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二年目の新婚夫妻(バカップル)
No,231 仏友との女二人旅 in 奈良 其の五
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アタシと優里ちゃんは朝食をとると早々にホテルをチェックアウトした。
居心地のすこぶる良かった重厚な御宿を後にして。
近鉄に乗って目的の駅で降りて。
駅のコインロッカーに二人のキャリーバッグを預けて。
アサイチで目指した場所は。
【西大寺】
その昔はかの東大寺と共に、平城京の都の東西を護持する大伽藍であったが。
現在は当時の面影は既になく。
大茶盛式などばかりが有名になってしまった。
が、しかし。奈良時代の寺域の十分の一に減ってしまったとは云え、広大な敷地の中に数々の御堂の仏像などのお宝が奇跡的に遺された貴重な御寺なのである。国宝指定になってる物も決して少なくない。
商店街の中を歩いていると、突如として現れる御寺。
東の大寺と比べるとあまりにも侘しいが。
アタシにはこれくらいが丁度良い。
東門を入って最初に見える四王堂で四天王像を拝観させて頂く。アタシが注目するのは勿論、四天王の足元に踏ん付けられてる邪鬼さんたちである。この子たちだけが奈良時代のお像で、却って上の四天王像たちが鎌倉・室町時代の後世の物だと云うから『おそれおおい、ひかえおろう!』とどごぞの時代劇の某ご長寿番組のように叫びたい気分になる(笑)。十一面観音像と共にこころゆくまで拝観したら。
外に出て今更ではあるが、お手水舎で手と口を漱ぐ。ここの龍の彫刻は一般的な物ではなく、龍体がお手水鉢の背後にまでキチンと精巧に造りこまれているのでこれだけでも一見の価値がある。
そして身を清めたら、いよいよ本堂に参拝である。
そして、本堂の中に一歩足を踏み入れれば―――そこには正に“浄土”の世界が存在した。
暗い御堂の中を金色の燈籠が数限りなく埋め尽くし、目映い光を放ってる。
その法の灯よりもまばゆい“仏”があるのだが。
先ずは正面の御本尊にご挨拶が筋であろう。
本尊釈迦如来立像は京都の嵯峨の清涼寺の像である“生身の釈迦”を模刻した“清涼式”と呼ばれている。正直申し上げれば、アタシの好みではないのだが(ご無礼!/笑)、この西大寺が今日まで存続して下さってる事と再びの御縁に感謝を申し上げる。
そうして横に眼を転じれば……
【騎獅文殊菩薩渡海図像】
アタシの大好きなお像である。
文殊菩薩と言えば、安倍文殊院の大仏師・快慶のお像が有名だが。
アタシは西大寺の文殊菩薩に、よりココロ惹かれている。
大きな獅子の上の蓮華座に座した文殊菩薩が、優填王、最勝老人、仏陀波利、善財童子の四人の眷属を従えているのだが。金色のきらびやかな光背にお像は決して負けてはいない。豪奢にして華麗な意匠の宝冠とお衣装や瓔珞などの装飾。蓮華座に座してこちらを見下ろされている菩薩さまのお表情は僅かな微笑みをたたえていて。衆生の行く末を、決して案じてはいない。どこか絶対的な信頼を感じるのだ。このお像を拝していると。
『安堵せよ。』
との御声が、今にも聴こえてきそうなのである。
あるいはその信頼は、己の眷属に寄せるものかも知れないが。“知恵の仏”を拝する我々をも、絶対的な安堵と幸福の世界へと誘って下さるのだ。
決してあの世ではない。
現実世界である。
アタシは文殊菩薩さまに現世利益を祈願した事は一度もないが。
このお像はこの世の迷える衆生を確かに救いたもう仏なのである。
荘厳な雰囲気の本堂の中で、アタシはいつまでもこのお像の前から動く事が出来ずにいたのだった。
