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ラブラブ新婚編
No,194 【インティ・ライミ】in仏蘭西 No,8
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アタシは、今、夢心地である。
午前中は、【国立陶磁器美術館】で、フランスを代表する陶磁器・セーヴルの世界に遊び。
夜は何と、【オペラ・ガルニエ】のオーケストル席が取れたと言うのだ! しかも前から四番目っ!!
思わず夫に抱き付いて、思い切り背伸びして顎の先にキスしてしまったら、一瞬、驚いたもののすぐに立ち直り、蕩け切った表情で『どうせなら、こちらの方が良いですね。』と屈んで唇を指す旦那さまに、リクエスト通りバードキスをしてしまったのは、それ程嬉しかったからである。
ナポレオン三世の第二帝政時代に、シャルル・ガルニエの設計によって建てられた古典様式とバロック様式が取り入れられた豪華絢爛な劇場の傑作。大理石が敷き詰められた正面入り口の大階段だけでも一見の価値がある。そして金と赤を基調にした劇場内。天井画は有名なシャガールのものだが、アタシはこの一点にのみ不満を持っている。
毎日外観を眺めるだけでも嬉しかったのに、中に入ってバレエを鑑賞出来るなんて!! 例え演目が「ロミオとジュリエット」と云う悲劇だとしても、そんなの全然気にならない! 本家、パリ・オペラ座バレエ団が演じてくれるなんて最高だ!!
ランチの後、シャンゼリゼ通りに在る某高級ブティックに連れて行かれ、全身を磨き上げられ、トータルコーディネートされても全然怒る気になれない。あのオペラ座の中に入れるのである。少しは見栄えがする様に、精々、飾り立てて頂きたい。
アタシの愛する旦那さま・貴志さんが見立てて下さったのは、艶やかな真紅のサイドリボンドレープストレッチ膝丈ワンピースだった。……普段のアタシだったら、絶対着れないドレスワンピだった。しかし、しつこい様だが、行くのはあのオペラ座なのである。ド派手くらいで丁度良いのだ。ネックレスにイヤリングがダイヤだろう事は、この際、ご愛敬である。アタシは自分のキャラがガラガラと崩壊する音を聴きながら、内心(帰国したら、うんと節約しヨ★)などと決意を固めるのは、小市民故だろう。
ブラックタイが良くお似合いの、アタシの旦那さまも酷くご満悦だ。夫がこんなにご機嫌だから、似合っているのだろう……それなりに。馬子にも衣装になってくれていれば嬉しい。
かくして。
カラスが孔雀の真似をするかの如く変身させられて。
アタシの、【オペラ・ガルニエ】での舞台鑑賞の幕は開けられたのだった。
※ ※ ※
「…やっぱり、スゴイ…」
……圧倒されてしまった。
こんな威圧感は、あのヴァチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂以来である。
常々憧れて、内部はテレビやネットで見ていて知っている気でいたのだが、その場に実際に立ってみると、味わえる“雰囲気”がまるで違う。エントランスホールの荘厳で華麗な中央大階段に、ただただ、うっとりだ。シャンデリアも彫刻も、何もかもが素晴らしい。中に入れば、赤い重厚感がある椅子は、座り心地も最高である。 ……天井はチラリと見て、後は見なかった。ジュール=ユジェーヌ・ルヌヴの絵に、『返せ、戻せェェーーッ!!』と叫びたくなるからである。流石にここで絶叫するのは、不味かろう。日本の恥になってしまう。
パンフと立派なチケットにうっとり見入り……『24/06/2015』との日付に、改めて感じ入る。
―――そうなのだ。
今日は、【インティ・ライミ】
……アタシの誕生日なのだ。
……貴志さんの、アタシを想ってくれている気持ちが嬉しい……
