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ラブラブ新婚編
No,172 富士宮グルメ対決! やきそばVSニジマス
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拝殿前の境内まで、一旦戻り。
来た参道を引き返す。
勿論、旦那さまと腕を組んで。
午後になって、益々人で賑わって来た。境内には善男善女が行き交っている。
世界遺産登録の影響か、外国人の姿も多い。様々な人々が歩いているが……
(…アタシの貴志さんが、一番、格好良い…っ!!)
……小っ恥ずかしくて、本人には絶対言えない台詞であるが……真唯の本音である。……が。果たしてその横に、自分が相応しいかと言うと……。(…もっと、美容クラシックバレエ講座に、真剣に取り組まなければ…っ!)。決意を新たにする真唯なのであった。
『どうしてそんな素敵な人の横に、あんたみたいなチンチクリンがいるのよ…っ!!』との、嫉妬混じりの非難の視線は丸っと無視させて頂いた。
「…桜は綺麗だし…良い時に来られて、良かったですね♡」
「…今日、誘って下さった真唯さんのお陰ですよ…今年は素敵な花見に、四回も誘って頂けて…感謝しています。」
「…四回? …二回じゃありませんか…?」
「…桜の事だけではありませんよ…梅や白木蓮を見に連れて行って下さったではありませんか。」
「…ああ、あれですか…」
「…あれです。…「花見」と言うと、会社の馬鹿騒ぎを思い出して憂鬱な気分になったものですが…こんな風情ある“お花見”なら、大歓迎です。」
「…会社の花見はねェ~…アレは何とかならないもんでしょうかねェ~~?」
「…日本の悪しき風習ですねぇ…」
……貴志さんの声が沈む。……緋龍院建設と云う大企業にも、あの乱痴気騒ぎはしっかり蔓延していたらしい…でも、まあ……
「…すみません、妙な話題を持ち出してしまって…世にも妙なる美しさを前に、無粋な真似をしてしまいましたね。」
「…そうですよ…折角の桜が色褪せてしまいますよ…?」
……そうしてアタシたちは、らぶらぶバカップル全開で、お浅間様の総本山の参道を仲良くそぞろ歩いて……アッと云う間に、一之鳥居まで戻って来てしまった。
※ ※ ※
「さて、昼食処なんですが…」
「ここまで来たなら、やっぱり「富士宮やきそば」でしょう…!」
「…真唯さん…この近くに“富士宮名物”ニジマス料理を食べさせてくれるお店がありますから…」
「貴志さん、酷い…っ、…アタシ、やきそば楽しみにして来たのに…っ!」
「…っ! …真唯さん…あれは、B級グルメなんですよ…?」
「B級グルメ、上等じゃないですかっ! どこがいけないんですか…?」
「…貴女には、常に最高の物を食べて頂きたいんですよ…」
「B級グルメだって、立派な地元の名物ですよっ!
…ね…? …貴志さん、お願い…?」
「…っ!? …仕方がありませんね…」
……勝った!
……貴志さんが、“アタシ専用溺愛フィルター”をお持ちなら、アタシも負けてはいられないとばかりに開発した、“必殺! 貴志さん対応、上目遣いウルウルお願い攻撃”を、繰り出したのだっ!! 今のは我ながら、クリティカルヒットだったっ!!(弱点は、羞恥心がギリギリまで削られるので、ヒットポイントを著しく消滅させる事だ。) なれど、アタシの庶民感覚を維持するためにも、負けられない戦いだったのだっっ!!!(本人は必死デアル★)
ところが。
「真唯さん、ここが良いです。ここにしましょう!」
「…で、ですが…」
「お社の駐車場から直ぐなんですから、便利ですよ。真唯さんご希望の、やきそばもあるみたいですし。」
「………………」
……貴志さんの言う“最高”とはほど遠い、どちらかと言えば真唯の望んだ“庶民的な”外観を持つ建物「食のアンテナショップ お~それ宮!」の中に、彼はズンズンと入って行ってしまわれる。確かに、やきそばはあるようだ。だが、それと共に。ハタハタとはためいていたのだ。「富士宮ニジマス」の幟が。
……あ…アタシの羞恥心を返せェ~~っっ!!
