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ラブラブ新婚編
No,215 Amethysts Are Forever No,5
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トーシローの相談と言うのは、ギルのバースデー・パーティーの計画だった。
……トーシロー…あんた、それ、“サプライズ”って言って、男の人を一番喜ばせる行為だって理解ってる…?
アタシは、よっぽど言ってやりたかった。
『あんたが素直に、ギルを好きだと認めたら、アドバイスしてあげる。』
なんて、絶対、言えないけどね。
結局、トーシローを連れて行ったのは、【ギャラリー・ラファイエット】だった。
ここなら、世界中のありとあらゆる超一流品が揃ってるしね。
紳士館は勿論、本館のブランド店を、トーシローは精力的に周った。
靴を見て、スーツを見て。
紳士用の小物やフレグランスを見て。
(下着類の売り場は必死で見えない振りしてた/笑)。
何回も往復したけど、彼女のお眼鏡には適わなかったようだ。
皮革製品や文具用品はまだ理解るのだが。
毛皮まで見てるので、一体いくら使う気なのか、ちょっと心配になってしまった。
まあ、あの【オリュンポスの不動産王】なら、何を贈っても高過ぎると云う事はない。
しかし、金額の問題ではない事くらい、理解ってはいると思う。
要は、“トーシローがギルのために選んだ”と云う事実が大切なのだ。
と。
宝飾店で、トーシローの足が止まった。
ゆっくり、じっくり、たっぷり吟味して。
トーシローは、ターコイズのネクタイピンとカフスのセット。
ラピスラズリのピアスと、それに合わせたネックレスとブレスレット。
紫水晶のあしらわれたシルバーアクセサリーのネックレス。
結局、これだけの物を惜し気もなく購入してしまったのだ。
ターコイズとラピスラズリの品物を選んだのは、理解る。
アメジストを選んだのも、いつかアタシが『守護石』の事を話したのを覚えていたのだろう。実際、清算して、バースデーのプレゼント用にラッピングをしてもらっている時に、もう一度詳しく石の意味を聞かれたし。
しかし。
どう考えても。
「…ギルの使う物だから、妥当だとは思うけど…多いし、高過ぎない…?」
と、問わずにはいられなかった。
ランチした【カフェ・ド・ラ・ペ】で。
だが、しかし。
彼女の考えを打ち明けられて。
納得した。
トーシローは、ずっとギルに断られ続けているイギリス滞在費をこの機会を利用して、支払ってしまおうと云う魂胆だったのだ。
アタシは、口笛でも吹きたい気分だった。
(やるじゃん♪)
と。
これなら、あの男でも、受け取らざるを得まい。
貴志さんとの素敵な思い出がある、【カフェ・ド・ラ・ペ】だけど。
トーシローとの楽しい悪巧みの思い出が追加されてしまった(喜)。
次は、ご馳走のアイディアだ。
手巻き寿司とは、トーシローも上手い事を考えるものだと感心してしまった。
日本的だし、国際的に人気があるし、これならアタシ以上の料理音痴の彼女にも出来るだろう。
ただ、ネタは。
格好良く、市場でと行きたいトコだったが。
フランス語が出来ないのは勿論だが、買い物術などまったく無知なので。
日本語もOKか、無難に英語で対応出来るお店にした。
そして、途中からは。
今日も陰ながら付いて来てくれてる、SPの明石さんを呼んで、紹介して。
荷物持ちを手伝ってもらった。
二人だけで持つには大変だったと云うのもあるが。
トーシローに、明石さんを通じて、“護衛”と云う方の事を少しでも知ってもらっておきたいと云う理由が大きかった。案の定、トーシローは、米搗きバッタのようになって、恐縮していたが。……あんたにも、こう云う仕事をしてる人に護ってもらって……自分の“立場”と云うものを理解しなければならなくなる時が来るだろうから……それも、遠からず。
※ ※ ※
結果から言えば、サプライズ・パーティーは大成功だった。
ギルがこれ以上ないほどに喜んだのは勿論だけど。