横を見れば、澄ました表情でパンフを見ていた夫がアタシの視線に気付いて顔を上げて、にっこりと笑顔になる。「…真唯さんの念願だった、【オペラ・ガルニエ】でのバレエ鑑賞…楽しんで下さいね…」「…はい、ありがとうございます…ゆっくり楽しまさせて頂きます…」アタシの応えを聴いた貴志さんは再びパンフに眼を落とし始める。
……アタシの最高の旦那さまが演出してくれた、【太陽の祭り】を…アタシの誕生日を思いっ切り、楽しもう……
アタシはワクワクと胸を高鳴らせながら、開演の瞬間を待った。
物語は、お馴染のシェイクスピアの悲劇である。ルネサンス時代のイタリアの都市ヴェローナに於いて、宿敵の仇同士の家に生まれた若い男女が互いの素性を知らずに出逢い恋に落ちる。愛を確かめあった二人は修道僧の下でひそかに結婚するが、その直後、運命を狂わせる出来事が起きてしまい、引き裂かれてしまう。
男への愛を貫くために、女が下した決断とは―――
幕間。
観客たちは、ワインやシャンパーニュを片手に思い思いに寛いでいらっしゃる。
ホワイエは、さながらベルサイユ宮殿の【鏡の間】の様に豪華絢爛な回廊だ。天井がとてつもなく高く、輝くシャンデリアは眩い光を放っている。その煌びやかさに見惚れながら、アタシも貴志さんと共にシャンパーニュのグラスを持ち、甘くて美味しいマカロンを摘んだ。
周りは紳士・淑女の社交場のようだ。着飾って来て良かったと、つくづく思う。
だって周りの皆さんの方がもっと派手だ。これから、どこの舞踏会へお出掛けですか?と聞きたくなるほどだ(勿論、まったくの普段着の人もいるが、そう云う方は天井桟敷に近い席の方だろう。庶民的なお値段でバレエを楽しめる。バレエが庶民の娯楽として根付いているのだ)。
ホワイエの両端から外に出られると聞いていたので、バルコニーへ出て見た。
ルーヴルへ続く【オペラ大通り】を中央に、左は【LANCEL】本店。そして右は、アタシたちが泊っているホテル。ロケーションは抜群である。
「…きれい…」思わず呟いてしまうと、
「…寒くありませんか…?」後ろから抱き込まれてしまう。
「…全然…夜風が気持ち良いくらいです…」応えると、
「…こうして、ここに貴女をお連れするのが夢でした…」なんて言われてしまう。
「…アタシこそ…長年の夢を叶えて頂いて…感激してます…」
「…真唯さんに、そんな感情を味わわせるのは、私の役目だ…誰にも譲れない…」
「~~~~~~~////」
……そうしてアタシは。
開演五分前のベルが鳴るまで、そうやって背後の温もりを感じていた。
手も腫れよとばかりに拍手をして。
喉も裂けよとばかりに「ブラヴォーッ!!」を叫ぶ。
カーテンコールに応えるエトワールたちに、アタシは惜しみない賛辞を贈り続けた。
オペラ座を出るアタシは、尚、立ち去り難く。
ライトアップされたオペラ座を振り仰ぐ。そして。
(…今夜は、特別…)
自分に自分で言い訳して。
貴志さんに我儘を聞いて貰った。
※ ※ ※
「あんなものは、我儘とは言いませんよ! むしろ大歓迎ですっ!!」
「…確かに、貴志さんの方が我儘ですね…まさかここを、貸切にしてしまうなんて…」
「…だって、今夜は真唯さんのお誕生日なんですよ? …それを祝うと言ったら、この店しかないでしょう…?」
「…貴志さん…貴方と云う方は…」
てっきりディナーは【カフェ・ド・ラ・ペ】だと思って油断してたアタシは、SPさんの運転する車に乗せられて驚いた。(でも、ま、いっか! 貴志さんに任せておけば、滅多な処へは連れて行かれまい。)
……などと思っていた、アタシの貴志さんに対する認識は、まだまだ甘かったのだと思い知らされる事となる。
何故って、眩い光で溢れるパリの街の中、車は走り続けて……見えて来たのは、あまりにも見知った時計塔のある駅。この駅まで来て、あの店でない筈がない。筈がないのだが……とっくに閉店時間は過ぎてしまっている。それが証拠に、お店の店名の明かりが消えている。しかし、貴志さんは構わずこの特徴的な階段をどんどんと登って行ってしまい……アタシは慌てて後を追う。そして…え?…その回転扉、開いてるの…?