ココロの中で絶叫し涙しながら、アタシは愚図愚図と貴志さんの後を付いて行ったのだった。
そこはとにかく、メニューがユニークなお店だった。
スタンダードに「富士宮やきそば」や、「ニジマス丼」はともかく。
焼き餃子を「餃THE鱒」と言ってみたり、味噌漬けしたニジマスを使用したスペシャル丼を「塩を感じ鱒」と呼ぶネーミングセンスが楽しい。朝霧ヨーグル豚使用の「豚DEMO丼」や、ニジマスと岩手の岩のりの漬け丼「丼THE鱒」も楽し…いや、美味しそうだ。
中でも極めつけは、麺、キャベツ、肉カス、紅生姜などがすべて甘いスイーツ「富士宮やきそばケーキ あ宮」だ。但し、要予約なのが惜しまれる。
真唯は当初の屈託も忘れて、メニューに真剣に見入り笑ってしまった。そして、このお店の大衆食堂的な雰囲気も気に入った。丼ものも、小鉢やお味噌汁が付いて千円以内と云うリーズナブルさも魅力的だ。アテが外れた貴志さんも苦笑い気味にメニューを見つめてる。
結局、貴志さんは、「塩を感じ鱒」と「餃THE鱒」を。真唯は初志貫徹で、「富士宮やきそば」をオーダーした。珈琲党の二人だが、食後は富士宮産茶葉を使用していると云う「富士山紅茶」を、貴志さんはホットで。真唯はアイスで頼んだ。
注文を待つ間店内を見回せば、富士宮のお土産物や富士山グッズを販売しているファミレスのようなノリも楽しい(余談ではあるが、「丼THE鱒」は岩手を、「なみえ焼そば」は福島の浪江町を応援しているのであろう。アンテナショップを名乗るだけはあり、その姿勢が嬉しいと思う)。
ほどなくしてやって来た品はメニューの写真通り、「富士宮やきそば」の赤いカワイイ幟が立てられているのが微笑みを誘う。お子様ランチのチキンライスに、国旗が立てられているあのノリのようだ。眼で楽しんで……その味やいかに……と思ったが、さすがB級グルメの元王者、コシのある麺の食感と独特の味付けに夢中になって食べてしまう。……紅生姜さんだけにはご退場願ったが(苦笑)。
「…真唯さん…やきそば、美味しそうですね…?」
「…美味しいですよ。…貴志さんも食べてみますか…?」
「…よろしいんですか? …真唯さんも私のニジマス、食べてごらんになりますか?」
……?
……お皿をかえようとしたら拒否されてしまった……何がしたいんだ…?
……え~っとォ~、そんな期待した瞳で見詰められても…、ハ…ッ! …まさか、この夫は…っ、…バカップルのお約束「あ~~ん♪」を期待しているのではあるまいな…!?
「…真唯さん…」
……だ…ダメだ、駄目だ…っ、……あれはこの夫が、風邪を引いていて仕方なく…しかも、二人っきりっだったから出来た事なのだ…っ、…こ…こんな人目のある処でなんて…どんな羞恥プレイをやらせる心算なんだ…この夫は…っ!!??
「…ま、真唯さん…っ!?」
アタシは非常手段に出た。アタシのやきそば一口分くらいをこの夫の丼の上に乗せ、夫の丼から素早くニジマスを一切れ頂戴したのだ。
「…うん…確かに塩を感じマスね…アタシの富士宮やきそばはいかがですか?」
「……………美味しいです……………」
……沈んだ表情でいるのなど、丸っと無視だ…っ!!!
