊水だ。いや、“御神水”と申し上げても過言ではない。そんな御水で作法通りに手と口を漱げば、心身ともに清々しい気分になれる。元来お手水舎とは、聖域を訪れる際の儀式である“禊”を簡略化したものとされるから、充分理にかなってると思う。
陽の光を受けて煌めく壮麗な拝殿はいつ来ても神々しい“御神気”に満ちている。やはり参拝客がいつもより多い。初詣なのだろうか。初詣がこのお浅間さまだなんて、何とも羨ましい話だが。アタシも同じ様なものなので、列に並んで参拝の時を待つ。アタシの隣に並んでる由美センセはやや興奮気味だ。良く理解りますよ、そのお気持ち。ここに初めて参拝させて頂けた時の感激と感慨を懐かしく思い出し、胸が熱くなってしまう。そしてやがてやって来た参拝の瞬間。拝殿からでも良く見える金と朱と黒を基調とした豪華絢爛な本殿を拝し、再度の御縁と貴志さんと結婚させて頂けた事に対する感謝を心の中で申し上げ。
(隣にいる佐藤由美先生が、恋人の山中さんと本当の御縁がありますのなら…どうか私と貴志さんのように、幸せになれますように…!!)
今回はアタシのお礼参りと今の祈願の分もあるので、奮発してお賽銭は五百円玉だ。本当は五千円札にしたい気分だったのだが、由美センセの眼を気にしてしまったのだ(苦笑)。この御社は縁結びと夫婦和合の御利益が有名だから、由美センセと山中さんの仲に少しでも進展があるだろう。そしたら改めてお礼参りに来て、今度は優里ちゃんの子授の祈願をしたい。木花開耶姫さまはその出産のエピソードから安産と子授の御利益もまた有名で霊験あらたかなのだ。
自分の参拝が済んだらすぐに後ろの方に譲って階段を降りる。従来の社務所が閉まっていて、境内に大きなテントの社務所が臨時に設置されていたのだ。そちらへ行けば凄い人だかりで、皆さまが色々なものを授与して頂いてる。由美センセが御朱印をお願いしている間に、アタシは本日二度目の運試しだ。結果は……まさかの大吉だった!! どこで頂くよりも嬉しい!! これで今年の開運も間違いなしだ!!! 『何をしても あとはよくなる見込みがあり、目的を変えてもよい運です。意志を強く持ち努力すれば龍が天に昇るように出世します。』とあって、どこを読んでも良い事しか書かれてない。河口浅間神社での凶なんて、吹き飛ばして下さった♪ ホクホクの恵比寿顔になってしまうアタシと、同じく無事に御朱印をゲットしてご機嫌の由美センセと。思わず並んでツーショットを添乗員さんにお願いしてしまった。
やる事をやったら後はフリータイムだ。アタシは由美センセを境内を案内した。拝殿の後ろをグルリと回れば、御神木の富士次郎杉があり、東宮がある。ここは木花開耶姫さまの御子神さまである彦火火出見尊さまが祀られている。山幸彦の名で良く知られる神さまだ。縁結びの神様でもあるので、由美センセとしっかりお参りしておいた。本殿の裏には恵比寿社がある。【冨士ゑびす】と名高い、左甚五郎の作と言われる恵比寿さまと大黒天のお像がある。にっこり福々しいお顔は新年の幕開けに相応しい。今年一年を笑顔で乗り切れる様にしっかり参拝させて頂く。そして西宮には天照大御神さまと豊受大御神さま、琴平大神さまがお祀りされていらっしゃる。伊勢神宮以来の御縁に有り難く参拝させて頂いた。拝殿から少し離れた処にある御社は諏訪神社だ。初めてこの北口本宮に参拝した時、御朱印がお諏訪さんのもあって疑問に思ったものだが。後年、色々調べたり、教えてもらったりして納得してしまった。ここにも丁寧に参拝させて頂いて、古の昔に想いを巡らせた。
再び拝殿の前に戻って来れば二本の巨木がある。御神木の富士太郎杉と富士夫婦檜だ。昔は太郎杉の方が好きだった。けれど今は、夫婦檜の方に思い入れがある。名前もそうだが、何より。貴志さんが守ろうとして下さった樹だから……
あの時、バーバリのスプリングコートを纏った、現在では旦那さまになってる男性に束の間、想いを馳せていた。あの日誓った『自分の中の自己卑下とさよならしよう』との想いは、大分実現されてる気がする。他ならぬ、貴志さんのお陰で。『アタシなんか』なんて言葉は最近は内心でも思わなくなったし。アタシを心から愛してくれる男性のお陰だ―――