『いらっしゃいませ。お待ちしておりました、カミイ様。』
中に入ってすぐ。
出迎えてくれたのは、懐かしい顔。
『フィリップさん!! お久し振りです! お元気でしたか!?』
『お久し振りです、マダム。ご来店、ありがとうございます。ご案内致します。』
既に暗くなっていた店内。しかし、案内された個室には明かりが煌々と点いていて、アタシを戸惑わせ……こんな事を企むのは……と背後を振り向けば、悪戯が成功したガキ大将のような夫の顔。
「…今日と云う特別な日を祝う店は、ここしか考え付かなかったんですよ…お許し下さい…私の愛しい奥さま…」
……この夫は、ホントにズルい…こんな風に言われたら…怒るに怒れない……
【LE TRAIN BLEU】
アタシの大好きなお店での、特別な晩餐が始まった。
「…私の愛しい奥方・真唯さんが、この世に産まれて来て下さった事に心から感謝を捧げて…」
食前酒のシャンパーニュのグラスを掲げてくれるから。
「…アタシの愛する旦那さまの、愛ゆえの暴走に感謝して…」
……そうとしか言えないじゃない。
キーン♪
良い音を響かせて、乾杯をした。レストラン内だったらマナー違反だろうが、個室だからOKだろう。立ち昇る泡にうっとり見入り、クイッと一口含めば、爽やかな喉越しが心地良い。勿論、【モエ・エ・シャンドン】だ。数日前見たばかりのカーヴを思い出し……このお店の名物のフォアグラの前菜を懐かしい思いで味わう。
「…すみません、真唯さん…本当は店の方を使いたかったんですが…店内が明るいと、まだ営業中だと思って客が入って来てしまうと言われまして…」
「やだ、当然ですよ! そんな事で謝らないで下さいっ!! アタシ、個室って初めてなんですが、とても素敵ですね!!」
「…そう言って頂けますと、色々、手配した甲斐がありますが…」
「ベル・エポックの豪奢な洗練された内装で…これから、オリエント急行に乗れる気分です♪」
多少おどけた声で笑う。貴志さんの表情もやっと柔らかくなり、アタシを安心させる。そして会話は、今夜の舞台についての話題になって盛り上がってゆく。
「アタシ、森下さんの演じたジュリエットしか観た事なかったんですが、今夜のアリスも素敵でしたね! さすが、オペラ座バレエ団のエトワールでしたっ!!」
「…真唯さん…ロミオに浮気は許せませんよ…」
「…貴志さんこそ、可憐なジュリエットに浮気しないで下さいね…」
「…私は、真唯さん一筋ですよ…」
「…アタシだって…」
……いかん、イカン。ただのバカップルの会話になって来たゾ…何か、方向転換を……
「そう言えば、オペラ座の中って、ホントにスゴかったですね!! やっぱり、実物は違いますっ!!」
「…真唯さんはベジャールがお好きでしたよね…ローザンヌに行ってみたいとは思われないんですか…?」
「…ローザンヌですか…漠然とした憧れはありますが…あまり、ロマンは感じませんね…」
「…そうですか…」
……真っ赤な嘘である。是非、一度、行ってみたい。が。言ったが最後、最悪、『折角ですから、寄って行きましょう。』などと言われかねない。沈黙は金。雉も鳴かずば撃たれまい。
ベリゴールと云うソースのかかった、メインの牛フィレステーキに合わせて頼んだ赤ワインを飲みながら、アタシは心の中で土下座をしつつ舌を出すと云う器用な芸当をしている心地であった。貴志さんてば、アタシの今日の格好と云い、この閉店後のレストランを貸切にした事と云い、今日だけでいくら散財したんだ。帰国したら、しばらくカップラーメン生活だっ!!(君枝さんの生活があるから、そんな事は不可能なのだが/涙)
だが、しかし。
敵は、とんでもない隠し玉を持っていたのだ。
アタシの認識は、まだまだまだまだ甘かったのだっ!!!
コースディナーの最後のデセールを待っていると。
ギャルソンではなく、フィリップさんご自身がワゴンを押して来たからピンとキタ。
もしもし?
クローシュの横に在る箱は何ですか?
見た事あるような包装なんですが?
勿体ぶった仕草で開けられたクローシュの中身は、果たしてホールケーキだった。こぶりでキュートなショコラのケーキ。色とりどりに飾られているベリーがまるで宝石のように輝いて見えた。そして真ん中には『Bon anniversaire MAI!』と書かれたホワイトチョコのプレートが乗せられていた。
「…貴志さん…」
「…真唯さん…改めまして、お誕生日、おめでとうございます。」
「…ありがとうございます…こんな素敵な誕生日…去年の求婚の日と同じくらい嬉しいです…」
「…まだ、お礼を言われるのは、早いと思いますが…この世で一番愛しい妻への心からのプレゼントを受け取って下さい。」
……オペラ座でバレエを観せてもらえて、こんな素敵な場所で祝ってもらって、それだけで充分なのに…この箱は多分…見慣れた包装紙から中身が推察されたが、丁寧にラッピングを解いてゆくと……
「素敵…っ!!」
思わずのように感嘆の声が出てしまった。
それは、【WEDG WOOD】の、クラシカルなデザインのカップ&ソーサーだった。
眼にも眩しいホワイトに青のラインが入り、ところどころにゴールドがあしらわれ華麗な意匠を凝らしている。そして、何より眼を惹くのが、中央に咲いている薔薇の存在だ。
アタシの大好きな【黒薔薇】のような……アタシのお式の時にブーケに使わせてもらった、澤木さんがリザさんのために創ったと言う【Elisabeth Rose】のような……不思議に心魅かれる紅の薔薇……