あのアンソニーさんの爆笑を買ってしまったのは……これはもう、バッカス家の嫁決定だろう。
……それにしても。
「…真唯さん…ギルの奴が吐きましたよ…奴は、やはり、あの石の意味に気付いてたみたいですよ…」
「…やっぱり、そうじゃないかと思ってたんです…あの紫水晶に一番、執着してたみたいですし…」
パーティーの後。
『後片付けまでが、誕生会だ!』
などと、トーシローが、どこかで聞いたような台詞のパクリのような事を言って。
後片付けまでやり出した時にも、苦笑い気味のギルまでが手伝い出した時は驚いたけど。
結局、みんなで楽しくお片付け。
世界中で、ただ一人きりだろう。
【オリュンポスの不動産王】に、自らのパーティーの後片付けなど自主的にさせてしまうなど。
その後、アタシはトーシローと、打ち上げをした。
キッチンのテーブルで、残り物で。
ささやかなものだったけど。
『祝♡ イギリスでの滞在費、受け取ってもらえた記念日』だ。
明石さんまでも巻き込んで、盛り上がってしまったのだった。
男性陣は男性陣で。
まだ飲み足りないようで。
別室でお酒を持ち込んで、更に酒盛りして。
貴志さんは、さっき部屋に戻って来たばかりなのだ。
アタシたちは、ギルが急遽日本人用に改装したと云うたっぷりとした浴槽のお部屋に滞在させてもらってる。トーシローは勿論、アッコさんやユーコさんたちもそうだった。そんなお風呂にのんびり浸かって、今日の楽しい思い出を反芻して。後は寝るだけの、ベッドの中でのリラックスタイムだが。どうしても気になってしまっている事を、思い切って貴志さんに聞いてみる事にした。
「…貴志さん…アタシ、ひとつ気になってる事があるんですが…聞いても良いですか…?」
「何でもどうぞ。私で答えられる事でしたら、何でも聞いて下さい。」
「…あの…ですね…?」
「…はい…?」
「…ギルのお父上の事なんですが…」
「…ああ…真唯さんが、聞き難そうにしてらっしゃる理由が理解りましたよ。」
「…お母さまのクリスティーヌさまは、あんなに簡単に歓迎して下さったのに…お父上さまが未だにトーシローに会って下さらないのが気になって…」
「…貴女は本当に、お友達思いなのですね…」
「…トーシローはアタシの数少ない友人ですし、大切な親友ですし…幸せになって欲しいんです…」
「…トーシロー嬢に、嫉妬してしまいそうですねぇ…」
「冗談ともかく!」
「…(…冗談ではないんですけどねぇ…)…」
「…あの…ギルから何か聞いてらっしゃいませんか…? もしかして厳格な方で、お父上さまだけは反対なさってるとか…?」
「まさか! 考えてもみて下さい…あのクリスティーヌさまの旦那さまなのですよ…? 厳格なお人柄だと思いますか…? 」
「…だったらどうして、会っても下さらないんですか…?」
「ギルが必死で止めてるんですよ。」
「…?…」
「…ヨーロッパでは割と気軽に両親や家族に紹介したりしますが…日本人は違うでしょう…?」
「…ええ…だから、余計、気になってしまって…」
「…ギルは最初、トーシロー嬢を有耶無耶のうちに抱いてしまって、外堀を完全に埋めてしまいました…」
「………………………」
「…それを少しね…後悔してるらしいのですよ…」
「………………………」
「…本当はこのパリで、父上に紹介する予定だったらしいですよ…?」
「だったら、どうして…!」
「…トーシロー嬢にやらかされてしまったでしょ…お見合いパーティー…」
「あ…っ!」
「…あの事もあってね…少し考えを変えたらしいのですよ…」
「………………………」
「…父上を最後の砦として、トーシロー嬢に猶予を与えてるのだと思いますよ…」
「………………………」
「とにかく、ギルの父上が反対なさってるとか、そんな事はありませんから…むしろ、その逆ですよ…」
「逆…?」
「「会わせろ、紹介しろ」と矢の催促らしいですよ…特にクリスティーヌさまにお会いしてからはね…実は、真唯さん…ギルの父上は、貴女の事も紹介しろと五月蠅いのですよ…?」
「ええぇぇっっ!?」
「…お会いしたいですか…?」