※ ※ ※
アタシたちは駅に戻ると、一路京都を目指した。
実は奈良だけにするか京都も欲張るか、計画段階でかなり悩んで何度も相談しあったのだ。奈良だけなら海龍王寺や法華寺などへ行っても良いと思ったのだが。結局は京都も含める欲張りコースになってしまった。そして京都駅に着くと、キャリーバッグをコインロッカーに入れて、歩いても行ける距離をタクシーで向かった。
【三十三間堂】
正式名称は【妙法院蓮華王院】
建立には様々な貴族や天皇・上皇や武士の思惑が複雑に絡み合っているが。
二十一世紀の平成の現在、そんな状況をアレコレ言っても始まらない。
“千手観音千体の御堂”
それで良いのだ。
拝観チケットを購入し、中に入る。
風神・雷神を始め観音二十八部衆などのお像があるが。
アタシが一番好きなのは、大弁功徳天像だ。
必ず足が止まってしまう。
功徳天とは吉祥天の別称であり、美と福徳の女神だが。
このお像は功徳天と弁財天が合体した女神だ。
まるで奏でられる音楽を眼で見ているような流麗な御姿は他に比類ない。
華美な装飾を一切施さずに華麗な造形を成し得た技は驚嘆に値する。
浄瑠璃寺で吉祥天を拝する事が出来なかった鬱憤を吹き飛ばして下さる。
如意宝珠はお持ちではないが、確かにこの御方は幸運を司る女神である。
穏やかな眼差しは、澄んだ泉のようにただひたすらに静かで清らかだ。
様々なお像を拝して。
いよいよ千体の千手観音とご対面だ。
観音とは観世音菩薩、もしくは観自在菩薩とも言う。『この世の音を観る菩薩』の意で衆生の声を聴き取り、自在に救済して下さる有り難い仏さまなのである。千手観音とは正しくは十一面千手千眼観自在菩薩と申されて、掌には眼がありその千の眼で衆生の苦しみと願いを観て、千の手で行動を起こして救って下さるのだ。どんな凡夫でも漏らさず救おうとする広大無限な慈悲の心をお持ちなのである。合掌の両手を除けば四十の手があり、一つの手に二十五有界を差配するとの本義に基づき千手を象徴する訳である。
千体の立像と一体の坐像の群像は“圧巻”の一言に尽きる。五百羅漢の中には自分の肉親とそっくりなお像があると言われるが。この千の千手観音の中にもそれがあるとの俗信がある。生憎探す時間もその気もない(苦笑)。アタシは仏師たちの技と努力の結晶を眺めさせて頂けるだけで充分だ。
中尊の坐像の御前に立って。
再びの御縁に感謝を申し上げて。
しみじみお見上げさせて頂く。
頭上の化仏もそれぞれの持物も光背も。
何もかもが豪奢で、そして緻密だ。
六観音と称される観音の中では、千手観音は餓鬼道に堕ちた者を救済する観音とされるが。無駄に年ばかりとってしまったが精神年齢がまだまだお子さまでしかないアタシをもお救い下さるであろうか。
アタシはまばゆいそのお像にお縋りするように、いつまでもその場に佇んでいた。
【東寺】
本日の。
そして今回の旅行のオーラスの御寺である。
またの名を、教王護国寺。
東寺真言宗の総本山とも言える場所である。
八世紀末、平安京の正門の羅生門の東西に【東寺】と【西寺】と云う2つの寺院の建立が計画された。これは言う間でもなく、平安京の右京と左京を守り、ひいては東国と西国を護る国家鎮護の寺と云う意味合いもあった。
今日、【西寺】の存在を知る人は、あまりにも少ない。
そして。
アタシと優里ちゃんにとっては、思い出の御寺でもある。
「…真唯さんと、またここに参拝に来る事が出来るなんて…感慨深いです…」
「…理恵ちゃんと亜美ちゃんは元気? …連絡とってるんだっけ…?」
「…亜美ちゃんは今でも真唯さんのブログの愛読者で、もう一児のお母さんですよ…理恵とは年賀状の遣り取りだけです…」