……でも…WEDGWOODにしては、珍しい意匠だ……【大倉陶園】なら、たまに似たような物を見るけれど……
「…いいですか…?」シリーズ名を知りたくて、旦那さまに問えば
「勿論ですよ。」当然のように返される声。
アタシはその声を受けて、ソーサーを引っ繰り返して…呼吸を呑んだ。
「………………………」
……言葉になんて、ならなかった。
なぜなら。
そこに記されてあった文字は。
【WEDGWOOD】
メーカー名と。
【Bone China】
この製品が高級磁器である事を示す文字と。
【MADE IN ENGLAND】
製造国と。
……後は…滲んだ涙で読めない……
「…私の妻となった女性の誕生日の贈り物には何が相応しいか…随分、悩んで…これしか考えられなかったんです…」
「………………………」
「…英国のウェッジウッド社に掛け合って…リザ推薦のアーティストたちにデザインを依頼して造らせた…これは世界で唯一の一点物のシリーズです…」
「………………………」
「…私の最愛の妻の名前が、シリーズ名です…」
「………………………」
……そうなのだ。
ソーサーの裏に書かれていたスペルは。
“M”、“A”、“I”。
「…こんな贅沢な贈り物…生まれて初めて…」
「…貴女が喜んで下されば…それ以上の事はありません…」
「…ありがとうございます、貴志さん…一生、大切にします…」
「…その言葉だけで、充分ですよ…」
「…永久保存版にして…家に飾って、毎日眺めてますね…」
「…あぁ…出来れば、ちゃんと使って頂きたいんですが…」
「…勿体なくて、使えませんよ…これはフランス旅行の思い出としても、大切にディスプレイしておきます。」
「…お言葉ですが、真唯さん…実はそのシリーズは、コーヒーセット一式になってまして…マンションの方には、コーヒーポットやクリーマーなどが、もう届いてる筈なんです…勿論、私の分のカップ&ソーサーもね。」
「……っっ!!!」
呆れてしまって、感動の涙が引っ込んでしまった。
まったく、この旦那さまときたら…っ!!
……ホントは、何て贅沢な無駄使いをするのかと叱りたかった。だが、折角の貴志さんの気持ちを“無駄”などとは、口が裂けても決して言えない。心底、呆れた心地と、素直に嬉しい気持ちと…アタシの中のしばしの葛藤は、有り難い気持ちが勝利をおさめたが…多少、笑顔が引き攣ったのは許して欲しい。
その後、フィリップさんがケーキを切り分けてくれたのだが、折角だからご一緒して欲しいとお願いすれば快諾してくれた。聞けば、マネージャーから昇進し、今では統括の総支配人になっているとの事であり、貴志さんの無理な依頼にGOサインを出してくれたのも彼だとの事だ。感激でまたウルウルしてしまったアタシだが頑張って笑顔を作った。
『…「最後のお客様がお帰りになる時間が、私の閉店時間なのです」…フィリップさんの言葉、忘れた事はありません…』
『…私もまさか、あの小さなマドモアゼルがこんな美しいマダムになって、ご主人と一緒に来て下さるとは思わなかったよ…』
『…今日は無理なお願いをきいて下さって、ありがとうございます…』
『なんの…異国の大切な友人の、特別の日だからね。当然の事をしたまでさ。』
そうして。
特別なデセールを美味しいコーヒーと共に頂いたアタシに、ケーキの残りをキチンと持たせてくれて。
思わぬサーヴィスに胸を熱くしたのだが。
それ以上の事が待っていた。
「…これは…っ!!」
そろそろお暇しようと個室から出たら。
店内の明かりが、煌々と輝いていたのだ!
高い天井に、大きなアンティークのシャンデリア。
国から文化指定されている、ベル・エポック調の内装。
天井画、風景画、フレスコ画で飾られている、さながら美術館か宮殿内に居ると錯覚させられ、歴史の重みと格調の高さを伺える店内。
『…もう、昨日になってしまったが…私からのプレゼントだ…お誕生日、おめでとう…マダム・マイ、どうか幸せに…』
<パリ・リヨン駅のお客を混乱させるといけないから、五分だけのサーヴィスだ。しけてて悪いね。>
そう言って器用にウィンクしてくれたムッシュウ・フィリップは、最高にカッコ良かった。
まったく、何と云う日だろう。
―――セーヴルで眼の保養をして。
―――シャンゼリゼでお洒落をして。
―――【オペラ・ガルニエ】で、バレエを鑑賞して。
―――ウェッジウッドのアタシの名前を冠したプレゼントを貰って。
トドメがこれだ―――
声も出せずに思い出の場所で、また一つ最高の特別な思い出を作って。
アタシの【インティ・ライミ】は、その幕を閉じたのだった。
※ ※ ※
ちなみに。
自分の写真が嫌いなアタシは、滅多に自分を写真には入れないが。店内の写真を撮らせてもらった後、フレンドリーなギャルソンさんにお願いして、アタシと貴志さんのツーショットと、フィリップさんを交えてのスリーショットを撮って頂いた。……アタシの我儘とは、オペラ座をバックにしての貴志さんとのツーショットを撮る事だったのだ。
フィリップさんを先頭に、ギャルソンは勿論、バーテンダーさんやシェフの方々まで店の外に出て来て見送ってくれて。アタシの涙腺は決壊してしまったが、仕方のない事だろう。
そうして、アタシは【ル・トラン・ブルー】を後にした。
極上のシャンパーニュを味わうかの如き、深い余韻を残して……
午前中は、【国立陶磁器美術館】で、フランスを代表する陶磁器・セーヴルの世界に遊び。
夜は何と、【オペラ・ガルニエ】のオーケストル席が取れたと言うのだ! しかも前から四番目っ!!