アタシは木花開耶姫さまの御利益と御神徳をしみじみと噛み締めて、帰る時、【冨士山】との扁額のある二之鳥居で深々と感謝の一礼をしたのだった。
【東口本宮富士浅間神社】
初めて参拝させて頂くので、楽しみにしていた御社なのだが。
鳥居にある【不二山】との扁額が由緒の正しさを物語る様だ。
朱色の鮮やかな楼門を潜れば、これまた朱塗りの美々しいこじんまりとした御社が鎮座していた。富士山と桜の花が描かれたお賽銭箱に、木花開耶姫さまの御神徳を伺わせる。ここでは初めての御縁を頂く感謝と、そして由美センセと山中さんとの事をくれぐれもお願いしておいた。
そしてそこで事件は起こった。何と、「大凶」を引いてしまったのだ。
いつものアタシなら無邪気に喜んだろう。
『ラッキー♪ 超レアですね!』
と。
だが。
場合が場合だ。
選りにも選って、【富士山五社めぐり】最中のお浅間さまのお言葉なのだ。
読んでみるとさすがに大凶、悪い事しか書かれてない。
いっそ清々しいくらいだ。
その昔、西新井大師で引いた大凶の方が、まだ救いがあった。
アタシはこの日初めて、御神籤を結んでいくべきか否か真剣に悩んでしまう事になったのだった。
だが、どんなに気落ちしていようともお腹は空くのだ。
このバスツアーでは、お弁当がお茶と共に配布される。正直なところ、あまり期待はしてなかったのだが、今回は良い意味で裏切られてしまった。やけに立派な包みに入ってると思ったら、何と「銀座 大増」のお弁当だったのだ。ご飯もおかずも彩り鮮やかで絶妙に配置されていた。中央には実に見事な桜の花が咲いていたのだ。梅を使って着色したのであろうそのご飯は正に桜色で、錦糸卵が花糸を模していて。一足早い春の訪れを告げているかの様だった。おかずもすごく美味だった。煮物は上品な薄味で、鮭は塩加減と焼き加減が秀逸で。何より卵焼きが美味しかったのが、アタシの中のポイントを上昇させていた。
大凶の衝撃を和らげてしまえる程に(笑)。
こうしてバスの前面のガラス窓から、富士の御山の威容をこの目にすると。
※ ※ ※
新年、二○一七年の初詣は相変わらず、出世弁財天さまだ。去年は海外にいて参拝出来なかったので、その分までキッチリご挨拶させて頂いた。近くの【神明庵】と云う御休み処で丁度、甘酒の無料配布サーヴィスがあったので有り難く頂戴した。この寒い中、温かな一杯の甘酒は何にも勝るご馳走だ。なかなか風情のある佇まいの中で、見ず知らずの方々と交わす会話にほっこりとさせられてしまう。これこそ正に“一期一会”だ。お正月の三箇日はこうして平和に過ぎてゆき、新年の先行きも明るいものになりそうでアタシを喜ばせた。四日から貴志さんは、早々と出勤だ。アタシも張り切って今年最初のお弁当を作った。貴志さんに少しでも“庶民の味”を知って頂きたい。幸い好き嫌いのない旦那さまは何を作っても『美味しいです♡』と喜んで食べて下さるから作り甲斐がある。元旦のお雑煮も勿論アタシが作って、二人でお祝いした(お休みは元旦だけで良いと言う君枝さんには、三箇日をゆっくり休んで頂いた)。よ~し、今年も頑張るゾ~♪ などと力が入ってしまうのも、無理からぬ事だろう。ちなみに、三箇日は温泉旅行へ行きましょうなどと云う寝言を謹んで撃退させて頂いたのは、今年最初の余談である(笑)。
そして。
今月は、以前から憧れていた【富士山五社めぐり】のツアーがある。
【レグルス・ツーリズム】のパンフでこのツアーを見つけた時は、小躍りしてしまいそうになった。と言ってもご利益目当ての旅でも、増してやパワースポット巡りがしたいのでもない。単に浪漫を感じるだけである。お正月に冠雪の富士山を間近に拝む事が出来たら、『こいつは春から縁起がよいわえ』だろう。まあ曇天でも雨天でも、その時はその時だ。それもお浅間さまのお導きである。何よりバスのツアーだから、人数が集まらないと中止になってしまう。催行が決定するまではドキドキハラハラだったけど、今回も無事に御縁を頂く事が出来そうで何よりだ。しかも、年末の忘年会で由美センセとご一緒する事になったから、余計に楽しみだ。仏友の優里ちゃんは本当に残念がっていた。気の毒だが仕方がない。四月の西大寺展まで辛抱して頂こう。