「…そうね、そんなもんよね…亜美ちゃんがまだ私のブログを読んでくれてるのは嬉しいけど…そっか、一児のおっ母さんか…」
「可愛い写真入りの年賀状が来ますもん…仕事が楽しくて忙しくてずっとその気になれませんでしたけど…そろそろ私も悟くんの赤ちゃんが欲しいな…って。」
「そっか…浄瑠璃寺でも子安地蔵にご祈願してたみたいだし、ご利益があったらお礼参りに行かないとね!」
「その時はまた是非ご一緒して下さい! そしたら今度こそ、吉祥天女像の御開帳の時に行きましょうよ!!」
「それは嬉しいけど…木島さんが一緒に来たがるんじゃないの? …デートの邪魔しちゃ悪いし…」
「何言ってるんですか! そしたら上井さんも誘って、ダブルデートにしましょーよ! 今から楽しみですね!!」
「…気長に待ってるわ…」
そんな会話をしながら、食堂の裏にあるお手水舎で手と口を漱ぎ。
先ずは立体曼陀羅のある講堂を目指す。
須弥壇中央にあらっしゃるのが、大日如来さま…真言密教の中心の仏さまであり、全宇宙の根源の仏である。周りを囲んでいらっしゃるのは、宝生如来、阿弥陀如来、不空成就如来、阿閦如来さま。合わせて【五智如来】さまと申される。向かって右(東)には金剛波羅蜜多菩薩を中心とする五大菩薩さま。左(西)側には不動明王を中心とした五大明王さま。須弥壇の東の端に鵞鳥に支えられた蓮華座に安置されてらっしゃるのは梵天さま。西の端で象に乗っていらっしゃるのが帝釈天さま。四隅においでなのは四天王さま。以上、全部で二十一体の彫像が、立体曼陀羅を構成していらっしゃる。
東大寺・法華堂は、本来在るべき場所を火事などのやむを得ない事情で失った仏像が避難先として運ばれて来たような、他の御堂からの移入であったり客仏であったりして。それが長い時間を掛けて熟成されていくような感覚で、一つのハーモニーを奏でるような空間になっていった稀有な御堂であるが。それとは正反対に、最初から計算され尽くした完璧なオーケストラを目指して成功させた御堂である【講堂 立体曼陀羅】に耳を澄ます。
五智如来や五大明王の作例は少なくないが、五菩薩はあまりない。『金剛頂経』や『仁王経』などをもとに弘法大師・空海が独自に発案したものと言われている。アタシは中央におられる、大日如来の正法輪身である金剛波羅蜜多菩薩をお見上げする。金剛石のように堅固な悟りを求める心から放たれる光明であまねく世界を照らし、全ての衆生に悟りを開かせる智慧をお持ちの菩薩さまを意味する。
……貴志さんは、アタシの金剛波羅蜜多菩薩さまかも知れない……アタシに悟りを開く事なんて無理かも知れないけど……
アタシはお不動さまが好きだけど、正直言って東寺の不動明王坐像は好みではない。降三世明王立像の方が大好きだ。我々衆生が輪廻転生する三つの世界を降伏する金剛杵と云う武器を持つ明王と云う意味だ。経典には『三毒を降すを降三世と名づく』とあり、要するに全ての煩悩を調伏する明王の事なのである。足元に踏み付けているのは鬼ではなく神であり、最初観た時はかなりビックリしたものだ。大自在天の胸を強く踏み付け、その夫人・烏摩は軽く踏んでいるのだと云う。これは煩悩の強弱によっていかようにも調伏の仕方を自在に操ると云う意味らしい。アタシの煩悩はかなり強い自覚があるから、思いっ切り踏み付けて頂かなければならないが。正直、このペッタンコでようやく少し膨らんできた胸を踏ン付けるのは勘弁して頂きたい(苦笑)。
梵天や帝釈天のお像も好みだが、何たってアタシが好きなのは四天王に踏み付けにされてる邪鬼さんである。