思わず夫に抱き付いて、思い切り背伸びして顎の先にキスしてしまったら、一瞬、驚いたもののすぐに立ち直り、蕩け切った表情で『どうせなら、こちらの方が良いですね。』と屈んで唇を指す旦那さまに、リクエスト通りバードキスをしてしまったのは、それ程嬉しかったからである。
ナポレオン三世の第二帝政時代に、シャルル・ガルニエの設計によって建てられた古典様式とバロック様式が取り入れられた豪華絢爛な劇場の傑作。大理石が敷き詰められた正面入り口の大階段だけでも一見の価値がある。そして金と赤を基調にした劇場内。天井画は有名なシャガールのものだが、アタシはこの一点にのみ不満を持っている。
毎日外観を眺めるだけでも嬉しかったのに、中に入ってバレエを鑑賞出来るなんて!! 例え演目が「ロミオとジュリエット」と云う悲劇だとしても、そんなの全然気にならない! 本家、パリ・オペラ座バレエ団が演じてくれるなんて最高だ!!
ランチの後、シャンゼリゼ通りに在る某高級ブティックに連れて行かれ、全身を磨き上げられ、トータルコーディネートされても全然怒る気になれない。あのオペラ座の中に入れるのである。少しは見栄えがする様に、精々、飾り立てて頂きたい。
アタシの愛する旦那さま・貴志さんが見立てて下さったのは、艶やかな真紅のサイドリボンドレープストレッチ膝丈ワンピースだった。……普段のアタシだったら、絶対着れないドレスワンピだった。しかし、しつこい様だが、行くのはあのオペラ座なのである。ド派手くらいで丁度良いのだ。ネックレスにイヤリングがダイヤだろう事は、この際、ご愛敬である。アタシは自分のキャラがガラガラと崩壊する音を聴きながら、内心(帰国したら、うんと節約しヨ★)などと決意を固めるのは、小市民故だろう。
ブラックタイが良くお似合いの、アタシの旦那さまも酷くご満悦だ。夫がこんなにご機嫌だから、似合っているのだろう……それなりに。馬子にも衣装になってくれていれば嬉しい。
かくして。
カラスが孔雀の真似をするかの如く変身させられて。
アタシの、【オペラ・ガルニエ】での舞台鑑賞の幕は開けられたのだった。
※ ※ ※
「…やっぱり、スゴイ…」
……圧倒されてしまった。
こんな威圧感は、あのヴァチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂以来である。
常々憧れて、内部はテレビやネットで見ていて知っている気でいたのだが、その場に実際に立ってみると、味わえる“雰囲気”がまるで違う。エントランスホールの荘厳で華麗な中央大階段に、ただただ、うっとりだ。シャンデリアも彫刻も、何もかもが素晴らしい。中に入れば、赤い重厚感がある椅子は、座り心地も最高である。 ……天井はチラリと見て、後は見なかった。ジュール=ユジェーヌ・ルヌヴの絵に、『返せ、戻せェェーーッ!!』と叫びたくなるからである。流石にここで絶叫するのは、不味かろう。日本の恥になってしまう。
パンフと立派なチケットにうっとり見入り……『24/06/2015』との日付に、改めて感じ入る。
―――そうなのだ。
今日は、【インティ・ライミ】
……アタシの誕生日なのだ。
……貴志さんの、アタシを想ってくれている気持ちが嬉しい……
横を見れば、澄ました表情でパンフを見ていた夫がアタシの視線に気付いて顔を上げて、にっこりと笑顔になる。「…真唯さんの念願だった、【オペラ・ガルニエ】でのバレエ鑑賞…楽しんで下さいね…」「…はい、ありがとうございます…ゆっくり楽しまさせて頂きます…」アタシの応えを聴いた貴志さんは再びパンフに眼を落とし始める。
……アタシの最高の旦那さまが演出してくれた、【太陽の祭り】を…アタシの誕生日を思いっ切り、楽しもう……
アタシはワクワクと胸を高鳴らせながら、開演の瞬間を待った。
物語は、お馴染のシェイクスピアの悲劇である。ルネサンス時代のイタリアの都市ヴェローナに於いて、宿敵の仇同士の家に生まれた若い男女が互いの素性を知らずに出逢い恋に落ちる。愛を確かめあった二人は修道僧の下でひそかに結婚するが、その直後、運命を狂わせる出来事が起きてしまい、引き裂かれてしまう。
男への愛を貫くために、女が下した決断とは―――
幕間。
観客たちは、ワインやシャンパーニュを片手に思い思いに寛いでいらっしゃる。
ホワイエは、さながらベルサイユ宮殿の【鏡の間】の様に豪華絢爛な回廊だ。天井がとてつもなく高く、輝くシャンデリアは眩い光を放っている。その煌びやかさに見惚れながら、アタシも貴志さんと共にシャンパーニュのグラスを持ち、甘くて美味しいマカロンを摘んだ。
周りは紳士・淑女の社交場のようだ。着飾って来て良かったと、つくづく思う。
だって周りの皆さんの方がもっと派手だ。これから、どこの舞踏会へお出掛けですか?と聞きたくなるほどだ(勿論、まったくの普段着の人もいるが、そう云う方は天井桟敷に近い席の方だろう。庶民的なお値段でバレエを楽しめる。バレエが庶民の娯楽として根付いているのだ)。