アタシは澄ました表情で、黙々と富士宮名物の美味を堪能したのだった。
うん。今度来る時は、是非予約してスイーツに挑戦してみよう。そうしたら、ブログで紹介させて頂きたい。まろやかな富士山紅茶を味わいながら、既に再訪を楽しみにしている自分に苦笑いが漏れてしまった。
※ ※ ※
「お~それ宮!」から浅間大社までは、徒歩二分である(笑)。
太陽が照りつけて、暑いくらいである。
……天気は良いし…富士山は綺麗だし。
……浅間さまのお社は優美だし…桜の花は輝くばかりに美しかったし……
……鳥居の垂れ幕もどきは大きくマイナスポイントだったが…ここが不良ガイジンによって、汚される事のないよう祈ろう……
でもまあ、大丈夫だろう。
なんてたって、ここは―――木花開耶姫さまがおわします聖地なのだから。
不二の御山と、壮麗なお社と、今年も見事に咲いた桜の花を守る女神さまに敬意を表して、アタシは深々と腰を折った。
「…貴志さん…連れて来て下さって、ありがとうございました…帰りの運転もお世話になりますけど、よろしくお願いします。」
「…貴女が早く、そんなに他人行儀にお礼を言って下さる事がなくなるように…沢山遠出しましょうね…」
―――思えば。
貴志さんとの節目節目には、いつも不二の御山の御姿があった。
……【インティ・ライミ】の日には、格別の富士山を拝ませて頂いていたが……今から考えれば、あれは“求愛給餌”のようなものだったかも知れない……
……江ノ島から拝した御姿に、アタシは自分の醜さを告白する勇気を頂く事が出来た。
……二人っきりの初旅行では、お膝元で沢山の“初めて”を体験し、楽しむ事が出来た。
……求婚を受けた瞬間、茜色に染まった御姿に見守られながら交わした接吻は……一生、忘れられない。
……そして、現在。
……マンションから眺められる事が、“日常”になりつつある……
……殆ど無意識だった。
そうする事が、ごく自然に思えたのだ。
腕を組んでいた手を外して、アタシは貴志さんの左手に輝く結婚指環にソッと唇を落とした。途端に瞳を見開く貴志さん。
「…っ!!」
「…さ、帰りましょ、貴志さん! …キットの処まで競争ですよ…っ!!」
「…真唯さん…っ、…覚えてらっしゃい…っ!!」
走り出したアタシは、背後から旦那さまのおっかないお言葉を頂戴して。
桜のお花見の舞台は、こうしてそのお仕舞いを迎えたのだった。
ちなみに。
旦那さまを煽った報いは、しっかり受ける事になってしまった。
その晩、貴志さんはアタシを情熱的に愛してくれて……キスマークを沢山残して悦に入っていた。
「…フフ…このキスマーク…桜の花弁のようですね…私の【コノハナサクヤヒメ】…今夜は寝かせませんよ…」
……嗚呼…!
……アタシは遂に、月の女神や美の女神から、怖れ多くも勿体なくも、日本神話の日の本一の絶世の美の女神さまに格上げされてしまった…っっ!!!
……神罰が下るゥゥ~~ッッ!!!
結局、朝まで寝かせてもらえなくて。ぼんやりブランチを取りながら、リビングから見える御山に向かって恐れ慄き……折角、参拝させて頂いたのに、ご利益に与るどころか……神罰に怯える日々を送り……もう二度と自分の首を絞めるような真似なんかするもんか…っ!!と固く決意した、真唯奥さまなのであった。
来た参道を引き返す。
勿論、旦那さまと腕を組んで。
午後になって、益々人で賑わって来た。境内には善男善女が行き交っている。
世界遺産登録の影響か、外国人の姿も多い。様々な人々が歩いているが……
(…アタシの貴志さんが、一番、格好良い…っ!!)
……小っ恥ずかしくて、本人には絶対言えない台詞であるが……真唯の本音である。……が。果たしてその横に、自分が相応しいかと言うと……。(…もっと、美容クラシックバレエ講座に、真剣に取り組まなければ…っ!)。決意を新たにする真唯なのであった。
『どうしてそんな素敵な人の横に、あんたみたいなチンチクリンがいるのよ…っ!!』との、嫉妬混じりの非難の視線は丸っと無視させて頂いた。
「…桜は綺麗だし…良い時に来られて、良かったですね♡」
「…今日、誘って下さった真唯さんのお陰ですよ…今年は素敵な花見に、四回も誘って頂けて…感謝しています。」
「…四回? …二回じゃありませんか…?」
「…桜の事だけではありませんよ…梅や白木蓮を見に連れて行って下さったではありませんか。」
「…ああ、あれですか…」
「…あれです。…「花見」と言うと、会社の馬鹿騒ぎを思い出して憂鬱な気分になったものですが…こんな風情ある“お花見”なら、大歓迎です。」
「…会社の花見はねェ~…アレは何とかならないもんでしょうかねェ~~?」
「…日本の悪しき風習ですねぇ…」
……貴志さんの声が沈む。……緋龍院建設と云う大企業にも、あの乱痴気騒ぎはしっかり蔓延していたらしい…でも、まあ……
「…すみません、妙な話題を持ち出してしまって…世にも妙なる美しさを前に、無粋な真似をしてしまいましたね。」
「…そうですよ…折角の桜が色褪せてしまいますよ…?」
……そうしてアタシたちは、らぶらぶバカップル全開で、お浅間様の総本山の参道を仲良くそぞろ歩いて……アッと云う間に、一之鳥居まで戻って来てしまった。
※ ※ ※
「さて、昼食処なんですが…」
「ここまで来たなら、やっぱり「富士宮やきそば」でしょう…!」
「…真唯さん…この近くに“富士宮名物”ニジマス料理を食べさせてくれるお店がありますから…」
「貴志さん、酷い…っ、…アタシ、やきそば楽しみにして来たのに…っ!」
「…っ! …真唯さん…あれは、B級グルメなんですよ…?」
「B級グルメ、上等じゃないですかっ! どこがいけないんですか…?」
「…貴女には、常に最高の物を食べて頂きたいんですよ…」
「B級グルメだって、立派な地元の名物ですよっ!