【密教】と云う一種の仏教宇宙でもって鎮護国家・人民救済を“祈念する”と云うより、“実現してみせる”とでも云うべき真言密教の開祖・空海の強い想いがそのまま型になったこの講堂内部は、予備知識が多少はあっても初めて中に入ってこの密教世界を眼にする人間には…その空間の濃密さにさぞかし圧倒される事だろう。京の都の玄関口に建ち、帝のおわす内裏に魔が入り込めないよう守護するのがこの東寺、真言宗総本山・教王護国寺のお役目であるが、その御寺の中でも最高の舞台に立つのは空海が己の理想実現の為にプロデュースした最高クラスの諸仏諸尊。綺羅星の如く居並んだスターたちと共演するのは云うまでもなく我らが邪鬼クンなのである(笑)。
象に乗った帝釈天を挟んで、後ろから睨みをきかせているのは広目天だ。彼は戟をお持ちで、(へェ~、平安時代の仏像はこう云う様式もあったんだ~)と感心しきりなのだが。アタシは無責任な観察者であって、様式の年代を詳しく調べたりはしないので、そこはご容赦願いたい。そして広目天下の右側の鬼は左足を伸ばし、そのつま先を左手で押さえ、まるでストレッチをしているかのようだ。だが左側の鬼はもっと凄い。体育座りか胡坐をかいたような格好で思いっ切り右に向き直り、じっと横の相棒を見詰めているのだ。『おめぇーも、大変だなァ~』風に。自分たちの立場を理解しているのかいないのか。広目天の存在など、ましてや自分たちが踏み付けられている事など“我関せず”だ。こんな自由な邪鬼がいて良いものだろうか。天皇が国家の安泰を祈らせる為、弘法大師に勅命を発して建てさせたこのお寺で、である。見つけた時にはかなり驚いたものだが。
以来、アタシは彼を【フリーマン・邪鬼】と呼んで、心密かに愛でている(笑)。いや、ブログでそう紹介してるのだから、“心密かに”と云うのは違うかも知れないが(苦笑)。とにかく大好きな邪鬼くんたちを心ゆくまで鑑賞して講堂を出たのだった。
「今回の旅行も有意義でしたねェ~!」
『京の彩り おばんざい弁当』を食べながら優里ちゃんが呟く。
「いやいや、家に着くまでが旅行だから。」
柿の葉寿司弁当を食べながら呟くアタシは、つくづく苦労性である。
今アタシたちは金堂の薬師如来三尊像を拝観し、京都のシンボルの五重塔の威容をしみじみたっぷりお見上げして。瓢箪池を散策した後、ベンチに座って駅で買ったお弁当で昼食をとっているのである。どこかのお店に入っても良かったのだが、折角天気が良いので青空の下、東寺の伽藍をのんびり眺めながらランチタイムと洒落込みたかったのだ。
……それにしても。
優里ちゃんではないけれど、ホントに楽しい旅行だった。
久々の奈良と云う事も嬉しいが、女二人旅と言うのが何より気楽だ。
貴志さんと一緒だとどうしても気を使ってしまう。と言っても、一人旅だと貴志さんを思い出して恋しくなってしまうし、いやはやアタシも贅沢になってしまったものである(ヤケ笑)。
「やっぱり、浄瑠璃寺の彼岸会が最高でしたね♪」
「あれは一生の思い出になるわね!」
「白毫寺の地蔵菩薩も、西大寺の文殊菩薩も良かったし!!」
「優里ちゃんのお礼参りの時は、貴志さんや木島さんもご一緒して遠出したいね!」
「吉野の金峯山寺も良いですよ!」
「そしたら如意輪寺もだよ! あそこでは天井画の如意輪観音さんが絶品だもん!!」
「そうですね! 四人で寝っ転がりましょーね!!」
「…五人でしょ。」
「…あ。」
「…胎教に良いよ…きっと。」
「…神社仏閣や仏像好きな子になってくれたら嬉しいな…」
「女の子だったら、今度は三人で色んな処を回れたら良いね。」
「高野山や延暦寺に連れて行きたいです!!」
「厳島神社や中尊寺も良いよ!」
優里ちゃんの家庭に降りて来て下さる菩薩さま。
あなたはどんな修行を自らに課した魂なのでしょうか?