ホワイエの両端から外に出られると聞いていたので、バルコニーへ出て見た。
ルーヴルへ続く【オペラ大通り】を中央に、左は【LANCEL】本店。そして右は、アタシたちが泊っているホテル。ロケーションは抜群である。
「…きれい…」思わず呟いてしまうと、
「…寒くありませんか…?」後ろから抱き込まれてしまう。
「…全然…夜風が気持ち良いくらいです…」応えると、
「…こうして、ここに貴女をお連れするのが夢でした…」なんて言われてしまう。
「…アタシこそ…長年の夢を叶えて頂いて…感激してます…」
「…真唯さんに、そんな感情を味わわせるのは、私の役目だ…誰にも譲れない…」
「~~~~~~~////」
……そうしてアタシは。
開演五分前のベルが鳴るまで、そうやって背後の温もりを感じていた。
手も腫れよとばかりに拍手をして。
喉も裂けよとばかりに「ブラヴォーッ!!」を叫ぶ。
カーテンコールに応えるエトワールたちに、アタシは惜しみない賛辞を贈り続けた。
オペラ座を出るアタシは、尚、立ち去り難く。
ライトアップされたオペラ座を振り仰ぐ。そして。
(…今夜は、特別…)
自分に自分で言い訳して。
貴志さんに我儘を聞いて貰った。
※ ※ ※
「あんなものは、我儘とは言いませんよ! むしろ大歓迎ですっ!!」
「…確かに、貴志さんの方が我儘ですね…まさかここを、貸切にしてしまうなんて…」
「…だって、今夜は真唯さんのお誕生日なんですよ? …それを祝うと言ったら、この店しかないでしょう…?」
「…貴志さん…貴方と云う方は…」
てっきりディナーは【カフェ・ド・ラ・ペ】だと思って油断してたアタシは、SPさんの運転する車に乗せられて驚いた。(でも、ま、いっか! 貴志さんに任せておけば、滅多な処へは連れて行かれまい。)
……などと思っていた、アタシの貴志さんに対する認識は、まだまだ甘かったのだと思い知らされる事となる。
何故って、眩い光で溢れるパリの街の中、車は走り続けて……見えて来たのは、あまりにも見知った時計塔のある駅。この駅まで来て、あの店でない筈がない。筈がないのだが……とっくに閉店時間は過ぎてしまっている。それが証拠に、お店の店名の明かりが消えている。しかし、貴志さんは構わずこの特徴的な階段をどんどんと登って行ってしまい……アタシは慌てて後を追う。そして…え?…その回転扉、開いてるの…?
『いらっしゃいませ。お待ちしておりました、カミイ様。』
中に入ってすぐ。
出迎えてくれたのは、懐かしい顔。
『フィリップさん!! お久し振りです! お元気でしたか!?』
『お久し振りです、マダム。ご来店、ありがとうございます。ご案内致します。』
既に暗くなっていた店内。しかし、案内された個室には明かりが煌々と点いていて、アタシを戸惑わせ……こんな事を企むのは……と背後を振り向けば、悪戯が成功したガキ大将のような夫の顔。
「…今日と云う特別な日を祝う店は、ここしか考え付かなかったんですよ…お許し下さい…私の愛しい奥さま…」
……この夫は、ホントにズルい…こんな風に言われたら…怒るに怒れない……
【LE TRAIN BLEU】
アタシの大好きなお店での、特別な晩餐が始まった。
「…私の愛しい奥方・真唯さんが、この世に産まれて来て下さった事に心から感謝を捧げて…」
食前酒のシャンパーニュのグラスを掲げてくれるから。
「…アタシの愛する旦那さまの、愛ゆえの暴走に感謝して…」
……そうとしか言えないじゃない。
キーン♪
良い音を響かせて、乾杯をした。レストラン内だったらマナー違反だろうが、個室だからOKだろう。立ち昇る泡にうっとり見入り、クイッと一口含めば、爽やかな喉越しが心地良い。勿論、【モエ・エ・シャンドン】だ。数日前見たばかりのカーヴを思い出し……このお店の名物のフォアグラの前菜を懐かしい思いで味わう。
「…すみません、真唯さん…本当は店の方を使いたかったんですが…店内が明るいと、まだ営業中だと思って客が入って来てしまうと言われまして…」
「やだ、当然ですよ! そんな事で謝らないで下さいっ!! アタシ、個室って初めてなんですが、とても素敵ですね!!」
「…そう言って頂けますと、色々、手配した甲斐がありますが…」
「ベル・エポックの豪奢な洗練された内装で…これから、オリエント急行に乗れる気分です♪」
多少おどけた声で笑う。貴志さんの表情もやっと柔らかくなり、アタシを安心させる。そして会話は、今夜の舞台についての話題になって盛り上がってゆく。
「アタシ、森下さんの演じたジュリエットしか観た事なかったんですが、今夜のアリスも素敵でしたね! さすが、オペラ座バレエ団のエトワールでしたっ!!」
「…真唯さん…ロミオに浮気は許せませんよ…」
「…貴志さんこそ、可憐なジュリエットに浮気しないで下さいね…」
「…私は、真唯さん一筋ですよ…」
「…アタシだって…」
……いかん、イカン。ただのバカップルの会話になって来たゾ…何か、方向転換を……