その日は朝から本当に良い天気だった。
見事な快晴で空気も澄んでいる。
早朝の空気は冷たくて気持ちが良い。
出勤しなければならない貴志さんとは、玄関で『行ってらっしゃい』『行って来ます』のキスをして、ここでお別れだ。アタシはSPさんの車で新宿駅まで送って頂いた。待ち合わせをしていた由美センセと合流して新年のご挨拶をして、集合時間ギリギリまで楽しくお喋りをして過ごした。女二人旅の相手はいつも優里ちゃんだったから、こんなのも偶には新鮮だ。夕べは興奮してあまり眠れなかったって、あんたは遠足前の子供か!(笑) 由美センセもお正月休みは山中さんと過ごしたそうだ。仲が良くて何よりである。しかし、それよりも。
「…由美センセ…婚約の日取りは、決まったんですか…?」
「え!? 真唯さん、気が早過ぎ…!」
「…センセ…もしかして、プロポーズもまだなんじゃ…」
「………………………」
「もう、山中さんたらっ! 何グズグズしてるのかしら!?」
「…で、でも…春って言ってたから、暖かくなってからで…」
「何言ってんですか! 『来春早々』って言ってたんですから、今月でも全然OKなんですよ!?」
「………………………」
「お正月休みに、由美センセの実家にご挨拶でもしてるのかと思ってました!!」
「………………………」
「明日にでも抗議してやる!!」
「…! そ、それは…止めてあげて…」
真っ赤になってしまった由美センセは、本当に可愛い。
山中さんったら、乙女心が理解ってない!
グズグズしてて他人のものになってから、後悔したって遅いんですからね!!
これは、今日のお参りで、キッチリ祈願しなければ!!!
鼻息荒くバスに乗り込んで。
そうして、冒頭の場面へと戻るのである。
※ ※ ※
山中さんへの理不尽な憤りも、流れる車窓の景色を眺めていれば紛れるし。高速で眩いばかりの富士山が見えて来れば、たちどころに消え失せてしまう。蒼い空に映える富士山は広がる裾野の稜線まで流麗で、正に日の本一の御山である。ハッキリくっきり見えて、思わず伏し拝みたくなってしまう。暖冬のせいか残念ながら冠雪はしてないが、それでも湖の畔を走行中に湖面に綺麗な逆さ富士が見えた時は感動してしまった。
【河口浅間神社】
本日の第一の御社に到着だ。
【浅間神社】とは、一般的に『せんげんじんじゃ』と読むが、この御社は『あさまじんじゃ』と読む。富士山そのものを御神体とするが、御祭神は【浅間大神】と申されるので、ここが正しいのではないだろうか。駐車場から少し歩くと大きな朱の鳥居と天を突くばかりの大樹が見えて来る。恥ずかしながら、この御社への参拝は初めてである。と言うか、【北口本宮冨士浅間神社】と【浅間大社】にしか参拝した事がない。ちなみに由美センセはどこも今回が初との事なので、しっかり参拝して富士の御山のパワーを頂いて欲しいものである(上から目線で済みません/ペコリ)。鳥居の下を深々とお辞儀して潜る。由美センセがそんなアタシを見て慌ててご自分もなさってた。うん、神さまの御社に入らせて頂くご挨拶ですから、なるべくならした方が良いと思いますよ。一歩足を踏み入れた瞬間、厳粛な雰囲気に心を打たれる。最近、パワースポットとして注目を集めてるらしいけど、納得だ。北口本宮に通じる神聖さと“御神気”を確かに感じる。堂々たる杉の古木の参道を歩いてゆくと参道の中央に小さな祠が鎮座していた。かの徐福の子孫ではないかとの伝説がある、この御社の創始者を祀っているらしい。アタシは古代の浪漫に想いを馳せ、お参りした。お手水舎を使うと、古く立派な随神門を潜り、広壮な拝殿に参拝させて頂く。先ずは今回の御縁に感謝の祈りを捧げ。そして祈願をしてしまった。
(…木花開耶姫さま…どうか、由美先生と山中さんの仲が、上手くいきますように…!)