願わくば。
優里ちゃんと木島さんとの間で、幸福な“愛される”子供であって欲しい。
そして愛する人をみつけて、幸せな一生を過ごして欲しい。
上井真唯と云う小姑がついてくるけどそれは覚悟してね(笑)。
まだ見ぬ優里ちゃんの赤ちゃんに想いを馳せ。
その幸福を心から願った。
……アタシには子供を授かれないし…その資格もないから―――
ちょっぴりセンチメンタルな気分に浸りつつ。
帰りの新幹線に乗る為に、アタシと優里ちゃんは東寺を後にした。
―――こうして。
二泊三日の女二人旅は終わりを告げたのだった。
古の都の芳しい残り香をまとって……
尚、余談であるがタクシーの【お釣りは要らない攻撃】はキッチリ割り勘済みだし、お土産も万全だ。貴志さんと自分土産には珍しいお香と大仏プリンを、君枝さんには奈良漬けを、SPの皆さんには伝統の和菓子を購入し。友人たちには人気のスイーツを手配済みだ。『せ○とくん』や『まん○くん』などと云うご当地のゆるキャラなどには決して惑わされたりしないのだ(爆)。
そして。貴志さんの依頼を受けた澤木さんが【提督閣下】に命じて手配させた【親衛兵】に護衛されていた事など、呑気なアタシは知る由もなかったのだ。
居心地のすこぶる良かった重厚な御宿を後にして。
近鉄に乗って目的の駅で降りて。
駅のコインロッカーに二人のキャリーバッグを預けて。
アサイチで目指した場所は。
【西大寺】
その昔はかの東大寺と共に、平城京の都の東西を護持する大伽藍であったが。
現在は当時の面影は既になく。
大茶盛式などばかりが有名になってしまった。
が、しかし。奈良時代の寺域の十分の一に減ってしまったとは云え、広大な敷地の中に数々の御堂の仏像などのお宝が奇跡的に遺された貴重な御寺なのである。国宝指定になってる物も決して少なくない。
商店街の中を歩いていると、突如として現れる御寺。
東の大寺と比べるとあまりにも侘しいが。
アタシにはこれくらいが丁度良い。
東門を入って最初に見える四王堂で四天王像を拝観させて頂く。アタシが注目するのは勿論、四天王の足元に踏ん付けられてる邪鬼さんたちである。この子たちだけが奈良時代のお像で、却って上の四天王像たちが鎌倉・室町時代の後世の物だと云うから『おそれおおい、ひかえおろう!』とどごぞの時代劇の某ご長寿番組のように叫びたい気分になる(笑)。十一面観音像と共にこころゆくまで拝観したら。
外に出て今更ではあるが、お手水舎で手と口を漱ぐ。ここの龍の彫刻は一般的な物ではなく、龍体がお手水鉢の背後にまでキチンと精巧に造りこまれているのでこれだけでも一見の価値がある。
そして身を清めたら、いよいよ本堂に参拝である。
そして、本堂の中に一歩足を踏み入れれば―――そこには正に“浄土”の世界が存在した。
暗い御堂の中を金色の燈籠が数限りなく埋め尽くし、目映い光を放ってる。
その法の灯よりもまばゆい“仏”があるのだが。
先ずは正面の御本尊にご挨拶が筋であろう。
本尊釈迦如来立像は京都の嵯峨の清涼寺の像である“生身の釈迦”を模刻した“清涼式”と呼ばれている。正直申し上げれば、アタシの好みではないのだが(ご無礼!/笑)、この西大寺が今日まで存続して下さってる事と再びの御縁に感謝を申し上げる。
そうして横に眼を転じれば……
【騎獅文殊菩薩渡海図像】
アタシの大好きなお像である。
文殊菩薩と言えば、安倍文殊院の大仏師・快慶のお像が有名だが。
アタシは西大寺の文殊菩薩に、よりココロ惹かれている。
大きな獅子の上の蓮華座に座した文殊菩薩が、優填王、最勝老人、仏陀波利、善財童子の四人の眷属を従えているのだが。金色のきらびやかな光背にお像は決して負けてはいない。豪奢にして華麗な意匠の宝冠とお衣装や瓔珞などの装飾。蓮華座に座してこちらを見下ろされている菩薩さまのお表情は僅かな微笑みをたたえていて。衆生の行く末を、決して案じてはいない。どこか絶対的な信頼を感じるのだ。このお像を拝していると。
『安堵せよ。』
との御声が、今にも聴こえてきそうなのである。
あるいはその信頼は、己の眷属に寄せるものかも知れないが。“知恵の仏”を拝する我々をも、絶対的な安堵と幸福の世界へと誘って下さるのだ。
決してあの世ではない。