「…え…あ、あの…アタシ、伯爵さまみたいな偉い方は、ちょっと…」
「今、伯爵位を継いでいるのは、ギルです…お父上は、気楽な隠居の身ですよ…?」
「…あ…そうは言っても…やっぱり、緊張します…」
「ね…? …既に、結婚してる貴女でさえ、そう思うでしょう…? 今、トーシロー嬢に紹介したりしたら、トーシロー嬢は益々追い詰められてる気分になってしまう…」
「…あ…」
「ギルは、万が一にも、トーシロー嬢を逃がす心算など、これっぽっちもありません。これ以上の下手を打つ気は、欠片もない。」
「…ギルのお父上さまって、どんな方なのですか…?」
「良い方ですよ。息子の代で資産が莫大になってしまって、僻まれても妬まれても、挙句に自尊心を踏み躙られるような事を言われても、平然としておられる。」
「…それは…」
「…欧米の社交界と云う処は、魑魅魍魎の巣窟です…そんな処で泰然自若としておられる…英国紳士の鏡の様な方です…ギルのお父上にしておくには、勿体ないほどの…」
「…貴志さん…」
「はい…?」
「…いつかお会い出来る時…貴志さんの妻として…そして、息子さんの花嫁の友人として、恥ずかしくない振る舞いが出来るようになっていたいです…」
「…真唯さん…」
心配の芽が完全に摘まれて。
アタシは安心して、温かな胸に顔を埋めた。
でも、ちょっぴり意地悪して。
トーシローがギルへの気持ちを、『吊り橋効果』と思ってるかも知れないと云う疑惑の推測は、口にはしなかった。
これでもアタシは、怒ってるのだ。
父上さまの事について、そんな配慮をするくらいなら。
最初からマトモに求愛して欲しかった。
それこそ、“英国紳士”らしく。
思い出すのは、追い詰められたトーシローに相談された時の、彼女の今にも泣き出してしまいそうな表情。あんな頼りなさそうな顔をトーシローにさせた、ギルには精々、頑張ってもらおう。
……あのね、貴志さん…覚えておいてね…?
……トーシローは、アタシの大事な親友なのよ…?
……トーシローも、ギルに惹かれてるみたいだから静観してるけど……
……トーシローが、ギルを拒否すると決意したら……
……その時は、このアタシが、ギルの最強のお邪魔虫になるからね…?
……トーシロー…あんた、それ、“サプライズ”って言って、男の人を一番喜ばせる行為だって理解ってる…?
アタシは、よっぽど言ってやりたかった。
『あんたが素直に、ギルを好きだと認めたら、アドバイスしてあげる。』
なんて、絶対、言えないけどね。
結局、トーシローを連れて行ったのは、【ギャラリー・ラファイエット】だった。
ここなら、世界中のありとあらゆる超一流品が揃ってるしね。
紳士館は勿論、本館のブランド店を、トーシローは精力的に周った。
靴を見て、スーツを見て。
紳士用の小物やフレグランスを見て。
(下着類の売り場は必死で見えない振りしてた/笑)。
何回も往復したけど、彼女のお眼鏡には適わなかったようだ。
皮革製品や文具用品はまだ理解るのだが。
毛皮まで見てるので、一体いくら使う気なのか、ちょっと心配になってしまった。
まあ、あの【オリュンポスの不動産王】なら、何を贈っても高過ぎると云う事はない。
しかし、金額の問題ではない事くらい、理解ってはいると思う。
要は、“トーシローがギルのために選んだ”と云う事実が大切なのだ。
と。
宝飾店で、トーシローの足が止まった。
ゆっくり、じっくり、たっぷり吟味して。
トーシローは、ターコイズのネクタイピンとカフスのセット。
ラピスラズリのピアスと、それに合わせたネックレスとブレスレット。
紫水晶のあしらわれたシルバーアクセサリーのネックレス。
結局、これだけの物を惜し気もなく購入してしまったのだ。
ターコイズとラピスラズリの品物を選んだのは、理解る。
アメジストを選んだのも、いつかアタシが『守護石』の事を話したのを覚えていたのだろう。実際、清算して、バースデーのプレゼント用にラッピングをしてもらっている時に、もう一度詳しく石の意味を聞かれたし。
しかし。
どう考えても。
「…ギルの使う物だから、妥当だとは思うけど…多いし、高過ぎない…?」
