IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己

文字の大きさ
上 下
198 / 315
ラブラブ新婚編

No,196 【インティ・ライミ】in仏蘭西 No,10

しおりを挟む
(……ああ…こんなに贅沢な時間の使い方なんて、そうそう出来るもんじゃない…恵まれてるなァ~、アタシって……)

アタシは現在いま、【Cafe de la Paixカフェ・ド・ラ・ペ】で、道ゆく人を、ただ、ぼんやり、眺めている。……コーヒーを飲みながら。



※ ※ ※



仏蘭西フランス巴里パリで過ごす、最後の日。
アタシは遅まきながら、パリの市内観光をする事にした。
と言っても、ホントにアタシの勝手なセレクトである(貴志さんが全然希望を言ってくれないのだから仕方がない)。【ノートルダム寺院】で薔薇窓と【ピエタ】を見て、【マドレーヌ寺院】で『最後の審判』のレリーフを見て。
コンコルド広場から、シャンゼリゼ大通りを貴志さんと歩いた。腕を組んで。振り返る綺麗なマドモアゼルたち(中には男の人もいたが、トーシローに報告したら喜ばれそうだ/笑)に、心の中で喝采を叫び舌を出す。

『残念でした! この男性ひとの趣味は、物凄くマニアックなんですからねっ!!』
と。

シャンゼリゼを歩いたからと言って、何か欲しい物がある訳ではない。ただ、ブラブラと、気ままにウィンドウ・ショッピングをしたのだ。この辺は名立たるブランドが軒を連ねているが、そんなお店はディスプレイされているウィンドウを見ているだけで楽しかった。さすが花の都、センスが良い(中にはアバンギャルド過ぎて、引いてしまうものもあったが)。
歩き過ぎて疲れたので、【カフェ・ド・パリ】と云うカフェでランチにした。
黒と金が基調となったシックなインテリアはアタシ好みで、アタシをご機嫌にさせた。シャンパーニュを片手にすれば、アタシもちょっとした“パリジェンヌ”気分だ。


……やはり、お昼にアルコールは最高の贅沢だ。


ワインよりお水の方が高いパリに於いても、やっぱりそんな思いが抜けないのは、所詮、千葉の片田舎出身の小市民ゆえだろう(笑)。




最後の最後に我儘を言って、またルーヴルに来てしまった。
【洗礼者 聖ヨハネ】を観るためだけに。
だが、なぜだろう。
いつものように感動出来ない。

原因は理解っている。

あの【クロ・リュセ】で、観てしまったからだ。


……ヨハネは、還りたいのではないだろうか……自分を産み出してくれた主人ダ・ヴィンチと暮らした、あの城へ―――


そんな事を考えてしまうからだ。




ルーヴルから、オペラ大通りを歩く。
それも今日が最後である。

あの、アタシの誕生日。
【オペラ・ガルニエ】のバルコニーから見た風景の中に、自分がいると思うだけでウキウキして来てしまう。

毎日見ていた【LANCEL】本店の中に初めて入った。……やっぱり、お高い。迷って迷って……ビビットな赤に惹かれて、比較的お手頃なポシェットを買ってしまった。自分に払わせろと五月蠅い旦那さまは、丸っと無視だ★



オペラ座は今日も盛況である。
予定を聞いてもらったら、今夜はコンサートとの事だった。……アタシの誕生日に、バレエをっててくれて、ホントに良かった……



安堵の思いにかられながら、アタシはホテルに戻った。
部屋で荷物の整理をして。ある物は宅配を頼んで。

【カフェ・ド・ラ・ペ】で、パリ最後のディナータイム。コースのお皿はどれも芸術的に美しくて、眼も舌も満足させてくれたが、アタシ的には前菜の牡蠣の蕩ける様な舌触りが絶品だった。食前酒アペリティフのシャンパーニュとの相性もバッチリ☆ ただ。最後に我儘を言わせてもらった。ギャルソンを呼び止めて。豪奢な室内からテラス席への移動をお願いして、食後の珈琲を楽しむ事にしたのである。



―――そうして、冒頭の場面シーンとなるのである。



※ ※ ※



「…真唯さん…本当に、【ギャラリー・ラファイエット】も【ルーヴル・デ・ザンティケール】も行かなくて良かったんですか…?」

(しつこいゾ★) 「…また…いつか、連れて来て下さるでしょう…?」

「…! …勿論ですよ…っ!!」

(…フー…ヤレヤレ★) 「…貴志さん…大好き…」

「…!! …真唯さん…っ!!」


……旦那さまの手綱を握る事に長けていらした、真唯奥さまなのであった。




(…そんなデパートで、高い買い物をするよりも…こうして、カフェで道ゆく人々をぼんやり眺めている方が…どれだけ贅沢か…)