現実世界である。
アタシは文殊菩薩さまに現世利益を祈願した事は一度もないが。
このお像はこの世の迷える衆生を確かに救いたもう仏なのである。
荘厳な雰囲気の本堂の中で、アタシはいつまでもこのお像の前から動く事が出来ずにいたのだった。
※ ※ ※
アタシたちは駅に戻ると、一路京都を目指した。
実は奈良だけにするか京都も欲張るか、計画段階でかなり悩んで何度も相談しあったのだ。奈良だけなら海龍王寺や法華寺などへ行っても良いと思ったのだが。結局は京都も含める欲張りコースになってしまった。そして京都駅に着くと、キャリーバッグをコインロッカーに入れて、歩いても行ける距離をタクシーで向かった。
【三十三間堂】
正式名称は【妙法院蓮華王院】
建立には様々な貴族や天皇・上皇や武士の思惑が複雑に絡み合っているが。
二十一世紀の平成の現在、そんな状況をアレコレ言っても始まらない。
“千手観音千体の御堂”
それで良いのだ。
拝観チケットを購入し、中に入る。
風神・雷神を始め観音二十八部衆などのお像があるが。
アタシが一番好きなのは、大弁功徳天像だ。
必ず足が止まってしまう。
功徳天とは吉祥天の別称であり、美と福徳の女神だが。
このお像は功徳天と弁財天が合体した女神だ。
まるで奏でられる音楽を眼で見ているような流麗な御姿は他に比類ない。
華美な装飾を一切施さずに華麗な造形を成し得た技は驚嘆に値する。
浄瑠璃寺で吉祥天を拝する事が出来なかった鬱憤を吹き飛ばして下さる。
如意宝珠はお持ちではないが、確かにこの御方は幸運を司る女神である。
穏やかな眼差しは、澄んだ泉のようにただひたすらに静かで清らかだ。
様々なお像を拝して。
いよいよ千体の千手観音とご対面だ。
観音とは観世音菩薩、もしくは観自在菩薩とも言う。『この世の音を観る菩薩』の意で衆生の声を聴き取り、自在に救済して下さる有り難い仏さまなのである。千手観音とは正しくは十一面千手千眼観自在菩薩と申されて、掌には眼がありその千の眼で衆生の苦しみと願いを観て、千の手で行動を起こして救って下さるのだ。どんな凡夫でも漏らさず救おうとする広大無限な慈悲の心をお持ちなのである。合掌の両手を除けば四十の手があり、一つの手に二十五有界を差配するとの本義に基づき千手を象徴する訳である。
千体の立像と一体の坐像の群像は“圧巻”の一言に尽きる。五百羅漢の中には自分の肉親とそっくりなお像があると言われるが。この千の千手観音の中にもそれがあるとの俗信がある。生憎探す時間もその気もない(苦笑)。アタシは仏師たちの技と努力の結晶を眺めさせて頂けるだけで充分だ。
中尊の坐像の御前に立って。
再びの御縁に感謝を申し上げて。
しみじみお見上げさせて頂く。
頭上の化仏もそれぞれの持物も光背も。
何もかもが豪奢で、そして緻密だ。
六観音と称される観音の中では、千手観音は餓鬼道に堕ちた者を救済する観音とされるが。無駄に年ばかりとってしまったが精神年齢がまだまだお子さまでしかないアタシをもお救い下さるであろうか。
アタシはまばゆいそのお像にお縋りするように、いつまでもその場に佇んでいた。
【東寺】
本日の。
そして今回の旅行のオーラスの御寺である。
またの名を、教王護国寺。
東寺真言宗の総本山とも言える場所である。
八世紀末、平安京の正門の羅生門の東西に【東寺】と【西寺】と云う2つの寺院の建立が計画された。これは言う間でもなく、平安京の右京と左京を守り、ひいては東国と西国を護る国家鎮護の寺と云う意味合いもあった。
今日、【西寺】の存在を知る人は、あまりにも少ない。
そして。
アタシと優里ちゃんにとっては、思い出の御寺でもある。
「…真唯さんと、またここに参拝に来る事が出来るなんて…感慨深いです…」
「…理恵ちゃんと亜美ちゃんは元気? …連絡とってるんだっけ…?」
「…亜美ちゃんは今でも真唯さんのブログの愛読者で、もう一児のお母さんですよ…理恵とは年賀状の遣り取りだけです…」
「…そうね、そんなもんよね…亜美ちゃんがまだ私のブログを読んでくれてるのは嬉しいけど…そっか、一児のおっ母さんか…」
「可愛い写真入りの年賀状が来ますもん…仕事が楽しくて忙しくてずっとその気になれませんでしたけど…そろそろ私も悟くんの赤ちゃんが欲しいな…って。」