…ね…? …貴志さん、お願い…?」
「…っ!? …仕方がありませんね…」
……勝った!
……貴志さんが、“アタシ専用溺愛フィルター”をお持ちなら、アタシも負けてはいられないとばかりに開発した、“必殺! 貴志さん対応、上目遣いウルウルお願い攻撃”を、繰り出したのだっ!! 今のは我ながら、クリティカルヒットだったっ!!(弱点は、羞恥心がギリギリまで削られるので、ヒットポイントを著しく消滅させる事だ。) なれど、アタシの庶民感覚を維持するためにも、負けられない戦いだったのだっっ!!!(本人は必死デアル★)
ところが。
「真唯さん、ここが良いです。ここにしましょう!」
「…で、ですが…」
「お社の駐車場から直ぐなんですから、便利ですよ。真唯さんご希望の、やきそばもあるみたいですし。」
「………………」
……貴志さんの言う“最高”とはほど遠い、どちらかと言えば真唯の望んだ“庶民的な”外観を持つ建物「食のアンテナショップ お~それ宮!」の中に、彼はズンズンと入って行ってしまわれる。確かに、やきそばはあるようだ。だが、それと共に。ハタハタとはためいていたのだ。「富士宮ニジマス」の幟が。
……あ…アタシの羞恥心を返せェ~~っっ!!
ココロの中で絶叫し涙しながら、アタシは愚図愚図と貴志さんの後を付いて行ったのだった。
そこはとにかく、メニューがユニークなお店だった。
スタンダードに「富士宮やきそば」や、「ニジマス丼」はともかく。
焼き餃子を「餃THE鱒」と言ってみたり、味噌漬けしたニジマスを使用したスペシャル丼を「塩を感じ鱒」と呼ぶネーミングセンスが楽しい。朝霧ヨーグル豚使用の「豚DEMO丼」や、ニジマスと岩手の岩のりの漬け丼「丼THE鱒」も楽し…いや、美味しそうだ。
中でも極めつけは、麺、キャベツ、肉カス、紅生姜などがすべて甘いスイーツ「富士宮やきそばケーキ あ宮」だ。但し、要予約なのが惜しまれる。
真唯は当初の屈託も忘れて、メニューに真剣に見入り笑ってしまった。そして、このお店の大衆食堂的な雰囲気も気に入った。丼ものも、小鉢やお味噌汁が付いて千円以内と云うリーズナブルさも魅力的だ。アテが外れた貴志さんも苦笑い気味にメニューを見つめてる。
結局、貴志さんは、「塩を感じ鱒」と「餃THE鱒」を。真唯は初志貫徹で、「富士宮やきそば」をオーダーした。珈琲党の二人だが、食後は富士宮産茶葉を使用していると云う「富士山紅茶」を、貴志さんはホットで。真唯はアイスで頼んだ。
注文を待つ間店内を見回せば、富士宮のお土産物や富士山グッズを販売しているファミレスのようなノリも楽しい(余談ではあるが、「丼THE鱒」は岩手を、「なみえ焼そば」は福島の浪江町を応援しているのであろう。アンテナショップを名乗るだけはあり、その姿勢が嬉しいと思う)。
ほどなくしてやって来た品はメニューの写真通り、「富士宮やきそば」の赤いカワイイ幟が立てられているのが微笑みを誘う。お子様ランチのチキンライスに、国旗が立てられているあのノリのようだ。眼で楽しんで……その味やいかに……と思ったが、さすがB級グルメの元王者、コシのある麺の食感と独特の味付けに夢中になって食べてしまう。……紅生姜さんだけにはご退場願ったが(苦笑)。
「…真唯さん…やきそば、美味しそうですね…?」
「…美味しいですよ。…貴志さんも食べてみますか…?」
「…よろしいんですか? …真唯さんも私のニジマス、食べてごらんになりますか?」
……?
……お皿をかえようとしたら拒否されてしまった……何がしたいんだ…?