と、問わずにはいられなかった。
ランチした【カフェ・ド・ラ・ペ】で。
だが、しかし。
彼女の考えを打ち明けられて。
納得した。
トーシローは、ずっとギルに断られ続けているイギリス滞在費をこの機会を利用して、支払ってしまおうと云う魂胆だったのだ。
アタシは、口笛でも吹きたい気分だった。
(やるじゃん♪)
と。
これなら、あの男でも、受け取らざるを得まい。
貴志さんとの素敵な思い出がある、【カフェ・ド・ラ・ペ】だけど。
トーシローとの楽しい悪巧みの思い出が追加されてしまった(喜)。
次は、ご馳走のアイディアだ。
手巻き寿司とは、トーシローも上手い事を考えるものだと感心してしまった。
日本的だし、国際的に人気があるし、これならアタシ以上の料理音痴の彼女にも出来るだろう。
ただ、ネタは。
格好良く、市場でと行きたいトコだったが。
フランス語が出来ないのは勿論だが、買い物術などまったく無知なので。
日本語もOKか、無難に英語で対応出来るお店にした。
そして、途中からは。
今日も陰ながら付いて来てくれてる、SPの明石さんを呼んで、紹介して。
荷物持ちを手伝ってもらった。
二人だけで持つには大変だったと云うのもあるが。
トーシローに、明石さんを通じて、“護衛”と云う方の事を少しでも知ってもらっておきたいと云う理由が大きかった。案の定、トーシローは、米搗きバッタのようになって、恐縮していたが。……あんたにも、こう云う仕事をしてる人に護ってもらって……自分の“立場”と云うものを理解しなければならなくなる時が来るだろうから……それも、遠からず。
※ ※ ※
結果から言えば、サプライズ・パーティーは大成功だった。
ギルがこれ以上ないほどに喜んだのは勿論だけど。
あのアンソニーさんの爆笑を買ってしまったのは……これはもう、バッカス家の嫁決定だろう。
……それにしても。
「…真唯さん…ギルの奴が吐きましたよ…奴は、やはり、あの石の意味に気付いてたみたいですよ…」
「…やっぱり、そうじゃないかと思ってたんです…あの紫水晶に一番、執着してたみたいですし…」
パーティーの後。
『後片付けまでが、誕生会だ!』
などと、トーシローが、どこかで聞いたような台詞のパクリのような事を言って。
後片付けまでやり出した時にも、苦笑い気味のギルまでが手伝い出した時は驚いたけど。
結局、みんなで楽しくお片付け。
世界中で、ただ一人きりだろう。
【オリュンポスの不動産王】に、自らのパーティーの後片付けなど自主的にさせてしまうなど。
その後、アタシはトーシローと、打ち上げをした。
キッチンのテーブルで、残り物で。
ささやかなものだったけど。
『祝♡ イギリスでの滞在費、受け取ってもらえた記念日』だ。
明石さんまでも巻き込んで、盛り上がってしまったのだった。
男性陣は男性陣で。
まだ飲み足りないようで。
別室でお酒を持ち込んで、更に酒盛りして。
貴志さんは、さっき部屋に戻って来たばかりなのだ。
アタシたちは、ギルが急遽日本人用に改装したと云うたっぷりとした浴槽のお部屋に滞在させてもらってる。トーシローは勿論、アッコさんやユーコさんたちもそうだった。そんなお風呂にのんびり浸かって、今日の楽しい思い出を反芻して。後は寝るだけの、ベッドの中でのリラックスタイムだが。どうしても気になってしまっている事を、思い切って貴志さんに聞いてみる事にした。
「…貴志さん…アタシ、ひとつ気になってる事があるんですが…聞いても良いですか…?」
「何でもどうぞ。私で答えられる事でしたら、何でも聞いて下さい。」
「…あの…ですね…?」
「…はい…?」
「…ギルのお父上の事なんですが…」
「…ああ…真唯さんが、聞き難そうにしてらっしゃる理由が理解りましたよ。」
「…お母さまのクリスティーヌさまは、あんなに簡単に歓迎して下さったのに…お父上さまが未だにトーシローに会って下さらないのが気になって…」
「…貴女は本当に、お友達思いなのですね…」
「…トーシローはアタシの数少ない友人ですし、大切な親友ですし…幸せになって欲しいんです…」