「そっか…浄瑠璃寺でも子安地蔵にご祈願してたみたいだし、ご利益があったらお礼参りに行かないとね!」
「その時はまた是非ご一緒して下さい! そしたら今度こそ、吉祥天女像の御開帳の時に行きましょうよ!!」
「それは嬉しいけど…木島さんが一緒に来たがるんじゃないの? …デートの邪魔しちゃ悪いし…」
「何言ってるんですか! そしたら上井さんも誘って、ダブルデートにしましょーよ! 今から楽しみですね!!」
「…気長に待ってるわ…」
そんな会話をしながら、食堂の裏にあるお手水舎で手と口を漱ぎ。
先ずは立体曼陀羅のある講堂を目指す。
須弥壇中央にあらっしゃるのが、大日如来さま…真言密教の中心の仏さまであり、全宇宙の根源の仏である。周りを囲んでいらっしゃるのは、宝生如来、阿弥陀如来、不空成就如来、阿閦如来さま。合わせて【五智如来】さまと申される。向かって右(東)には金剛波羅蜜多菩薩を中心とする五大菩薩さま。左(西)側には不動明王を中心とした五大明王さま。須弥壇の東の端に鵞鳥に支えられた蓮華座に安置されてらっしゃるのは梵天さま。西の端で象に乗っていらっしゃるのが帝釈天さま。四隅においでなのは四天王さま。以上、全部で二十一体の彫像が、立体曼陀羅を構成していらっしゃる。
東大寺・法華堂は、本来在るべき場所を火事などのやむを得ない事情で失った仏像が避難先として運ばれて来たような、他の御堂からの移入であったり客仏であったりして。それが長い時間を掛けて熟成されていくような感覚で、一つのハーモニーを奏でるような空間になっていった稀有な御堂であるが。それとは正反対に、最初から計算され尽くした完璧なオーケストラを目指して成功させた御堂である【講堂 立体曼陀羅】に耳を澄ます。
五智如来や五大明王の作例は少なくないが、五菩薩はあまりない。『金剛頂経』や『仁王経』などをもとに弘法大師・空海が独自に発案したものと言われている。アタシは中央におられる、大日如来の正法輪身である金剛波羅蜜多菩薩をお見上げする。金剛石のように堅固な悟りを求める心から放たれる光明であまねく世界を照らし、全ての衆生に悟りを開かせる智慧をお持ちの菩薩さまを意味する。
……貴志さんは、アタシの金剛波羅蜜多菩薩さまかも知れない……アタシに悟りを開く事なんて無理かも知れないけど……
アタシはお不動さまが好きだけど、正直言って東寺の不動明王坐像は好みではない。降三世明王立像の方が大好きだ。我々衆生が輪廻転生する三つの世界を降伏する金剛杵と云う武器を持つ明王と云う意味だ。経典には『三毒を降すを降三世と名づく』とあり、要するに全ての煩悩を調伏する明王の事なのである。足元に踏み付けているのは鬼ではなく神であり、最初観た時はかなりビックリしたものだ。大自在天の胸を強く踏み付け、その夫人・烏摩は軽く踏んでいるのだと云う。これは煩悩の強弱によっていかようにも調伏の仕方を自在に操ると云う意味らしい。アタシの煩悩はかなり強い自覚があるから、思いっ切り踏み付けて頂かなければならないが。正直、このペッタンコでようやく少し膨らんできた胸を踏ン付けるのは勘弁して頂きたい(苦笑)。
梵天や帝釈天のお像も好みだが、何たってアタシが好きなのは四天王に踏み付けにされてる邪鬼さんである。
【密教】と云う一種の仏教宇宙でもって鎮護国家・人民救済を“祈念する”と云うより、“実現してみせる”とでも云うべき真言密教の開祖・空海の強い想いがそのまま型になったこの講堂内部は、予備知識が多少はあっても初めて中に入ってこの密教世界を眼にする人間には…その空間の濃密さにさぞかし圧倒される事だろう。京の都の玄関口に建ち、帝のおわす内裏に魔が入り込めないよう守護するのがこの東寺、真言宗総本山・教王護国寺のお役目であるが、その御寺の中でも最高の舞台に立つのは空海が己の理想実現の為にプロデュースした最高クラスの諸仏諸尊。綺羅星の如く居並んだスターたちと共演するのは云うまでもなく我らが邪鬼クンなのである(笑)。