……え~っとォ~、そんな期待した瞳で見詰められても…、ハ…ッ! …まさか、この夫は…っ、…バカップルのお約束「あ~~ん♪」を期待しているのではあるまいな…!?
「…真唯さん…」
……だ…ダメだ、駄目だ…っ、……あれはこの夫が、風邪を引いていて仕方なく…しかも、二人っきりっだったから出来た事なのだ…っ、…こ…こんな人目のある処でなんて…どんな羞恥プレイをやらせる心算なんだ…この夫は…っ!!??
「…ま、真唯さん…っ!?」
アタシは非常手段に出た。アタシのやきそば一口分くらいをこの夫の丼の上に乗せ、夫の丼から素早くニジマスを一切れ頂戴したのだ。
「…うん…確かに塩を感じマスね…アタシの富士宮やきそばはいかがですか?」
「……………美味しいです……………」
……沈んだ表情でいるのなど、丸っと無視だ…っ!!!
アタシは澄ました表情で、黙々と富士宮名物の美味を堪能したのだった。
うん。今度来る時は、是非予約してスイーツに挑戦してみよう。そうしたら、ブログで紹介させて頂きたい。まろやかな富士山紅茶を味わいながら、既に再訪を楽しみにしている自分に苦笑いが漏れてしまった。
※ ※ ※
「お~それ宮!」から浅間大社までは、徒歩二分である(笑)。
太陽が照りつけて、暑いくらいである。
……天気は良いし…富士山は綺麗だし。
……浅間さまのお社は優美だし…桜の花は輝くばかりに美しかったし……
……鳥居の垂れ幕もどきは大きくマイナスポイントだったが…ここが不良ガイジンによって、汚される事のないよう祈ろう……
でもまあ、大丈夫だろう。
なんてたって、ここは―――木花開耶姫さまがおわします聖地なのだから。
不二の御山と、壮麗なお社と、今年も見事に咲いた桜の花を守る女神さまに敬意を表して、アタシは深々と腰を折った。
「…貴志さん…連れて来て下さって、ありがとうございました…帰りの運転もお世話になりますけど、よろしくお願いします。」
「…貴女が早く、そんなに他人行儀にお礼を言って下さる事がなくなるように…沢山遠出しましょうね…」
―――思えば。
貴志さんとの節目節目には、いつも不二の御山の御姿があった。
……【インティ・ライミ】の日には、格別の富士山を拝ませて頂いていたが……今から考えれば、あれは“求愛給餌”のようなものだったかも知れない……
……江ノ島から拝した御姿に、アタシは自分の醜さを告白する勇気を頂く事が出来た。
……二人っきりの初旅行では、お膝元で沢山の“初めて”を体験し、楽しむ事が出来た。
……求婚を受けた瞬間、茜色に染まった御姿に見守られながら交わした接吻は……一生、忘れられない。
……そして、現在。
……マンションから眺められる事が、“日常”になりつつある……
……殆ど無意識だった。
そうする事が、ごく自然に思えたのだ。
腕を組んでいた手を外して、アタシは貴志さんの左手に輝く結婚指環にソッと唇を落とした。途端に瞳を見開く貴志さん。
「…っ!!」
「…さ、帰りましょ、貴志さん! …キットの処まで競争ですよ…っ!!」
「…真唯さん…っ、…覚えてらっしゃい…っ!!」
走り出したアタシは、背後から旦那さまのおっかないお言葉を頂戴して。
桜のお花見の舞台は、こうしてそのお仕舞いを迎えたのだった。
ちなみに。
旦那さまを煽った報いは、しっかり受ける事になってしまった。
その晩、貴志さんはアタシを情熱的に愛してくれて……キスマークを沢山残して悦に入っていた。
「…フフ…このキスマーク…桜の花弁のようですね…私の【コノハナサクヤヒメ】…今夜は寝かせませんよ…」
……嗚呼…!
……アタシは遂に、月の女神や美の女神から、怖れ多くも勿体なくも、日本神話の日の本一の絶世の美の女神さまに格上げされてしまった…っっ!!!
……神罰が下るゥゥ~~ッッ!!!
結局、朝まで寝かせてもらえなくて。ぼんやりブランチを取りながら、リビングから見える御山に向かって恐れ慄き……折角、参拝させて頂いたのに、ご利益に与るどころか……神罰に怯える日々を送り……もう二度と自分の首を絞めるような真似なんかするもんか…っ!!と固く決意した、真唯奥さまなのであった。
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