「…トーシロー嬢に、嫉妬してしまいそうですねぇ…」
「冗談ともかく!」
「…(…冗談ではないんですけどねぇ…)…」
「…あの…ギルから何か聞いてらっしゃいませんか…? もしかして厳格な方で、お父上さまだけは反対なさってるとか…?」
「まさか! 考えてもみて下さい…あのクリスティーヌさまの旦那さまなのですよ…? 厳格なお人柄だと思いますか…? 」
「…だったらどうして、会っても下さらないんですか…?」
「ギルが必死で止めてるんですよ。」
「…?…」
「…ヨーロッパでは割と気軽に両親や家族に紹介したりしますが…日本人は違うでしょう…?」
「…ええ…だから、余計、気になってしまって…」
「…ギルは最初、トーシロー嬢を有耶無耶のうちに抱いてしまって、外堀を完全に埋めてしまいました…」
「………………………」
「…それを少しね…後悔してるらしいのですよ…」
「………………………」
「…本当はこのパリで、父上に紹介する予定だったらしいですよ…?」
「だったら、どうして…!」
「…トーシロー嬢にやらかされてしまったでしょ…お見合いパーティー…」
「あ…っ!」
「…あの事もあってね…少し考えを変えたらしいのですよ…」
「………………………」
「…父上を最後の砦として、トーシロー嬢に猶予を与えてるのだと思いますよ…」
「………………………」
「とにかく、ギルの父上が反対なさってるとか、そんな事はありませんから…むしろ、その逆ですよ…」
「逆…?」
「「会わせろ、紹介しろ」と矢の催促らしいですよ…特にクリスティーヌさまにお会いしてからはね…実は、真唯さん…ギルの父上は、貴女の事も紹介しろと五月蠅いのですよ…?」
「ええぇぇっっ!?」
「…お会いしたいですか…?」
「…え…あ、あの…アタシ、伯爵さまみたいな偉い方は、ちょっと…」
「今、伯爵位を継いでいるのは、ギルです…お父上は、気楽な隠居の身ですよ…?」
「…あ…そうは言っても…やっぱり、緊張します…」
「ね…? …既に、結婚してる貴女でさえ、そう思うでしょう…? 今、トーシロー嬢に紹介したりしたら、トーシロー嬢は益々追い詰められてる気分になってしまう…」
「…あ…」
「ギルは、万が一にも、トーシロー嬢を逃がす心算など、これっぽっちもありません。これ以上の下手を打つ気は、欠片もない。」
「…ギルのお父上さまって、どんな方なのですか…?」
「良い方ですよ。息子の代で資産が莫大になってしまって、僻まれても妬まれても、挙句に自尊心を踏み躙られるような事を言われても、平然としておられる。」
「…それは…」
「…欧米の社交界と云う処は、魑魅魍魎の巣窟です…そんな処で泰然自若としておられる…英国紳士の鏡の様な方です…ギルのお父上にしておくには、勿体ないほどの…」
「…貴志さん…」
「はい…?」
「…いつかお会い出来る時…貴志さんの妻として…そして、息子さんの花嫁の友人として、恥ずかしくない振る舞いが出来るようになっていたいです…」
「…真唯さん…」
心配の芽が完全に摘まれて。
アタシは安心して、温かな胸に顔を埋めた。
でも、ちょっぴり意地悪して。
トーシローがギルへの気持ちを、『吊り橋効果』と思ってるかも知れないと云う疑惑の推測は、口にはしなかった。
これでもアタシは、怒ってるのだ。
父上さまの事について、そんな配慮をするくらいなら。
最初からマトモに求愛して欲しかった。
それこそ、“英国紳士”らしく。
思い出すのは、追い詰められたトーシローに相談された時の、彼女の今にも泣き出してしまいそうな表情。あんな頼りなさそうな顔をトーシローにさせた、ギルには精々、頑張ってもらおう。
……あのね、貴志さん…覚えておいてね…?
……トーシローは、アタシの大事な親友なのよ…?
……トーシローも、ギルに惹かれてるみたいだから静観してるけど……
……トーシローが、ギルを拒否すると決意したら……
……その時は、このアタシが、ギルの最強のお邪魔虫になるからね…?
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