「そう言えば、オペラ座の中って、ホントにスゴかったですね!! やっぱり、実物は違いますっ!!」
「…真唯さんはベジャールがお好きでしたよね…ローザンヌに行ってみたいとは思われないんですか…?」
「…ローザンヌですか…漠然とした憧れはありますが…あまり、ロマンは感じませんね…」
「…そうですか…」
……真っ赤な嘘である。是非、一度、行ってみたい。が。言ったが最後、最悪、『折角ですから、寄って行きましょう。』などと言われかねない。沈黙は金。雉も鳴かずば撃たれまい。
ベリゴールと云うソースのかかった、メインの牛フィレステーキに合わせて頼んだ赤ワインを飲みながら、アタシは心の中で土下座をしつつ舌を出すと云う器用な芸当をしている心地であった。貴志さんてば、アタシの今日の格好と云い、この閉店後のレストランを貸切にした事と云い、今日だけでいくら散財したんだ。帰国したら、しばらくカップラーメン生活だっ!!(君枝さんの生活があるから、そんな事は不可能なのだが/涙)
だが、しかし。
敵は、とんでもない隠し玉を持っていたのだ。
アタシの認識は、まだまだまだまだ甘かったのだっ!!!
コースディナーの最後のデセールを待っていると。
ギャルソンではなく、フィリップさんご自身がワゴンを押して来たからピンとキタ。
もしもし?
クローシュの横に在る箱は何ですか?
見た事あるような包装なんですが?
勿体ぶった仕草で開けられたクローシュの中身は、果たしてホールケーキだった。こぶりでキュートなショコラのケーキ。色とりどりに飾られているベリーがまるで宝石のように輝いて見えた。そして真ん中には『Bon anniversaire MAI!』と書かれたホワイトチョコのプレートが乗せられていた。
「…貴志さん…」
「…真唯さん…改めまして、お誕生日、おめでとうございます。」
「…ありがとうございます…こんな素敵な誕生日…去年の求婚の日と同じくらい嬉しいです…」
「…まだ、お礼を言われるのは、早いと思いますが…この世で一番愛しい妻への心からのプレゼントを受け取って下さい。」
……オペラ座でバレエを観せてもらえて、こんな素敵な場所で祝ってもらって、それだけで充分なのに…この箱は多分…見慣れた包装紙から中身が推察されたが、丁寧にラッピングを解いてゆくと……
「素敵…っ!!」
思わずのように感嘆の声が出てしまった。
それは、【WEDG WOOD】の、クラシカルなデザインのカップ&ソーサーだった。
眼にも眩しいホワイトに青のラインが入り、ところどころにゴールドがあしらわれ華麗な意匠を凝らしている。そして、何より眼を惹くのが、中央に咲いている薔薇の存在だ。
アタシの大好きな【黒薔薇】のような……アタシのお式の時にブーケに使わせてもらった、澤木さんがリザさんのために創ったと言う【Elisabeth Rose】のような……不思議に心魅かれる紅の薔薇……
……でも…WEDGWOODにしては、珍しい意匠だ……【大倉陶園】なら、たまに似たような物を見るけれど……
「…いいですか…?」シリーズ名を知りたくて、旦那さまに問えば
「勿論ですよ。」当然のように返される声。
アタシはその声を受けて、ソーサーを引っ繰り返して…呼吸を呑んだ。
「………………………」
……言葉になんて、ならなかった。
なぜなら。
そこに記されてあった文字は。
【WEDGWOOD】
メーカー名と。
【Bone China】
この製品が高級磁器である事を示す文字と。
【MADE IN ENGLAND】
製造国と。
……後は…滲んだ涙で読めない……
「…私の妻となった女性の誕生日の贈り物には何が相応しいか…随分、悩んで…これしか考えられなかったんです…」
「………………………」
「…英国のウェッジウッド社に掛け合って…リザ推薦のアーティストたちにデザインを依頼して造らせた…これは世界で唯一の一点物のシリーズです…」
「………………………」
「…私の最愛の妻の名前が、シリーズ名です…」
「………………………」
……そうなのだ。
ソーサーの裏に書かれていたスペルは。
“M”、“A”、“I”。
「…こんな贅沢な贈り物…生まれて初めて…」
「…貴女が喜んで下されば…それ以上の事はありません…」
「…ありがとうございます、貴志さん…一生、大切にします…」
「…その言葉だけで、充分ですよ…」
「…永久保存版にして…家に飾って、毎日眺めてますね…」
「…あぁ…出来れば、ちゃんと使って頂きたいんですが…」
「…勿体なくて、使えませんよ…これはフランス旅行の思い出としても、大切にディスプレイしておきます。」
「…お言葉ですが、真唯さん…実はそのシリーズは、コーヒーセット一式になってまして…マンションの方には、コーヒーポットやクリーマーなどが、もう届いてる筈なんです…勿論、私の分のカップ&ソーサーもね。」
「……っっ!!!」
呆れてしまって、感動の涙が引っ込んでしまった。
まったく、この旦那さまときたら…っ!!