象に乗った帝釈天を挟んで、後ろから睨みをきかせているのは広目天だ。彼は戟をお持ちで、(へェ~、平安時代の仏像はこう云う様式もあったんだ~)と感心しきりなのだが。アタシは無責任な観察者であって、様式の年代を詳しく調べたりはしないので、そこはご容赦願いたい。そして広目天下の右側の鬼は左足を伸ばし、そのつま先を左手で押さえ、まるでストレッチをしているかのようだ。だが左側の鬼はもっと凄い。体育座りか胡坐をかいたような格好で思いっ切り右に向き直り、じっと横の相棒を見詰めているのだ。『おめぇーも、大変だなァ~』風に。自分たちの立場を理解しているのかいないのか。広目天の存在など、ましてや自分たちが踏み付けられている事など“我関せず”だ。こんな自由な邪鬼がいて良いものだろうか。天皇が国家の安泰を祈らせる為、弘法大師に勅命を発して建てさせたこのお寺で、である。見つけた時にはかなり驚いたものだが。
以来、アタシは彼を【フリーマン・邪鬼】と呼んで、心密かに愛でている(笑)。いや、ブログでそう紹介してるのだから、“心密かに”と云うのは違うかも知れないが(苦笑)。とにかく大好きな邪鬼くんたちを心ゆくまで鑑賞して講堂を出たのだった。
「今回の旅行も有意義でしたねェ~!」
『京の彩り おばんざい弁当』を食べながら優里ちゃんが呟く。
「いやいや、家に着くまでが旅行だから。」
柿の葉寿司弁当を食べながら呟くアタシは、つくづく苦労性である。
今アタシたちは金堂の薬師如来三尊像を拝観し、京都のシンボルの五重塔の威容をしみじみたっぷりお見上げして。瓢箪池を散策した後、ベンチに座って駅で買ったお弁当で昼食をとっているのである。どこかのお店に入っても良かったのだが、折角天気が良いので青空の下、東寺の伽藍をのんびり眺めながらランチタイムと洒落込みたかったのだ。
……それにしても。
優里ちゃんではないけれど、ホントに楽しい旅行だった。
久々の奈良と云う事も嬉しいが、女二人旅と言うのが何より気楽だ。
貴志さんと一緒だとどうしても気を使ってしまう。と言っても、一人旅だと貴志さんを思い出して恋しくなってしまうし、いやはやアタシも贅沢になってしまったものである(ヤケ笑)。
「やっぱり、浄瑠璃寺の彼岸会が最高でしたね♪」
「あれは一生の思い出になるわね!」
「白毫寺の地蔵菩薩も、西大寺の文殊菩薩も良かったし!!」
「優里ちゃんのお礼参りの時は、貴志さんや木島さんもご一緒して遠出したいね!」
「吉野の金峯山寺も良いですよ!」
「そしたら如意輪寺もだよ! あそこでは天井画の如意輪観音さんが絶品だもん!!」
「そうですね! 四人で寝っ転がりましょーね!!」
「…五人でしょ。」
「…あ。」
「…胎教に良いよ…きっと。」
「…神社仏閣や仏像好きな子になってくれたら嬉しいな…」
「女の子だったら、今度は三人で色んな処を回れたら良いね。」
「高野山や延暦寺に連れて行きたいです!!」
「厳島神社や中尊寺も良いよ!」
優里ちゃんの家庭に降りて来て下さる菩薩さま。
あなたはどんな修行を自らに課した魂なのでしょうか?
願わくば。
優里ちゃんと木島さんとの間で、幸福な“愛される”子供であって欲しい。
そして愛する人をみつけて、幸せな一生を過ごして欲しい。
上井真唯と云う小姑がついてくるけどそれは覚悟してね(笑)。
まだ見ぬ優里ちゃんの赤ちゃんに想いを馳せ。
その幸福を心から願った。
……アタシには子供を授かれないし…その資格もないから―――
ちょっぴりセンチメンタルな気分に浸りつつ。
帰りの新幹線に乗る為に、アタシと優里ちゃんは東寺を後にした。
―――こうして。
二泊三日の女二人旅は終わりを告げたのだった。
古の都の芳しい残り香をまとって……
尚、余談であるがタクシーの【お釣りは要らない攻撃】はキッチリ割り勘済みだし、お土産も万全だ。貴志さんと自分土産には珍しいお香と大仏プリンを、君枝さんには奈良漬けを、SPの皆さんには伝統の和菓子を購入し。友人たちには人気のスイーツを手配済みだ。『せ○とくん』や『まん○くん』などと云うご当地のゆるキャラなどには決して惑わされたりしないのだ(爆)。
そして。貴志さんの依頼を受けた澤木さんが【提督閣下】に命じて手配させた【親衛兵】に護衛されていた事など、呑気なアタシは知る由もなかったのだ。
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