正面には【LANCEL】本店と、オペラ大通りを行き交う人々。
そして、左を見れば、【オペラ・ガルニエ】
これ以上のロケーションは、そうはないだろう。

アタシは、鉄の塔エッフェル塔にも、ナポレオンの見栄の象徴凱旋門にも興味はない。

ただ、コンコルド広場のオベリスクは、しみじみと見上げてしまった。これがかつてはルクソール神殿の入口を飾っていたかと思えば、感動もひとしおである(ただしこの広場はかつては処刑場であり、あのマリー・アントワネットがギロチンの露と消えた場所だと思えば複雑だが)。

しかし、大英博物館でも思った事だが、ルーヴル美術館も当然のように返還要求を受けている。だが、この二つの建物は、ありとあらゆる国からの芸術品の寄せ集めなのだ。応じてしまえば、大変な事になるだろう。


……【メトロポリタン美術館】には、興味があるが……マンハッタンにあると思うと食指が動かないのだ……


かなり昔。
「メトロポリタン美術館ミュージアム」と云う歌を聴いた事があるが。

あれは、ロマンを掻き立てられる曲であった。

ただ、最期は……


あれでは「押絵と旅する男」か「魍魎の匣」である(モーリョーは、ちと違うゾ/セルフ突っ込み)。


……大好きな絵画の中に閉じ込められてしまった少女は、果たして幸せだったのだろうか……


もしアタシが【聖ヨハネ】の中に閉じ込められてしまったら、アタシは幸せかも知れないがヨハネさんには良い迷惑だろうし、世界中の人々のお目汚しになるのは忍びない。ダ・ヴィンチさんも、死んでも死にきれない想いになってしまわれる事だろう。

……ただ、貴志さんは。

きっと、ルーヴルに忍び込んでも絵画を奪取し、“アタシ”を生涯、傍に置いてくれるだろう。


クスッ


あまりに荒唐無稽な事を考えて忍び笑いを漏らしてしまう。




―――ただ。



リザさんと、澤木さんの要求を呑めば……………





昏い思考に沈みそうになったアタシを、道ゆく人々が引き揚げてくれた。

何をした訳ではない。
ただ、道を歩いているだけである。



だが、しかし。

この人々は、“今”と云う瞬間を必死で生きている。



……ガイドブック片手の観光客たちは、束の間の“非日常”を楽しんでいる。


……脇目も振らずに歩いてゆくパリジャンやパリジェンヌたちは、“日常”を生活きている。




ふと。

【ルルドの泉】で見た巡礼者たちを、聖母マリア像を思い出す。



……信仰に生きる人々と。


……“聖母マドンナ”として名を残した、マリアと云う女性を。





ようやく暮れ始めた、パリの街を見つめながら。


道往く人々を見つめながら。



巴里の街角のカフェで、ひとり思索に耽る。




アタシはそんな贅沢な時間を、充分満喫する事が出来たのだった。



※ ※ ※



翌朝。
豪奢な処で頂く、最後の朝食ビュッフェ。
のんびりと食休みして、アタシたちはチェックアウトした。

ただ、最後の瞬間とき

アタシは、お世話になったホテルに向かって、深々と一礼して。
【LANCEL】本店にも、向かって一礼し。

素敵な誕生日バースデーを……【インティ・ライミ】を過ごさせて下さった、バレエの殿堂に最敬礼でお辞儀をして。
心の中で誓った。


『…Au revoir…今度は、アタシの意志で、また来るからね…』


こうして、真唯の突然に始まった。
しかし、充分に有意義な仏蘭西旅行は、その幕を閉じる事となったのであった。



ちなみに。
時差ボケになりかねないスケジュールに、謝って来る夫にアタシは鷹揚だった。
眠れないのだから、丁度良いと。



が、しかし。

日本に帰国したアタシは、猛烈な眠気を感じて。
マンションに着いた時には、コテンと眠ってしまって。


……睡眠薬なしで眠れた、実に久し振りな時間を過ごして。


丸一日近く眠り続けたアタシは、起きたら、全ての片付けを貴志さんに任せてしまっていた事に、酷く申し訳ない心持ちに陥ったのだけれど。
「貴女を騙してフランス旅行に連れ出した罪ほろぼしになれば幸いです。
 それに。」



「不眠症解消、おめでとうございます。」
そう言われて、額に接吻キスを落とされて。




―――最大の仏蘭西旅行の自分土産を受け取った瞬間であった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

モース10

藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。 ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。 慧一は興味津々で接近するが…… ※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様 ※他サイトに投稿済み

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...