アタシはいつもはお賽銭は五円と決めているが、今回は『充分な御縁』を願って十五円にしておいた。って、アタシってセコイ?(笑)
参拝が終わったら御集印だが、今回は由美センセの『御朱印デビュー』だ。ネットで購入したと云う可愛い千代紙柄の表紙の御朱印帳を持参しておられた。初の御朱印が富士山五社めぐりだなんて、センセは果報者だ。そして今年最初の運試し。御神籤の結果は「凶」だった。……まあ、こんなもんでしょ。後、四つも回れるのだ。何が出て来るかは、その時のお楽しみである。その後は由美センセと、集合時間まで境内をのんびりと散策した。御神木の七本の杉が有名な処だが、それに限らず参道や境内の杉はみィ~んな逞しい生命力に満ち溢れている。注連縄がないから抱き付きたいのを、由美センセと一緒だから我慢ガマンなのだ。見上げたりしたらトリップしちゃいそうだから、ひたすら我慢の子なのだ(苦笑)。その代わりブログでアップする為の写真を撮ったり、由美センセ専属のカメラマンに変身した。キャピキャピの由美センセは、御社殿や御神木が背景のご自分の写真を欲しがったから。
ここがパワースポットとして注目を浴びてると前述したが、ネットに宮司さんのお言葉が載ってて苦言を呈していた。『日本には古来より、「素晴らしい場所」「住みやすい場所」と云う意味で「まほろば」と云う言葉があります。この神社は「パワースポット」ではなく、「まほろば」であると私は思っております』と。至言だと思う。「まほろば」とは日本の古語だが、何とゆかしい響きであろうか。これからは是非我が【強引g 真唯道】でも提唱させて頂きたいと思う。
【北口本宮冨士浅間神社】
もう何回目になるのか、数えるのも忘れてしまう程訪れているアタシの大好きな御社が、本日二番目の目的地である。一之鳥居は街中の車道にあり、御社にある二之鳥居の前に立てば自然と頭が下がってしまう。貴志さんとの初旅行で来た思い出の地でもある(照)。思えば、木花開耶姫さまの御神徳で貴志さんと結婚出来た様なものだ。由美センセたちも是非とも御利益に与って頂きたいものである。苔生した燈籠がズラリと並ぶ杉木立の参道は今日も荘厳で。木漏れ陽が眩しいくらいだ。ここを新年早々歩けるなんて、今年は本当に縁起が良い。三之鳥居は木造の両部鳥居では日本最大の大きさを誇っている。扁額には【三国第一山】とあり、その矜持を伺わせる。随神門を潜れば、神楽殿とその奥に拝殿が見える。だが先ずは、お手水舎を使う。ここの龍神の彫刻はいつ見ても見事だ。龍の口から噴き出る水は、富士山麓から引かれた御霊水だ。いや、“御神水”と申し上げても過言ではない。そんな御水で作法通りに手と口を漱げば、心身ともに清々しい気分になれる。元来お手水舎とは、聖域を訪れる際の儀式である“禊”を簡略化したものとされるから、充分理にかなってると思う。
陽の光を受けて煌めく壮麗な拝殿はいつ来ても神々しい“御神気”に満ちている。やはり参拝客がいつもより多い。初詣なのだろうか。初詣がこのお浅間さまだなんて、何とも羨ましい話だが。アタシも同じ様なものなので、列に並んで参拝の時を待つ。アタシの隣に並んでる由美センセはやや興奮気味だ。良く理解りますよ、そのお気持ち。ここに初めて参拝させて頂けた時の感激と感慨を懐かしく思い出し、胸が熱くなってしまう。そしてやがてやって来た参拝の瞬間。拝殿からでも良く見える金と朱と黒を基調とした豪華絢爛な本殿を拝し、再度の御縁と貴志さんと結婚させて頂けた事に対する感謝を心の中で申し上げ。
(隣にいる佐藤由美先生が、恋人の山中さんと本当の御縁がありますのなら…どうか私と貴志さんのように、幸せになれますように…!!)