……ホントは、何て贅沢な無駄使いをするのかと叱りたかった。だが、折角の貴志さんの気持ちを“無駄”などとは、口が裂けても決して言えない。心底、呆れた心地と、素直に嬉しい気持ちと…アタシの中のしばしの葛藤は、有り難い気持ちが勝利をおさめたが…多少、笑顔が引き攣ったのは許して欲しい。
その後、フィリップさんがケーキを切り分けてくれたのだが、折角だからご一緒して欲しいとお願いすれば快諾してくれた。聞けば、マネージャーから昇進し、今では統括の総支配人になっているとの事であり、貴志さんの無理な依頼にGOサインを出してくれたのも彼だとの事だ。感激でまたウルウルしてしまったアタシだが頑張って笑顔を作った。
『…「最後のお客様がお帰りになる時間が、私の閉店時間なのです」…フィリップさんの言葉、忘れた事はありません…』
『…私もまさか、あの小さなマドモアゼルがこんな美しいマダムになって、ご主人と一緒に来て下さるとは思わなかったよ…』
『…今日は無理なお願いをきいて下さって、ありがとうございます…』
『なんの…異国の大切な友人の、特別の日だからね。当然の事をしたまでさ。』
そうして。
特別なデセールを美味しいコーヒーと共に頂いたアタシに、ケーキの残りをキチンと持たせてくれて。
思わぬサーヴィスに胸を熱くしたのだが。
それ以上の事が待っていた。
「…これは…っ!!」
そろそろお暇しようと個室から出たら。
店内の明かりが、煌々と輝いていたのだ!
高い天井に、大きなアンティークのシャンデリア。
国から文化指定されている、ベル・エポック調の内装。
天井画、風景画、フレスコ画で飾られている、さながら美術館か宮殿内に居ると錯覚させられ、歴史の重みと格調の高さを伺える店内。
『…もう、昨日になってしまったが…私からのプレゼントだ…お誕生日、おめでとう…マダム・マイ、どうか幸せに…』
<パリ・リヨン駅のお客を混乱させるといけないから、五分だけのサーヴィスだ。しけてて悪いね。>
そう言って器用にウィンクしてくれたムッシュウ・フィリップは、最高にカッコ良かった。
まったく、何と云う日だろう。
―――セーヴルで眼の保養をして。
―――シャンゼリゼでお洒落をして。
―――【オペラ・ガルニエ】で、バレエを鑑賞して。
―――ウェッジウッドのアタシの名前を冠したプレゼントを貰って。
トドメがこれだ―――
声も出せずに思い出の場所で、また一つ最高の特別な思い出を作って。
アタシの【インティ・ライミ】は、その幕を閉じたのだった。
※ ※ ※
ちなみに。
自分の写真が嫌いなアタシは、滅多に自分を写真には入れないが。店内の写真を撮らせてもらった後、フレンドリーなギャルソンさんにお願いして、アタシと貴志さんのツーショットと、フィリップさんを交えてのスリーショットを撮って頂いた。……アタシの我儘とは、オペラ座をバックにしての貴志さんとのツーショットを撮る事だったのだ。
フィリップさんを先頭に、ギャルソンは勿論、バーテンダーさんやシェフの方々まで店の外に出て来て見送ってくれて。アタシの涙腺は決壊してしまったが、仕方のない事だろう。
そうして、アタシは【ル・トラン・ブルー】を後にした。
極上のシャンパーニュを味わうかの如き、深い余韻を残して……
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