今回はアタシのお礼参りと今の祈願の分もあるので、奮発してお賽銭は五百円玉だ。本当は五千円札にしたい気分だったのだが、由美センセの眼を気にしてしまったのだ(苦笑)。この御社は縁結びと夫婦和合の御利益が有名だから、由美センセと山中さんの仲に少しでも進展があるだろう。そしたら改めてお礼参りに来て、今度は優里ちゃんの子授の祈願をしたい。木花開耶姫さまはその出産のエピソードから安産と子授の御利益もまた有名で霊験あらたかなのだ。
自分の参拝が済んだらすぐに後ろの方に譲って階段を降りる。従来の社務所が閉まっていて、境内に大きなテントの社務所が臨時に設置されていたのだ。そちらへ行けば凄い人だかりで、皆さまが色々なものを授与して頂いてる。由美センセが御朱印をお願いしている間に、アタシは本日二度目の運試しだ。結果は……まさかの大吉だった!! どこで頂くよりも嬉しい!! これで今年の開運も間違いなしだ!!! 『何をしても あとはよくなる見込みがあり、目的を変えてもよい運です。意志を強く持ち努力すれば龍が天に昇るように出世します。』とあって、どこを読んでも良い事しか書かれてない。河口浅間神社での凶なんて、吹き飛ばして下さった♪ ホクホクの恵比寿顔になってしまうアタシと、同じく無事に御朱印をゲットしてご機嫌の由美センセと。思わず並んでツーショットを添乗員さんにお願いしてしまった。
やる事をやったら後はフリータイムだ。アタシは由美センセを境内を案内した。拝殿の後ろをグルリと回れば、御神木の富士次郎杉があり、東宮がある。ここは木花開耶姫さまの御子神さまである彦火火出見尊さまが祀られている。山幸彦の名で良く知られる神さまだ。縁結びの神様でもあるので、由美センセとしっかりお参りしておいた。本殿の裏には恵比寿社がある。【冨士ゑびす】と名高い、左甚五郎の作と言われる恵比寿さまと大黒天のお像がある。にっこり福々しいお顔は新年の幕開けに相応しい。今年一年を笑顔で乗り切れる様にしっかり参拝させて頂く。そして西宮には天照大御神さまと豊受大御神さま、琴平大神さまがお祀りされていらっしゃる。伊勢神宮以来の御縁に有り難く参拝させて頂いた。拝殿から少し離れた処にある御社は諏訪神社だ。初めてこの北口本宮に参拝した時、御朱印がお諏訪さんのもあって疑問に思ったものだが。後年、色々調べたり、教えてもらったりして納得してしまった。ここにも丁寧に参拝させて頂いて、古の昔に想いを巡らせた。
再び拝殿の前に戻って来れば二本の巨木がある。御神木の富士太郎杉と富士夫婦檜だ。昔は太郎杉の方が好きだった。けれど今は、夫婦檜の方に思い入れがある。名前もそうだが、何より。貴志さんが守ろうとして下さった樹だから……
あの時、バーバリのスプリングコートを纏った、現在では旦那さまになってる男性に束の間、想いを馳せていた。あの日誓った『自分の中の自己卑下とさよならしよう』との想いは、大分実現されてる気がする。他ならぬ、貴志さんのお陰で。『アタシなんか』なんて言葉は最近は内心でも思わなくなったし。アタシを心から愛してくれる男性のお陰だ―――
アタシは木花開耶姫さまの御利益と御神徳をしみじみと噛み締めて、帰る時、【冨士山】との扁額のある二之鳥居で深々と感謝の一礼をしたのだった。
【東口本宮富士浅間神社】
初めて参拝させて頂くので、楽しみにしていた御社なのだが。
鳥居にある【不二山】との扁額が由緒の正しさを物語る様だ。
朱色の鮮やかな楼門を潜れば、これまた朱塗りの美々しいこじんまりとした御社が鎮座していた。富士山と桜の花が描かれたお賽銭箱に、木花開耶姫さまの御神徳を伺わせる。ここでは初めての御縁を頂く感謝と、そして由美センセと山中さんとの事をくれぐれもお願いしておいた。
そしてそこで事件は起こった。何と、「大凶」を引いてしまったのだ。
いつものアタシなら無邪気に喜んだろう。
『ラッキー♪ 超レアですね!』
と。
だが。
場合が場合だ。
選りにも選って、【富士山五社めぐり】最中のお浅間さまのお言葉なのだ。
読んでみるとさすがに大凶、悪い事しか書かれてない。
いっそ清々しいくらいだ。
その昔、西新井大師で引いた大凶の方が、まだ救いがあった。
アタシはこの日初めて、御神籤を結んでいくべきか否か真剣に悩んでしまう事になったのだった。
だが、どんなに気落ちしていようともお腹は空くのだ。
このバスツアーでは、お弁当がお茶と共に配布される。正直なところ、あまり期待はしてなかったのだが、今回は良い意味で裏切られてしまった。やけに立派な包みに入ってると思ったら、何と「銀座 大増」のお弁当だったのだ。ご飯もおかずも彩り鮮やかで絶妙に配置されていた。中央には実に見事な桜の花が咲いていたのだ。梅を使って着色したのであろうそのご飯は正に桜色で、錦糸卵が花糸を模していて。一足早い春の訪れを告げているかの様だった。おかずもすごく美味だった。煮物は上品な薄味で、鮭は塩加減と焼き加減が秀逸で。何より卵焼きが美味しかったのが、アタシの中のポイントを上昇させていた。
大凶の衝撃を和らげてしまえる程に(笑)。
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【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
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2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
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